元勇者パーティの料理人〜追放されたけど料理スキルがカンストしている俺は王都1を目指して料理店始めます〜

月乃始

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1-1  追放される

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「すまんロイズ、パーティを抜けてくれ」


 魔王討伐から数ヶ月経ったとある朝、勇者ボイドからそんな通告があった。
 聞き間違いかな? と思ってもう一度聞いてみる。


「ど、どういうことだ?」

「……出て行って欲しいんだ」


 まだ理解ができない。
 俺が何かしたのだろうか。
 まさか、料理人である俺の作った料理が口に合わなかったか?


「ロイズのせいじゃない。飯も美味いしずっと助かってもいた」


 まるで心を読まれたように念を押してくる。
 ほっと胸を撫で下ろしたが、だとしたら何故?


「な、ならどうして……」

「それは…」

「簡単にいうと資金不足よ」

「ラナ」


 口ごもるボイドの後ろから魔法使いのラナが現れる。
 聞いていたのか? 資金不足?


「魔王討伐から数ヶ月、私たちは英雄として帰ってきたけど、それから一度もクエストには行けていないの。理由はわかるわね」

「……みんな抜けたから…か」


 そう、合計六人いた勇者パーティのメンバーはもうここにいる三人しかいない。
 半分も抜けてしまったのだ。


「ええ、だからと言ってこれから補充もできない。次の魔王が現れるまで平和だもの。それにメンバーが増えてもクエストに行っていないわたし達にお給料は払えないわ」


 確かに。

 魔王は数十年、数百年に一度世界を壊そうと現れる。
 勇者が討伐したらもう残党しかいない。

 今の冒険者たちは名ばかりの英雄、悪く言えば雑用係だ。


「そんな状況で戦闘員でもない、たかが『料理人』のあなたを残しておくなんてできないの。もう食材にこだわれるほどのお金もないわ」


 確かに俺は非戦闘要員で、結成当初からずっとパーティにおいてもらっていた。

 この世界で生まれる人間には役割として『恩恵ギフト』というスキルが与えられる。
恩恵ギフト』によって大体の人間は自分の職業を決める。

 俺は料理の『恩恵ギフト』だから、料理人になった。

 少しでもボイドたちの役に立てたらいいなとあえていい食材ばかり使っていた。
 それが仇になるなんて……。


「まぁ、要するに資金不足の中、料理人なんて贅沢な人員はいらないの。ごめんなさいね」

「ラナ、言い方が……」

「いいんだボイド。ラナも、すまなかった」


 きっと色々考えて結論を出したのだろう。
 ボイドの辛そうな表情でわかる。


「……2人とも、元気でな」


―――――――


 宿の入り口を開ける。
 資金不足のくせに、ボイドからこっそり5000ペル渡された。
 さっきの話の手前断ろうとしたが荷物に無理矢理入れられた。

 ボイドはずっとそんな優しくて頑固なやつだった。


『ボイド、明日はついに決戦だ。これでも食べて元気出してくれ』

『ロイズ……ありがとう。お前がいなかったらここまで来れていなかった。終わったら一緒に祝杯をあげよう』

『悪いが下戸なんでね。水で乾杯しよう』

『とことん付き合ってもらうぞ!』

『あのなぁ……』


 魔王討伐の前日そんな会話をした覚えがあった。

 ボイドと出会って、勇者パーティとして活動して数年……。

 たかが料理人の俺を拾ってくれて、ありがとう。

 泣きそうになるのをグッと堪え、拠点に頭を下げる。


「………お世話に、なりました」



 俺は、たった今から無職になった。
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