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Cランクになろう

3-2 雅な風

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 次の日、起きて早々に支度をし、俺はギルドに向かう。
 初日よりはよく休めたな。
 やっぱり昨日回復料理を食べたことが大きい。


「おはようございます! 本日も頑張りましょう」

「おはようございます、ルシアさん。ドラカは戻ってきましたか?」

「まだギルドには戻ってきてはいないみたいですよ。私の方も少し忙しくて気付かなかった可能性もありますが……」


 確かにルシアさんは会話こそしてくれるもののいつものような余裕はなく、常に動き回っていて忙しそうだ。


「何かあったんですか?」

「それが、どうやらペテラの森にドラゴンが出たみたいで、朝から情報の整理とクエスト発注に追われているんです」

「ドラゴン?」


 久しぶりに聞いた。まだ存在していたのか。
 ペテラの森はアルテナの森よりずっと広くて、馬車でも王都から2日くらいかかるような位置にある。

 あの辺は確か勇者パーティの拠点も近いけれど、大丈夫かな……。

 いやいやもう俺には関係がないことだし、それにクエストの発注をするなら心配しなくても良さそうだ。

 それより今日もクエストを進めないと。
 昨日みたいに簡単なものがいいな。


「昨日と同じ配達と、制作……でいいかな」


 報酬は1700ペルと3200ペル。
 額の高さ的に少し時間がかかりそうだけどまあいいか。


「お願いします」

「はい! 確かに承りました。えーと……こちらが郵便物になります!」

「……あの、1つ足りなくて」

「わぁすみません! こちらもですね。どうぞお気をつけて。いってらっしゃい!」


 珍しいミスをするルシアさんも新鮮だったが本当に忙しそうでこちらまで申し訳なくなる。
 戻ってくる頃には落ち着いているといいな。

 俺はギルドを出て、昨日と同じように配達先を訪ねていく。
 幸い中身の間違いや届け先のミスはなく1時間半ほどで終えられた。
 さすがはルシアさんだ。


「次は……制作か」


 となると行く場所は合成広場だな。

 アイテムや素材の合成を行えるのは合成広場にある専用の台、通称合成台だ。
 制作スキルを使って作っていく。
 今回のクエストは布の制作をして着色剤との合成。

 制作スキルは俺も一応あるが、そこまでレベルは高くない。

 なので集中して丁寧に、かつ手早く制作する。


「ここで……絡めて……」


 魔石の合成や装備の製作とはまた違った繊細さが求められる作業に、かなり精神力と体力を使う。


「…………ふぅ…できた」


 3時間かけてようやく完成した。
 あとはギルドに戻って納品するだけだ。


「……腹減ったな」


 集中力もスキルも使いすぎて腹の虫が鳴り続けている。
 どこかで軽く食べてからギルドに戻りたいな。


「そうだ」


 この機会に料理人の店に行ってみよう。
 他の料理人のご飯は食べたことがないし、回復も欲しい。


「えーと、ここから一番近いのは……」


『雅な風』という民族料理店だ。
 料理人はフウトという異国人らしい。

 歩いて5分ほどで店についた。

 ご飯時を過ぎたからか、少し空いている。


「へいらっしゃい!」


 気迫のある独特な挨拶で店に入り、メニューを開く。
 魚料理か。

 とりあえず行動力バフと気力回復の効果が書かれているメニューを4品注文してみた。

 ご飯に酢を混ぜて魚を生で乗せているという独創的な料理らしいが、どんな味だろう?

 わくわくしながら待っていると、カウンター越しで次々と皿が並べられる。
 皿の上での魚の身がキラキラ光る宝石のようで、見た目からもう食欲をそそる。

 他の客を見たが、手のひらで掴んで食べるみたいだ。
 なんとも全てが独特だな。

 調味料につけて、いざ実食。


「…………!!!!」


 なんだこれは。

 ぷりぷりの魚の身と酢飯のバランスが黄金比に近い。
 まるで違和感がなく混ざり合い、俺の知る魚とは正反対の印象を与えてくる。
 何より魚が新鮮なおかげで、水分も程よく残っていて、じゅわりとしたみずみずしさが果実のようだ。
 それに魚の冷たい感触とご飯にほんのり残った温かさがいい塩梅で喉を通る。
 後味も爽やかで、お茶との相性が抜群だ。

 次の魚はまた違った食感。
 とろとろの身で、口に入った途端ご飯と共に溶ける。
 生特有のくさみも一切なく、このままずっとこのふわふわとろとろを堪能していたくなる。


 シンプルに、美味い。

 これが幸せか……。


 無我夢中で食べ、7品追加の注文もしてしまった。

 そのおかげでお会計が5800ペルという昼飯にしては信じられない料金になってしまい、はしゃぎ過ぎたと反省しながらその場所を後にした。


「はー……よく食べた」


 だがあまりの美味しさに、胃が無限にあればいいのにという感覚にすら陥った。
 あの料理を考えた人間を心から讃えたい。

 結局料理人のフウトには会うことはできなかったが、十分な満足感を得ることができた。
 ちゃんと回復もしたようで、ぼーっとしていた脳も割とすっきりしている。
 次は本人に会ってみたい。
 どんな人間なのだろう。


「そろそろギルドに戻るか」


 報告が終われば5つのクエストを達成したことになるから、次は昇格のテストのはずだ。
 内容はわからないが、Dランクだしまだそこまで難しくはないだろう。
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