上 下
20 / 30
店をオープンしよう

4-2 完成!店の名前は…

しおりを挟む
 その後は強面集団との会話も増え、和気あいあいと作業を進めた。

 それから1週間後―――


「で、できたー!」


 ついに俺の店が完成した。


「おーおー、いい出来じゃないかぁ」

「ドラカ! ……それにルシアさんまで!」


 強面集団と喜びを分かちあっていると、ドラカとルシアさんがやってきた。


「本日が完成日だと伺っていたので、お祝いに来ました!」

「あ、ありがとうございます!」

「お店の名前は決めたんですか?」

「いや、実はまだ考え中で……」

「そうなんですね。じっくり考えちゃいましょう!」


 ここしばらくギルドには全く顔を出せていなかったが、こうして祝いに来てくれるなんてやっぱりルシアさんは天使なのかもしれない。

 俺がルシアさんと世間話をしていると、外装を見終えたドラカがドアを開けて店に入る。
 俺たちも後に続く。

 店内も白基調の落ち着いた作りになっていて、天井から垂れるランプ、木目調のカウンターと3つのテーブル席が並び、かなりオシャレだ。
 従業員が俺一人のため収容人数は大体10人くらいで、そこまで広くはしていない。


「ふぅん。ま、なかなかだねぇ」


 かなり満足気に見て回っている。
 約ひと月半かかったが、それでもこの人数でこの完成度は相当すごい。

 強面集団が『恩恵ギフト』建築を持っていたのが大きい。

 本人たちと話してわかったが、普段は建物の修復や建築、解体を生業としているれっきとした大工らしい。

 ドラカとは仕事場で知り合い、かなり世話になったそうだ。
 ちなみになんの仕事の繋がりかは教えてもらっていない。

 強面集団のうちの1人、ジョニドが店に入ってくる。


「姐さん、この後は……」


 この姐さん呼び。
 どういう関係なんだろう本当に。


「そうだねぇ。オープンに備えて微調整を挟んだりする作業があるだけだから、あんたたちのやることはもうないねぇ」

「……ということはあれですかい?」

「ふふん、そぉさ! まずは完成したことを祝って乾杯といこうじゃないか!」

「うおー!」


 ドラカに感化されたジョニドはむさ苦しい雄叫びを上げながら外にいる他の男たちを呼びに行く。


「お、おいドラカ。そんなに人数入らないぞ」

「まぁまぁ、つめりゃあ行けるだろ」

「えぇ……」

「料理人サマよぉ、料理と酒の用意はまだかい?」


 けけ、と笑うドラカの圧に負け、俺は渋々宴会の料理を作りにキッチンに向かう。


「ロイズさん、もし良ければ運ぶくらいはお手伝いしますよ!」


 後ろからルシアさんの声が聞こえる。
 気を遣ってくれているのだろうが、この人数の料理は運ぶのですら骨が折れそうだ。
 俺はありがとうございます、とだけ伝えてキッチンにこもる。


「とりあえず作りますか」


 まずはメイン料理から。
 食材のストックはあまりないため、今あるもので作れるものを考える。


「………そうだ!」


 このメニューなら酒にも祝い事にも合うだろう。

 そう思い、作り始めて1時間――――


「……よしできた」


 完成した料理を持ってみんなの元へ行くと、珍しく酒を我慢していたらしいドラカが真っ先に俺のところに小走りで来る。


「できたのかい? 待ちくたびれたよ!」

「分かった分かった。これ持って行ってくれ」


 手渡し形式で次々料理を運び、酒も並べる。


「よーし! ……乾杯は……ロイズ、あんたがやりなぁ」

「俺?」

「当たり前だろう? あんたが店長さ」

「え、えーと……」


 急に言われてもな……。


「……みんな、このひと月半本当にありがとう。正直体がしんどい時もあったけど、何とか今日完成しました。ルシアさんも応援に来てくれてありがとうございます。ドラカは……資金面で世話になっているので、そろそろなんの仕事か教えてもらいたい気持ちではある」

「黙りなぁ」

「……で、ここで今日の料理の紹介です。
 まずはニギル村から取り寄せたカーレ麦の白米。
 次にシラを刻んでカーラと混ぜてペースト状にして揚げたもの。
 あとはモルトゴフとシトシ肉の和え物。
 それに白糸、ツヅリの卵」

「美味そう……」


 全員が料理に夢中だ。悪くない気分だな。
 俺がドヤ顔で説明していると、ルシアさんがある料理を指さした。
 その反応を待ってたんだ。


「こっちの、黒い料理は一体……」

「お目が高い! それは今回の1番メイン、タニカロの黒葉包です」

「タ、タニカロ!?」


 全員が驚いてその料理を凝視する。
 無理もない。
 タニカロは本来猛毒の生物だ。

 だが俺が旅している時、これを食材として扱っている街があった。

 試しに食べてみると、タニカロの肉は特に味付けや調理をしなくてももちっとした歯ごたえとじゅわっと漏れ出る肉汁がたまらない美味さをしていたのだ。

 俺も作ってみたくてその時に毒を抜く方法、調理法を聞いていたのを覚えていた。


「大丈夫、毒は抜いてあるし、俺も味見してる」

「そ、そうですか……」


 とはいえ、やっぱり不安だよな。
 王都近辺ではタニカロを食べる文化は無い。

 盛り上がっていた中で、沈黙が流れる。
 この料理を出したのは失敗だったか?

 なんとも言えない気まずい空気の中、ドラカがタニカロを1つつまんで食べた。

 みんなが息をのんでドラカを見つめた。


「……………美味すぎる!!!!」


 頬を赤らめた幸せそうな顔でシンプルな感想を伝えると、みんな安心した顔で料理に手をつけ始める。

 するとドラカがハッと何かを思い出したような顔をして、いつの間にかなみなみ注いでいた杯を掲げた。


「あ! その前に、みんなぁ、お疲れさん! かんぱぁい!!!」

「乾杯!」


 結局あたしがやっちまったねぇ。などと言いながらドラカはパクパク料理を食べる。

 タニカロの方を見ると、ルシアさんが意を決して口に入れたところだった。


「ルシアさん、どうです?」

「………お、おいしい……!! もちもちとした歯応えにも関わらず、この肉汁の量……それを黒葉という爽やかな味で閉じ込めることによって隙のない後味……これはお酒が進んでしまいますね!」

「あはは……ありがとうございます」


 そのまま宴会は続き、料理と酒が足したそばからなくなっていく。
 なくなっては追加してを繰り返しているおかげで、俺は全く休まらない。

 やがて泥酔する者、帰宅する者が出始めるいい時間になり、少し落ち着いた。

 俺は空いた皿とグラスを片付けながら片っ端から洗って行く。


「……ロイズ」

「うわ、なんだドラカか」

「けけ、なんだはないだろぉ? ヒック、あたしはオーナーサマだぞぉ」


 出会った時と同じくらい酒臭い。
 俺は手を動かしながら酔っ払……ドラカの相手をする。


「みんなはどうした?」

「ルシアちゃんは今送ってきてぇ、ヒック、あいつらは残ってる奴で騒いでんなぁ。ヒック」

「……なるほど」


 まだまだ休めなさそうだ。


「心配しなくても、ヒック、店は壊さないしぃ汚さないよぉ」

「そうしてくれ」

「……でさぁ」

「まだあるのかよ」


 ヘロヘロのドラカがキッチンに入ってこないのは彼女なりの敬意だろうか。
 料理人の聖地として、そこらへんはしっかりしているんだな。


「……あんた、店の名前決めたかい?」

「………あぁ。さっきな」


 実はここ数日ずっと店名を考えていた。
 昼にルシアさんにも言ったが、どの候補もしっくり来なくて、決まらないまま今日を迎えたのだ。


「……あんたが約束を結んだ時に鼻歌で歌ってた唄。あれアルバだろ」

「っ……き、聞いていたのかい?」

「うわ汚いな」


 ぶっと酒を吹き出してきたドラカは元々酒で赤かった顔を更に赤くして俺を凝視する。


「懐かしいなってその時は思って、さっき歌ってるのを見て思い出したんだ。あんな古い唄よく知ってるな」

「……まぁね」


 ふいと顔を背け、また酒を飲むドラカ。


「あの唄は俺も馴染みがあってな。そこから取って、俺の店の名前はこれだ」

「………けけ、また洒落た名前だねぇ」


 ドラカは俺の手にあるものをちらっと見るなり、にかりと微笑んだ。

 小さなケーキと上に乗せたプレートに大きく描かれた『ALBAS-Happy  birthday』の文字。


 そう。俺の店の名前は『アルバス』だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

INTEGRATE!~召喚されたら呪われてた件~

古嶺こいし
ファンタジー
散々なクリスマスの夜に突然召喚されて勇者にされてしまった主人公。 しかし前日に買っていたピアスが呪いの装備だったらしく 《呪いで神の祝福を受け取れませんでした》 《呪いが発動して回復魔法が毒攻撃になります》 《この呪いの装備は外れません》 《呪いで魔法が正常に発動できませんでした》 ふざっけんなよ!なんでオレを勇者にしたし!!仲間に悪魔だと勘違いされて殺されかけるし、散々だ。 しかし最近師匠と仲間ができました。ペットもできました。少しずつ異世界が楽しくなってきたので堪能しつつ旅をしようと思います。

【完結】異世界で小料理屋さんを自由気ままに営業する〜おっかなびっくり魔物ジビエ料理の数々〜

櫛田こころ
ファンタジー
料理人の人生を絶たれた。 和食料理人である女性の秋吉宏香(あきよしひろか)は、ひき逃げ事故に遭ったのだ。 命には関わらなかったが、生き甲斐となっていた料理人にとって大事な利き腕の神経が切れてしまい、不随までの重傷を負う。 さすがに勤め先を続けるわけにもいかず、辞めて公園で途方に暮れていると……女神に請われ、異世界転移をすることに。 腕の障害をリセットされたため、新たな料理人としての人生をスタートさせようとした時に、尾が二又に別れた猫が……ジビエに似た魔物を狩っていたところに遭遇。 料理人としての再スタートの機会を得た女性と、猟りの腕前はプロ級の猫又ぽい魔物との飯テロスローライフが始まる!! おっかなびっくり料理の小料理屋さんの料理を召し上がれ?

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

スライムの恩返しで、劣等生が最強になりました

福澤賢二郎
ファンタジー
「スライムの恩返しで劣等生は最強になりました」は、劣等生の魔術師エリオットがスライムとの出会いをきっかけに最強の力を手に入れ、王女アリアを守るため数々の試練に立ち向かう壮大な冒険ファンタジー。友情や禁断の恋、そして大陸の未来を賭けた戦いが描かれ、成長と希望の物語が展開します。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

勇者に恋人寝取られ、悪評付きでパーティーを追放された俺、燃えた実家の道具屋を世界一にして勇者共を見下す

大小判
ファンタジー
平民同然の男爵家嫡子にして魔道具職人のローランは、旅に不慣れな勇者と四人の聖女を支えるべく勇者パーティーに加入するが、いけ好かない勇者アレンに義妹である治癒の聖女は心を奪われ、恋人であり、魔術の聖女である幼馴染を寝取られてしまう。 その上、何の非もなくパーティーに貢献していたローランを追放するために、勇者たちによって役立たずで勇者の恋人を寝取る最低男の悪評を世間に流されてしまった。 地元以外の冒険者ギルドからの信頼を失い、怒りと失望、悲しみで頭の整理が追い付かず、抜け殻状態で帰郷した彼に更なる追い打ちとして、将来継ぐはずだった実家の道具屋が、爵位証明書と両親もろとも炎上。 失意のどん底に立たされたローランだったが、 両親の葬式の日に義妹と幼馴染が王都で呑気に勇者との結婚披露宴パレードなるものを開催していたと知って怒りが爆発。 「勇者パーティ―全員、俺に泣いて土下座するくらい成り上がってやる!!」 そんな決意を固めてから一年ちょっと。成人を迎えた日に希少な鉱物や植物が無限に湧き出る不思議な土地の権利書と、現在の魔道具製造技術を根底から覆す神秘の合成釜が父の遺産としてローランに継承されることとなる。 この二つを使って世界一の道具屋になってやると意気込むローラン。しかし、彼の自分自身も自覚していなかった能力と父の遺産は世界各地で目を付けられ、勇者に大国、魔王に女神と、ローランを引き込んだり排除したりする動きに巻き込まれる羽目に これは世界一の道具屋を目指す青年が、爽快な生産チートで主に勇者とか聖女とかを嘲笑いながら邪魔する者を薙ぎ払い、栄光を掴む痛快な物語。

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

処理中です...