魔法使いの相棒契約

たるとたたん

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三章 魔法学園 一年生

✤ 第21話:一学期終了宣言!

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「終わるよ!」  
「終わるって、何が?」  
「何がって……そりゃあ一学期がだよ~!」


 魔法学園の終業式当日。
 体育館に向かうための廊下に並ぶ為に席を立った私と千鶴は、列に並ぶまでの少しの間で会話を交わしていた。


「千鶴はパン屋さんのお手伝いもするんでしょ?楽しそう~、職業体験みたい!」  
「そうだよ!本当は家にも四葉家遊びに来て欲しいけど、聖女様が来たってなるとそれどころじゃなくなりそうで……」  
「仕方ないよ~!それに、私は千鶴と遊びに行けるなら、それだけでいいの。だからいっぱい遊ぼう」  
「菜乃花……うん。パン屋にも暇だったら遊びに来てよ!」  
「もちろん行くよ、100個買う!!」
「大金持ちじゃん!」


 笑いながらそんな会話をして、私たちはそれぞれの立ち位置に移動する。  

 普段の集まりでは服装が自由だが、今日は式典の日。リボンやネクタイを身に着けるなら、第一ボタンはしっかりと閉めること。外すなら全員開けること。
 そんなルールに従った服装に、私は少々窮屈さを感じていた。

 この状態で白寮の灰色ベストを着ていたら、色違い状態であのお嬢様花柳と同じ格好だな……と、私は目の前の彼女のピンクベージュの髪の毛をぼんやりと眺めて、足を進めた。




 思えば、私が魔法の世界に足を踏み入れて初めて出会った同級生も、初めて魔法を目の当たりにしたのも、その相手は全部花柳咲来だ。

 あの時、私は勢いに任せて「相棒に」なんて言ったけれど、今思うと、心の底からあの日の自分に感謝の気持ちを伝えたい。
 きっとそうしていなかったら、本当に一生会話をする事が出来なかった……今もそう思うから。

 それにあの日が無かったら、千鶴とこうして言葉を交わすことも、学園生活を楽しいと思う事も、きっと出来なかっただろう。彼女や、彼女が幼馴染と一緒に居るのを見て、私も千鶴とそうなりたかったという事に気付けたのだから。


 彼女との関わりを持つことで、彼女の幼馴染たちとも関わる機会は増えた。皆それぞれに個性的で、全員優しくて素敵な人たちだ。

 最初は「花柳がこんなタイプの人と友達になれるの?」と少し驚いたけれど、彼らはどんな組み合わせで居ても、どんな時でも仲が良さそうに見える。
 きっと今まで築き上げてきた信頼関係が厚いからこそ、そんな関係が成り立っているのだろう。

 輝も双子だからと言って、わざわざ二人で一緒にいる必要はない。それでも良く一緒に居るということは、それだけ互いを好いている証なんだと思う。


 私もいつか、彼女にとってそんな存在になれたら嬉しいな……。







 *





「はーい、それじゃあ今から通知表返すからね~」  
「うわー!!!」
「ソレはいらなーい!!」  
「とーごー先生にあげるから!」
「プレゼントします!」  

「コラコラ、これは先生のじゃないんだぞー?じゃあ出席番号順に前に来て~!」


 通知表。それは私たち学生にとって、  


「すごく要らない悪魔の書類っ!」  
「うわっビックリしたあ」  
「菜乃花、すごい事になってるね~」


 周りのクラスメイトたちがワイワイと騒ぎ立てる中、私もその一員として雄叫びを上げる仲間に加わっていた。

 しかし、私の前の席に座っている輝と陽太は、揃ってアハハと笑っている。彼らの成績が私より低いはずがないから、きっと既に安心しているのだろう。

 はぁ、全部の授業が実技とか体育なら、私だって絶対最高の通知表になるのに……。



 ちなみに朝起きた時に千鶴と同じ話をした時、彼女は……


『通知表?アハハ、前からテストの点数低いし、こっちがダメでも仕方ないかなぁ~』

『むしろその対価として、自らお店の手伝いを志願してるんだよ?やばいのなんて目に見えてるからね、これが先取り恩売りってやつだよ!』


 ……と言っていた。



 彼女は私よりテストの点数が低いのに、何故か私より堂々としている。
 私からすると不思議で仕方ないが、もしかしたら千鶴の親は、そういうのを全然怒らないタイプなのかもしれない。

 一方、私はと言うと……成績がやばかった場合は、もうどうしようも無い。
 テストを送っただけであの有様……花柳に頼っても鬼教官に叱責されるし、頼らずにいたら親が鬼になるという、とんでもない鬼に挟まれる事になるのだ。



 小学校の時なんて……


『菜乃花、この通知表……』
『えぇーっとですね!あのですねー、』
『もうっ、体育はよく出来ましただけど、算数と国語なんて頑張りましょうばかりじゃない!』
『すみませんんん』
『遊んでばかりで居るからだぞ?今日はお部屋のお片付けをちゃんとしなさい。ゲームもダメだぞ?』
『そ、そんな……この鬼めーっ!!』


 あーーーー、今思い出しても末恐ろしい。
 


 もうあれは嫌だ。多分今回の通知表が低かったら次は更に重い罰……多分ご飯作れとか家の掃除とか、なんか手伝うとか、とにかく絶対大変なやつ!!!!!

 しかも「宿題終わるまで遊ぶな」とか言われかねない。そうなったら私の夏休みは開始早々終わったも同然。

 もしそんな未来が来たら私、今からYOTSUBAPANに就職するからって言って即逃亡するかもしれない……!!!!



 そんなことを考えているうちに、ついに私の番がやってきた。
 輝も陽太も普通にしてる、つまり通知表は普通以上って事だ!あーーー羨ましい……陽太はちょっとホッとしてるから、実は心配だったのかもしれない。


 席を立ち、緊張しながら先生の前に進むと、ドキドキと高鳴る心臓が胸を打ち、視線は泳ぎ、冷や汗が全身で暴れ回っていた。
 焦りすぎて、もはや体はパーティ状態。


「春風菜乃花」  
「はっ、はいぃ!」


 恐る恐る先生の顔を見上げると、そこには満面の笑みを浮かべた先生が立っていた。
 そんな表情を浮かべているとは思ってもみなかったので、何だか拍子抜けだ。


「…………慣れない環境の中で、よく頑張ったな!二学期からも、応援してるぞ」  
「え?」


 通知表と親への手紙が同時に手渡され、私はそのまま席に戻った。
 何が起こったのか理解できず、心の中に疑問が渦巻く。この疑問を解決する為に私は素早く通知表を開いた。

 魔法学園の通知表の評価はA~Eの五段階。学年末にそれを総合してA~Cに分けられると聞いた。
 そして私の通知表は、A~Cが半分を占めている。一部にDやEが見えるものの、小学校時代に比べたら全然良い成績だ。つまり……


「やったー!鬼の居ない夏休みだー!」
  

 今年の夏休みは、心穏やかな気持ちで家に帰れそうだ。





 *





「私より通知表の点数が低い人間が?!」  
「ふふ、私より低い人間なんて中々出会えないよ!」


 部屋で帰りの荷造りをしながら千鶴と通知表を見せ合っていたが、彼女は予想通り大分低い点数だ。
 しかし彼女の態度は普通……私だったらもう親が鬼になること確定で絶望している頃だろう。


 夏休みの間に大半の生徒は実家に帰る予定らしいが、ごく一部の生徒は寮に残るようだ。彼らは事前に申請をしているらしいけど、私たちは揃って実家に帰ることにしている。

 実家に帰る生徒が次に学園に来るのは、皆多分始業式の日だ。
 夏休みも楽しみだが、二学期も行事が沢山ある。それに何より魔法の授業が座学ではあるけど始まるのだ。授業は嫌だが、魔法の事を学べる事は楽しみに思える。


「と言うか、どうしてそんなに低い点数でこんな誇らしげなの千鶴さん……親に怒られないの?」  
「怒られるは怒られるけど、ウチって魔法ガチ勢だからさ。私も魔法の勉強に本気を出すって言ってて~……」  
「確かに、私たち魔法使いだからなぁ。それにしたって強すぎるけどね君は!」
「えへへ~」


 千鶴の言葉に、私は思わず頷いた。

 私たちが通う学園では、魔法の勉強は重要視されている。何せここは〝魔法学園〟……普通の勉強も大切だけれど、魔法の力を磨くことがここに通う一番の理由なのだ。


 そんな会話をしながら、私はトランクの中身を整理していく。中に入れるものは大して多くはない。洋服、スマホ、そして宿題、親に渡す手紙……まあそんなもんだろうか?
 忘れ物があったら……それはその時考えよう。


 しかし私たちの部屋も、この数ヶ月で変わったものだ。
 陽の光が柔らかく差し込むこの部屋は、少し前まではただ寂しい空間で、白い壁には何も飾られてなかった。
 必要最低限の物以外は何も置かれていない、殺風景な部屋。
 

 でも今は、二人の思い出で満たされた最高の部屋になっている。千鶴と友達になってからは、お互いの好きな物を飾るようになったのだ。
 壁には二人で撮った写真が並び、そこには満面の笑みでハチマキを結ぶ私と千鶴が写っている。
 一緒に運動しようと書いた、筋トレメニュー表も貼られたままだ。


 千鶴とこんな部屋を作れたらいいな、なんて思う事が出来たのだって、花柳の部屋で幼馴染と過ごす空間を見たからだ。
 三人の部屋は、それぞれ皆の個性が息づいていて……好きなもので彩られた空間と言うのは素敵なんだな……なんて思ったものだ。


「どしたの菜乃花、そんなに壁を見つめて?」  
「ううん、なんでもない!」


 千鶴の問いかけに、私は思わず笑顔を浮かべた。こんな日常が続くなんて、入学したばかりの頃には想像すらできなかった。

 あの頃の私に教えてあげたい。今の私がここにいるのは、たくさんの出会いのおかげであって、その中心には駅で偶然出会ったあの女の子花柳咲来が居るってことを。


「私も改札通るからさ、良かったら駅まで一緒に行かない?」  
「ほんと!?もちろん、一緒に行こーう!パンも食べよーう!!」  
「菜乃花ってば、ほんとにウチのパンの虜だね~」  
「だって美味しいんだもん!」


 色々あった一学期。
 本当~に色々な事があった。

 次にここに戻ってきたとき、一体どんなことが待ち受けているのだろうか。
 私は「行ってきます」と小さく呟き、部屋を出た。


 いよいよ、待ちに待った夏休みだー!





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