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一章 魔法学園へようこそ
✤ 第4話:同じお部屋のクラスメイト
しおりを挟む私達は、先生に案内されて寮へと向かっていた。
所属する事になった♡クラスと、隣の♤クラスは火と水で光側の適性。なので白寮と言う方に入るらしい。
反対の黒寮は闇側で、風の♣クラスと土の♦クラスが入寮する。
ブレザーやベスト、靴下の色もそれぞれ白と黒に別れていて、ネクタイに至っては更にクラスの4色で別れている。
しかもネクタイにはクラス色をした宝石のブローチも着けるらしい。制服にブローチなんて違和感しかないが、これも不安定な未成年の魔力の安定を手助けをする目的で着用するようだ。
「皆さんのクラス分けをした際に、魔道具で既に寮の部屋分けは完了しています。1階が男子部屋で2階が女子部屋、階段の左が♡、右が♤のクラスです」
「扉の前にそれぞれの名前が記入されているので、その部屋で着替えて下さい。30分後にはまたここに来て貰って、入学式に向かいます」
先生が話を終えて「解散!」と手を叩いた瞬間、生徒はそれぞれ階段の方へ登っていく。
寮とは言うものの、内装は何となく洋風なホテルを彷彿とさせるデザインだ。階段の左右で色味も変わっていて、それぞれ赤と青の色も混ざりつつ白を基調とした美しい景観だった。
寮も制服も、全てが白い。まるで一面を雪に覆われたみたいで、跳ね返る日光が目に刺さるくらいだ。
でも、私にはこの空間が眩し過ぎる。そこにあるはずの鮮やかな色も、何も感じられない程に。
「ねぇ聖女様、貴女ってどちらの出身なの?」
「君の名字は初めて見たよ!聖女様を今まで認知出来なかったなんて……一体何処で暮らしてたんだ?」
「あ~……今まで人間の所に居たんだ!私が家系で初めての魔法使いなの!」
「だから光の魔法を持ってる事が知れ渡らなかったのか……」
「そうそう、そうなんだよっ!あはは~」
階段を上る間にも、私は白い制服を手に持った同級生数人に話しかけられていた。
ここまで〝聖女様〟として扱われると思っておらず、これに対応するのが段々面倒になっていた。私は人付き合いは得意でも、別に特段人と関わるのが好きな訳じゃ無いのだ。しかも〝聖女様〟という肩書きのせいで、余計に変な絡まれ方をしている。
私は、じっとりとした汗が体に張り付くような不快感でいっぱいだった。
こういう風に接しられると、嫌でも前の学校での事を思い出す。
いつの間にか理想の自分を作り上げられて、少しでも理想から外れた瞬間すぐに突き放す。そして今までの関係を全部「要らない」とゴミ箱に捨てるんだ。
聖女と言われるのも同じ様なものだろう。
だって私は、まだ魔法のひとつも使って見せていないじゃないか。それなのにただ〝光の適性〟があると言うだけで変な肩書きをつけ始める。魔法世界の教養もなんにも無いのにね。
じゃあ、もし私が〝聖女様〟らしからぬ行動をした時、君たちは一体どんな反応をするんだろうね?
……なーんて、そんな事を考える自分自身が、一番嫌なんだ。
どうでもいいと思っている他人の評価に踊らされている自分に、石をなげつけてやりたい程だ。
気にしなければいいものを、一々気にして。こんなの面倒だと思っているのに、口から出るのは相手にも自分にも都合の良い、ペラッペラの紙切れみたいな言葉だけ。
意味も何も無いセリフを吐き続けるロボットだ。
せめて早くこの場を切り抜けたいと、私は必死で自分の名前を探していた。すると、ドアに〝春風〟と書かれている文字を見つけた。
その瞬間、私の不快感を一掃させる様にパァっと目の前が明るくなる。
「あー!ここに春風の文字発見っ!という訳でみんな、また後でねっ!!」
そう言い放ち、私は思い切りドアを開けて即閉めた。「はあぁ……困ったなぁ……」と、思わずため息をつく。
とりあえずドアの鍵をかけようと手を伸ばし、カチッと音が鳴るのを確認してから後ろに振り返った。
しかしそこには、ネクタイを締めている見知らぬ女の子の姿があった。
「大変そうだねぇ、春風さん」
「うわっ!?ビックリした……あ、そっか……寮だから二人部屋なんだっけ?」
振り返った途端、誰も居ないと思っていた空間から人に話しかけられて、菜乃花は喉から心臓が飛び出そうになっていた。
何せドアの『春風』という文字だけ見て入室していたのだ。相手の名前どころか自分の下の名前すら見ないでドアを開けていた事を、私は深く後悔した。
彼女は、ネイビーカラーの髪の毛を揺らして顔を上にあげ、菜乃花の顔をじっと見た。
「そうだよ、人数的に三人も有り得るけど……私達は二人だけみたいだね!」
ふあ……と大きな欠伸をしながら、彼女は答える。
朝が苦手なのか、この表情は今にも眠れそうな雰囲気だ。
しかし、私は話す前に言うことがあったな……と思い、荷物を置いて彼女の前に立った。
「春風菜乃花です。これからよろしく!……えっと、」
「私は四葉千鶴。よろしくね!」
ところで早めに着替えた方が良いよ、と腕に収めた制服を指さされ、慌てて洋服を脱いで制服を手に取る。
私立の小学校なら有り得るけれど、普通の公立小学校に通っていた為、制服を着るのは違和感があった。
後はネクタイを締めるだけ……と私が手を伸ばした時だった。
「春風さんはさ、自分が〝聖女様〟だって知ってたの?」
シンと静まり返っていた空間で、彼女は突然言葉を投げかけて来た。
私は目を丸くしたものの、直ぐにその質問に対しての返事をしようと口を開く。
「あぁ~……そう言われるかもってのは知ってたけど、名前?以外の詳しい事は、私は全然知らないんだ」
「そっか……じゃあ、気をつけた方がいいよ」
「気をつけるって、何に?」
「さっきの、〝闇魔法師〟の事」
それは、クラス分けの時からずっと気になっている事だった。
私の適性が分かった瞬間から、周りの声に混じって聞こえてきた声の中に「聖女様も危ないんじゃ……」なんて言葉があったのだ。
しかし、それがどうして危ないのか……私はその部分を全く理解していなかった。
「危ないってさ、なんで皆そう言うの?適性なんて、命の関わる文系理系体育会系……みたいな括りと同じようなもんでしょう?」
私がそう言うと、彼女少し目を閉じて「うーん……」と考えてから、再び口を開いた。
「……それはね、亡くなった〝先代聖女様〟が〝闇魔法師〟に殺された可能性が高い、って言われてるからだよ」
*
「全員集まりましたね。では入学式へ向かいましょうか」
私達は制服に着替えて、再び寮のロビーに集まった。先生の後について行き、体育館へと向かう。
体育館の中は先程よりも椅子がぎっしりと詰まっており、中には全校生徒が集まっている様子だった。
「あ、黒寮の人達だ」
小声で話していた周りの生徒達は、後から隣に並ぶ黒寮の生徒達に興味津々だった。
純粋に「仲良くなりたいな~」という声もあれば「闇魔法なんて……」と批判的な意見をぶつけている人も居る。
しかし殆どの人は、彼女……花柳咲来に目線を送っていた。それは逆も然りで、黒寮の人は私へ視線を送っている人が多い。コソコソしてても雰囲気で全部バレバレだけど。
お互いに目立つ存在なのだろう……しかしそれも無理はない。四葉さんの話から察するに、今の私と彼女の関係は〝殺す方と殺される方〟なのだから。
私はそう思いつつも、別に話しかける事を諦めようとは一ミリも考えていなかった。むしろ如何に話しかけるかと言う思考で頭はいっぱいなのだ。
いつの間にやら始まっている入学式なんてそっちのけで、先生の言葉もあまり頭に入ってこなかった。
しかし、私の思考は突然現実世界に戻される。
「続きまして、新入生代表挨拶。新入生代表、花柳咲来さん」
「はい」
新入生代表挨拶に呼ばれたのは、その思考を埋めていた相手である彼女だった。代表ということは、入学時の成績が一番だったという事だろうか……。
彼女に注目するのは、何も私だけではない。全校生徒が一斉に視線を送る。それぞれが、色々な感情を彼女にぶつけているように感じた。私は何となく、その感情達を見たくないと思った。
だからじっと、彼女の方を向く事にしたのだ。
「新入生を代表し、ご挨拶させていただきます」
それは卒業式でよく見る、式辞のような言葉達だった。あんなにスラスラと丁寧な言葉を詰まらず話せるなんて、自分では考えられない。
私は彼女が話す様子をぼーっと見つめていた。
「そういえば駅で会った時も、先輩みたいだったもんな……」
堂々と話す彼女の様子に、私は朝の駅で出会った時の事を思い出していた。
自分がぶつかったせいとは言え、初対面の相手に敬語で「しっかり前見て歩け」なんて中々言えることでは無いだろう。少なくとも、私は言える気がしない。
そもそも、そういう風に言える人の方が少ないんじゃないだろうか?私の方が、多分大多数な方だろう。
そんな事を考えている内に新入生代表挨拶は終了していて、彼女は自分の立ち位置にすっかり戻っている。私の立つ場所からは、もう見えなくなってしまった。
「続きまして、学園長挨拶です。学園長、お願いします」
その声と同時に、足音が体育館に鳴り響く。
壇上には、恐らく親より少し年上であろう男性が立っていた。セットされた髪型は綺麗で、髭や表情にダンディさが溢れ出ている。ドラマで良く見る イケおじ みたいな雰囲気の人だ。
「オホン。えー、まずは……一年生諸君、学園入学おめでとう!」
その瞬間、ワーッと在校生の先輩達が拍手喝采で盛り上げた。重厚感のある拍手の音に、私は思わず体が跳ねる。
暫くすると学園長が「ありがとう」と言いながら、ボリュームを下げさせようと手をぐぐっと上から下に降ろした。
「君たちは、未来ある魔法使いだ。この素晴らしい日に学園の仲間になれる事を誇りに思う。大切な仲間と切磋琢磨し、大志を抱け!最高の夢をその手に掴める様に、皆素晴らしい学園生活を送ってくれ!」
周りの生徒達は学園長が話している間、まるで産まれたての赤ん坊のように目を輝かせながら、彼に視線を送っていた。
しかし、私はそんな周りの様子を見ても、同じような感情が自分に湧き上がってくる事は無かった。
どうして、周りと同じように感じられないのだろうか。
いくら考えても、その答えが分かる事は無かった。
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