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1-6 王都の料理人

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 がっくりと肩を落とし、ドラカを睨む。


「……分かったよ。要するにやるしかないんだろ」

「ありがとうロイズ、理解が早くて何よりだよぉ」


 この女、いつか必ず殴りたい。
 だがさっきの一撃で実力の差は分かった。

 殺されないよう大人しくしておこう。


「話をまとめると、俺はまずCランクにならないといけないんだな」

「そぉ、その後店を開いてもらう。食材調達や資金のやりくりは自分でやってもらうからねぇ、ある程度レベル上げも兼ねてるのさ。あんたレベル1だろ?」

「そうだけど……それはいいんだが1番の料理人ってどういう意味だ?」

「……」


 ドラカは一瞬表情を曇らせ椅子に座って酒を煽る。
 俺はなにかまずい事でも言ったか?


「ぷは! ……今の王都の料理人を見ればわかるよぉ」

「他にも料理人がいるのか?」

「残っている料理人は3人。全て自分の店を持っていて、国から大量に金をまきあげている極悪連中さぁ……」

「金を?」


 料理人が国から金を取れるなんて有り得ない。
 しかも貴重な料理人の自営店なら客足が絶えないはず。
 金なんていくらでも入ってくるだろうに。


「この国から料理人が居なくなったのはなぜだと思う?」

「……待遇が酷いから?」

「そぉさ、だからみんな条件のいい帝国に簡単に行っちまった。当然国は困るわけさ。残れとの命令に料理人たちは2つ条件を出した」

「ひとつは金か」

「そう、毎月絶えず金を渡すこと。それも今までの給金の10倍以上貰ってるって話しさ」

「10倍も!? それは……」


 俺の記憶だとだいたい料理人は月に14万~22万ペルだ。
 それの10倍なんて、ただでさえ帝国と争いの最中なのに、国の財は大丈夫なのか?

 いや大丈夫じゃないからこそ昨日見た犯罪が横行するようになったのではないか。
 俺は昨日の少年の眼を思い出した。


「2つ目は食材の独占」

「食材?」

「あぁ、レアな食材はもちろん、一般的な食材も料理人たちの許可がないと使えないのさ。使ってもいいって言って貰えたら店でも個人でも使える」


 そんな許可制が本当に導入されているのであれば、国民の生活がままならなくなることくらい分からないのだろうか。


「それは止められないのか? あんた強いんだろ?」

「けけ、そんなことしたら反逆罪で捕まって首が飛んじまうよぉ」


 ドラカは笑い飛ばすが、内心はきっとそうしたいって思ってる。
 己の不甲斐なさと、仮にも勇者パーティにいた身としては本当に申し訳なく感じる。
 俺たちが気付いていれば、いや、俺がもっと早く行動していれば料理人たちは出ていかなかったかもしれない。

 そう思うとやるせない。


「……あんたは思った通り人がいいねぇ。怒りを感じるよぉ」


 そう言われて気がついた。
 血が滲み出るほど手を強く握っていたようだ。


「あたしはねぇ、大した腕もないくせに『料理人』として偉そうなのが大嫌いさ。だからあんたに、『本物の料理人』としてあいつらをギャフンと言わせて欲しい」

「ギャフンとって……そもそもあんたは俺の料理を食ったこともないのに、どうしてそこまで言うんだ?」

「食ったこと……けけ、あたしの勘さぁ」


 一瞬だけ何かを考えた素振りをみせ、すぐに白い歯を見せて笑った。
 勘でそこまで信用されても困るのだが。


「あたしからの条件は以上だよぉ。なにか質問はあるかい?」

「いや、もう大丈夫だ」

「それなら早速だがクエストに…」

「その前にちょっと待ってくれ。こんなに期待されてるんだからとても出しづらいんだが、これを……」


 俺は自分の荷物を漁り、取り出した物をドラカに差し出す。

 今日来る前に思いついたもの、それは……


「これは……サンドかい?」

「あぁ、宿にいた執事みたいな人に聞いたら食材を譲って貰えたんだ。簡単なものだが、一応二日酔いの回復効果がある」


 なんのお礼もしないのはさすがに気が引けたので、遅刻をしながらも急いで作った。
 食材の話は知らなかったから、これは執事みたいな人が苦労して手に入れたものなのかもしれない。

 彼にもお礼を言おう。


「……ドラカ?き、期待外れだったか?」


 反応が全くないドラカに、少々不安になる。
 時間が経ったせいで冷たくはなってしまったが、味はそこまで変わらないと思う。


「……あんた、本当に良い奴だねぇ」


 ドラカの声は少し震えていた。
 言葉からして怒らせたようではないようだが、何か嫌いな食べ物でも入っていたか?


「あ、その、勝手に作ったものだから無理して食べなくてもいいぞ」


 俺がそう言うと、ドラカは後ろを向いてもしゃりとひとくち食べた。


「けけ……美味い」


 そう笑いながらまたひとくち、ひとくちと食べていく。
 そうしてあっという間にペロリと平らげてしまった。

 良かった、苦手なものが入っていたわけじゃなさそうだ。


「身体が回復していく……けけ、こりゃすげぇ。期待以上さ」


 今回入れたのはトニカラのハーブとニブ鶏の卵を使ったサンド。
 少し辛いが、二日酔いや吐き気に効く滋養料理だ。
 口にあったようで何よりだ。


「良かった。これで昨日助けて貰った礼ができたかな」

「あんなこと気にしてたのかい。……ごちそうさまでした」


 ようやくこちらを向いたドラカのまつ毛が濡れている。
 泣いていたのか? どうして?

 いや泣く理由なんてない。
 俺の料理で感動したか、不味いかの二択だ。
 どちらも想像なんてできない。
 きっとあくびだろうと思い、気にしないようにする。


「じゃあ気を取り直して、早速クエストを受けてもらうよぉ」

「あ、ああ。確かまずDランクまでは5つのクエストで、Cランクまではそれから7つだったよな」

「そぉだ。上がる時に試験があるから、それも忘れるなよぉ」


 やっぱりさっきのは見間違いか?
 何も変わらない様子のドラカを見て、内心ほっとする。


「なんだよぅ、あたしの顔になにか付いてるかい?」

「い、いや、なんでもない」

「ふん…………ありがとう」

「え?何だ?」

「何も言ってないさ。早く行きなぁ」


 変なやつだなと思いながらも気を取り直してクエストボードの元へ行く。


「初めてだし、薬草採取でいいか」


 報酬は1500ペル。危険度は1。
 まあまあだ。
 クエストの紙をはがし、先程から受付で待っているルシアさんのところに持っていく。


「お、お願いします」

「はい! それではクエストを受理します! このクエストには3日間の期限がありますので、ご注意くださいませ。では、どうかお気をつけて!」


 爽やかで優しい笑顔に言われたら誰でも頑張ろうという気持ちになれる。

 ドラカはいつの間にかギルドから居なくなっていた。

 ギルドを出る時に壊したものについて聞くと、「修理費の負担はドラカさんなので安心してください」と笑顔で言われた。


 身体の節々がとても痛むが、気合いを入れよう。
 ぱしっと頬を軽く叩いて、軽く伸びをする。



 よし、行くぞ、俺の初クエスト!
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