魔法使いの相棒契約

たるとたたん

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プロローグ:聖女様と闇魔法師

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 ごく普通の、大衆的で、良くある当たり前の日常。
 街を歩いて、学校に行って、仕事をして、家で何かして、友達と遊んで過ごす日々。


 寄り道して、アイスなんか食べちゃって?
 そうして、下らない話で笑い合う。




 そんないつもの日常の中で、この世界ではひっそりと〝魔法〟が息している……なんて、みんなだったら信じられる?



 
 大体の人は童話や幻想のお話だって思うよね。私も、最初は信じていなかった。
 でもそう思ってしまう事が、それ自体が、魔法が存在するという証明になる。


 だって、普通の人間がそうやって思うように、ここには……もう既に魔法がかけられているんだから。





 魔法を信じるようになったのは、どうしようも無いくらいに、その存在を感じてしまうようになったから。





 私が、普通の人間じゃなくて、魔法使いになったから。





 〝魔法〟って聞くと、キラキラしていて、何でも出来て、夢が叶うような素晴らしい力だ……って、思うかな。


 しかも「あなたはみんなと違って〝特別な魔法 〟を使える〝聖女様〟って言う特別な魔法使いなんだよ」なんて言われたら?


 興奮と感動で飛び跳ねちゃう?
 思わずその魔法を試したくなる?

 確かに、そんな気持ちになった時もあった気がするなぁ。






 でも、私には……この肩書きは、要らなかった。


 唯一心を許せる家族とも一緒に暮らせず、離れ離れの寮生活。
 皆からは「聖女様」って呼ばれて、本名でなんて滅多に呼ばれない。



 みんなが見ているのは昔の偉人である先代聖女様と聖君様……それは、私の事じゃない。
 この世のために尽くそうなんて、そんな大層な夢もない。




 私は、一度もその肩書き聖女様を名乗った事がない。





 普通の人間でも、普通の魔法使いにもなれない、この魔法。

 家族と離れ離れになる原因。
 私が、私を見て貰えない原因。
 私を見せたら、幻滅されてしまうかもしれない原因。





 魔法なんて使えなければよかった。





 そう、思ってた。

 君に出会うまでは。





 魔法使いにとって神のような存在と崇められて〝聖女様〟と呼ばれる私。

 そんな存在である先代の聖女様を、殺した可能性が高いと言われている、過去の〝闇魔法師〟と同じ肩書きを持っている君。


 私たちは、本当だったら相容れない存在。
 一緒に居られない運命。



 近づかない方が良い。
 話しかけない方が良い。
 関わらない方が良い。



 何度もそう言われて来た。





 でも、私が誰にも口にしなかった言葉を、君は簡単に口にしてくれた。

 オレンジ色に染る廊下の中で、夢の中の夕日みたいな、綺麗な色の瞳をゆらゆらと揺らして。





 そうして、私は君とやっと話せた。



 私はその日、初めて魔法を見た。

 淡黄色に煌めく景色。
 枯れていた草も癒されて咲き誇る。

 まるで、君が自然を祝福しているみたいだった。



 その時、モノクロだった私の世界は、一瞬で虹色に彩られた。
 私の心までもがその魔法に癒されて、祝福されたみたいだった。



 私は私のままで良い。

 皆の理想の〝聖女様〟に、ならなくて良い



 ……そう、言って貰えた気がした。




 敵だとずっと言われていた闇魔法師に、聖女様はどうしようも無く……救われてしまったんだ。




 私の同級生
 私の敵
 私のライバル
 私の理解者

 唯一無二な存在



 この世でたった一人の……とっても大事な、私の〝相棒〟



 私と君の人生を文章にするのなら……きっと、ウンザリしてしまう程に長いんだろうね。
 これを本にしたら、私の体もあっという間に埋もれてしまいそうだよ。


 だって、それくらい君と過ごす日々は濃かったんだから。




 聖女様と闇魔法師なんて肩書きを付けられた私たちの


 ただの魔法使いな春風はるかぜ菜乃花なのか花柳はなやぎ咲来さくらが、〝相棒契約〟を交わした日々は。





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