元勇者パーティの料理人〜追放されたけど料理スキルがカンストしている俺は王都1を目指して料理店始めます〜

月乃始

文字の大きさ
上 下
24 / 30
店をオープンしよう

4-6 とんでもないミス

しおりを挟む

 また暇な時間がやってきたと思い椅子に腰掛けると、勢いよくドアが開いた。


「な、なんだ!?」

「よぉ~!」


 ドタドタと上機嫌なドラカが入ってくる。


「ドラカ! 壊れるからドアは優しく開けろ」

「悪いねぇ、力の加減って難しいんだよぉ」


 店内をキョロキョロと見回す。


「……なんだよ」

「おやおや、だぁれも来てないじゃないか」

「………うるさい」

「けけけ、本気で落ち込んでるねぇ」


 このからかいに付き合う元気はない。
 素っ気なく接するが、ドラカはにやにやと俺の顔をのぞき込んでくる。


「………なんだよ」

「いーや? た、だ、今日めでたくオープンしたアルバス。話題性も立地もとてもいい! なのに人が来ない。あんなに宣伝して準備も頑張ったのになぁんでかなぁ。というあんたの悩みを解決しにきたのさぁ」


 芝居がかったような仕草と抑揚で丁寧に説明してくれる。

 疲れてるんだ。
 俺はそう言って適当にあしらう。

 ドラカの1番嫌なところは何でもお見通しなのに自分のことは一切語らない点だ。
 フェアじゃない。

 俺の素っ気ない態度には何も言わず、更にドラカは続ける。


「王族サマが帰ってから1人もきてないだろう?」

「………ああ」

「そうだよねぇそうだよねぇ」

「なんだよ、早く内容を言え」

「おや、やっと聞く気になったのかい?」


 ドラカはしてやったりといった顔で俺を見る。
 くそ、ここで挑発に乗ったらまたぶっ飛ばされる。
 俺はムカつきを抑えるために深呼吸した。


「……聞いてやるから早く教えろ」

「けけ、そんじゃ教えてやるよぉ。あんた店のビラ、ちゃんと見たかい?」

「ああ、そりゃもう何度も」

「じゃあこりゃなんだい?」


 ドラカは俺とルシアさんが作って配り歩いたビラを見せながら、ある箇所を指さした。


「なんだいって……」


 そこは店の場所を記載しているところのはずだ。
 しかし、よく見ると空欄になっている。


「切り取ったのか?」

「いーや? あたしの知り合いが持ってたんで見せてもらったらこれさぁ」

「は?」


 理解が追いつかない。
 もしかして、考えたくは無いが俺たちはとんでもないミスをやらかしていたのか?


「だ、か、らぁ。あんたたち、肝心の店の場所んだよねぇ」


 俺は数秒動けなくなり、理解した途端その場に膝から崩れ落ちた。


 店の場所を、書いていない?

 疲れすぎてそんな初歩的なミスをするなんて……

 そうだったのか。
 場所が分からないなら配っても誰も来れないはずだ。

 あれ? でも……


「じ、じゃああの下見に来ていた人達は一体なんだ? 店の場所を知っているからじゃ……」

「急に建物ができたら興味本位で近くの住民は見るだろうねぇ。外装を見ただけじゃあ料理店だなんて分かりゃしないし、下見じゃなかったってことさ。けけ」


 更に心にダメージを負う。
 つまり俺たちが夜なべして作ったビラも配り歩いた数日間も無駄だったということだ。

 ルシアさんに申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
 謝りに行かないと。


「あ、安心しなぁ。ここに来る前にルシアちゃんにも伝えてきたよぉ。案の定、固まって危うく灰になりそうだったねぇ」


 この悪魔女。最低だ。
 俺はキッとドラカを睨む。


「おっとぉ、間違えたのも客が来ていないのも、あたしのせいじゃないだろう?」

「くっ………」


 その通りだ。
 今ここでドラカに怒ったらただの八つ当たりになってしまう。

 ただしこの人を常にからかう態度に対しては怒ってもいい気もする。

 俺はため息をつくとキッチンの横にあるドアを開ける。
 実はここを開けると階段になっており、上は俺の生活スペースになっている。
 ベッドと簡単な作業スペースならあるのだ。

 ドラカからの「宿を使ってもいいがここで寝泊まりできた方が楽だろう?」という気遣いだ。

 階段を上ると、下からドラカが追いかけてくる。


「どうしたんだい。けけ、ふて寝でもするのかい?」

「するわけないだろ、新しくビラを作るんだよ」

「ほぉ、また時間が相当かかっちまうけどいいのかい?」


 俺は机に座り、大量に置いてある山積みのビラを1枚手に取る。
 マジックペンを取り出し、ドラカに向かって笑う。


「誰が1から作るなんて言ったんだ?」


 ドラカは一瞬驚いた顔をした後、俺の意図に気付いたらしくすぐにニヤリと笑った。


「けけけ、いいねぇ。仕方ないからこのあたしが手伝ってやるよぉ」


 ドラカも俺の向かいに座り、ビラを手に取る。

 2人で黙々と作業をし、夜が更けてもなお続けた。


 そうして完成した新しいビラを持って、一睡もしないまま俺は街に出た。

 いつの間にか朝になっていた時、ドラカは眠そうな顔で「あたしは帰るよぉ。助っ人呼んであげたから、頑張りなぁ」とどこかへ行った。

 助っ人とやらは広場で待っているらしい。


「おーい! 兄ちゃん! こっちだこっち!」

「ジョニト!」


 俺が広場に着いて早々に、あの強面……大工集団の1人、ジョニトに呼ばれた。


「助っ人はジョニトだったのか。わざわざすまない」

「いいさ。また兄ちゃんの美味い飯が食えるならな!」


 豪快に笑うジョニトにビラを半分渡すと、ちらほら増えてきた人通りにずんずんと歩いていき、ビラをほぼ恐喝のような形で配っていく。

 だ、大丈夫なのかあれ……。

 貰った人は怯えながら駆け足で逃げていく。
 ドラカの人選はどうなっているんだ。


「俺も配らないと」


 俺は新ビラを街ゆく人に渡していく。

 ビラを見て眉をしかめる人が多いが、笑ってくれる人も多い。


「あっはっは、豪快なビラだな!」
「なにこれ? 住所?」


 そう、俺たちがしたのはインパクト重視にするために前のビラをまんま使い、上に大きく店の住所を記載しただけだ。

 配られた人は後になってよく見たら気付くだろう。

 だからこそ敢えて料理人による料理店がオープンしたことを口頭で伝えながら渡していく。


「ロイズ料理人による新しい料理店、オープンしましたー」


 正直精神的にも肉体的にも限界が来ているが、それでもフラフラになりながら俺は手に持っていた分を配り終えた。

 あとはジョニトと、途中から手伝いに来てくれた残りの強面集団に任せて、俺は帰宅する。

 ちなみにあまりに怯えられすぎて話にならなかったのでジョニトたちには可愛らしいお面を被せてみた。
 かなり面白かったことは秘密だ。

 店に戻り、何度か階段を転げ落ちそうになりながらも部屋に着く。


「また……明日……がんば……」


 今日は店休日にしている。

 明日再スタートできることを願って、俺はばたりとベッドに倒れ込んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

アラサー独身の俺が義妹を預かることになった件~俺と義妹が本当の家族になるまで~

おとら@ 書籍発売中
ライト文芸
ある日、小さいながらも飲食店を経営する俺に連絡が入る。 従兄弟であり、俺の育ての親でもある兄貴から、転勤するから二人の娘を預かってくれと。 これは一度家族になることから逃げ出した男が、義妹と過ごしていくうちに、再び家族になるまでの軌跡である。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

【完】BLゲームに転生した俺、クリアすれば転生し直せると言われたので、バッドエンドを目指します! 〜女神の嗜好でBLルートなんてまっぴらだ〜

とかげになりたい僕
ファンタジー
 不慮の事故で死んだ俺は、女神の力によって転生することになった。 「どんな感じで転生しますか?」 「モテモテな人生を送りたい! あとイケメンになりたい!」  そうして俺が転生したのは――  え、ここBLゲームの世界やん!?  タチがタチじゃなくてネコはネコじゃない!? オネェ担任にヤンキー保健医、双子の兄弟と巨人後輩。俺は男にモテたくない!  女神から「クリアすればもう一度転生出来ますよ」という暴言にも近い助言を信じ、俺は誰とも結ばれないバッドエンドをクリアしてみせる! 俺の操は誰にも奪わせはしない!  このお話は小説家になろうでも掲載しています。

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

自分が作ったSSSランクパーティから追放されたおっさんは、自分の幸せを求めて彷徨い歩く。〜十数年酷使した体は最強になっていたようです〜

ねっとり
ファンタジー
世界一強いと言われているSSSランクの冒険者パーティ。 その一員であるケイド。 スーパーサブとしてずっと同行していたが、パーティメンバーからはただのパシリとして使われていた。 戦闘は役立たず。荷物持ちにしかならないお荷物だと。 それでも彼はこのパーティでやって来ていた。 彼がスカウトしたメンバーと一緒に冒険をしたかったからだ。 ある日仲間のミスをケイドのせいにされ、そのままパーティを追い出される。 途方にくれ、なんの目的も持たずにふらふらする日々。 だが、彼自身が気付いていない能力があった。 ずっと荷物持ちやパシリをして来たケイドは、筋力も敏捷も凄まじく成長していた。 その事実をとあるきっかけで知り、喜んだ。 自分は戦闘もできる。 もう荷物持ちだけではないのだと。 見捨てられたパーティがどうなろうと知ったこっちゃない。 むしろもう自分を卑下する必要もない。 我慢しなくていいのだ。 ケイドは自分の幸せを探すために旅へと出る。 ※小説家になろう様でも連載中

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

処理中です...