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初クエストに行こう

2-3 非戦闘要員?

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「あれは……子ウサギの親子?」

「かっっわいいですわ~……!!」


 木陰で眠る小さなウサギの親子を見て、セレスはすっかり骨抜きになっている。

 子ウサギは警戒心が強く、近づくと逃げてしまうためなかなか捕まらない。
 こうして無防備に寝ている姿を見ることも稀だ。

 ちなみに食材として使われることはなく、主に観賞用のペット扱いだ。


「すごいな、実際に見るのは俺も初めてだ」

「えぇ、本で読んだことはありましたが、本当に小さくて愛らしいんですのね! あぁ、モフモフしたい!」


 触ることはおそらくできないだろうが、もう少し近付いても大丈夫か?
 ゆっくりと足音をころして近付いてみる。


「ん?」


 あと数メートルのところで違和感に気がつく。

 おかしいな。警戒心が強い子ウサギにしては全く動く気配がない。

 近づくにつれ、何か赤い斑点が見えてきた。
 あんな模様子ウサギにあったか?

 いや、違う。血だ。


「あら? 子ウサギさんもしかして怪我をしていらっしゃいますの!?」


 慌てて駆け寄るセレスを止めようとするも、一瞬遅かった。

 セレスの横から黒い物体が飛び出してくる。


「危ない!!」

「っきゃあ!!」


 腕を引っ張り何とか間一髪で避けたが、掠ったようだ。
 セレスは一瞬苦悶の表情を浮かべる。

 すぐに前方を確認する。


「あれは……オオカミ!?」


 飛んできた物体は2匹の黒いオオカミだった。


「この森にオオカミの登録なんてなかったのに……」


 なんてことだ。
 オオカミはランクC以上でなければ討伐クエストを受けられないくらい強い。
 Eランク、まして駆け出しの今の俺たちにとっては危険な生物だ。

 肉食で、非常に獰猛で残忍。
 かつ仲間意識が高いため、1匹狩れてもすぐに仲間が呼ばれる。


「セレス、走れるか?」

「え、えぇ何とか……あれはオオカミですの?」

「そうだ、それも少しデカい。俺たちじゃ戦えない」

「あの子ウサギさんは……」

「おそらくもう……」


 青ざめるセレス。
 こればかりは自然界の掟として仕方がないと言わざるを得ない。


「……! 来るぞ!」


 またも飛びかかってくるオオカミをまた間一髪で避ける。
 速すぎてギリギリで避けるのが精一杯だ。

 どうする……。この状況をどうにか切り抜けないと。


「ロイズさま、私に考えがありますの。聞いてくださる?」


 セレスが身を寄せてくる。


「私は戦闘はあまり得意ではありませんが、サポートの魔法は得意なのです。ロイズさまに腕力と知力、脚力アップを差し上げますわ。武器は何かお持ちでして?」

「え? 包丁なら.……じゃなくて! お、俺は戦えないぞ!」

「私のこの足では戦えませんわ! 大丈夫です、あのオオカミさんを食材だと思ってお捌きくださいませ!」


 そんな無茶な。
 とは言いつつも、確かにあのスピード相手に逃げるのは無理だ。

 狩りなら何度か勇者パーティでもやったが、オオカミは経験がない。
 仲間を呼ぶ隙も与えないほど速く仕留めないと。


 覚悟を決め、俺は包丁を取り出す。
 オオカミたちの警戒心が強くなり、再び臨戦体制になる。


「行きますわよ! ロイズさまへどうかご加護を。ソバト、アデラ、マハロ!」


 勢いよく走り出す。
 脚が軽い。スピードが上がっているのに目は追いつく。

 詠唱無視のサポート魔法使いか。
 そんなのに出会ったのはラナ以来だ。


 そんなことを考える余裕があるくらい思考がクリアになる中、冷静にまず一匹。

 急所の首を正確に突く。
 返り血が多少飛んできて、一瞬ぐらりとバランスを崩しそうになる。

 ぎゃうと短い悲鳴が聞こえ、一匹仕留めたのを確認し、もう一匹に迫る。


「!!」


 避けられた。
 まずい、仲間を呼ぶか?
 遠吠えが聞こえたらすぐに逃げないと。

 と思ったら、急に子ウサギの方へオオカミが走り出す。、

 もしかして……。


「やめろ!!」


 咄嗟に子ウサギの目の前に身体を寄せる。
 牙が迫る。

 ガード効くのか?

 だめだ。死ぬ。


「アレト!」


 呪文が聞こえたと思ったら、目の前のオオカミがぴたりと止まり、そのまま文字通り落ちた。

 腹に風穴が開いて動かなくなっている。


「ロイズさま、大丈夫ですの!?」


 駆け寄ってくるセレスの手には光輝く弓がある。
 が、消えた。


「い、今のは……」

「……私の恩恵、光ですわ」


 光、というのは光の属性のことだろう。
 属性が恩恵として現れるのは非常に稀で、火、水、木、土、風、光、闇の7人しかいない。と聞いている。
 それぞれの属性は多種多様な使い方ができ、水は海も操れるだとか。


「光……」

「内緒ですわよ? 普段は恩恵は詠唱無視だと誤魔化しているんですから」


 本来なら恩恵は他人に言うべきじゃない。
 自分の手の内を相手に明かすようなものだからだ。

 料理人などはバレたところで何もないから明かしてもいいのだが、希少すぎるその恩恵を明かすのはリスクが高い。

 おそろしく人がいいな。セレスは。


「……ありがとう」

「とんでもありませんわ。ご無事で何よりです」


 本当に安心したような表情を見せるセレスに、何故か俺も安心した。

 でも何が戦闘は得意じゃないだ。
 むしろ戦闘向きだろ。

 そんなことを思ったが、助けてもらった手前、あえて口には出さない。


「ところで、どうして戦うのをやめて子ウサギさんを庇ったんですの? その、もう生命は……」

「ああ、それなんだけど、ほら」


 俺は自分の後ろにあるものをセレスに見せる。
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