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20話 愛から信仰に変わるとき

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 幸せな夢を見た。
 私とラパ様が結婚する夢だ。

 ボンキュッボンになった夢。
 ふいに手を胸にやる。

 スカ、スカ。

 あ、こっちが夢か。

「ジュナ! 良かった」
「るあ? はッ! 私の胸は!?」

「何をバカなことを言っている。私たちに胸など必要ないだろ」
「私は立派なおっぱいが必要なの! 無いと愛してもらえない…。あれ? 痛くない?」

 体を動かすことも出来ない痛みが無いことに気づいた。
 背中から腹を貫通している傷口にスライムが張り付いている。

「スーラパイ殿のスライムだろう。気絶しているジュナを包み込んだかと思ったら、血だまりが一瞬で消えたんだ。驚いてスライムを見たら、体の中で血が巡っていた。すると次第にジュナの顔色が良くなって、傷口を見たら閉じていくのが見えた。こんな多芸なスライムは、見たことがないぞ」

 ルアーが興奮気味に説明してくれた。
 どうやら私は、死ななかったらしい。

「あぁ、ラパ様! 私はまた貴方に助けられたのですね! ラパ様に感謝を」
 これはもう愛を通り越して、神と崇めるほどの気持ちがあふれ出す。

「そ、そうだな! スーラパイ殿に感謝を」
 ルアーも私と同じように、片膝を地面に両手を合わせて、ラパ様に祈る。

「んぷ」
 私の治療が終わったのか、スライムがかわいらしい鳴き声を上げて体から離れていった。

「あぁ、カップ様にもお礼を言わないと。ありがとうございました」
 ラパ様から教えてもらった彼女の名前を呼んでお礼を告げる。

 お礼を受け取ったというようにその場で跳ねて、扉の方に転がって行かれる。
 カップ様が移動された場所には、まるで意思があるように浮かんでいる杖があった。

 カップ様は杖を捕まえて、動かなくなった。
 もしかするとラパ様に現状を伝えておられるのかもしれない。

 ラパ様のスライムならあり得る。



 ご主人様のお願い通りに尻デカ女を見つけることが出来た。
 あと数分遅かったら死んでたかもしれないが、何とか死なせずに済んだ。

 これでご褒美に期待が出来る。
 死にかけた尻デカ女の細胞にフラージュを使ったけど、たぶん大丈夫。

 ご主人様を神と崇める尻デカ女の様子を伝えた。
 困惑するご主人様の感情が流れ込んでくる。

 これが、手遅れという状況らしい。



 カップの位置を感知することで、ジュナとルアリールに合流する。
 部屋に入るなり、2人から崇められた。

「神!」
「第一声がそれでいいのか」

「あ、間違えました。ラパ様!」
「スーラパイ殿、ご無事なようで安心しました」
「骨が当たるから抱きつくな。ルアリールさんは、肩の傷は大丈夫ですか?」

「あぁ、ラパ様~! ちょっとだけ! 先っちょだけ!」
「死にかけて変態になった?」

「あはは、ふざけている時のジュナはいつもこんな感じですよ。傷は、痛みますが問題ありません」
「そうですか。ポーションがありますけど、使いますか?」

「私にも、もう少し優しくしてくださいよ~。私なんて死にかけたんですよ? その代わりに幸せな夢が見れたんですけどね。ぐへへ」
「リアルにぐへへとか笑う女の子がいるとは思わなかった。それだけ元気ならポーションも必要ないだろ」

 ジュナを突き飛ばすと「あぁ~ん、いけず! カップ様に慰めてもらいます!」とカップに近づく。
 カップに抱きつこうとしたジュナは、カップに体当たりされていた。

「それよりも、ゲルンはどうされました? まさか、殺されたりは」
「さすがに殺していませんよ。大事な情報源ですからね。ハーゲルンダ副隊長は気絶させて時空間に捕らえていますよ。それと、ボルドーガは殺されていました。死体は焼いたようですね。捕らえていた馬車の近くに、人の形をした焦げ跡が見つかりました」

 ホックに仕事を頼んだ過程で発見することが出来た。
 頼んだ仕事というのは、ダークエルフの仲間の捜索だ。

 ジガバールが装備していた魔道具と同じものを探索魔法で探知することで、ボスとか言う居場所を探る仕事を頼んだ。
 寝込みを襲えそうなら襲って捕まえてもらうようにお願いしている。

 サキュバスの女王をテイムしているという情報は、できれば隠したい。
 無理はしないように命令してあるので、何かあれば逃げ帰ってくるだろう。

「そうですか。この短時間でそこまで」
「スライムの数には自信がありますからね。大事な話もありますし、ポーションを飲んでください」

 帝国の宝物庫にあった高級ポーションをルアリールに渡す。
 万能薬とまではいかないが、皮1枚でつながっている腕をかけるだけでくっ付くほどの効果を持っている。

 肩から腕は繋がっているようだが、傷口が深いようなので高級ポーションを使って、万全の状態に戻ってもらう。

「こ、これほどのポーションはいただけません! 普通のポーションをがぶ飲みすれば」
「聖女様が攫われていたとしても、ですか?」

「それは、どういうことですか!?」
「すぐに動く必要があるってことですよ。邪神の復活に、聖女様を生贄にされる前にね」

 ルアリールは高級ポーションを奪い取るように受け取って一気飲みした。

 騎士団の隊長なんだ。
 聖女様のために働いてもらわないとな。

「力が、漲るッ! ラパ殿! 聖女様の居場所は!?」
「捕らえた邪教信者によると世界樹付近で儀式を行なうようです。多分ですが、法国都市で純血派による反乱か何か問題が起きていると予想されます。聖女様の誘拐に成功したと報告を受けている、そのようなことを副隊長が言っていましたから」

「そんな! まさか、誘拐されたのは」
「混血にも優しい聖女様だと言っていましたね」

「トルリーナ様!」
 聖女様の名前はトルリーナというらしい。

 申し訳ないが、恰幅のいい女性が頭に思い浮かんでしまった。
 トロールみたいな名前だからだろうか?

「ラパ殿、私から依頼をさせてもらえないだろうか?」
 あ、察し。

「聖女様の救出ですか?」
「流石だ。私が払えるものなら何でも払う。この体だって」

「ラパ様は立派なおっぱいしか興味ないから」
「そ、そうか。とにかく! 私にできることなら何でもする! だからどうか、聖女様の救出に向かってくれないだろうか! スーラパイ殿なら、できるだろう?」

 尊敬からラパと呼び始めたかと思えば、変態と分かって呼び方が戻った。
 まあ、いいんだけどさ。

「はぁ、わかりました。元々、世界樹には行くつもりでしたからね。ついでに聖女様の救出でも邪教の壊滅でも、僕に出来る範囲でしてみますよ。出来る範囲ですからね」
「あぁ。世界を救ってくれ!」

「いや、それは無理」
「あぁ、私の救世主様は世界も救われるのですね!」

 だから無理だっつうの。
 ただのスライムテイマー冒険者が世界を救うわけないだろう。

「私は都市の状況を確認してから合流したいと思う。それにしても、今頃になって純血派だどうだといわれても、どれほどの混血が存在しているか、知らないのか? 私も純血だと思われて勧誘されたこともあるが、元を辿れば人間とエルフが結ばれてできた国が法国だというのに。最近の若者ときたら」

 なんか聞いてはいけないことを聞いた気がする。
 そんなことを知っているルアリールって、何歳なんだ?

「わかりました。出来るだけ早めの合流をお願いします」
「はい。もし純血派の反乱があったとしても、純血派の制圧など私が到着する頃には終わってるでしょうからね。最大戦力を連れて、合流します!」

「よろしくお願いします。ジュナは」
「もちろん、ラパ様についていきます! 後世に残すために、ラパ様の行動をすべて見ることが私の使命です!」

「そんな使命捨ててしまえ!」
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