レプリカント 退廃した世界で君と

( ゚д゚ )

文字の大きさ
上 下
29 / 41
最終章

29

しおりを挟む
 ユートピアを出発して早くも三日が経とうとしていた。行く当てなどもなく、目的もなく、ぶらぶらと一人旅なんて気どるつもりもないが。一日目は旅なんて初めてで、慣れないリュックサックをずっと背負ったまま徒歩とくれば。しんどさにかまけて、休憩と座りこんだらなかなか立ち上がれなくて。やる前からわかりきっていたが、自分の体力のなさに驚く。ガルシェなんて、僕が足を怪我した時。半日以上は抱えたまま歩き通しであったのに。息一つ乱さず、疲れた気配すら感じられなくて。ただお酒が飲みたいとぼやいていたっけ。しょうがないなって言いつつも、運んでくれて。初対面の人間相手に、本当に優しかったと思う。今では、あまり人付き合いも、かかわりを持とうとしてこなかった故に。そういった人間関係で得られる経験が不足し、それと同時に植え付けられる人間に対する偏見がなかったのが。主な理由であろうが。なんかちっこくて、弱そうなやつぐらいだったのかな。僕を拾った時。
 リュックの中身は、保存食と水。そして寝袋と、小型のナイフ。後、マッチ棒。双眼鏡。着替えが一着分。少量のガーゼと消毒液。それだけ。元々持っていた、あの街で調達した殆どの着替えや小物は処分してもらった。嵩張るし、僕は力持ちではないので。持てる重量にも限度がある。テントとか、上手く組み立てる自信もないし。
 砕けたアルファルトを歩き、地割れで道が分断されていて。誰かが梯子を掛けたのか、落下防止の手すりすらないをそこを。へっぴり腰で渡り。小雨が降れば、倒壊した建物。以前は誰かが住んでいただろう民家で雨宿りして。何かの工場跡地で身の丈はあるとても大きな、横倒しの土管を今日の仮の住まいとして。そこで拾って来た小枝で暖を取る。
 目の前で爆ぜる焚火を見ながら、一日一食と決めて。あまり美味しくもない、保存食をもそもそと食べて。空腹を誤魔化していく。食べ物は一週間以上は持つ計算だが、予定外なのは水だ。僕が飲むペースを調整するのをミスったのもあるが。やはり歩き慣れない故に、喉の渇きを訴える身体。水源を見つけても、泥水だったり、凍っていたり。見た目綺麗な水を見つけると、こうして空いた水筒に汲んで。小鍋を使い篝火で沸騰させる。やる事はそれだけなのだが。いかんせん供給の目途が不定期なのと、水があっても。野生動物や、機械がいたりして。近づけなかったりと。双眼鏡で事前に危険を察知しては、迂回したりして回避に成功しているのだが。されどまだ三日目。こうして、痩せ細った野犬の群れが遠くに見えて。そんな彼らでも、僕にとっては命にかかわりかねないので。避けて、道に迷って。そして辿り着いたのが、この工場跡地だった。人の気配なんて当然なく。雨風が凌げる土管の中で、荷物を広げて今日はここで寝ようかななんて考えていた。あまり長いしていると、においで危険な野生動物が近づいてこないとも限らないので。この篝火が消えるまでがリミットだ。だから、十分な睡眠も取れてるとは言い辛く。蓄積されていく一方の疲労と、そして。
「痛っ……」
 ブーツをゆっくり脱ぐと、靴下には血が滲んだのか。元の色が一部変色していた。治るのを待つ余裕もなく、軽い応急処置だけして、痛みを我慢しながらここまで来た。双眼鏡で必ずしも事前に全て脅威を発見できるなんて運が良いわけもなかった。時には大丈夫そうかなって、入り込んだ廃墟に。冬眠にか、壁一面に張り付いた巨大な虫がお出迎えしたり。銃声がしたと思ったら、僕のすぐ近くの足元が弾け飛んで。雄叫びを上げながら、遠くから銃を持った人間が走って来るなんて場面もあって。
 意外というか、どうやら同じ種族だからと。全ての人間が友好的に接してくれるわけではなく、山賊みたいになった人が。放浪してる場合もあるようであった。最初の人間との邂逅がそれで、逆に良かったのかもしれない。その時は丁度崩れた建物が多く、物陰を利用して距離もあった為に簡単に撒く事ができたのだから。
 もしも、最初だけ友好的に。人の好さそうな顔をして近づいて来た場合、僕はそのまま信じ切って。寝込みを襲われて、それで終わっていたかもしれないのだから。警戒心を植え付けてくれて、ありがたいとすら思った。パチッ。考え事をしながら、新たな小枝を焚火に追加すると。火が爆ぜる音がした。
 あれから。ガルシェは追いかけてこなかった。こう言うと、まるで期待していたかのようであるが。あの男は、執着心を僕に向けていた節があるから。もしかしたらを考えて。でも、追いかけてこないのだから。それで、安堵して。したのに、それと同じぐらい。落胆してる自分から目を逸らした。そんな気持ちを抱く自分に吐き気がする。まるで、相手の好意を確かめる為に。試すかのような行動を取って、満足する。薄汚い人間のようで。あまりにも未練がましい自分に。
 土管の中で寒さから身を守る為に、寝袋に下半身を入れて。それでも、寒い。どうしても、人恋しい。目覚めてからずっと、常に誰かが居たから。あの銀狼に独り立ちめいた事をさせようとして、自分がずっと後ろ髪引かれているのだから。情けない。僕よりも高い体温を持つ毛皮さんが居たらきっと嬉しくて飛びつくだろうか。そんなありもしない事を考え自嘲めいた、笑いを漏らしていると。土管の外から足音がして。びくりと身体が跳ねる。
 何か、居る。どうしよう。こんな距離まで近づかれるまで気づかなかったなんて。これが、レリーベさん達なら。きっともっと早く察知したのだろうが。僕は何の訓練も受けていないし、警戒心なんて自分であるつもりでも。野生動物からしたらないようなものだ。自分と同じ速さで走れる生物なら。まず、逃げられない。ううん。四足歩行する生物ならきっと僕が走るよりもずっと早い。せめて、寝袋から足を出そうとして。それをするよりも、土管の陰に潜んでいる何かが。顔を出すのは先で。恐ろしい獣の顔が、出てくると怯えていた僕は。か細い悲鳴を上げて、狭い土管の中で後ずさりする。
「……キュイ?」
 土管の中で怯えている、先客こと僕という獲物を見つめる獣にしては。あまりにも可愛らしい鳴き声。小首を傾げる、蜥蜴の顔。アドトパ。ではなく、彼はこんなところに居るわけもないし。地面を四つん這いで歩かないし。こんな鳴き声を発さず、もっとキザな台詞を吐きながら登場するに違いない。たとえば、可愛らしい人間さん。お困りですか、良ければ私の荷馬車に招待しますよなんて。手を差し伸べて。
 でも目の前の子は、蜥蜴の顔だけれど。丸みがあって、あのイケメンみたいな顔がゴツゴツトゲトゲしていてシャープな印象は欠片もない。僕はこの蜥蜴を見た事があった、その特徴的な四足ではなく。六足の、蜥蜴をだ。六足トカゲモドキだ。正式名称は今も知らないままで。人懐っこそうなくりくりの瞳に気を緩みかけて、街で飼っている子と、野生の子では天と地も差があろうというもので。一瞬の油断を見せた瞬間、素早く近づき僕の喉仏を狙ってくるなんて嫌な想像が脳裏を過る。そう、過ったのだが。とて、とて、とその六つある足を虫みたいに器用に。動作はとても怠慢に。遅い歩きで、僕の傍を通り過ぎて。焚火の近くまで来ると、くるりと自分の尻尾を顔の前まで持ってきて。寛ぎだしたのだから。あまりの警戒心のなさに、本当に野生の育ちか疑わしくなる。訝しんで、その姿を暫く見ていたのだが。いっこうに飼い主も現れないし。どころか、兄弟だろうか。もう一匹、また一匹と。その数を増やし。僕の周辺には小型犬より大きい中型犬クラスの合計で七匹もの蜥蜴ちゃん達が、思い思いに寝だしてしまったのだ。こうなって、こんどは別の意味で逃げられなかった。最初に来た子なんて、他の子に焚火の温かな場所を横取りされて。不満そうに、僕の太腿の上に頭を乗っけているし。本当に外の世界で生きていけるのか、心配になるぐらいには。その姿は無防備だった。
「……あまりに無防備だと、食べちゃうよ?」
 言葉はわからないだろうが、せっかく太腿に頭を預けてくれている子の。その頭を撫でながら、思ってもない事を言って脅かせてみようとするのだが。やはり、言葉は通じず。ただ、またキュイーって間延びした可愛らしく高い声で返事をしてくれて。僕はあの街で、君の同族を普通に食べていたんだけどな。
 どし。八度目の足音に。あれ、まだ兄妹が居たのだろうか。これで八匹目だ。そう思い、俯いていた顔を上げて。土管の外を見ると、ひゅって空気が僕の喉から鳴った。そこには大型犬ぐらいの、大蜥蜴がこちらを睨んでいたからだ。足は六つあるけれど。記憶の中にある、コモドオオトカゲより大きな身体。もういっそ、口の短い巨大なワニだ。
「ヴヴルゥ……」
 潰れた、絞り出すような低く枯れた声が。大蜥蜴の喉から発せられる。僕の周囲を囲む、中型犬ぐらいの蜥蜴ちゃん達とは少し違っていて。首の横にヒレみたいな、トゲトゲした部分があり。鱗もどこか傷だらけで。目つきも、とても鋭い。こちらを警戒し、値踏みするそれは野生動物の瞳そのもので。だから僕は自然と理解した。この子達の、ボスなのだと。そして、同じ種族なのだろうけれど微妙な差異と大きさの違いに。この大蜥蜴が雄で、この子達は皆雌で。ハーレムなのだと。理解してしまった。どっと冷や汗が噴き出る。しゅるりと、舌を出し入れして。薄っすら見えた口の中は、ギザギザの歯が大量に並んでいて。人間の柔らかい肌など、簡単に引き千切れそうな感じであったから。どうしよう、どうしよう、どうしよう! 食べるどころか、食べられる。そう慌てた思考。身動きの取れない下半身。
 だが目の前の大蜥蜴こと、ボス蜥蜴さんは。僕を一瞥すると、先に寛いでいる妻達に危険がないと悟ったのか。土管の外を警戒するように、外に向いて。身をぺったり沈めたのだった。恐ろしさでびくびくしていたけれど、そういえば。街で、おばちゃんの飼っていた子は――もうお客さんの血肉になっているけれど――キャベツモドキとか野菜ばかり食べていたから。もしかして、こんな見るからに肉を食べますみたいな見た目をしていて。この子も、草食なのだろうか。暫くその古傷だらけの雄の背を眺めて。
「えっと、僕が寝たら。その隙に食べたりしません、よね?」
 あっちへ向いたボス蜥蜴の後頭部。何となく、ついそんな言葉を投げかけていた。敬語で。当然返事なんてするわけもなく。いや、尻尾が鞭のように。不機嫌そうに土管だから丸みのある壁を叩いていたが。それだけで、お互い干渉するな。俺は寝る。みたいな不遜な態度であった。
 君達の旦那さんって、怖いね。寝袋に上半身も入れながら、小声で語り掛けるけれど。七匹の蜥蜴ちゃん達は、もう夢の中だった。どうやらこの寒さの中。焚火という思いもよらぬ暖が取れて。幸せらしい。こうして、身を寄せ合っても。体温が元々高くないのか、僕自体は温かくもなんともなくて。この子達は、この人間温い温いと、逆に利用されていた。
 ただそれで文句を言うつもりはなく、どこか寂しさを紛らわしてくれる突然の来訪者に。僕は嬉しい気持ちが抑えられなくて。三日ぶりに、安心したのか。まだ焚火は燃えているというのに、火の管理は僕がしないといけないとわかっていつつも。襲い来る睡魔にうつらうつらとしているなって、自覚したものの数秒後には。意識を途絶えさせようとしていた。燃え移らないように拾った石や煉瓦で簡易的な囲いを作っておいたから大丈夫だとは思うのだが。ああ、眠いや。最近の寝不足が祟った。久しぶりに、安眠できそう。ボス蜥蜴さんが外を見張ってくれていると思うと深く落ちていく意識の度合いは、かなりのもので。夢すら割り込む隙がなかった。
 ふっと急速に浮上する意識。勢いよく身を起こして、自分が無事かどうか確認するようにして。隣でお腹を見せて寝ている蜥蜴さんに苦笑いする。本当に、警戒心がない。旦那さんは気苦労が絶えなさそうだなって。そういえば、ボス蜥蜴さんはどこだろう。
 大きな土管とはいえ僕が立ち上がると頭をぶつけそうになる、そんな中に人間一人と中型犬サイズの蜥蜴さんが七匹。大型犬サイズのボス蜥蜴さんがぎゅぎゅうに身を寄せ合ってるのだから。探す程というものでもなく、ただ首を反対に向けるだけで済んだ。のだが。
「キュ、キュッ」
 どこか苦しそうな鳴き声と、鱗同士が擦れているのか。しゅりしゅりと不思議な音がしていて。その音が聞こえる度に、ボス蜥蜴さんの腰が揺れて。尾に力が入っているのか反りあがっていた。ハーレムを形成する、妻達である蜥蜴さんが改めて数えてみると一匹足りない。不用意に群れから離れるなんて事をするだろうか。そんな疑問は、ボス蜥蜴さんの足の本数がいつの間にか倍に増えているのに気づいて。理由はその体躯の下に、一匹妻が隠れるようにして存在しているからだった。どうして、組み付かれているのか。その答えは、満足そうな息を吐きだしたボス蜥蜴さんが、のっそりと動き後ろに下がって。その際にずるりと、妻の尻尾のつけ根辺りから引き抜くように股の間で出現した赤黒い棒状の。一見内臓みたいなそれが。どこか、ガルシェのあれを思い出してしまうも。彼のと違って鱗みたいにゴツゴツというか、ボコボコしていて。棘まであったから。どうしてだか、それを見たせいで額を押さえた。
 ああ、朝からお盛んですね。冬なのに、急に体温が上がって繁殖欲が刺激されたのでしょうか。できるなら、人間が居ない場所でシて欲しかったです。空気に触れたからか、ちょっと変な臭いがする。もしも、アドトパに着いていったらその、妻として。男であるが、そんな役割を求められたりしたのだろうか。無理だ、お尻が壊れてしまう。とても丁寧に抱かれそうな予感がしたが、入らないものは入らない。釘バットみたいな、あんなもの。変な思考に流れかけたから心を無にして、寝袋を畳み。広げていた少ない荷物をリュックサックに詰め込んでいると、背後に気配を感じた。何だろう、振り返ると。あたかも今まで人間を居ないものとして扱っていたボス蜥蜴さんの顔が至近距離にあって。しゅる、細長い舌が鼻筋に触れそうだった。動揺に、手に持っていたコップを落としてしまう。
 六つある足の内、後ろ足と尻尾を使い蜥蜴なのに直立していて。そのせいでいくら大きいとはいえ、本来僕と視線の高さが合う筈がないのに。残りの前足、中足をこちらに向けると。よたよたと、やはり骨格からして二足歩行には適さないのか。不器用に、もっと距離を詰めて。蜥蜴の鋭いかぎ爪がついた指先が、僕の服にひっかかるようにして捕まえてくる。鋭い視線に、遅まきながら食われると感じ。だが逃げようとしても遅く、そのままだんだんと体重を掛けられ仰向けに押し倒されようとしていた。そう、食われる。
 股間からにょきにょき生えてきた、もう用事が済んで収納された筈のアレが。食われるの意味合いを変えて。ちょ、ちょっと、なんで。朝から大パニックになった僕はばたばたと大慌て。そのせいで、未だに寝ていたボス蜥蜴の妻達が飛び起きる。そこからは完全に修羅場と言えた。一匹はまだ余韻が抜けないのか、意味ありげに痙攣しながら伸びていて。残りの六匹は、旦那であるボス蜥蜴に抗議しているのか威嚇めいた鳴き声をあげ。唯我独尊のボス蜥蜴は、妻の目があろうとも熱烈なアプローチを僕へと仕掛け続けるのだから。無論、ハーレムに加わる気のない僕の本気の抵抗に。最終的にはボス蜥蜴さんが折れてくれたのだが。
 もしかして、ついガルシェのあれを思い出して。例の発情臭を振りまいてしまったのだろうかと、妻達に睨まれているのに知らんぷりしているボス蜥蜴の後ろ姿を見つめる。誘惑したのは、僕。なわけないよね。未遂に終わって良かった。本当に。というか、こうやってあの街でレイプされたりする可能性もあったのだろうか。裏通り、よく普通に歩いてたな、僕。過去の自分が恐ろしい。
 次の場所へ移動するのか、六足蜥蜴さん達とそのタイミングですんなりと別れた。言葉は通じないながらも、お前もこないのかって。そんなボス蜥蜴さんの雰囲気が感じられたとしても、僕が一緒に居ても不都合が多いだろう。それに、ハーレムは嫌です。
 四日目。歩きながら自分の多くない持ち物を頭の中で振り返り。このままいけば順調に食料が尽きるなって考えるのだが。でもそれで危機感とか、焦燥感を抱いたりはしなかった。だってこれは、ある意味。緩やかな自殺めいていたから。僕という何のサバイバル知識も、経験もない人間が。この過酷な世界で生き抜けるだなんて、最初から思っていない。でもあの街から出ていく理由と、必要に迫られて。僕はとても簡単に、自分の命を天秤に乗せようとして。乗せる前に、捨てたのだった。
 遠くで銃声がして、素早く身をかがめる。条件反射的に取った行動だが、街を出たくせに別に自分から望んで死にたいわけではない。痛いのはもちろん嫌だし。でもこうやって自分を追い込んで、一人になって。そうして。どうするのだろうと、した後で途方に暮れる。まだ銃声はしていて、音の違いから。どうやら誰かが争いあってるのか。抗争めいていると思ったから、双眼鏡を取り出し。物陰に身を潜めながら、音の発生源を確かめる。遠くで見えたのは、どうやら人間と、獣の顔をした人間みたいな生き物が争っているらしい。一人、レプリカントの人が凶弾で倒れ。肉薄された人間側が一瞬で壁の染みになった。ユートピアから離れれば離れる程。争いあう場面に出会う頻度は増えているように思えた。僕が向かった先は森でも、都市部でも、クレーターでもなく。フォードがあるであろう方向で。だが簡単に道に迷って、いまはどれだけ本来の道からそれてしまったのだろうか。ちゃんとした道という道も、なかったが。たまに旅の人が使ったであろう、休憩所として利用されている廃墟とかは見かけたりするのだが。冬、というのもあるのか。行商人に会ったりもしない。それだけ僕が皆が通る道ではなく、てんで違う方向へ進んだのかなって。それも、今ではどうでもよく。行けるところまで行って、それで。ルオネとの約束は果たせそうにないなって残念に思う。せっかくああ言ってくれたのにだ。また、裏切ろうとしていた。目覚めてから、誰かを裏切り続けるしかできないのだろうか。
 争いあってる人達に見つからない内に、どちらが勝者になるかなんて見届ける気もなかったから。さっさと、また迂回路を探して。五日、六日とどんどん日数だけが過ぎて。自分の汚れた身体、髪もぼさぼさで。服も泥だらけ。肌もだんだん、浅黒く。嗅ぐと自分のにおいなのに臭い。当然だ、お風呂なんて入る余裕はなく。見つけた水源に長く留まると危険であるし、凍りそうなぐらいに冷え切った冬の川なんて入ったら凍死する。そういえば、ちょっと痩せただろうか。鏡でもあれば、自分のやつれつつあるであろう顔を見れるのに。
 こうして、一人で歩き続けていると。別に悪い事ばかりではない。最初はとても重く感じていたリュックサックが、日に日に軽くなっているのだから。背負うのが楽だ。別に急速に僕の肉体が鍛えられているわけではない。入っていた水と食料を消費したからだった。
 歩いていると、不意に眩暈がして。近くにあった崩れた柱にもたれかかる。おかしいな、どんどん疲れやすくなっている気がする。ここどこだろう。もう、それを気にする気力もなく。ただ何かに突き動かされるようにして、また歩きだすのだけど。どこまで行けて、どこに行くの。
 旅を続けていて。というより、彷徨い続けて奇跡的に親切な人に出会って、大変だったでしょう、どうしてこんなところにいるのとか。そんな冒険家みたな出会いなんて都合よくある筈もなく。あるがまま、なすがまま。あの街から誰かが追いかけてきたりもしない。それを期待なんて。どうだろうか、わからない。どうしてか、ガカイドの顔が思い浮かんだ。幸せになるって、僕に宣言したあの赤茶狼を。次に思い浮かんだのは市長さん、灰狼の気難しい顔。本当は僕が出ていくのに反対だったのだろうか。息子さんとちゃんと話し合う機会を、頭ごなしに言わずに。僕に接するみたいに。そして、街を出る手伝いをお願いした。それだけだ、お願いしたのはそれだけ。それで、あの人が悲しそうにしながら。貴方には借りがありますから。わかりましたと言うのだから。次に、ガルシェの。置いてきた。あの人の顔。今頃、本当の恋を見つける為に動いているだろうか。あの人間、本当にかってな奴だと怒って。それとも、まだ僕がいなくなったショックで。家に引きこもっているだろうか。布団の中で丸まり、きゅーんきゅーんと子犬のように泣いてたりなんてして。なんとなく後者かなって。彼には、酷い事をしてしまったと思う。でもこれ以外の術が僕には残されていなくて。
 上半身だけ前に前にと行こうとして、足は小さな小石につまずき、転んでしまう。小石があるなって考え事しながら気づいていたのにだ。どうやら、自分が思っていた以上に足が上がっていなかったらしい。お爺さんの気持ちが何となくわかった気がする。起きあがらないと。でもなんだか、疲れたなって。このまま寝てしまおうか。でもそうすると、道の真ん中でそんな事すればそれこそ本当に凍死しそう。せめて、建物に入らないと。しょうがないな。しんどい身体に鞭を打ち、起き上がり。手ごろな建物がないかなって探す。どうやらここは小さな町の跡のようで。殆どが崩れてしまっている。土埃と草木の浸食が酷い。そういえばあまり気にしていなかったが、地面のアスファルトの割合が増えた気がする。ユートピア周辺は荒野だし、都市部はコンクリートのジャングルだけれど。アスファルトのヒビから伸びた木が逞しいものだった。歩いているとブランコを見つけた。残念ながら鎖は千切れ、今はもう板に座るのも難しい。破損した遊具もあるし、元は公園かな。隙間風をどうしてか足の指から感じ、足元を見てみると。ブーツがぱっくりと先の部分だけだが、靴底と分離しかけていた。このままでは裸足で歩くはめになるのも時間の問題だなと。屈み、傷んで僕の身なりと一緒で。ぼろぼろになってしまったブーツ、労わるようにその側面を撫でる。今まで、ありがとう。そんな気持ちであった。あの銀狼と大きさは違えど、お揃いだったのに。せっかく、彼が僕のために用意してくれたのに。今着ている服も、最初彼が用意してくれたもので。自分で後から買ったのは全部処分したのだから。
 せめてもの、彼との思い出に浸れる品々まで。僕の手元からなくなっていくんだなって。そこで、あまり崩れていない建物が目に入って。どこか特徴的な構造物であったから。警戒もせず近づいて、木製の両開きの扉であったが。片方の扉は蝶番が壊れ倒れているから、苦労せず入れた。所々ひび割れているけれど、大理石の床。横長の椅子が均等に並んでいて。建物の真ん中だけ道のように真っすぐ開けているから、そこを通りながら。散乱している色がついたガラス。元はステンドグラスであろうか。そして僕を出迎えたのは、半分は予想通り。半分は、予想外。女神像、だったもの。フード付きのマントのような恰好と、両手は祈るように胸元で添えらていて。でも頭の部分は砕けて、首無しの像だったから。瓦礫が足元に散乱しており、見上げると丁度像のある天井部分が崩れて空が見えた。教会跡地、なのだろう。もう誰も祈りにこなくなった。
 女神様。貴方も、こんなところで、独りぼっちなんですね。
 ずいぶん軽くなったリュックサックを床に置き、首のない像の前に跪く。なんだか、もう動くのも億劫になったというのもあったが。誰かに聞いてほしかったのだと思う。ずっと言えなかった、ガルシェにすら。黙っていた事を。
 別に信仰心とか全くないのだが。自然と、目の前の像と同じように。手を合わせていた。貴方になら。貴方なら、聞いてくれますか。そんな心境で、声を出そうとして。出なかった。そういえば、最後に声を出したのは。あの六足蜥蜴達と別れてそれきりだったのを思い出す。考え事をして、わざわざ声に出してしまうのも。どこで脅威になる相手が聞いてるとも限らないのだから、あまり無闇に音を立てるのも憚られたのだった。そのせいで喉が張り付いたように、唾液も。少ない。唇もかさついてしまっていた。でもそれで良かった。もう歩くのにも疲れたから。とても、疲れたから。
 僕は、都市部の廃墟で目覚めた。自分という決定的な、自己を認識する記憶を損失しながら、どうしてか人の文明が栄えた時代の記憶があるのに。目の前に広がるのは、文明が滅んだ後のようであり。そして、僕を拾ったのは異質な、狼の頭をした人間で。
 異質なのはどちらかというと僕の方なのだと理解するのに、そう時間は要しなかった。この世界は、人と、機械と、動物の顔をした人が。争い合う。少ない生存権を奪い合う、そんな星に成り果ててしまった。
 ある筈の記憶を探して。自分という存在を求めて。肯定したかった。されたかった。でもどれだけ認められようと、常に自分が、自分自身が否定し続ける。レプリカントと呼称される、動物の顔をした。人間達と共に暮らしたこれまでを。出たいわけではなかった。離れたいわけではなかった。否定し続けていた。自分という存在を、自分がいったい何者か。
 僕は。僕はきっと。都市部で見た、人間の死体。成りそこない達。一番判別ができる、大きな試験管の中に眠るように浮いている、僕と全く同じ顔をした。それ。人間だ。人間だと、言い張りたかった。僕は彼らと違う、人間だからと。でも、もしも。人間ですらないとしたら?
 レプリカント。人造人間。人型のロボット、人間を模した機械。人工生命体。出自は少し違うのかもしれない、けれど。元をたどれば。きっと人間が過去に生みだした存在なのであろう。レプリカントの人達は。そして機械が彼らの姿に擬態し、街の中に侵入し溶け込もうと画策し。僕の目の前で破壊されるのを目の当たりにして、だからこそ。自分達をレプリカントと名乗る彼らが、そんな機械をその手で壊すのに強い違和感を感じて。僕もまた、何かの模造品であったのか。都市部で見た自分と瓜二つの死体達。
 ずっと、疑問だった。ずっと不思議だった。どうして過去であろう、文明の記憶があるのか。どうして、その記憶をまるで映像でも見てるようで、他人事に感じていたのか。それが、何者かの手によって。植え付けられたものだとしたら? 記憶喪失ではなく、それ以外の記憶が元からないとしたら? これは、あの都市部で見た。ヘッドギアで頭部を焼かれた死体や、肉片。もう一人の僕の死体という、状況証拠から組み立てた推測でしかなく。違うのか、正しいのか、答えをくれる存在は、こうして一人になっても未だに現れやしない。
 答えが欲しかった。僕が、誰か。それだけが知りたくて、知りたくてたまらなかったのに。誰でもない、誰かの代わりでしかない。僕もまた、レプリカントだったなんて。蓋を開けてみれば、真実なんて、思ったよりも本当にくだらないものだったのだろうか。
 ガルシェと初めて会った時。手首を彼の爪で怪我をして。街の中で、ガカイドの爪で頬を裂かれて。そうやって、身体の中から溢れ出た血は。赤い筈のそれは。
 驚く程に、白かったのだ。
 最初から、答えなんて僕は持っていた。自分が普通の、人間ではないのなんて。知っていた。わかっていた。だから、街に入る時。ゲートで、検査機を向けられて。それが鳴り響き、兵隊に射殺されるのを恐れた。僕も機械なんじゃないかって。
 でも鳴らない装置と、どうしてか通れてしまった検問。否定していた、自己を。目を逸らし続けていた。自分から。死にたくない。自分がちゃんとした生き物なのかもわからないまま、生存本能だけは存在していて。とても、原始的な。生きたいという衝動。
 血は、赤いものだ。だから液体としか、表現できない。自分の真っ白な血。銀狼を騙しながら。友達を騙しながら、街の人々を騙しながら。仲良くなる程、辛かった。言えなかった。自分が何か、知られた瞬間。手のひらを反すように、今まで仲良くしてくれていた人まで、牙を剥くんじゃないかって。その人を好きになればなる程、怖かった。街に居てはいけないと感じつつも、少しずつ彼らとかかわって、暮らして。笑いあって。その笑顔の裏で、苦しかった。自分に甘かった。もしも、機械の手先で。僕は何かの端末で、ただ居るだけで情報を送っていたりしたら。街の人達に危害が及ぶのではないか。でも、そうはならなくて。平穏に安心していた。違うんだって。
 だというのに、フォード襲撃の知らせ。自分の中で膨れ上がる焦燥感。次はこの街だと言われているようで、今すぐに逃げ出さないといけないのに。離れがたい程、僕は好きになっていた。好きになってしまった。遅かったんだ。何もかも自分だけが良くて、他人などどうでもよくて。逃げるには、もう。最後に罪滅ぼしにと、ずっと嘘を吐いていて。自分にも何かできないかと思い。ガカイドを利用して、それで手痛いしっぺ返しをくらい。首にはまだ消えぬ窪み。牙の痕。でもその時に流れた血は赤くて。そして、少なくない人達が。まず初めに、ガルシェが。僕の白い血を見ていたのに、どうして見過ごしたのか。その疑問は、彼らの目にあった。
 動物の生態を色濃く残す彼らだったから。きっと、彼らは赤色が判別できない。暗闇でも光を増幅するタペータムと呼ばれる目の中に備わった器官。対して、色に関しては。赤は暗めの灰色に見えると言われている。僕達人間、僕も含めるのはもう違うのかもしれないが。人は、三色型色覚である。そして、夜行性の動物に多く見られる特徴として、二色型色覚。ガルシェ達もきっとそうなのであろう。学校の図書室にあった身体の仕組みとか、書かれた本に。そう記載されていた。
 ――そりゃ、生き物の血って。俺も含め皆赤いんだろ。
 僕が自分の白いと思っていた血が、どうしてか赤く変わっていて。生きてる、生き物としての実感がようやく感じられて。つい状況を忘れて、笑ってしまって。それを見たガカイドが気持ち悪いと言っていた。だから血って赤いんだなって、素直な感想に。まるで他人事みたいに、人から聞いたみたいに、自分はそう見えていないかのように。彼が言うのだから、それがまた答えだった。
 それはそうだ。普通に僕と同じように見えていたなら。あの時。廃墟から森へと連れられた時に。ガルシェの手によって、殺されて。壊されていただろうか。半年の間にどうして色が変わったのか。人工血液から、徐々に変わったのか。生き物の身体、細胞は少しずつ入れ替わっている。それが新陳代謝と言われたりするのだが。肌は一ヵ月程で、血液はどれくらいだろうか。それとも、変化したのか。
 自分の血が赤いと知って、より覚悟を決めたのだ。迷惑をかけてしまった街の人々に、僕を使おうって。そうやって一つ一つ罪を抱えたまま、清算するように。消えもしないのに、自分の自己満足で。それで、ガカイドは片耳を失い。レリーベさんは背中に深い傷を。ガルシェだって、足を怪我して。
 何をしたかったのだろうか。何を。今ではもう、本当によくわからなかった。あの銀狼が番を得る権利を獲得して。ほんの少しでも、親子の絆を取り戻してあげたくて。何が、できたのだろうか。したつもりにだけなって。だから今。こんなざまになっているのだった。
 街から少しでも早く出るべきだった。フォードの二の舞だけは、避けたかった。僕という危険な存在を、いつまでも野放しにはしておけない。それは、自分自身が一番強く感じていて。真相を知った人が居れば、遅すぎると後ろ指をさされるかもしれない。どれだけ自分が罪深いか。それでもだ、僕は。居たかった。居てもいいよって。言って欲しかった、好かれたかった。愛して欲しかった。この世界で、独りぼっちは嫌だよ。嫌なのに。どうして、一人にならなければいけないのか。ねえ、どうして?
 居たかったよ。可能なら、ずっと。居たかったよ。許してよ。許さないで。こんな僕を。
 彼の傍に、ただ居たかったよ。それすら、望んではいけないと言うのか。僕は、なら、何のために。ずっと頑張ってきたの。
 人は、頑張ったら頑張った分だけ。報われるべきだと思う。でも物事はどこまでも、いっそ残酷なぐらい、平等ではない。どれだけ努力しても、叶わない夢や、願いだってある。だから、報われないのは。まだ自分の頑張りが足りないんだって。そう、言い訳を重ねながら。諦めるその時まで、足掻き続けるんだ。足掻いた先で、何かがあると信じて。報われるその時を、祈って。
 だから僕は。頑張れていない。頑張っていない。もしも、頑張ったな、そう言う人がまだ居るのなら。聞きたかった、ならどうして。僕は、頑張れたなら。頑張ったと思われる程何かができたなら。どうしてこんなにも、何もかも捨てなきゃいけなかったの。誰か、答えてよ。ねえ。
 ううん。わかってる。どれだけ綺麗事を並べても。この感情も八つ当たりみたいなものだって。本当はわかっているんだ。だって物事は平等ではない。平等ではないからこそ、その人にとっての特別があるんだ。失いたくない、特別が。僕にとっての特別。それは、彼との。ガルシェとの何げない日常だった。共に笑って、怒って、悲しんで。そんな普通が、何よりも僕にとっての特別だった。どこまでも眩しい、自分のものにならない。指を咥えて羨むしかない。そんな、たまたま一時的に手元に転がってきたそれが。胸が引き裂かれそうになるぐらい、辛くて、悲しいのに。それでも一緒に居たいと願い。誰よりも、一番、それをしちゃけないと言うのは。僕だった。
 市長さんも、周りの皆も、もっと拒絶して、遠ざけて。優しくしないでよ。僕なんかに。最後には捨てなきゃいけない、そんな特別。なら最初から欲しくはなかったよ。ただただ、苦しくて、空虚になって。空っぽになっていく僕の中身。僕は誰かになれなかった、僕にすらなれなかった。
 愛すれば愛する程に、愛されたくなる。誰かを好きになるって、どんどんその人に対してわがままになるんだって思った。もっと僕を見て、触れて。肥大していく醜い感情。愛して欲しい、好きって言って欲しい。渇望するそれらが、一番求めてはいけない相手で、求めてはいけない僕の立場であって。ガルシェは僕と出会って後悔していないと言ってくれたけれど。
 好きなのに、好きで好きでたまらないのに。それなのに、愛してくれなくて。手を取ってくれなくて。選んでくれないのに。友達の延長線上。執着心はあれど、好きの形が違っていて。初めての性的な相手だから勘違いしたのかなって。確かめたくなる、確かめるのが怖い。だから、自分で答えを見つけて欲しかった。僕が出ていくまでに。そうして欲しかった。
 でも、彼にとって僕の。僕が重要に感じている部分なんて関係なくて。どうでもよくて。ただ今の楽しいだけを見ているのだから。出会った事は幸福だったのかもしれない。けれどそれと同じぐらい、それ以上に。不幸になってしまったよ。ガルシェ。こんな気持ちになるなら、好きになんてなりたくなかった。頑張ったなって言うのなら。どうして報われないの。
 いつからだろう。いったいいつだっただろう。こんなにも、欲張りに。欲ばかり。自分の醜さに、うんざりしてしまう。それで満足していればいいのに。どれだけ愛しても、愛しても、愛しても。愛されない事に、それでいいって。言っていればいいのに。僕を、選ばないで。
「ひぐっ、あぁ……うくっ。会いたい。会いたいよ」
 嗚咽が、隠したいのに本音が。ここには誰もいないから、女神様も、今は首がなくて。こんな奴を見てはいないだろうから。どこまでも惨めに、泣いても、いいだろうか。あの街から逃げてきたくせに。自分でそうしたくせに、浅ましい。本当に浅ましい。卑しい、僕を曝け出しても。会いたいよ。ガルシェ。でも一緒にはいられない。いては、いけない。お父さんが駄目だと言う前から、運命は交わらないと知っていた。
 ――本当に、人間って、嘘つきなんだな。においも、言葉も、嘘ばかりかよ。
 そうだね。それであってる。正解だよ、ガルシェ。僕はどこまでも、君に嘘を。だからかな。こんな人間が愛されるわけ、ないよね。嗚呼。本当に、疲れた。疲れ果ててしまった。身体も。心も。もう動くのがとても、億劫だ。寒い。寂しさで、より心が凍えていく。
 寒いよ。とても、寒い。独りぼっちは、こんなにも。寂しいんだね。誰もいない道を進み。たった一人で生き抜く力すらないのに。どうして、ここまで来てしまったのか。相談できたら、何かが変わったのだろうか。
 世界の色をちゃんと知っていると思っていたのに。君がいないだけで、こんなにもどうしようもなく色褪せて見えるのか。不思議だ。
 これ以上傷つきたくない。誰か、誰でもいい。早く。餓死でも、凍死でもなんでもいい。なんだっていい。僕を、いっそ殺してよ。楽になりたい。どうでもいい。どうしようもなく。
 ……もう、嫌だよ。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。 とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。 ========== 完結しました。ありがとうございました。

急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。

石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。 雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。 一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。 ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。 その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。 愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

好きだと伝えたい!!

えの
BL
俺には大好きな人がいる!毎日「好き」と告白してるのに、全然相手にしてもらえない!!でも、気にしない。最初からこの恋が実るとは思ってない。せめて別れが来るその日まで…。好きだと伝えたい。

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

偽物の僕は本物にはなれない。

15
BL
「僕は君を好きだけど、君は僕じゃない人が好きなんだね」 ネガティブ主人公。最後は分岐ルート有りのハピエン。

メランコリック・ハートビート

おしゃべりマドレーヌ
BL
【幼い頃から一途に受けを好きな騎士団団長】×【頭が良すぎて周りに嫌われてる第二王子】 ------------------------------------------------------ 『王様、それでは、褒章として、我が伴侶にエレノア様をください!』 あの男が、アベルが、そんな事を言わなければ、エレノアは生涯ひとりで過ごすつもりだったのだ。誰にも迷惑をかけずに、ちゃんとわきまえて暮らすつもりだったのに。 ------------------------------------------------------- 第二王子のエレノアは、アベルという騎士団団長と結婚する。そもそもアベルが戦で武功をあげた褒賞として、エレノアが欲しいと言ったせいなのだが、結婚してから一年。二人の間に身体の関係は無い。 幼いころからお互いを知っている二人がゆっくりと、両想いになる話。

処理中です...