25 / 30
店をオープンしよう
4-7 ビラ配りの成果
しおりを挟む
翌朝、目が覚めた俺はのそのそと着替え、1階の店に向かう。
あのあとビラ配りはどうなっただろうか。
さすがに今日は数人だけでもいいからお客さんが来て欲しい。
そう願ってキッチンで仕込みをしていると、店の方でドアが開いた音がした。
お客さんか? まだオープンまで30分くらいはあるが。
「すまない。開くのは9時からなんだ」
キッチンの入り口から顔を覗かせながら言うが、入口付近に誰の姿も見当たらない。
不思議に思ってフロアに出てみる。
見回すと、窓際の席に座って酒を煽るドラカの姿があった。
こいつ、さては裏口から侵入したな。
俺はそっと後ろに立ち、ドラカの酒を奪う。
珍しく素直に奪わせてくれた。
「何しに来た酔っ払い」
「おやぁ~? けけ、その冷めた目をやめておくれよぉ。あんたにいい情報を持ってきたんだからさぁ」
「いい情報?」
俺が聞き返すと、ドラカは窓の外を指さす。
「えぇ!?」
そこには入口から伸びる長蛇の列があった。
老若男女問わず、色んな人々が俺の店の前に来ている。
「な、な、え……?」
驚きすぎて言葉が出ない。
何が起こっているんだ。
「けけ、来てみたらこんな状態でびっくりさ。あたしが教えなきゃあんた、魂でも抜けてたんじゃぁないか?」
「………え」
「おや驚きすぎて人間の言葉も忘れたのかい。けけ、幼児に戻る暇なんてないよぉ。働きなぁ」
「いでででで」
ドラカに頬を引っ張られて飛びかけていた意識が現実に戻る。
そうだ。
こうしちゃいられない。
すぐに仕込みを終わらせて準備しないと。
俺は大慌てでキッチンに戻る。
「さっき臨時のお手伝いさんも呼んだからさぁ、あんたは今日料理だけに専念しなぁ」
「え、い、いいのか?」
「こんな状態ならま、仕方ないかねぇ」
やれやれと肩をすくめるドラカだが、お手伝いさんとは一体誰だろう。
ジョニトのような強面は出来れば遠慮して欲しい。
お客さんが怯えないような普通の従業員を求めたい。
「けけ、安心しなぁ。もっとこういうのが上手いやつを呼んだのさ」
また心を読んだかのように答えてくれる。
接客ができる人間なら俺はなんでもいい。
「開店10分前だよぉ。準備はどうだい?」
「もうすぐだ!」
「けけ、おや、来たね」
ドアを開ける音がした。
どうやらお手伝いさんが来たらしい。
ただ、本当に申し訳ないが今は挨拶をしている暇は無い。
「簡単に紹介するから手ェ動かしながら聞きなぁ。あんたも会ったことがあるだろう? 宿にいた執事、名前はゼフトさ」
「あれから顔を合わせることはございませんでしたが、微力ながらお手伝いをさせていただきますので、本日はどうぞよろしくお願いいたします」
「えぇ! あの合言葉の……」
横目で見ただけだがドラカと知り合った日、宿で出迎えてくれた人間の1人だ。
あの時は警備兵だとばかり思っていたが、執事だったのか。
向こうは分からないだろうが、俺が宿に出入りしている時いつもいるので顔を覚えている。
「よ、よろしくお願いします」
俺はギリギリで仕込みを終わらせた。
ゼフトさんにオーダーの取り方と簡単な流れを説明し、ちょうど9時ぴったり。
ドラカはその前に「そんじゃ、頑張りなぁ」と残してそそくさと消えた。
「さぁ、開けますよ!」
ゼフトさんが店のドアを開ける。
上手く回せるか分からない。
楽しんでもらえるか、美味しいと言ってもらえるかも分からない。
少し怖くて、楽しみだった『お客さん』が次々と店内に足を踏み入れる。
「い、いらっしゃいませ!」
ぎこちなく挨拶をする俺とは違い、ゼフトさんはエスコートするようにお客さんを席に案内していく。
そしてオーダー取りまでスピーディだ。
「ロイズさま、1番テーブルはチグリ苦手女性看護職1名、好き嫌いなし女性薬師1名です。希望は回復」
「は、はい!」
言われたテーブルを見る。
今のような好き嫌いを聞いた場合は俺のおまかせメニューだ。
キッチンの窓から全ての席が見えるような仕様になっていて、貰った情報とその顔色で作るメニューを決める。
なるほど。あの顔色ならこれか。
俺は手早く料理を開始する。
その間にもどんどんオーダーが来るため、混ざらないよう慎重にオーダー表にメモを残して作り続けた。
「ゼフトさん1番テーブル、左の料理が看護職女性! 材料はこのメモで!」
「かしこまりました」
殴り書きのようなメモで申し訳ないが、即座に対応してくれる。
本来は俺一人で回すのを想定していたので、今日だけは混乱するのは許して欲しい。
どんどん料理を作っていく。
メニュー希望、おまかせ希望、あとはあれから俺が考えた日替わりメニュー。
どれもとても人気で嬉しくなってしまう。
まぁ珍しいからか、その中でも圧倒的におまかせ希望が多いのだが。
お会計や退店の際にはキッチンに向かって「美味しかった」と言ってくれる人がいた。
作っている最中に料理のことで盛り上がる声も聞こえた。
「ぷるっとした見た目なのにこんなにゴリゴリした食感で、他のメニューの滑らかさといいバランス!」
「こっちは逆に形がしっかりしているのにさらさらした口触りでしかもほんのり甘苦い!」
喜びの声が直に聞こえるのがたまらなく嬉しい。
最初はおまかせなんて嫌だったけれど、やってみると悪くないもんだな。
そんなことを考えひたすら料理を作っていくと、いつの間にか店内には1組しか残っていなかった。
あのあとビラ配りはどうなっただろうか。
さすがに今日は数人だけでもいいからお客さんが来て欲しい。
そう願ってキッチンで仕込みをしていると、店の方でドアが開いた音がした。
お客さんか? まだオープンまで30分くらいはあるが。
「すまない。開くのは9時からなんだ」
キッチンの入り口から顔を覗かせながら言うが、入口付近に誰の姿も見当たらない。
不思議に思ってフロアに出てみる。
見回すと、窓際の席に座って酒を煽るドラカの姿があった。
こいつ、さては裏口から侵入したな。
俺はそっと後ろに立ち、ドラカの酒を奪う。
珍しく素直に奪わせてくれた。
「何しに来た酔っ払い」
「おやぁ~? けけ、その冷めた目をやめておくれよぉ。あんたにいい情報を持ってきたんだからさぁ」
「いい情報?」
俺が聞き返すと、ドラカは窓の外を指さす。
「えぇ!?」
そこには入口から伸びる長蛇の列があった。
老若男女問わず、色んな人々が俺の店の前に来ている。
「な、な、え……?」
驚きすぎて言葉が出ない。
何が起こっているんだ。
「けけ、来てみたらこんな状態でびっくりさ。あたしが教えなきゃあんた、魂でも抜けてたんじゃぁないか?」
「………え」
「おや驚きすぎて人間の言葉も忘れたのかい。けけ、幼児に戻る暇なんてないよぉ。働きなぁ」
「いでででで」
ドラカに頬を引っ張られて飛びかけていた意識が現実に戻る。
そうだ。
こうしちゃいられない。
すぐに仕込みを終わらせて準備しないと。
俺は大慌てでキッチンに戻る。
「さっき臨時のお手伝いさんも呼んだからさぁ、あんたは今日料理だけに専念しなぁ」
「え、い、いいのか?」
「こんな状態ならま、仕方ないかねぇ」
やれやれと肩をすくめるドラカだが、お手伝いさんとは一体誰だろう。
ジョニトのような強面は出来れば遠慮して欲しい。
お客さんが怯えないような普通の従業員を求めたい。
「けけ、安心しなぁ。もっとこういうのが上手いやつを呼んだのさ」
また心を読んだかのように答えてくれる。
接客ができる人間なら俺はなんでもいい。
「開店10分前だよぉ。準備はどうだい?」
「もうすぐだ!」
「けけ、おや、来たね」
ドアを開ける音がした。
どうやらお手伝いさんが来たらしい。
ただ、本当に申し訳ないが今は挨拶をしている暇は無い。
「簡単に紹介するから手ェ動かしながら聞きなぁ。あんたも会ったことがあるだろう? 宿にいた執事、名前はゼフトさ」
「あれから顔を合わせることはございませんでしたが、微力ながらお手伝いをさせていただきますので、本日はどうぞよろしくお願いいたします」
「えぇ! あの合言葉の……」
横目で見ただけだがドラカと知り合った日、宿で出迎えてくれた人間の1人だ。
あの時は警備兵だとばかり思っていたが、執事だったのか。
向こうは分からないだろうが、俺が宿に出入りしている時いつもいるので顔を覚えている。
「よ、よろしくお願いします」
俺はギリギリで仕込みを終わらせた。
ゼフトさんにオーダーの取り方と簡単な流れを説明し、ちょうど9時ぴったり。
ドラカはその前に「そんじゃ、頑張りなぁ」と残してそそくさと消えた。
「さぁ、開けますよ!」
ゼフトさんが店のドアを開ける。
上手く回せるか分からない。
楽しんでもらえるか、美味しいと言ってもらえるかも分からない。
少し怖くて、楽しみだった『お客さん』が次々と店内に足を踏み入れる。
「い、いらっしゃいませ!」
ぎこちなく挨拶をする俺とは違い、ゼフトさんはエスコートするようにお客さんを席に案内していく。
そしてオーダー取りまでスピーディだ。
「ロイズさま、1番テーブルはチグリ苦手女性看護職1名、好き嫌いなし女性薬師1名です。希望は回復」
「は、はい!」
言われたテーブルを見る。
今のような好き嫌いを聞いた場合は俺のおまかせメニューだ。
キッチンの窓から全ての席が見えるような仕様になっていて、貰った情報とその顔色で作るメニューを決める。
なるほど。あの顔色ならこれか。
俺は手早く料理を開始する。
その間にもどんどんオーダーが来るため、混ざらないよう慎重にオーダー表にメモを残して作り続けた。
「ゼフトさん1番テーブル、左の料理が看護職女性! 材料はこのメモで!」
「かしこまりました」
殴り書きのようなメモで申し訳ないが、即座に対応してくれる。
本来は俺一人で回すのを想定していたので、今日だけは混乱するのは許して欲しい。
どんどん料理を作っていく。
メニュー希望、おまかせ希望、あとはあれから俺が考えた日替わりメニュー。
どれもとても人気で嬉しくなってしまう。
まぁ珍しいからか、その中でも圧倒的におまかせ希望が多いのだが。
お会計や退店の際にはキッチンに向かって「美味しかった」と言ってくれる人がいた。
作っている最中に料理のことで盛り上がる声も聞こえた。
「ぷるっとした見た目なのにこんなにゴリゴリした食感で、他のメニューの滑らかさといいバランス!」
「こっちは逆に形がしっかりしているのにさらさらした口触りでしかもほんのり甘苦い!」
喜びの声が直に聞こえるのがたまらなく嬉しい。
最初はおまかせなんて嫌だったけれど、やってみると悪くないもんだな。
そんなことを考えひたすら料理を作っていくと、いつの間にか店内には1組しか残っていなかった。
0
お気に入りに追加
705
あなたにおすすめの小説
死んだと思ったら異世界に
トワイライト
ファンタジー
18歳の時、世界初のVRMMOゲーム『ユグドラシルオンライン』を始めた事がきっかけで二つの世界を救った主人公、五十嵐祐也は一緒にゲームをプレイした仲間達と幸せな日々を過ごし…そして死んだ。
祐也は家族や親戚に看取られ、走馬灯の様に流れる人生を振り替える。
だが、死んだはず祐也は草原で目を覚ました。
そして自分の姿を確認するとソコにはユグドラシルオンラインでの装備をつけている自分の姿があった。
その後、なんと体は若返り、ゲーム時代のステータス、装備、アイテム等を引き継いだ状態で異世界に来たことが判明する。
20年間プレイし続けたゲームのステータスや道具などを持った状態で異世界に来てしまった祐也は異世界で何をするのか。
「取り敢えず、この世界を楽しもうか」
この作品は自分が以前に書いたユグドラシルオンラインの続編です。
スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?
山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。
2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。
異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。
唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。
【完結】異世界で小料理屋さんを自由気ままに営業する〜おっかなびっくり魔物ジビエ料理の数々〜
櫛田こころ
ファンタジー
料理人の人生を絶たれた。
和食料理人である女性の秋吉宏香(あきよしひろか)は、ひき逃げ事故に遭ったのだ。
命には関わらなかったが、生き甲斐となっていた料理人にとって大事な利き腕の神経が切れてしまい、不随までの重傷を負う。
さすがに勤め先を続けるわけにもいかず、辞めて公園で途方に暮れていると……女神に請われ、異世界転移をすることに。
腕の障害をリセットされたため、新たな料理人としての人生をスタートさせようとした時に、尾が二又に別れた猫が……ジビエに似た魔物を狩っていたところに遭遇。
料理人としての再スタートの機会を得た女性と、猟りの腕前はプロ級の猫又ぽい魔物との飯テロスローライフが始まる!!
おっかなびっくり料理の小料理屋さんの料理を召し上がれ?
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
勇者に恋人寝取られ、悪評付きでパーティーを追放された俺、燃えた実家の道具屋を世界一にして勇者共を見下す
大小判
ファンタジー
平民同然の男爵家嫡子にして魔道具職人のローランは、旅に不慣れな勇者と四人の聖女を支えるべく勇者パーティーに加入するが、いけ好かない勇者アレンに義妹である治癒の聖女は心を奪われ、恋人であり、魔術の聖女である幼馴染を寝取られてしまう。
その上、何の非もなくパーティーに貢献していたローランを追放するために、勇者たちによって役立たずで勇者の恋人を寝取る最低男の悪評を世間に流されてしまった。
地元以外の冒険者ギルドからの信頼を失い、怒りと失望、悲しみで頭の整理が追い付かず、抜け殻状態で帰郷した彼に更なる追い打ちとして、将来継ぐはずだった実家の道具屋が、爵位証明書と両親もろとも炎上。
失意のどん底に立たされたローランだったが、 両親の葬式の日に義妹と幼馴染が王都で呑気に勇者との結婚披露宴パレードなるものを開催していたと知って怒りが爆発。
「勇者パーティ―全員、俺に泣いて土下座するくらい成り上がってやる!!」
そんな決意を固めてから一年ちょっと。成人を迎えた日に希少な鉱物や植物が無限に湧き出る不思議な土地の権利書と、現在の魔道具製造技術を根底から覆す神秘の合成釜が父の遺産としてローランに継承されることとなる。
この二つを使って世界一の道具屋になってやると意気込むローラン。しかし、彼の自分自身も自覚していなかった能力と父の遺産は世界各地で目を付けられ、勇者に大国、魔王に女神と、ローランを引き込んだり排除したりする動きに巻き込まれる羽目に
これは世界一の道具屋を目指す青年が、爽快な生産チートで主に勇者とか聖女とかを嘲笑いながら邪魔する者を薙ぎ払い、栄光を掴む痛快な物語。
神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~
雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。
何者でもない僕は異世界で冒険者をはじめる
月風レイ
ファンタジー
あらゆることを人より器用にこなす事ができても、何の長所にもなくただ日々を過ごす自分。
周りの友人は世界を羽ばたくスターになるのにも関わらず、自分はただのサラリーマン。
そんな平凡で退屈な日々に、革命が起こる。
それは突如現れた一枚の手紙だった。
その手紙の内容には、『異世界に行きますか?』と書かれていた。
どうせ、誰かの悪ふざけだろうと思い、適当に異世界にでもいけたら良いもんだよと、考えたところ。
突如、異世界の大草原に召喚される。
元の世界にも戻れ、無限の魔力と絶対不死身な体を手に入れた冒険が今始まる。
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる