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店をオープンしよう
4-6 とんでもないミス
しおりを挟むまた暇な時間がやってきたと思い椅子に腰掛けると、勢いよくドアが開いた。
「な、なんだ!?」
「よぉ~!」
ドタドタと上機嫌なドラカが入ってくる。
「ドラカ! 壊れるからドアは優しく開けろ」
「悪いねぇ、力の加減って難しいんだよぉ」
店内をキョロキョロと見回す。
「……なんだよ」
「おやおや、だぁれも来てないじゃないか」
「………うるさい」
「けけけ、本気で落ち込んでるねぇ」
このからかいに付き合う元気はない。
素っ気なく接するが、ドラカはにやにやと俺の顔をのぞき込んでくる。
「………なんだよ」
「いーや? た、だ、今日めでたくオープンしたアルバス。話題性も立地もとてもいい! なのに人が来ない。あんなに宣伝して準備も頑張ったのになぁんでかなぁ。というあんたの悩みを解決しにきたのさぁ」
芝居がかったような仕草と抑揚で丁寧に説明してくれる。
疲れてるんだ。
俺はそう言って適当にあしらう。
ドラカの1番嫌なところは何でもお見通しなのに自分のことは一切語らない点だ。
フェアじゃない。
俺の素っ気ない態度には何も言わず、更にドラカは続ける。
「王族サマが帰ってから1人もきてないだろう?」
「………ああ」
「そうだよねぇそうだよねぇ」
「なんだよ、早く内容を言え」
「おや、やっと聞く気になったのかい?」
ドラカはしてやったりといった顔で俺を見る。
くそ、ここで挑発に乗ったらまたぶっ飛ばされる。
俺はムカつきを抑えるために深呼吸した。
「……聞いてやるから早く教えろ」
「けけ、そんじゃ教えてやるよぉ。あんた店のビラ、ちゃんと見たかい?」
「ああ、そりゃもう何度も」
「じゃあこりゃなんだい?」
ドラカは俺とルシアさんが作って配り歩いたビラを見せながら、ある箇所を指さした。
「なんだいって……」
そこは店の場所を記載しているところのはずだ。
しかし、よく見ると空欄になっている。
「切り取ったのか?」
「いーや? あたしの知り合いが持ってたんで見せてもらったらこれさぁ」
「は?」
理解が追いつかない。
もしかして、考えたくは無いが俺たちはとんでもないミスをやらかしていたのか?
「だ、か、らぁ。あんたたち、肝心の店の場所書いてないんだよねぇ」
俺は数秒動けなくなり、理解した途端その場に膝から崩れ落ちた。
店の場所を、書いていない?
疲れすぎてそんな初歩的なミスをするなんて……
そうだったのか。
場所が分からないなら配っても誰も来れないはずだ。
あれ? でも……
「じ、じゃああの下見に来ていた人達は一体なんだ? 店の場所を知っているからじゃ……」
「急に建物ができたら興味本位で近くの住民は見るだろうねぇ。外装を見ただけじゃあ料理店だなんて分かりゃしないし、下見じゃなかったってことさ。けけ」
更に心にダメージを負う。
つまり俺たちが夜なべして作ったビラも配り歩いた数日間も無駄だったということだ。
ルシアさんに申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
謝りに行かないと。
「あ、安心しなぁ。ここに来る前にルシアちゃんにも伝えてきたよぉ。案の定、固まって危うく灰になりそうだったねぇ」
この悪魔女。最低だ。
俺はキッとドラカを睨む。
「おっとぉ、間違えたのも客が来ていないのも、あたしのせいじゃないだろう?」
「くっ………」
その通りだ。
今ここでドラカに怒ったらただの八つ当たりになってしまう。
ただしこの人を常にからかう態度に対しては怒ってもいい気もする。
俺はため息をつくとキッチンの横にあるドアを開ける。
実はここを開けると階段になっており、上は俺の生活スペースになっている。
ベッドと簡単な作業スペースならあるのだ。
ドラカからの「宿を使ってもいいがここで寝泊まりできた方が楽だろう?」という気遣いだ。
階段を上ると、下からドラカが追いかけてくる。
「どうしたんだい。けけ、ふて寝でもするのかい?」
「するわけないだろ、新しくビラを作るんだよ」
「ほぉ、また時間が相当かかっちまうけどいいのかい?」
俺は机に座り、大量に置いてある山積みのビラを1枚手に取る。
マジックペンを取り出し、ドラカに向かって笑う。
「誰が1から作るなんて言ったんだ?」
ドラカは一瞬驚いた顔をした後、俺の意図に気付いたらしくすぐにニヤリと笑った。
「けけけ、いいねぇ。仕方ないからこのあたしが手伝ってやるよぉ」
ドラカも俺の向かいに座り、ビラを手に取る。
2人で黙々と作業をし、夜が更けてもなお続けた。
そうして完成した新しいビラを持って、一睡もしないまま俺は街に出た。
いつの間にか朝になっていた時、ドラカは眠そうな顔で「あたしは帰るよぉ。助っ人呼んであげたから、頑張りなぁ」とどこかへ行った。
助っ人とやらは広場で待っているらしい。
「おーい! 兄ちゃん! こっちだこっち!」
「ジョニト!」
俺が広場に着いて早々に、あの強面……大工集団の1人、ジョニトに呼ばれた。
「助っ人はジョニトだったのか。わざわざすまない」
「いいさ。また兄ちゃんの美味い飯が食えるならな!」
豪快に笑うジョニトにビラを半分渡すと、ちらほら増えてきた人通りにずんずんと歩いていき、ビラをほぼ恐喝のような形で配っていく。
だ、大丈夫なのかあれ……。
貰った人は怯えながら駆け足で逃げていく。
ドラカの人選はどうなっているんだ。
「俺も配らないと」
俺は新ビラを街ゆく人に渡していく。
ビラを見て眉をしかめる人が多いが、笑ってくれる人も多い。
「あっはっは、豪快なビラだな!」
「なにこれ? 住所?」
そう、俺たちがしたのはインパクト重視にするために前のビラをまんま使い、上に大きく店の住所を記載しただけだ。
配られた人は後になってよく見たら気付くだろう。
だからこそ敢えて料理人による料理店がオープンしたことを口頭で伝えながら渡していく。
「ロイズ料理人による新しい料理店、オープンしましたー」
正直精神的にも肉体的にも限界が来ているが、それでもフラフラになりながら俺は手に持っていた分を配り終えた。
あとはジョニトと、途中から手伝いに来てくれた残りの強面集団に任せて、俺は帰宅する。
ちなみにあまりに怯えられすぎて話にならなかったのでジョニトたちには可愛らしいお面を被せてみた。
かなり面白かったことは秘密だ。
店に戻り、何度か階段を転げ落ちそうになりながらも部屋に着く。
「また……明日……がんば……」
今日は店休日にしている。
明日再スタートできることを願って、俺はばたりとベッドに倒れ込んだ。
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