上 下
13 / 34

12話 オメガ研究所

しおりを挟む
 81階層の調査で、魔物はドールが擬態したモノの方が多いとわかった。
 生まれてくるのがドールばかりで、80階層に追い出されていくからだ。

 80階層に移動したドールをカップの分裂体(数十体)で吸収する。
 カップはコアを吸収して進化したことで、分裂体に簡単な命令ができるようになっていた。

「この部屋に現れた同族を取り込め」と命令することで、81階層から追い出されたドールを、80階層で処理することができる。

 命令内容の「同族」だけだと共食いしてしまうので、現れた、というのが重要だ。
 分裂体も分裂するのだが、分裂は現れたに含まれない。

 分裂だから増えただけで、現れた判定にならないようだ。

 82階層以上で追い出されたドールも直接80階層に送られるので、ほぼ入れ食い状態だ。
 ドールが転移陣を使っているというより、ダンジョンが移動させているのだろう。

 そして、83階層で原因を発見する。

「壁に擬態したスライム。俺じゃなきゃ見逃しちゃうね」
 カップは83階層にいるわけだが、俺は50階層にいる。

 さて、どうやって83階層まで行くか。

「私の隠蔽魔法で魔物に見つからず行きましょう」
 というわけでホックの魔法で姿を隠して魔物に気づかれず、見つからないように83階層を目指すわけだが、

「ですよね~」
 60階層に到達するとボスが出現する。

「私が処理しますので、貴方様は離れて下さい」
 サキュバスの女王は、60階層のボスよりも強かった。

「相手が良かったのです。ゴブリンキングなど魅了してしまえば、呼び出した仲間と同士討ちさせることができますからね」

 やっぱりサキュバス怖い。
 ふとドールがボス部屋を埋め尽くしていたら、ボスは出ないのでは? と閃いた。

「カップに分裂してもらって、分裂体が追い出されたところで階層に到達してみるか?」
「それは名案ですね。早速実践してみますか? もし出てきたとしても隠蔽魔法で見つからず逃げることもできます」

 ボスは挑戦者が階層からいなくなると消える。
 ダンジョンはエネルギーを効率的に集めることを目的にしているので、エネルギーを使うボスなどは節約のために維持することがない。
 と推測する。

 ダンジョンコアと繋がっていたホックとコアを吸収したカップに、ダンジョンについて詳しく聞けばわかるかと思ったが、

 ホックの答えは、
「帝国はダンジョンを実験場にしていただけですので、通常の動きが分かりません」

 カップは、「んぷ?」と分からないようだ。

 オメガ先生も、ダンジョンは未知の存在と書かれていたので、検証していくしかないようだ。

「カップを70階層に呼び戻すか。ボスが出なかったら80階層でも出てこないだろうし」

 80階層では既に分裂体が分裂した途端に79階層に送られて、待ち伏せしている魔物に食べられている。
 カップの分裂体の分裂体は美味しいのか、魔物が分裂体を出待ちしている。

 80階層に行くため、79階層のことは後で考えるとして、まずはカップを83階層から70階層に呼び戻すことにした。

 実験は成功。
 ボスが出現することなく、カップの分裂体達に出迎えられる。

 魔物と戦闘せずに、83階層まで到着できた。
 79階層は80階層につながる場所に、大量の魔物が居座っているので、70階層の分裂体達を時空間魔法で保管して79階層で解放することで、分裂体達を散開させて魔物を誘い出す。

 分裂体が襲われている間に、79階層を抜けて83階層まで到達した。
  壁に擬態したスライムを調べると割れ目を発見する。

 スライムに触っても反応がないので、擬態したまま活動を停止していると思われる。
 カップにスライムを吸収してもらうとひび割れた扉が現れた。

 鍵穴は見当たらないがドアノブをひねっても押しても引いても、開かない。
 カップに頼んで扉のひび割れから中に入ってもらうことにした。

 意識を共有する応用で、視界を共有して研究所内を確認する。
 およそ20台ほどの割れたカプセルを設置されていた。

 奥まで進んでいくと魔法陣の刻まれて割れていない、中身の入ったカプセルを発見する。
 カプセルの台座にエンプレス女帝フラージュと刻まれていた。

 取扱説明書と書かれた紙束もご丁寧に置かれている。

 カップは魔法陣の刻まれたカプセルに近づくことを嫌がった。
 魔物除けの効果があると思われる。

 研究所内に危険がないことは確認できたので、中に入る方法を考える。
 簡単な方法は扉を破壊することなので、カップを呼び戻すことにした。

 ひび割れから扉内に入ったカップにお願いして、内から消化液を出してもらう。
 扉を脆く破壊しやすくしてするためだ。

 消化液でひび割れが広がることを確認してカップを呼び戻す。
 触ると軽いやけどをすることが分かっているので、消化液が無くなるまでカップを愛でる。
 たまにホックも握ってやる。

 念の為、扉内に消化液が残っていないかカップに確認してもらい、残っていれば消化液を回収してから出てくるようにお願いする。
 カップが出てきたタイミングで身体強化を行なって、扉を壊す準備をする。

 カップが手を守ろうと右手に纏わりついてくれる。
 お礼を言ってから、カップを纏った右手で扉のひび割れを殴る。

 脆くなったとはいえ頑丈な扉は、ひび割れが広がる程度なので何度も殴ることになった。
 カップは器用に左右交互の手に移動して、手を保護してくれた。

 素手で殴っていたら身体強化でも怪我か腕を痛めていたかもしれない。
 カップに再度お礼を言ってから、今夜の魔力は多めに与えることを約束する。

 研究所内に入ることができるようになった。
 エンプレスフラージュのカプセルまで、迷わずに向かう。

「ホック、この魔法陣は…魔物除けと保存、強化に魔法と物理反射で間違いないか?」
「はい。私から見てもそれらの効果が付与されていると思います。しかし貴方様が尊敬するオメガ様が付与されたと考えるなら、警戒するべきかと」

「はぁ、だよな。取扱説明書は…俺なら取れるみたいだし、これ読んでから魔法陣の解除は、できないかもしれないけど。解析はあとにするか」

 カプセルに触れることは避けて、カップに取れなかった紙束を手に取る。
 丈夫な椅子があったので、座って読むことにする。

 エンプレスフラージュについて。
 ドールの上位種を造ることに成功した。

 ドールは一度擬態すると元に戻らない頑固者だが、フラージュを使えば擬態を解除させることが出来る。
 更にフラージュに魔力を与えれば、ドールの量産も可能になった。

 ドールに命令をすることも可能で、契約者自身そっくりの擬態も可能となる。
 不老不死が実現するかと思われた。

 しかし本体が死ねば、フラージュに命を握られることになり、上下関係が逆転する。
 創り出した魔物とはいえ、魔物は魔物だ。

 上下関係が変われば、フラージュにどのような変化が起こるかわからない。

 ドールを使った不老不死は不可能と判断する。
 量産したドールとフラージュを封印することにした。

 もし誰かがここに到達したなら、フラージュを譲ろう。
 封印の解除方法は、テイマーだ。

 周りのドールも好きにしてくれていい。
           オメガ・パイアーツ・サーコイ。

 他にもエンプレスフラージュの創り方やフラージュの運用方法など記載されている。
 フラージュもドールのように擬態が可能で、妊娠することも可能。

 しかし妊娠すると擬態を解くことができず、出産すると擬態した生物に固定されてしまう。
 魔物で実験済み。

 固定化されてもフラージュの能力も保持しているので、固定化されたフラージュは処分すること。
 放置すればドールが生まれ、群をなす。

 人に擬態させれば…戦争に…悪用厳禁。

「生物兵器かよ。書籍に残さかなったのは正解ですよ、オメガ先生」
「それで、貴方様はフラージュをテイムするおつもりですか?」

「解除方法がテイマーってことは、そういうことだろうな。ドールに命令ができて、無限の群体を作ることが出来る。これは秘密にしないと面倒ごとに巻き込まれるよな」
「間違いなく王族に目をつけられるでしょうね。貴方様がいれば民を使わなくても、戦に勝てるのですから」

「取扱説明書は時空間に永久保存して、フラージュはドールの騒動が終わってから考えるか?」
「ドールの騒動が解決しないと、ずっと最古のダンジョンから動けない可能性もありますからね」

「だよな。ドール自体の処理が俺以外にできれば、本部も解放してくれるだろうけど」
「他のテイマーに貴方様と同じことができるとは思えません」

「それはわからないけど、他のテイマーにフラージュが見つかってたら、考えるのも恐ろしいな。おっぱいにしか興味のない自分に見つけられてよかったな」

 フラージュを仲間にする。
 それは確実だ。

 このまま放置してドールの処理を何年もかけて行うとか、考えるだけで面倒くさい。

 問題はドールを片付けた後だ。
 フラージュを同行させるのか、取扱説明書と同様に時空間に入れておくか。

 取扱説明書を読み返す。
 擬態が生物だけでなく、物になれるなら。

「契約時に擬態を固定化させて、杖として使えるようにする。固定化されてもフラージュの能力を持ってるなら、可能か? ドールの生産能力は契約時に縛れば魔力を送っても発動しないようにして。なら契約内容を…」

 契約内容を刻み込んだ魔法陣をカプセル内のフラージュに向けて展開すると、人型のフラージュが杖の姿に変わった。
 成功だ。

 カプセルに刻まれていた魔法陣にひびが入ると、カプセルともども割れる。
 杖は浮いたままこちらに近づいてきた。

「これからよろしく、フラージュ」
 杖を掴むと深翠の宝珠が光る。

「最初の仕事はドールの処理だ。数が多いけど、頼りにしてるぞ」
 深翠の宝珠フラージュが答えるように強い光を放った。

 報告書。

 オメガ研究所を発見。
 中を調べたところ、スライム系統に命令できるとされる杖を発見した。

 試しにドールを操れないかと、83階層の魔物に「ドールは跪け」と命令したところ、効果あり。
 擬態していても元はドールのため命令が可能なようだが、魔力の消費が大きく、命令の内容によっても消費量が変わることも実験済み。

 魔力が回復したところで擬態の解除、擬態の禁止命令を試したところ、少ない魔力で可能だった。
 スライムでドールの処理を行なう。

 魔力を大量に消費することで階層を超えてドールに命令が可能と判明した。
 100階層までドールに命令を行ない、スライムで処理中。

 ダンジョンについて。
 10階層毎のボス部屋は、事前に魔物を大量発生させることでボスが現れないことを確認。

 部屋によって魔物の上限数が異なり、スライムの分裂体を用いたが、現実的ではない。
 階層を突破したと言えるか疑問である。

 83階層まで到達したが、魔物やボスの討伐は行っていないため、ランクアップは辞退したい。

 追記。
 杖は渡させない。
 契約者以外が使用すれば、死ぬ可能性もあると記載された研究資料を発見している。
 奪われるようなことがあれば、冒険者をやめる覚悟がある。
                  テイマースーラパイ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

異世界帰りの勇者は現代社会に戦いを挑む

大沢 雅紀
ファンタジー
ブラック企業に勤めている山田太郎は、自らの境遇に腐ることなく働いて金をためていた。しかし、やっと挙げた結婚式で裏切られてしまう。失意の太郎だったが、異世界に勇者として召喚されてしまった。 一年後、魔王を倒した太郎は、異世界で身に着けた力とアイテムをもって帰還する。そして自らを嵌めたクラスメイトと、彼らを育んた日本に対して戦いを挑むのだった。

貞操逆転世界の温泉で、三助やることに成りました

峯松めだか(旧かぐつち)
ファンタジー
貞操逆転で1/100な異世界に迷い込みました 不意に迷い込んだ貞操逆転世界、男女比は1/100、色々違うけど、それなりに楽しくやらせていただきます。 カクヨムで11万文字ほど書けたので、こちらにも置かせていただきます。 ストック切れるまでは毎日投稿予定です ジャンルは割と謎、現実では無いから異世界だけど、剣と魔法では無いし、現代と言うにも若干微妙、恋愛と言うには雑音多め? デストピア文学ぽくも見えるしと言う感じに、ラブコメっぽいという事で良いですか?

W職業持ちの異世界スローライフ

Nowel
ファンタジー
仕事の帰り道、トラックに轢かれた鈴木健一。 目が覚めるとそこは魂の世界だった。 橋の神様に異世界に転生か転移することを選ばせてもらい、転移することに。 転移先は森の中、神様に貰った力を使いこの森の中でスローライフを目指す。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

処理中です...