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4-5 冒険者になった理由
しおりを挟む「で、なんで冒険者をしているのか教えてくれるか? ヒストリア王女さま」
俺がじっとセレスを見つめると、セレスはぷいと顔を背けた。
「……セレスとお呼びくださいまし」
「分かったよ、セレス。ところで冒険者なんて王族は反対していないのか?」
「それは……大丈夫ですわ」
セレスは俺をちらりと見てから、ぽつりぽつりと話し始めた。
「……私は、今でこそ第3王女という肩書きをもってはいますが、元は妾の子でしたから公にはされていなかったのです。お母さまが早くに亡くなってしまい、私は存在することすら危うい状況でした」
そうだったのか。
国の内部事情は全く分からないが、親の問題に巻き込まれるのは単純に可哀想だ。
「ですが帝国との争いが始まる1年前、国王は自らの娘たちを勢力拡大のため他国へ嫁がせることにしたのです。もちろん私も例外ではなく、第3王女という地位を与えられました。その時初めてようやく存在が許されたのです」
本当に最近の話じゃないか。
それまで一体どんな気持ちで過ごしてきたのだろう。
「私には3人の姉と、兄が1人、弟が1人います。兄は時期国王としてお稽古と勉学に励んでいて、第1王女、第2王女のお姉さま方は結婚のため他国へ旅立ちました。弟は、自由に暮らしています」
「もう1人の姉は?」
「………分からないのです」
「分からない?」
「私のお母さまはれっきとした伯爵家の娘でしたので、妾という立場でしたが正式に城に迎え入れられておりました。けれどそのお姉さまのお母さまは貴族でもなんでもない、ただの冒険者だったそうで、当然妾にもなれず、人目につかない敷地で隔離されていたのです」
「そんな……それでもその姉は国王の子なんだよな?」
「えぇ。それは間違いなく。なぜなら国王がその女性に一目惚れをし、愛人として囲っていたというのは当時有名なお話だったそうですから」
「それなのにどうして……」
「………平民を城に入れることはお妃様が許してはくださらなかったのです」
「正妻か…」
「えぇ……まだ幼い頃、城に居場所がなかった私に、お義姉さまとそのお母さまはとても良くしてくださったのです。歳もあまり変わらないというのにとても聡明で優しく、そして強い芯を持っていましたわ。『いつか母のような冒険者になる』といつも話してくれましたの」
「もしかして、だから冒険者に?」
「……その通りです。お義姉さまのお母さまは病で長く伏せておられましたが、3年ほど前に亡くなりました。同時に、お義姉さまも行方不明になったのです。もちろん存在を隠したいはずの娘が居なくなったのですからすぐに捜索はされましたが一向に見つからないままでした。私はもしかしたらお義姉さまは冒険者になったのではと思い、こうして探しにきたのです」
そう話すセレスの目には確かな覚悟が見えた。
時々抜け出し、行方不明になった姉を探す妾の子。
城の中でどれほど白い目で見られるだろうか。
「当然冒険者になるのは許可をとっていますわ。知っているのは国王と、一部の臣下だけですが……怪我をしたり、危険なことがあったらすぐにやめる約束はしてあります。あとはもちろん、私の婚約が決まってもやめなければいけませんわ。ふふ、初めてのクエストの時は少し怖かったんですの」
「あぁ、宿に泊まったからか。確かにすぐ帰ったな」
「ええ、ですがちっとも怒られませんでしたわ。私の身を案じているというよりも、他国に嫁げる娘が減って国の利益にならないことが心配なのでしょうね」
「そん…」
そんな事ないだろ。とは今の話を聞いた手前いえなかった。
「……困らせてしまって申し訳ありません。つい話し込んでしまいましたわね。そろそろ戻らないと」
「もうそんなに経ったのか」
時計を見ると、セレスが来てからもう3時間ほど経っていた。
セレスは席を立つと優雅にお辞儀をする。
「美味しい食事をありがとうございました。ロイズさま」
「いや、こちらこそ。そういえばどうして2回も来たんだ? そんなに腹は減ってなかったんだろ」
「それは……」
急に口ごもりもじもじし始めるセレス。
なにかまずい事でも聞いたか?
「セレス?」
「……ご、誤解を……」
「誤解?」
「……誤解を解かないと、と」
なんの誤解だ?
俺が分からないというふうに首を傾げると、セレスはえっと小さく言った。
「今朝のことで……わ、私が冷たいと思われたら、その、嫌でしたので」
「そんなこと思わなかったけど……」
人形のようだとは思ったが、冷たいとは思わなかった。
むしろ王族にしては態度が優しく、兵士が俺の無礼を過剰に咎めようとした際は止めていた。
「というか来た時に双子の姉とか言って無かったことにしようとしてただろ?」
「ち、違いますわ! 誤解されていたらどうしようという気持ちが……先に来てしまって、混乱して」
そわそわもじもじと落ち着かないセレスはだんだん瞳が潤んでくる。
今も混乱しているのか気持ちの整理が上手くつかないようだ。
「俺はセレスを冷たい人間だなんて思わなかったよ。むしろセレスは優しい人間だと思ってる」
「……ほ、本当ですの?」
「あぁ、ヒストリア王女として来るのは兵士のみなさんが怖いから勘弁して欲しいが、セレスとしてならいつでも歓迎するよ」
「……! ありがとうございますわ!」
一気に花が開いたような笑顔になる。
見た目が美しいから王女としての凛とした立ち振る舞いも似合ってはいるが、やっぱりセレスはコロコロ変わる表情も魅力的だ。
あの時別れてから期間が空いてしまったし、過去や王族の内部の話を聞いてしまってかなり複雑な気持ちであるけど、とにかく元気そうで安心した。
「暗い話でしたが聞いてくださりありがとうございました。なんだか心が軽くなりましたわ」
「それは良かった。力になれるか分からないけど、お姉さんのことは俺も探すよ」
「ありがとうございます、そのお気持ちだけでも嬉しいですわ」
セレスはにっこりと笑い、店のドアを開ける。
「また来ますわ、ごきげんよう」
軽い足取りで優雅に去っていくセレスを見送り、俺は店内に戻る。
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