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最初のお客さま
5-3 セレスの探し人
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「……え?」
「教えてくださいまし、あの方は……あの方は一体どなたですの?」
セレスの様子がおかしい。
いつもの明るさはなく、涙声を隠すこともなく前のめりになって聞いてくる。
最初はドラカに会って怯えているのかと思ったが、どうやら違うらしい。
「あ、あいつはドラカって名前で、その……言ってなかったけど俺の店のオーナーなんだ。へ、変な話かもしれないけど素性とか、そういうのは分からない」
「ドラカ……」
軽く説明をすると、セレスは力が抜けたようにストンと椅子に座る。
「だ、大丈夫か?」
「………えぇ……取り乱してしまい申し訳ありませんわ……」
そうは言いつつもまだ放心状態のセレスに、俺は温かいお茶を出す。
セレスは力なく微笑み、俺にぺこりと軽く頭を下げる。
「………ありがとう……ございますわ」
その後、お茶を飲んで少しだけ顔色も良くなったセレスと俺は話をした。
「……その、何があったのかは分からないが、ドラカとは会ったことがあるのか?」
「……いえ、ありませんわ……………ただ、えぇと、以前私が冒険者を始めた理由についてのお話をしたことは覚えていらっしゃいますか?」
「ああ、確か行方不明の姉さんを探しているんだったよな」
「その通りですわ。……………先程ドラカさま、という女性を見た時、記憶の中のお義姉さまとは容姿も雰囲気も全く違っていたのですが、なぜだかとても懐かしい気持ちになったのです」
「懐かしい?」
俺がそう問いかけると、セレスはまた悲しそうな顔で頷いた。
「……一目見てすぐに、あの方は私の姉、ドラメリアお義姉さまだと、そう確信してしまうほどに懐かしく感じました。その、何がとは具体的には言えないのですが……」
「…そうか」
「ロイズさま、あの方とはどこでお知り合いになったのですか?」
「ああ、俺が王都にきてすぐにスリに狙われそうになったところを助けてもらったんだ」
「そうなのですね……今どこにいるのかご存知ですか?」
「それは分からない。本当にあいつは自分の素性を明かさないんだ。知っていることといえば、酒がとても好きなこととSランクの冒険者だということ、あとはやたら顔が広くて金も土地も持ってることくらいかな」
「それは……とても不思議な方ですのね」
確かにここだけ聞いたら不思議なやつだ。
いや実際不思議なんだけど。
それでも俺はドラカがセレスの姉で、元王族だなんてにわかには信じられなかった。
ただ、あの王族嫌いはもしかしたら身分で迫害されて自分の母親が死んでしまったことへの逆恨みの可能性もある。
俺はますますあいつが分からなくなった。
悩んでいると、落ち着いたらしいセレスから今1番答えづらい質問が飛んで来た。
「……少し話は変わりますがロイズさま、どうしてオーナーさまがいることを隠していたんですの?」
「あ…それは……」
「返答によっては反逆罪にもなり得ますわ。きちんとお答えくださいまし」
こういう規律やルールを厳しく見ているところはちゃんと王女らしいな。
なんて考えている場合じゃない。
セレスがドラカを姉だと思っているのに正直に答えるのも申し訳ないが、俺も捕まりたくは無いしそのまま言おう。
「ド、ドラカが……王族が嫌いだから、関わりたくない。自分のことは話に出さないでくれと。そう言っていたんだ」
「………」
セレスは俺の言葉に驚いた顔はしたが何も言わない。
やっぱり姉だと思っている人間が王族嫌いなんて知りたくなかったよな。
「す、すまない」
「……なぜ謝るんですの?」
「それは………その…」
「……私は、お義姉さまとお義姉さまのお母さまには恨まれていても、嫌われていても仕方がないと思っていましたわ」
「……どうして?」
俺がそう聞くと、自嘲気味にセレスは笑う。
「私のお母さまとお義姉のお母さまは正妻ではありません。なのに片方だけが身分の違いというだけで隔離され、差別を受けましたわ。……これはあとから聞いたお話ですが、お2人とも使用人からひどい扱いを受けていたようなんですの。………王族嫌いも当然ですわね」
はぁ、と悲しげなため息をついた後、セレスは
「それでも……実際に聞くと悲しい気持ちになってしまいますわ…」と呟いた。
「……教えてくださってありがとうございますわ。疑いは一先ず晴らします」
「あ、ありがとう………じゃなくて、すまない」
良かったはずなのに、悲しそうなセレスを見たらありがとうなんて言ったらいけない気がした。
俺が謝ると、セレスはコホンと咳払いをひとつして席を立つ。
「何はともあれ、そもそもあの方の素性を知らねば何も解決しませんわ。引き続き姉の行方は探しますが、ロイズさまはどうか、あの方が私の姉と関係がないか聞いてくださいませんか?」
「え!? あぁ、まあそれはいいんだけど、多分まともに聞き出すのに時間はかかると思う」
「大丈夫ですわ。私もまたあの方に会えるまでこちらと冒険者ギルドに毎日通いますから」
「毎日!?」
先程とは違い気合いの入った瞳に変わったセレスは「そうと決まればまずは明日、また来ますわ」と言い放ち、入口に歩いていく。
「お、おいセレス! そんなに無理をしなくても……」
「無理ではありませんわ。やっと掴んだ手がかりですもの。逃す訳にはいきません」
笑顔でそう言うセレスを止める言葉が見当たらず、そのままドアを開けて「それではまた明日。ごきげんよう」と歩いて行くのを俺は見守った。
だがいつもとは違い、少しぎこちなく足取りは重そうだ。
強がっていはいるが、相当混乱しているに違いない。
セレスの姿が見えなくなるまで見送ったあと、俺は今日の夜の部を臨時休業ということにし、急いで冒険者教会へ向かう。
「教えてくださいまし、あの方は……あの方は一体どなたですの?」
セレスの様子がおかしい。
いつもの明るさはなく、涙声を隠すこともなく前のめりになって聞いてくる。
最初はドラカに会って怯えているのかと思ったが、どうやら違うらしい。
「あ、あいつはドラカって名前で、その……言ってなかったけど俺の店のオーナーなんだ。へ、変な話かもしれないけど素性とか、そういうのは分からない」
「ドラカ……」
軽く説明をすると、セレスは力が抜けたようにストンと椅子に座る。
「だ、大丈夫か?」
「………えぇ……取り乱してしまい申し訳ありませんわ……」
そうは言いつつもまだ放心状態のセレスに、俺は温かいお茶を出す。
セレスは力なく微笑み、俺にぺこりと軽く頭を下げる。
「………ありがとう……ございますわ」
その後、お茶を飲んで少しだけ顔色も良くなったセレスと俺は話をした。
「……その、何があったのかは分からないが、ドラカとは会ったことがあるのか?」
「……いえ、ありませんわ……………ただ、えぇと、以前私が冒険者を始めた理由についてのお話をしたことは覚えていらっしゃいますか?」
「ああ、確か行方不明の姉さんを探しているんだったよな」
「その通りですわ。……………先程ドラカさま、という女性を見た時、記憶の中のお義姉さまとは容姿も雰囲気も全く違っていたのですが、なぜだかとても懐かしい気持ちになったのです」
「懐かしい?」
俺がそう問いかけると、セレスはまた悲しそうな顔で頷いた。
「……一目見てすぐに、あの方は私の姉、ドラメリアお義姉さまだと、そう確信してしまうほどに懐かしく感じました。その、何がとは具体的には言えないのですが……」
「…そうか」
「ロイズさま、あの方とはどこでお知り合いになったのですか?」
「ああ、俺が王都にきてすぐにスリに狙われそうになったところを助けてもらったんだ」
「そうなのですね……今どこにいるのかご存知ですか?」
「それは分からない。本当にあいつは自分の素性を明かさないんだ。知っていることといえば、酒がとても好きなこととSランクの冒険者だということ、あとはやたら顔が広くて金も土地も持ってることくらいかな」
「それは……とても不思議な方ですのね」
確かにここだけ聞いたら不思議なやつだ。
いや実際不思議なんだけど。
それでも俺はドラカがセレスの姉で、元王族だなんてにわかには信じられなかった。
ただ、あの王族嫌いはもしかしたら身分で迫害されて自分の母親が死んでしまったことへの逆恨みの可能性もある。
俺はますますあいつが分からなくなった。
悩んでいると、落ち着いたらしいセレスから今1番答えづらい質問が飛んで来た。
「……少し話は変わりますがロイズさま、どうしてオーナーさまがいることを隠していたんですの?」
「あ…それは……」
「返答によっては反逆罪にもなり得ますわ。きちんとお答えくださいまし」
こういう規律やルールを厳しく見ているところはちゃんと王女らしいな。
なんて考えている場合じゃない。
セレスがドラカを姉だと思っているのに正直に答えるのも申し訳ないが、俺も捕まりたくは無いしそのまま言おう。
「ド、ドラカが……王族が嫌いだから、関わりたくない。自分のことは話に出さないでくれと。そう言っていたんだ」
「………」
セレスは俺の言葉に驚いた顔はしたが何も言わない。
やっぱり姉だと思っている人間が王族嫌いなんて知りたくなかったよな。
「す、すまない」
「……なぜ謝るんですの?」
「それは………その…」
「……私は、お義姉さまとお義姉さまのお母さまには恨まれていても、嫌われていても仕方がないと思っていましたわ」
「……どうして?」
俺がそう聞くと、自嘲気味にセレスは笑う。
「私のお母さまとお義姉のお母さまは正妻ではありません。なのに片方だけが身分の違いというだけで隔離され、差別を受けましたわ。……これはあとから聞いたお話ですが、お2人とも使用人からひどい扱いを受けていたようなんですの。………王族嫌いも当然ですわね」
はぁ、と悲しげなため息をついた後、セレスは
「それでも……実際に聞くと悲しい気持ちになってしまいますわ…」と呟いた。
「……教えてくださってありがとうございますわ。疑いは一先ず晴らします」
「あ、ありがとう………じゃなくて、すまない」
良かったはずなのに、悲しそうなセレスを見たらありがとうなんて言ったらいけない気がした。
俺が謝ると、セレスはコホンと咳払いをひとつして席を立つ。
「何はともあれ、そもそもあの方の素性を知らねば何も解決しませんわ。引き続き姉の行方は探しますが、ロイズさまはどうか、あの方が私の姉と関係がないか聞いてくださいませんか?」
「え!? あぁ、まあそれはいいんだけど、多分まともに聞き出すのに時間はかかると思う」
「大丈夫ですわ。私もまたあの方に会えるまでこちらと冒険者ギルドに毎日通いますから」
「毎日!?」
先程とは違い気合いの入った瞳に変わったセレスは「そうと決まればまずは明日、また来ますわ」と言い放ち、入口に歩いていく。
「お、おいセレス! そんなに無理をしなくても……」
「無理ではありませんわ。やっと掴んだ手がかりですもの。逃す訳にはいきません」
笑顔でそう言うセレスを止める言葉が見当たらず、そのままドアを開けて「それではまた明日。ごきげんよう」と歩いて行くのを俺は見守った。
だがいつもとは違い、少しぎこちなく足取りは重そうだ。
強がっていはいるが、相当混乱しているに違いない。
セレスの姿が見えなくなるまで見送ったあと、俺は今日の夜の部を臨時休業ということにし、急いで冒険者教会へ向かう。
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