魔法使いの相棒契約

たるとたたん

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一章 魔法学園へようこそ

✧ 第2.5話:兄の思惑

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 俺は彼女に「妹とも仲良くしてね」なんて言ったけれど、二人が簡単に仲良く出来ない事はちゃんと理解している。それでも、もしかしたら……なんて希望を抱いてしまうんだ。
 それは、咲来が〝闇魔法師〟で自分が〝聖女〟というこの立場を理解している上で、彼女は何も気にせずに「勿論!」と笑いかけてくれたから。

魔法世界に居なかったなら、この問題の本質は深く理解していないのかもしれない。
それでも、今こう言っている言葉は嘘じゃなさそうだった。
この気持ちがこの先も続いてくれるなら、可能性はあると思う。



 そもそも、咲来が他人と話すのは珍しい事だった。いつもわざわざ他人と会話することは避けているから。でも……何だかんだ人助けしてしまうような子だから、あれも咲来らしいと言えば、らしい行動なんだけど。

 だから、少し心配になった俺は、あの時戻ってきた咲来にどんな事を話したのか聞いたんだ。


「大丈夫?変なこと言われなかった?」
「……あの人光側の魔法使いだったけど、人間世界で育っているから私の事を知らなかったみたい。私の事『天使様』とか言ってた」
「え、なんで天使様?」
「スマホが見つから無さすぎて天に召されたと思ってたから、貴女はそれを見つけてくれた天使様だ~……みたいな事を」
「え~?!アハハッ面白~!咲来は天使様じゃなくて、角の生えた鬼様じゃない?」
「うるさいなぁ……それは、輝が悪いんだから。まるで私のせいみたいな発言はしないでくれないかな?」
「これはこれは、失礼しました天使様」
「次私に天使やら鬼やら言ったら、もう金平糖作ってあげないから」


 そう言ってむくれながらも、咲来は少し笑っていた。
 咲来が初対面の人の事を話しながら笑うなんて、これまた珍しい事が起きるものだ、と思った。


「あの子と仲良くなれるといいね?」
「……無理だよ。あの人の魔力は、確実に光側だった。それが分かったから『学園で話しかけないで』ってわざわざ言ったのに」
「それは、準備がよろしい事で」
「て言うか、そもそも輝にも陽太にも話しかけないで欲しいんだけど。鈴音とりんだって……」
「はいは~い、その話はもう納得させたでしょ?俺たちの友情は入学前からの宝物だよ?クラス如きで壊させないって、何度もそう言ったじゃない」
「…………」


 俺がそう言うと、咲来は口を開かずに黙りこくってしまった。

 彼女は『クラスが光と闇で別れるから』『自分が光の家門なのに闇魔法師だから』なんて単純な理由だけで、俺達を拒んでいるとは思えない。きっと、もっと複雑に色々な事を考えている。

 この子は、そう言う子なのだ。

 良くも悪くも、考え過ぎる。それは頭が良い故の、咲来の難点なのかもしれないね。






 




 咲来が検査前に光側か闇側かを何となく把握できるのは、自身が闇の魔法適性があるから。光と闇の適性者は自分の魔力が強い影響で〝自分と同じかそうでは無いか〟を分かる者が多い……と本にも書いてあったらしい。

 でも、咲来は今まで確信を持って魔法適性を言う事はなかった。普段なら『何となく、そうかもしれない』みたいな風に言っていたのに、今回はハッキリ『分かった』と確信を持って言っていたんだ。

 だから、尚更彼女の事をキッパリと突き放したんだと思う。咲来は、彼女と自分が仲良く出来る訳無いと思ったんだ。
 俺たちの事ですら、突き放そうとしているんだから。


 自衛をするのは大切な事だ。そう出来る所も咲来の良い所。
 しかし光とか闇とか家門とか立場とか、そんな物達は関係なく、咲来には自分が一緒に居たい人と仲良く幸せに過ごして欲しい。

 だから俺は、そんな一縷の望みを、この春風菜乃花にかけていた。

 彼女は光側どころか、咲来が一番避けたいであろう〝聖女様〟だった訳だけど……当の本人はそんな事を一切気にしない様子だ。

 なんと言うか……「だからどうしたんだ?」みたいな態度で、あっけらかんとしている。しかも、咲来とすごく仲良くしたがっているじゃないか。

 この子なら、本当に咲来と仲良くなれるんじゃないか……なんて。


 これは、少し希望を抱きすぎなのかな?

 でも、そんな希望を抱かずには居られないほど、俺は咲来の幸せな学園生活を望んでいる。自分の大事な双子の幸せを願う事は、何も不思議では無いだろう。

 咲来が、いつか何にも縛られずに自由に過ごせる様になってほしい……。

 なんて、咲来に言ったら「輝らしくない事言うね」なんて言われちゃうかな?

 俺は、誰よりも優秀で誰よりも頼れる姉らしい、この大切な双子の妹に……たまには俺にも、兄らしい事を考えさせて欲しいんだ。



 


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