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三章

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 目を開ければ、視界が毛皮に埋もれているのはいつもの光景。息をすれば、誰かのにおいがするのも。くっつきあって寝たからか、寝る前に掛けてくれた掛け布団はその銀狼が寝苦しいからと。どこかへ蹴とばしてしまったようだった。狼に覆われてない部分だけ、少し肌寒さが皮膚を撫ぜる。接してる部分は汗ばむほどだけれど。拘束された状態で腕だけ伸ばして、狼の頬をぺちぺちと叩くのもいつもの事。そうして、横に長く伸びた白い髭が安眠を妨害するなと応戦してくるのも。
 寝返りを打てなかったからか、身体のあちこちが凝り固まっている気がする。片方の腕は僕が枕にしているから、ガルシェも腕が痺れたりしていないのだろうか。力の入っていない筋肉は、思った以上に僕の頭を優しく受け止めてくれている。彼が穏やかに呼吸する度に上下する胸が、僕の顔に迫り。毛が鼻を擽って、くしゃみでもしそうだ。
 太腿に押し付けられた、元気なガルシェも。それも。いつもの、事。肌から伝わる感触から、悪さはしてないみたい。布は乾いたままだ。どちらかというと、僕の方が寝汗でちょっと蒸れている、かも。
 髭を引っ張ったりして、歯茎を露出させて遊んでいると。薄っすらと開いた瞼。金色の瞳が焦点を合わせぬまま。どこかを見ていた。起きたくないのか、むずがるように。突き出た口吻が僕の手を振り払ないながら。頭頂部へと擦り寄る。背にある腕が、より抱擁を強めて窮屈に。息苦しい。密着を増す、太腿にあるガルシェ。鼓動のような脈動を感じて。本当に、朝から元気だなと思っていると。そのまま急に身を起こした彼は。ベッドに座ると、向かい合わせで僕を膝に乗せた。頭が揺れているから、まだ覚醒しきっていないみたい。それでも、見下ろしくる狼は。一つ大欠伸をした後。
「おはよう」
 恒例となった言葉を、動物の口をしたそこから吐き出す。それに対して、素知らぬ顔で。僕も返事をする。お尻に当たる、棒状のは無視をして。なんか、前にもあったな。となると、次に彼が取る行動を以前起きた経験から予測し。よしこいと。後ろに転がる準備に身構えていると。
 彼も、自分が今どういった状態にあるのか。正しく理解したのだろう。ただ、パチパチとなんどか瞬きをした後。毛皮があるから頬を染めようと、正直わからないが。ちょっとだけ、恥ずかしそうに頭を傾げて。ただ、こちらに微笑むという。以前と違う反応をしていた。前は、僕に押し付けている事に気づいた彼は。慌てて立ち上がると、治まるまでトイレに籠っていたのに。発情期で、そういう触れあいをして。彼の中で吹っ切れたのだろうか。確かに、恥ずかしい所はお互い裸で。だいたい見てしまったと言えるけれど。実際に、彼のに手で触れてもいたし。
 ただ、てっきりベッドに転がると思っていた僕は。肩透かしを食らってしまって。不思議に、狼の顔を見上げてしまう。見つめていると、多少は恥じらいがあるのか。細かい表情は大きく表情筋を動かしてくれないと。動物の顔はこれまた被毛が、わかり辛くするのだが。ただ、耳が落ち着きがなく揺れてるから。そうなのだろうなって、かってに思った。
「ガルシェ、今日は仕事?」
「いや、季節外れの発情期になったから。大事を取って、もう少し休んでろって言われた」
 昨日、明日の予定を聞くのを忘れていたから。確認に、このような状況にあっても冷静に質問していた。僕も、ガルシェも、表面上は何食わぬ顔で。まだ萎えないな、お尻に当たってるの。でも、そうか。季節の一定期間だけでしか、そういう理性を損なうような状態になるのだとしたら。全然違う季節になったとしたら、病気とか疑われてしまうのか。我慢し過ぎとストレスで、倒れたから。ある意味病気で、僕も治療という側面が一番気持ち的に近くて。接していたけれど。
「じゃあ、今日もゆっくりするんだね。断水してから、家でする事がなくて暇だから。話し相手が居てくれて丁度いいかも」
「そうか」
 実際。暇であった。不用意に、すぐ近くとはいえ。レプリカントの子供達が遊ぶ広場に散歩に行く程度には。話し相手と言っても。ガルシェは必要な事以外は基本、手短に会話を終わらせてしまうから。こういう、時間を潰すという意味では。ガカイドとかの方が適している気がする。今も、三文字だけ言い放つと。それきり会話は止まってしまったし。必要以上に喋らないだけで、愛想がないわけではないが。
 彼の手が、持ち上がると。頬へと、慎重に触れてくる。僕が爪を切って、攻撃力を落とした人外の指先。結構遠慮なく、ガルシェの頬を起こす為であったり。毛皮を触りたいだけであったりで、触りまくってるから。こういった彼からの接触には、あまり抵抗はしなかった。急に嗅がれたりとかは別だけれど。人同士であれば、スキンシップとしてまだありだ。
「痛くないか」
「うん。大丈夫」
 彼は訊ねながらなんども、頬の同じところを指先で撫でるから。どうして、いまさらそう聞いてくるのかなって。考えて。そういえば、以前故意にした訳ではないけれど。ガカイドの爪で軽く裂かれた部位は、ちょうど今。ガルシェが撫でている場所だなって、思い出した。あの時から、彼らの爪に。恐怖心を抱くようになってしまったけれど。例え爪が伸びていようと、この銀狼のだけはそこまで怖くはなかったなと思う。傷を作った回数で言えば、頬よりももっと。服で隠れるような別の場所ではあったが。たぶんガルシェのが多いと思うけど。不思議。
 彼の手のひらには肉球があって、そこだけ毛が生えていないから。頬をムニって押してくるのが、なんだか面白い。そこだけ、ちょっとだけ違う匂いがするし。なんだか香ばしいような。そういえば、動物でもここだけは汗を掻くんだっけ。肉球がある手のひらと、足の裏だけ汗を掻くのなら。何だかそれはそれで。人間と比べてそれも不思議だなって。
 上半身だけ裸体の相手を視界に入れながら。胸元にそっと手を這わすと、指先全部が豊かな毛に埋もれた。これは櫛の入れ甲斐がありそう。首の後ろから背中にかけてしかしてないから、やっぱり前もしたいな。でも人相手に前を他人がするのは、セクハラに当たるだろうか。今こうして、手を入れているのもわりかしダメな気もするけど。ガルシェは僕が触れる事に怒らないのを良い事に、ついやってしまう。もう少し気をつけた方が良いだろうか。そう思いながら頬を好きに揉まれていると。
「その、な。今日も休みだから」
 妙に歯切れの悪い。男の声がして。自然と閉じていた目を開ける。どうしたのだろうと、様子を窺っていると。落ち着きがないなと思っていた耳が、今では倒れてしまって。眉尻も下がってどこか、申し訳なさそうな。恥じらってるとも、困ってるとも。なんだか、罪を告白しようとする。子供みたいだなとか、そんな感想を抱いていると。狼の表情は、だんだんと。わかれよとばかりに、歯茎を少し見せて。怒り顔。
 湿った鼻が、どこか赤い気がする。血流がとても良さそう。今なお、お尻に当たってる彼のが一番血流が良いのだろうけど。
「ああもう! お風呂っ、一緒に入って、くれ……」
 ちょっと叫んだら、語気を強めて。でも最後の方は消え入りそうな、彼の言葉を。ゆっくりと脳内で噛み締めていた。断水してお風呂は使えないのに。それに、風呂嫌いな彼からそんな言葉が自ら出てくるとは思っていなくて、驚きだ。水が使えたなら、感動すらしていただろう。突然どうしたのだろうか、この銀狼は。頭でも打っただろうか。それとも、僕が起こそうと頬を叩き過ぎただろうか。いや、それ程強く叩いていない。ならどうして。
 予期していない事態に、大男の膝上で戦々恐々と狼狽えていると。ごりっ。そうお尻に故意に押し付けられる、物体。僕の腰を、両手で保持したガルシェが。自身の腰を軽く前へと揺らしたから、それは起きたのだった。それをすると、朝の生理現象でとても元気になっているブツが。それはもう強調されるわけで。
 僕は、ただ。あー、と。間延びした声を出して、朝一から睨んで来る狼から顔を背けた。狼が人に何を求めているか、わかりたくないけれど。わかってしまった。わかりたくなかったけれど。
 どうして、その場所を指定したのかだいたい見当はついている。フローリングを汚しに汚したさい、彼にも拭くのを手伝わしたから。たぶんそれで反省ないにしろ、めんどくさいと感じたのだろう。恐らく後者だろうけれど。ただ疑問なのは。発情期は終わったのに。何故? その一言に尽きるだろう。もう終わったと、堕落した日常から抜け出したと。手放しで喜んでいたのに。どうして、今。彼は僕に、それを求めているのだろうか。迫る狼の顔が、唸ってて。怖い。思わず背が仰け反る。
「発情期、終わったんでしょ」
 きっぱりと、冷たくも聞こえるだけろうけれど言い放つと。睨んでいた獣の目が、丸く変わって。勢いを失くす。僕の言葉を聞いた途端に。体格の良い男が怒られた子供のように、しゅんとしてしまった。なんだか、こちらが悪いみたいで。罪悪感を誘うからその反応は止めて欲しいのだが。
 二、三日に一度。僕が来る前は自慰行動をしていたらしいから。ちょうど彼の中で、ムラムラしたのだろうか。だからと、僕を巻き込まないで欲しいのだが。手伝うというのは、発情期限定の特別事例だ。いつでもとは言っていないし、言った時も。別に、彼のを直接とは言ってなかったのに。だから、当初の思惑通り。もしそういうふうな気分に、彼がなったとしたら。僕が少し家から出て。一人になれる時間を作るとかそういった事に協力しようと思う。するから、暫く出てってと同居人にお願いするのは。とても恥ずかしく思うだろうとは、僕も理解できるけれど。
「えっと、ちょっと散歩に行きたくなったから。僕一人で出かけてこようか?」
 だから、僕からそう切り出していた。いまさら濁したって、遅すぎる気がしたけれど。彼の名誉の為でもあった。だいぶ、理性的な今。やはり恥じらいの方が勝つのか。今は先程言った自分の発言すら、恥じている様子であった。僕の言った事に、露骨に肩を跳ねさせて反応していたし。上目遣いに、相手を睨むなんて。器用だな。きっとガルシェが人間だったら。顔が茹でたタコのようになってるだろうか。タコ、この街で見た事ないから通じるかは謎であったが。
「それに、洗えないから。また汚れるのは、その。嫌、かなって」
 彼のは、その。とても、大量に出すから。それで毎回僕の身体は、ガルシェのでべとべとに汚されてしまうし。それが正直な気持ちだった。百歩譲って、お風呂場が正しく使えていたら。強く押し切られた場合、僕も断れなかったかもしれない。もう何回か、彼とそういう事をしてしまって。抵抗感が薄れているから。いけない兆候だった。
 目線を逸らしたまま、そう言うと。ガルシェはこちらを見つめて。一分ぐらい黙ってたと思う。何を考えているか、まるでわからない。発情期が終わったのに、欲望をまた向けてくる男が、わからない。
「いや、いい。ルルシャの考えはわかった。一人で、する」
 納得したのか。そう平坦な声音で男が言い切る。僕の脇に手を差し込むと、軽く彼の膝上から持ち上げられて。ベッドの上へと降ろされる。苦虫を嚙みつぶしたような、狼の珍しい表情を見上げていると。そのまま彼は、ベッドから抜け出して。そのまま、お風呂場の方へと歩きだした。落胆したように、ジーンズの後ろに開けられた尻尾穴。そこから垂れた毛の束は、どこか悲壮感を漂わせる。だから、罪悪感を誘うから。やめて。居間と隔てる扉、ドアノブに手を掛けた段階で。こちらをちらりと、一瞥した銀狼。そんな姿もすぐに。脱衣所へと消えた。
 彼が見えなくなって、溜めていた息を吐いた。いつの間にか緊張していたらしい。なにに?
 耳を澄ませると、脱衣所の方から。小さな金属音。たぶん、ベルトのバックルだろうか。今からする為に、脱いでいるのだろう。着たまましたら洗濯物が増えるし。ガルシェがするって、考えると。意識すると、ドキドキしてくる。もっと目の前で、直接見たのに。見えないと、想像を膨らませてしまって。暫くすると、彼の乱れた息遣いだとか。何かを擦りあげる物音だとか。聞こえて来やしないかと、かってに焦ってしまう。自分からしないって、断ったのにだ。それに、今隣に彼が居なくて良かった。きっと、今。嗅覚の良いガルシェが居たとすれば、人が発情したにおいって奴を嗅ぎ取られてしまっていただろう。自分ではわからないけれど。もし僕がそんな状態になってるとバレたら、強制的にお風呂場に連れて行かれそうだ。お前もその気だし、良いだろって。そんな理由で。
 意識の端に追いやろうとすれば、余計。僕のが反応してしまっている。男で興奮する趣味はなかったのに。好きな人が、今。見えないようにしているって考えると。劣情を誘う。人間って、見えない方が想像力からエロティズムを感じるとは誰が言ったか。僕はわりかし、余計な事ばかり考える癖があるから。だめだ、朝ご飯でも作って気を紛らわせなければ。帰って来た時にバレてしまう。
 幸い、生殖方法が顔と同じで犬科に準ずる彼は。一回が長めだから、時間的猶予はあるだろうか。よしと、僕も遅れて腰を上げると。ベッドから抜け出して。先ずはガルシェが向かった方とは逆側の壁に近づいて。そこにある扉に触れた。中を覗いて、この街では見上げてばかり居る僕が。唯一見下げてお話しする、相手に。二度目の挨拶。
「おはよう、アーサー」
「コケッー!」
 しゃがんで、目線を下げても。合わない背丈。それはそうだろう、目の前には雌鶏が元気よく僕を見上げているのだから。ちょっと大きいけれど、名前も女の子っぽくないけれど、文句は飼い主へ。なぜか数年一緒にいるガルシェよりも、会って半年ぐらいの僕の方に懐いてる謎が多いこの子。手を伸ばして、軽く背を撫でると。気持ちよさそうに身を震わせた。
「イイ子だねぇ、アーサー」
 声を掛けながら、彼女の寝床を見れば。毎日必ず産んでいる、無精卵の卵。これも身体の大きさに合わせてか、大きめ。おかげで半分こしてガルシェと食べているのだけれど。僕が来る前は、全部独り占めしていたのに。そういえばそういった不満を、彼は言った事がなかった。
 家主が気を遣って言わないようにしているのだろうか。良かった、僕も不満を口にしなくて。面の皮厚く、そんな事言うような人にはなりたくはないから。より良い共同生活、甘えすぎも良くないと。再度考えを改めて。今日も彼女からの恵みを受け取る。僕らの食生活を支える大事な、同居人。料理をする際に出た野菜の切り屑、大根の葉の部分とか。そういった物。キャベツとかはあまり良くないってガルシェが言ってた。主に鶏用の餌として穀物とか。そこに細かく砕いた卵の殻なんかもたまに混ぜたりするらしい。彼女の食事の調達は銀狼の役目なので、僕もあまり詳しくはない。だから彼女専用になっているこの部屋、棚にある袋から毎回器に移して終わり。後は人為的な砂場というトレイの掃除ぐらい。
 雄の鶏もいないし、別に日照時間も、気温も管理されていない。普通の部屋なのに。不思議と、アーサーは毎日決まった時間に卵を一個産む。本当に、謎な鶏である。後、見た目は普通に大きな鶏だから。鳴く事しかできないけれど、僕の予想だとかなり賢い、と思う。僕の言ってる事、理解してそうな素振りを見せるし。ガルシェが僕の注意を聞かない時、彼女を居間の方に放してお散歩させていると。果敢に蹴りに行くし。
 空中で羽ばたきながら、連続しての足さばきはそれはもう見事なものだ。散らかすなと僕に怒られ、ペットの鶏に攻撃され、ゴミとかを猫背にしてちゃんとゴミ箱に入れる姿は。本当に家主か疑わしくなる悲壮さだ。たまに読んだ書類とかテーブルの上に広げたままだったり、飲んだ瓶とか放置するし。初めてこの家に来た時、ゴミ屋敷であったから。それができあがる過程の片鱗だと思う。そんな彼の悪癖もちょっとずつ、直って来てるのだけれども実は。昨日とか、あまり心に余裕がなかったと思うのに。飲んだ酒瓶を玄関の方に持って行ってたし。纏めて外に出すから、普段仮置きで僕がそうしてるのを見て。同じようにしてくれたのだろうな。以前の彼なら、冷蔵庫の上とかに置きそうだ。それか煙草を吸うのに歩いていく途中、テーブルの上かそのまま床に転がしてそう。着ていたTシャツは、そこらに脱ぎ捨ててたけれど。あれはあれで、彼の言い分からすると。明日も着るしって事でソファーの近くに置いた感覚に近いのだと思う。
 もし、もしもだけれど。ずっと一人で暮らしていたなら。お父さんが帰ってこなくて、独りぼっちだったのなら。そういった親からされる躾けとか、なかったんじゃないだろうか。だから彼は、本当に家の中だとだらしがない。でも、外だと割とちゃんとしてるのは。アカデミーに通って。生きる為に、仕事をして。そうやって経験して得たからか。
 こうしてずっと接していると、どこかちぐはぐに感じる。彼の反応の答え合わせをしている気がした。大人びていたり、子供っぽいと感じたり、ガルシェという男が見せる表情や内面的な部分。これは、僕が彼とこれまで触れ合って感じた憶測でしかないのだけれど。断じるには、あまりにも彼という人物を知らなさ過ぎたのだった。
 考え事をしながらでも、手の動きに淀みがない。悪い方へばかり考えがちであるのが玉に瑕だが。わりと独りで居る事自体は苦痛ではないのかもしれない。自分の頭の中をいろいろな事で埋めれるのだから。
 朝食を作りながら、足元に寄って来たアーサーに危ないよと微笑みかける。ガルシェと彼女は、顔を合わすと喧嘩ばかりであったけれど。僕だけ一緒なら、本当に大人しい。この家に独り、と言ったけれど常に彼女がいるから。そこは訂正しなくちゃな。そんなに柔らかくない、この街の商業区で焼かれたらしいパンを切り分けて。もっと研究が進めば、いずれ柔らかくて甘い。記憶と遜色ないパンができるのだろうか。この街でも。
 僕が知らないだけで、外からやってくる行商人が持ってたりしないかな。それか、遠い、別の街で。そこには、レプリカントはいなくて。逆に人間ばかりで、僕がずっと。ずっと暮らしやすい。ガルシェがいない。そんな場所があるのだろうか。
「ルルシャ」
 呼ばれて、はっと顔を上げた。台所に立っている僕は、今考えていた狼の顔がそのまま喋ったように感じて。慌てて、声のした方向を探る。探さなくても、どこかなんて、彼が何をしていたか知っているのだから。一つだろうに。脱衣所へと続く扉、申し訳程度に開いたそこから。顔だけ出して、こちらの様子を窺っている男が居た。もうそんなに時間が経ってたのか。アーサーにご飯をあげて、掃除して。軽くじゃれつつ朝食を作っていたら、一時間ぐらいあっという間だった。用事が済んだら出てきたらいいのに、恥ずかしいのかな。入って行く時はわりと男らしく堂々としていたのに。よく言われる賢者タイムって奴だろうか。
「悪い、タオル、取ってくれるか」
 本当に申し訳なさそうな。声だった。水平になった耳がそれを訴えている。扉から顔しか出していないけど、チラッと見える彼の身体は。たぶんまだ裸だろうか。そういえば、拭く物を何も持って入らなかったなと思い返す。脱衣所に置いておいたストックも切れていただろうか。それは悪い事をした、家事は僕の担当だから。ないのなら僕のミスだ。
 待ってね、そう男へ一声掛けると。タンスに近寄り、服を入れている場所とは違う段から、予備を取り出す。これも、洗濯ができなければいずれ尽きてしまう。この家は衣服よりもこういった布の方が多いけれど。それも無尽蔵ではない。
 お風呂場の扉に近づくと、下の方から。ガルシェの手がぬっと出てくる。水気を含んで、手の甲側の毛皮が寝てしまっている。そんな手だった。肉球は言わずもがな。見えていない下半身はもっと凄そうだなとか。そんな感想を思っても、口には出さず。持って来た物を手渡すと、すぐに引っ込んでしまった。礼を狼が言うと、遅れてそんな獣の顔も中へと隠れてしまう。静かに閉じられる扉。
 拭くのにも時間かかるだろうから、テーブルに朝食を並べてたら。その内出てくるだろう。そう思って、離れようとすると。僅かに、鼻腔を擽る。雄臭さ。僕の眉がぴくりと反応したけれど。寄って来るアーサーが見えたから、何でもないよと。首を振った。彼が出てくるなら、喧嘩しないようにもうそろそろ部屋に戻ろうか。
 僕が来る前、彼は自分で処理していたのだから。できて当たり前だけれど。なんだか、安心した。こうやって、定期的に発散すれば。前みたいに倒れなくて済むだろうか。彼の課題は一応クリア。後は、僕の発情臭だけれど。これはやっぱり、そっちの方面をあまり考えないようにする。それしかなかった。銀狼がそう溜めなければ、あまり影響もなさそうではあるけれど。
 どうして、男の僕で反応するのだろうか。狼の雌に近いとか、そんな事はない筈だけれど。自分で腕を嗅いでみても、やっぱり人間の鼻ではわからない。フェロモンとかそういった部分、あるにはあるけど。どういったにおいかまで判別できるような嗅覚は退化してしまったし。
 思ったよりは早く、ジーンズを履いてきっちりベルトのバックルも閉めた。いつも通りのラフな格好のガルシェがお風呂場から出て来た。目をあまり合わせたがらないのは。同じ男でもあるし、察して然るべきで。でもそのままソファーに座るのかなって思っていたけれど。そうはせず、僕の傍に近づいて来たのだった。神妙な顔で。テーブルに食器を置いて。次に食べ物を載せたお皿を運んでいた僕は固まってしまう。
「出かけてくる」
「え、今から?」
 お互い立ったまま。背の高いガルシェに見下ろされる人間は、きっととても驚いた顔をしていただろうか。頭を占めるのは朝食用意したのに。それだったが。本当に突然であった。たぶん思いつきの行動ではあるのだろうけれど。止める間もなく、さっさとTシャツだけ着ると。そのまま玄関へ向かい、ブーツを履いて。その時だけ、振り返って。朝食を載せたお皿を持ったままの、僕にただ。
「断水、直すの手伝ってくる」
 それだけ言うと、駆け足で銀狼は外へと出かけて行った。唖然と、玄関の扉を見つめていた僕は。慌ただしく、錆びた階段を駆け下りていく足音が聞こえた段階で。自分の手元を見るのだった。スクランブルエッグと、パン。そこにサラダと簡単なものであるけれど。わりと種類はある質素な食事。彼も食べるものだと思っていたから、一人分にはちょっと多い。
 本当に、急だった。行くのは良いけれど、せめて食べてからにして欲しかった。すぐに腐る物はあまりないから、卵だけ。僕が全部食べてしまおうか。テーブルにお皿も置いて。自然と溜息が出た。今までにない行動だった。食に関して、蔑ろにはしないのに。彼は。食べられないと判断しない限りは、わりとしっかり完食するタイプだ。昨日の塩を振り過ぎたお肉は例外として。
 生きる上で重要とも言える。食事を放り出してまで。食べ物が貴重なこの街で、彼とて稼ぎがあっても粗末にしていいものでも。そして、それをするような人でもなかった。それを差し置いても優先すべき事情があったのだろうか。それも、この間にああも彼を突き動かすそんな理由が。ガルシェって何かする時、本当に突然だよね。彼に食べて欲しと作った二人分の食事を眺めながら、ちょっとだけ悲しくなる。食べて行けよと、もう居ない狼に言うべきであったが。呆気にとられている間に、行っちゃったものはしかたがない。
 そうやって、お風呂場の方へなんとなく目をやって。そういえばお水使えないのに、彼はどう処理したのだろうか。好奇心が、僕の足を動かした。脱衣所へと続く扉を開けると、散らかっておらず。壁の端にある籠に。山積みになった使用済みのタオル。異臭はしない。ちょっとだけ、ガルシェの臭いが濃いかなって。それぐらい。
 続いて、さらに奥。身体を洗うお風呂場のスペースへ向かい、もう一つの隔てる扉を開いて。思わず顔を顰めた。湿気てるのは水を使う場所だから、ある程度はしかたないにしても。タイル張りの床が、びしょびしょだ。勾配がついているから、多少は排水口に流れているけれど。どうやらあの男は、ここでやってそのまま放置したらしい。饐えた臭いが、強く僕の鼻を刺激した。
 思わず、見なかった事にしようと。扉を閉めてしまう。視界から消してもなくなりはしないけれど、自然乾燥したら。それはそれで臭いが残りそうだ。誰が掃除すると思っているのだ、あの男は。先程の朝食の件もあり、ふつふつと怒りが湧いてくる。共に暮らしていると、こうした些細な不満がお互いに出てくるものだが。帰って来たら文句の一つでも言ってやろうか。現状、そのままにはしておきたくないけれど。水が使えない状態で、迂闊に触れるのも嫌だったから。やはり、見なかった事にするしかなかった。本当に、汚すのは得意だった。あの銀狼は。
 でもあまり我慢させるのも、それはそれで問題だ。鼻血まで出して意識がなくなり、倒れてしまったのを一度見てしまったのだから。一緒に暮らすなら、これも付き合っていかないといけないのだろう。もしかして、ガルシェも。自分が出したものも、増える洗濯物も、掃除ができないのを見かねて。一大事だと出て行ったのだろうか。あの男がはたして、機械に強いのかどうか。手伝ってくると言ったからには、きっと学校の方だろうか。結局今日も一人でお留守番をするはめになってしまったから。二人でだらだらするのかなって思っていた分、ちょっとだけ落胆する。これならいっそ、どうせなら僕も行ってみようか。表通りならまだ、治安は良いし。
 窓から射し込む光の加減から、きっと今日も快晴であろう。それも、良いかもしれない。実際に彼が、何をどうするのか隣で見学するのも楽しそうだ。いつもなら街の外へと仕事に行くから、働く姿のガルシェというのは見た事がなかった。
 そうと決まれば、僕も出かける用意をしようかなって。そう思っていたら。家の玄関から物音がした。慌てて出て行ったから、もしかしてかの銀狼だろうか。忘れ物があるか、探してみても。財布はちゃんと持って行ったようで。部屋の棚の上には、家の鍵も、財布もない。そうこうしていると、扉が開かれて。狼の顔が、家の中へと入って来る。光を反射して、キラキラとしていたけれど。でもそれは、銀というより、むしろ。
 こちらと視線が合った気がしたが、すぐに逸らされ。部屋の中を見渡している。見慣れない人。でも、その険しい顔はどこか。ガルシェと酷似していた。この街で暮らすようになって、それなりに毛皮の色以外でも同じ犬科の顔だったとしても、見分けがつくようになったと思う。灰色にくすんでしまっているけれど、その毛並みは。以前はきっと、彼と同じように輝いていたのだろうか。白髪が混じり、どこか目元にも。老いを感じさせた。でもそれで衰えていない、目力と。威圧感は、彼がまだまだ現役だと伝えてもいた。身長はそう変わらないけれど、身体の厚みは事務仕事ばかりだからだろうか。ガルシェよりも見劣りしてしまう。でも弛んでるわけでもない。線の細い僕よりも断然筋肉質だった。
 一番明確に違うのは、彼が着ている服装だろうか。スーツらしき、服を着ていた。かっちりと、ネクタイまでして。なんだか、記憶の中にあるサラリーマンを彷彿とさせるけれど。よく見ると、やはり古着なのかちょっとほつれている。今の技術であんなものを再現できないのだろうが。それでも、地位の高さを象徴するのには、ちょうど良いのかもしれなかった。
 きっと、ガルシェを探していたのだろう。彷徨っていたその狼の目が、結局は人間で止まる。無言でかってに部屋に上がって来て、迫る巨体に。反射的に、足が後退した。
「ガルシェはどこですか」
 有無を言わせぬ、圧を伴った。男の人の声に、びくりと小動物のように身体が跳ねた。かってに入られては困るとか、そういう言葉は出なかった。そもそも、ガルシェの身内であるのだから。この家も、正確には彼の物かもしれなかったからだ。土地の権利書とか、そういった物が存在しているのかは謎だったが。質問の内容と、状況的に、やはり彼を探しているらしい。
 僕を見下ろす、名の知らぬ狼の顔をした男。それは、この街の市長さんで。僕と短くない時間を共にした、あの銀狼の親だった。半年近くこの家に暮らして、訪ねて来たのはこれが初めてだ。
 気圧されてしまって言葉に詰まる。職業柄だろうか、人を纏める立場だからか。どうしても威圧感に身が竦む。久しぶりに感じる。自分よりも大きな生き物に見下ろされる恐怖心がぶり返してもいた。だいぶ、克服できていたのに。ガルシェやガカイド以外の男性相手だと、これである。まだ自分はもう少し、コミュニケーション能力があると思っていたのに。質問に対して、あとか、えっととか。そんな言葉しか紡いでいなかった。状況が僕を逮捕しに来た所長と重なったというのも、ある。あの時よりももっと悪い気がする。この街の最高権力者で、ガルシェに僕が何かしでかしたら始末しろとまで言ってのけた人だから。
「その横についている耳は飾りですか、私の質問に答えてください。ガルシェは、どこ、ですか」
 僕が答えられずにいると、すっと狼の目が細まる。部屋の温度が下がった気がした。最近肌寒くなってきてはいても、まだ過ごしやすいと思えていたのに。今では腕を自分で擦りそうだった。
「えっと、断水を直すのを手伝うって言って。つい先ほど、出て、行きました」
「なに?」
 僕が漸く質問に答えたのを機に。市長さんが自身の顎に生えた微量に長めの被毛を触る。考え事をしているのか、目線が僕ではなく斜め下の床を見つめていた。深く皴を作る眉間。黒いスーツの後ろで、灰色の毛でできた彼の尾が一度揺れたから。対照的な色合いな気がして、よく目立った。ガルシェもする、苛立った時にやる仕草だった。それで、鼻に。銘柄のわからない、例の煙草の臭いまで香って来る。そういえば、彼が動くと、より強く臭うから。もしかして、ヘビースモーカーなのだろうか。
 自身の顎を触るのを止めると、腰に手を当てて。あからさまな嘆息を、眼前の灰狼は吐き出していた。
「まったく、昨日の続きを話そうと貴重な私の時間を割いてまでわざわざ訪ねて来たのに。居たのは、人間だけですか。あいつめ……」
 言い草に、なんだかカチンと来た。ガルシェだって、ちゃんと働いて忙しいのに。それを、一方的に悪く言われるのは。その護衛の仕事も体調不良で最近、休んではいたけれど。人間、僕の事をそう言う時。市長さんの目がとても冷たかったから。怒りに身を任せるような事は、しなかったけれど。どの道、レプリカントの大人相手に絶対腕力で敵わないのだから。大人しくしておくのが賢明であろう。それも、この街の最高権力者の前とあっては。沈黙こそが最良と言える。
「まぁ、いい。私の荷物を取りに来たのもあるので、それが済んだらさっさと立ち去ります。ご安心を。どうやら、だいぶ、息子とは仲良くしているようですし」
 スンっと、狼の鼻が鳴ると。皮肉交じりにそう言われて。そのままかって知ったるとばかりに、もう僕から興味を失くしたのか。市長さんは、大きな尾を揺らしながら。お風呂場の方へと歩いていく、荷物を取りに来たと言ったけれど。そっちには何もないのに。と思うが、そういえば湯舟の部分には大量の荷物が重なり合って置かれていたのを。忘れかけていた記憶から掘り返す。濡れないように、カーテンで遮ってはあったけれど。片付けていい物か、わからず。ずっと放置して、今の今まで忘れていた。使うとしても、シャワーだけであったし。
 脱衣所へと続く扉を開けて。視界から市長さんが消えたら。あっ。反論しそうだから、奥歯を噛んでずっと黙っていた顎の力が緩み。思わずそう声が出た。お風呂場は、まだ掃除できていなくて。ガルシェのが。そのまま――。
 男性の素っ頓狂な悲鳴が聞こえたから、思わず耳を塞ぐ。ちょっとだけ、本当にちょっとだけ。その声を聞いて。スカッとした。でも、息子さんの息子から出されたあんなもの。普通目にする事などないのだから。微量な同情心と共に。僕がしたわけではないけれど、擽る羞恥心もまたあったのだった。何もこのタイミングで取りに来なくても。なんとも間が悪い。
「まったく! 倒れたと聞いて、心配で一応顔を見に来たのに。昨日は人の話も聞かないで帰って、なんですか! あの惨状はっ! 人間を匿っておいて何をしてるんだ馬鹿息子は!」
 なんで。悪態をつく、市長さんに。お茶、ではなくお水を出さないといけないのだろうか。せっかく、ガルシェの為に用意した朝食を。別の狼が食べるのを見つめて。今は居ない息子に対して怒っているらしい灰狼。途中から敬語が取れてしまっている。
「えーと、ガルシェのお父さん」
 恐る恐る、そう言うと。ギロリと睨まれてしまったから、持っていたお盆で顔を半分隠す。盾としては、あまり意味をなさないだろうけれど。気分的な問題だった。
「市長と呼びなさい。ああもう、人間の躾けもなっていない。飼うのは良いが、厄介事を増やさないで欲しい。所長からの小言をさばく私の身にもなって欲しい。あの子にしては、朝食を作るなんて成長を感じられて、私としては喜ばしい限りですけれど。もっと命令に従ってくれないものか」
 早口で、自分の言いたい事を言う。この灰狼さん。自分は朝食も食べずここへと訪れたのか。なら、目的の人物が居なくて。その胸の内には落胆が襲ったのだろう。僕が用意した食事が消えていくのを見届けながら。
「……お口にあって、なによりです」
 そう小声で言ったのだった。立ち上がった狼の両耳が、それでぴくりと反応して。一口サイズに切り分けられた食べ物が、フォークに刺さったまま彼の口の前で止まった。細められていた不機嫌そうな目が、そこで少々丸く開いて。止まらないと思っていた愚痴までも、消える。わざとらしい咳払いがして、空中で静止していた手が。再び狼の口元へと続いていた。
 どうやら、自身の息子が作ったと勘違いしていたらしい。朝食を用意したのが、目の前の人間だと悟った灰狼。場に流れる空気が、気まずい。ガルシェの顔をそのまま老けさしたような、相手の顔を見やる僕の表情は。気まずさを感じてるのとは程遠いだろうけれど。
 そんなに心配なら。彼が倒れたその時に、駆け付ければいいのに。そんな至極真っ当な疑問は、発情で倒れるなんて自己管理ができていない証拠だと。言い返されてしまった。学校の関係者である、あの大柄な虎の先生から報告は行っていたのか。それでも、倒れてから実際に会うまで時間が経ちすぎている気がする。そんなに、忙しいのだろうか。その市長さんのお仕事とやらは。この家と、商業区しか主に活動していない僕では。目の前の灰狼を見かけた事すらないから。知りもしないが。見かけていたら、目立つ姿に見間違えよう筈もないであろうし。
 僕は僕で、自分の分を自身の胃の中へと納めると。空になった食器を二つ分、流し台へと運ぶ。お風呂場から持ち出した、市長さんの荷物から必要な分だけ纏めたのか。玄関で帰る支度を灰狼はしていた。そんな荷物の中身はもっぱら着替えらしい。断水で彼も手持ちがなくなったのだろうか。また、この家に帰って来るのは暫く先か。
 そう思ってると、靴を履いて立ち上がった灰狼。一歩踏み出すよりも早く、慌ただしく錆びた階段を駆け上がって来る誰か。市長さんが外へ出ようと、扉を開けるよりも前に。外側から開かれる玄関の扉。息を切らせた、ガルシェがそこに居た。家の中に居た、全員の視線がそこに集中する。対するガルシェは、目の前の親よりも、僕へと視線を投げかけていた。
 慌ただしく出かけたわりに、あまりに帰るのが早い。
「ルルシャ、無事かっ」
 一番に確認するのは、僕の無事かどうかなのか。家の中に入ろうと、その身体を動かそうとして。遮るように、阻む別の身体。そこで漸く、自分の親を完全に無視していた事に気づいたらしい。二人の狼が向き合う。
「ガルシェ」
 名を呼ばれて、銀狼の尻尾が跳ねていた。同じ背丈ぐらいなのに、二人並んでみると。いつになく、彼が小さいような錯覚が生まれた。急に縮んだりするなんてあるわけもないのに。鍛えてる銀狼の方が、肩幅も大きいし。そう感じたのは、僕だけだろうか。
「なんだ、その腑抜けた面は。性処理にペットを飼うのは良いが、言いつけを忘れたのか」
「あ、いや。俺はルルシャをそんな」
「何が違う、私の鼻は誤魔化せんぞ。まさか」
 勢いに、萎縮する銀狼。そこで、灰狼がこちらを一瞥して。
「狼の性質上、たとえ同性でもあまり不特定多数と深い関係を持たないよう気をつけろと言ったが。まさか、異種族である人間相手に、愛護動物以上の感情を持ったとか言うまいな」
 ガルシェが、狼狽えて。身体を一度、大きく跳ねさせていた。その反応で十分だったのか、さらに冷え切った親の目を見て。銀狼の耳が怯えるように、倒れてしまう。
「俺は、ルルシャを……」
 自身の足元を見つめる、ガルシェ。答えを迷ってるようであった。二人の会話を聞きながら、とても冷静に。ただ黙って成り行きを見守っている僕。彼が、親に対して怯えてる姿を見ても。昨日怒りを露わにしていたのを知っていても。実際に目の前に対峙すると、ああも変わってしまうのかと。親子の会話に口を挟むべきではないと。自分は他人だと、心がとても動かなかった。彼がどう返事するのかなって、若干の期待は。あったと思うけれど。
「いや、そんな、わけ。俺は、親父」
「市長と呼びなさい」
「はい……市長」
 納得はしていなさそうであった。けれど、ガルシェが一応否定した事で張り詰めていた空気が少し緩んだ気がする。緩んだ分だけ、僕の心のどこかが、引き攣った気がしたけれど。
「所長の件は、こちらで握りつぶしておいた。ペットのせいであまり揉め事を起こして、経歴にこれ以上傷をつけるな。市長の息子というだけで、お前を蹴落とそうする輩は多い。本当なら、既に番を得ていてもおかしくない歳なんだ。ガルシェ」
 あまりに大人しく引き下がった、あの所長が。不自然であった。けれど、水面下で。僕達の知らない所で、そんな事があったんだと。終わった後で、知ったのだった。息子へ向けて、哀れんだような。そんな目線をした、灰狼。ここに来て親らしい顔をしていた。ガルシェの頭を、無骨な白髪交じりの被毛をした手が優しく撫でる。
「お前は、私と違い。ちゃんと幸せにおなり。そして、掟に従い。子孫を残しなさい。お前の流れる血には、その責務がある。私の言いつけを守っていれば、焦らずともちゃんと資格が得られるのだから」
 本当に、優しい声音だった。聞きようによっては、息子をただ心配する親のものであって。撫でられているガルシェの顔だけ暗いのを除けば、だが。言いたい事を言い終えると。自身のスーツの乱れを直しながら、また僕を灰狼が睨んで来ていた。ただそれだけで、別に何か言われるような事はなかったけれど。自分の荷物を掴んで、立ち去るのを。僕も、ガルシェも、黙って見送った。
 そうしたら、肩を落とした銀狼が。靴を脱いで、家に上がり。僕の目の前まで歩み寄ると、そこで力が抜けたように。膝をつく。見上げていた顔が、それによってぐっと近くなったと思うと。背に静かに回った彼の手によって、表情が見えなくされる。頭の上に乗せられる、狼の顎。
 ぐっと彼の胸に僕の顔が押し付けられて、胸元のシャツの中に押し込められた。小さくて硬い感触が、頬に当たってちょっと痛かった。たぶん、ネックレスだろうなって。毎回、彼に強く抱きつかれるとそれは当たるのだった。
「ごめん」
 頭上から、そんな絞り出すような声。番の証たる、ネックレスに気を取られていた僕は。それに反応が遅れた。かといって、認識したからと反応を返す気は不思議と起きなかったけれど。彼の胸の中で首を動かしてみても、表情が見えない。喉仏と、顎しか。
「ごめん、ルルシャ」
 また、聞こえてないと思ったのか。そう謝罪が繰り返されていた。僕の手は、別に抱きしめ返す事もせず。ぶらぶら揺れているだけだった。呼吸すれば、ガルシェの匂いに包まれていると。実感する。
「何に?」
 表情が読めなくて、意図がわからなくて。わかりたくなくて。そう聞き返していた。彼に抱きしめられているから、僕の言葉に。大袈裟なぐらいびくつくのが肌から伝わる感触でわかってしまえた。そこから、抱く強さが。苦しいぐらいより一層強まっても。好きな人に抱きしめられているのに、嬉しいという感情が湧かない。僕って、性格悪いよね。言った後、そう内心思う。たぶん、八つ当たりでもあったと思う。ガルシェの立場を考えると、しかたないと頭で理解できるのに。匿ってくれてるだけで、それだけで、十分優しいと思えるのに。どう言い返すのか期待を裏切られたとでも思ったのだろうか。そもそも、ガルシェは。僕の事、そういった目で見てもいないのに。
 だから、気を遣って。謝られると。なぜか、苛立ってしまった。僕は、居候で。ガルシェのペット。街の人の認識は、それだった。それに異論はない。
 最初から、彼が求めてるのは。女性の狼で、その為の番を得る権利で。お父さんも、そう言ってるのだから。何も間違っていない。間違っていない。納得していないのは、僕だけ。自分自身の手を強く握る。彼の事を抱き返すような真似はできなかった。ただ、離さないでと、そう言いたかった。置き去りにされてしまいそうで。こんなにも、近いのに。遠く感じてしまうから。いつだって、僕は独りぼっちだ。この、レプリカントの街で。ただ一人の人間であるのだから。
 ガルシェは悪くない。悪いのは、かってに辛くなって、かってに悲しくなって。彼に八つ当たりした。僕だった。どうしようもなく、弱い、僕だ。大丈夫、気にしてないよとか。言えたら、良かったのに。何もない僕と違って、彼には今まで築き上げて来た立場がある。記憶のない僕では、補填できないだけの。価値がある。
「手伝いに、行ったんじゃないの」
 苦し紛れに、話題を逸らそうとしていた。これ以上は、意味もなく。彼を責めてしまいそうで。ペットじゃないって否定して欲しかったのかな。自分の事をペットも同然だと、そう思ってるくせにね。欲張りだと、自分自身が責め立てる。これ以上何を望むの。そもそも種族が違うのに。偶然が重なって、傍に居て。彼のプライベートな部分に立ち入って。狼の発情期を体験して。特別視されるとでも思ったのと。ガルシェが何も言わず、抱きしめてくれるだけ。僕が、僕自身を責め立てるがなり声がうるさかった。
「親父が、家に向かったって聞いて。もしかして、ルルシャに何かされるんじゃって、そう思って」
 そっか。心配してくれたんだ。そんな人に。感謝するべき、優しい人に。僕は何をしてるのだろうか。また、自分が嫌いになった。無力感を抱く程、それが嫌で。何かしようとすればする程、この街では。ただ余計にガルシェを困らせて、心配させてしまうのが。役に立ちたいだけなのに、ただ傍に居たいだけなのに。どうして、それが、許されないのだろうか。それは。
 僕が、人間だからだ。
「大丈夫、荷物取りに来ただけだって」
「何も、言われてないか? 酷い事、何か」
 漸く、苦しいと思っていた抱擁が緩んで。ガルシェが覗き込んで来る。その、心配そうにする表情を見てしまうと。どうしても罪悪感だけ、刺激されて。安心させるように、首を振る。上手に、笑えているだろうか。本当に、ただ。お父さんが心配して、訪ねて来て。荷物を取って、ついでにガルシェの分の食事。食べられちゃったぐらいであった。
 特に、これといって。何も言われていない。そこまで、眼中になかったといえば。それまでであった。市長さんにとって、目障りではあるのだろうけれど。だから、本当の事を言い合うと。彼とそう約束した通り。僕は正直に言っている。何も隠していない。ただ、銀狼が。余計に顔を覗き込んで来るのが。湿った鼻がぶつかりそうだ。そうなんども聞かなくても、大丈夫だよ。
 お父さんの言葉で傷ついたりしていない。一番傷ついたのは、どちらかと言うと。酷いよって、叫びたかったのは。言い返して欲しかったのは。
「僕は大丈夫だから、ありがとう。行っていいよ。早く断水直して、お水使えるようにしないと。じゃないと、皆大変だよ」
 僕から離れようとしない。どうしても後ろ髪引かれてしまうのか。少し渋るような仕草をしていた。駆けつけて嬉しいと、確かに感じていたのに。今は、一人にして欲しかった。だから、追い出したい気持ちのまま。表面上はそう取り繕っていた。実際、食器も洗えない。困っているのは本当にそうで。彼が向かう事で、少しでも事態が好転する時間が早まるのなら。なおの事、行かせるべきだった。面倒くさい人間の世話で、ガルシェの手を煩わせるべきではない。
「あまり、遅くならないようにする。待っててくれ、ルルシャ、ここで。この家で、俺を」
 再び、そう念を押すように言う銀狼に。黙って頷いて。出て行く後ろ姿を、小さく手を振って見送る。ドアを閉める、その間際まで。心配そうに、覗かなくてもいいのに。そこで、ちょっとおかしくて笑えた。過保護だよね。彼って。見えなくなると、ざわついた心を落ちつけたくて。胸に手を置く。どうしても、ガルシェに心を乱されてしまう。良くも、悪くも。
 どこにも行く当てもないのに。彼の優しさが辛いと感じるのは。理屈じゃない。僕のこの感情もどうしようもない。
 考える時間は、たくさんあった。家事ができないと、別に働きに出る事もできやしないと。僕はただ、時間を持て余してしまう。不安が募るばかりだから、何かに没頭していたいのに。それができない。かと言って、何かする気力も湧かない。自然と足がベッドへと向かう。足先に触れたら、そのまま前へと倒れるがまま。身を任せていると、やがてスプリングがしっかりと受け止めてくれて。シーツに残った、僕以外の残り香がふわりと舞う。早く出て行って欲しいと思った、彼の体臭が色濃く残った。それに、顔を押し付けていた。
 目を瞑って、何も考えないようにすれば。どうでもいいや、どうでも。自分すらも。めんどくさい。そういった思考で埋め尽くせば良かった。手探り寄せれば、衣擦れがして。欲している、先程抱き返さなかった柔らかな毛皮の感触はしなかった。居ないと意識すれば、途端に寂しいと感じるくせして。素直になれない。なってはいけない気持ちに、蓋をすると決めたのに。本当にめんどくさい。自分が。
 微睡んでいた思考。
「ルルシャ」
 ガルシェが呼んでる。僕を、起きなきゃ。反射的にそう思って。寝ていたんだと、遅れて気づいた。目を開けると、あんなに明るかった室内が。夕暮れに染まっていた。真昼間から、寝て、夕方になってしまっているなんて。何もせず。晩御飯の支度もしていないのに。
 頬を、撫でている。肉球の感触が気持ちよくて。それに縋りたいという、本能的な仕草で。彼の手に触れていた。それで、撫でるのが止まってしまったから。続けて欲しいのにと、ベッドにうつ伏せに寝転んだままだったのを。寝返りをうって、仰向けに。そうすれば、ベッドに寝ている僕を覗き込んでいる男が視界に入った。頬を、黒い何かで汚した。間抜けな狼の顔だった。鼻を鳴らせば、刺激臭。オイル臭い。それが何か、問えばいいのに。自然とにおいで判断しようとしていた。ガルシェの癖が、うつった気がした。僕は、狼ではないのに。動物的な仕草だったから、ちょっと恥ずかしい。
 それに対して、僕を見ていた彼が。気づかない筈はなかったけれど。特にツッコミは入らなかったから。ゆっくりと、上半身だけでも起き上がる。
「ごめん、もうこんな時間なんだね。晩御飯。用意してない」
「疲れてたんだろ、そんな時もある」
 家で最近ぐうたらしている、僕のどこに疲れる要素があるのか。家事は僕の担当だ。そう言われたわけではなかったけれど、自然とそうなったから。責任感から、そう言っていたのに。ガルシェはただ、しんどそうにする人間を気遣って。白い彼のシャツが、薄汚れている。泥だろうか。どういった作業をしたのか、なんとなくそれで窺えて。大変だったんだろうなって。それなのに、呑気に寝てしまっていた。
 僕が、今からでも起き上がろうとすると。手で制されてしまう。どうして、そう見上げても。ただ微笑んでいるだけで。その理性的な狼の顔を見ていると、本当に発情期は終わったんだなと。落ちついた彼の姿がそこにあって。倒れる以前の関係に戻った気がした。それで良かった。仲はこれ以上深まらない方が、お互いに。居候と、家主の関係。酔ったあの時、家族みたいなものだと。言ってくれたのが、嬉しかったけれど。離れていく男の背を目線だけで追いかけていると、どうやら台所に立ったから。今日の晩御飯は彼が用意してくれるらしい。
 もう、とことん甘えていいやと。半分投げやりな気持ちで。ガルシェが調理するのを眺めていた。時折、うおっとか。やべっとか、そんな不安を煽る声がするのは聞かなかった事にして。やがて、それでも美味しそうな食欲を誘う香りがすると。お腹が早く食わせろと、空腹を訴え始める。成程、いつもソファーで僕が調理する姿を眺める銀狼の気持ちってこんな感じなのかなと。まだかな、まだかなと、楽しそうに尾を揺らす。そんな彼の可愛らしい姿。
 机の上に、並べられる。僕の心配をよそに、思ったよりはまともな料理。トマトに似た野菜を、雑に潰して。肉汁と混ぜた、なんちゃってソース。それを少し上にかけただけの、シンプルな肉料理。付け合わせのサラダは、適当にちぎったのか、大きさがまばらで。でも、その献立は。僕が少ない具材で彩りを飾ろうとした。一度は出した事があるそれだった。
 彼が作ったのに、ちゃんと野菜も食べなくちゃだめと。口酸っぱく言っていけれど、サラダもあったのが内心意外だった。てっきり肉料理だけな気もしていたから。あまり彼はもそもそとした食感が好きじゃない、僕が好んで食べているパンまである。
「ルルシャの、見様見真似だけど。どうだ?」
 問いに、まだ食べてもないのに。味の感想を急く相手に気が早いと、苦笑いしながら席につく。促されて、そわそわしている狼を視界の端に追いやりながら。掴んだフォークで、ちょっと焦げた肉に突き刺して。口へと運ぶ。見た目が若干悪いけれど、味は。僕が出すのとそう大差なかった。塩加減も丁度いい。僕自身、料理人ではないからそう大それた腕ではないし。調味料が限られているのだから。差がそうつくわけもなく。
 美味しい。ただ素直に、一口サイズに切られた肉を咀嚼して。飲み込んだ後でそう告げれば。嬉しそうに、揺られている感情を素直に伝える尻尾。僕にはない、それ。
 自分よりも、大きいサイズで切られた肉を。食べ始めたのを見て。そういえば、作法を忘れていた。彼が食べた後で、食べなきゃいけなかったのに。彼が何一つ気にしていないから、意識していないと忘れてしまう。
 銀狼が言うように、それを忘れるぐらい。疲れていたのだろうか。何に。何もしていないのに。彼より勝ってる料理の腕も。そう思っていただけで、そう思いたかっただけで、こうも簡単に模倣されてしまうのだなと。そう卑屈めいた思考を宿しながら、二口目を食べれば。やっぱり、美味しかった。悔しいとかじゃ、なかった。
 食事を続けながら台所のシンクをガルシェに気づかれないようにと、こっそりと見やれば。調理の際に使用したであろうまな板やフライパンが洗わずにそのままで、雑に放置されていたのだった。調味料が入った瓶とか、そういった物の位置も元あった場所とは全然違う場所に置かれていて。そこがどうしても気になった。細かいようであったけれど。家事を一手に引き受けていたのだから、そこは僕のテリトリーというそんな意識がいつの間にか存在していて。どこか、脅かされ荒らされたとも感じてしまっていた。彼は、僕が疲れていると思って。善意で代わりをしてくれたのに。きっとめんどくさがりな性格をしているから、あまり自炊は好きではない筈で。最初から晩御飯が今日用意されていないとわかってさえいれば、帰り道に何か手頃なのを買って来ていただろうに。
 そんな相手に、感謝するべき人に。どうして、こんな心がざわつくのか。ああ、でも、そうか。僕には何もないって、そう日頃から思っているから。少ないながらも、彼にとって役に立てると。そう思っていたから。取られてしまったように感じてしまったのだろうか。また無力感に襲われて、かってに辛くなってしまったのかと。自分を俯瞰して、本当にめんどくさい奴だなって。自己嫌悪に潰れそうになる。良くない兆候だった。きっと昼間の出来事が、まだ尾を引いていて。食事の際、基本こちらを見ようとせず。食べる事に集中する筈の相手が、都度こちらへと視線をよこすものだから。今の気持ちを悟られないように、美味しいと。そう無理をしてでも笑顔を作る。そうしても、美味しいという言葉に。嬉しそうに口元を緩めても。次の瞬間には心配しているものへと、その獣の厳つい面構えを変じるのだから。何かしら、その嗅覚で察してはいるのであろう。不安そうな気持ちとかも、言わなくてもにおいでわかるそうだし。
 でも、特に追及しないのが。今だけはありがたく、そして、鬱陶しかった。この憤りも、全部自分のせいなのに。人のせいに。ガルシェの、せいにしてしまいたいぐらい。彼が言うように、確かに疲れているのかもしれなかった。優しさが疎ましくなる時もあるんだなって。二人での共同生活なのだから、一人になりたい時間を欲しても。それはできなくて。なら、外へと出ていくぐらいしかできないだろうが。この過保護な銀狼が、この時間帯から人間が一人、どこかへと散歩を許してくれるとは思えなくて。絶対に、俺も着いて行くと言われそうだった。
 言いだせないのだから。明るく振る舞うのが、しんどいのに。彼が僕へと向ける優しさを無下にしたくなくて。それでも無理してでも笑う。美味しいよって。上手だねって。そうしたら、控えめに。狼の尾が揺れるのだから。彼は僕に褒められるのが好きだった。だから、ちゃんと籠に洗濯物を入れるようになってくれたり。ゴミを指定した所に置いてくれるようになったり。その度に、無遠慮に頭を撫でたり、してくれた事に感謝をして。家主ではあるけれど、家事をしている分。そういう時は僕がまるで、どこか親みたいに接するのだった。世話焼きなのと、彼がとても日常生活においてだらしなくずぼらなのが。結果そうなったのだけれど。後、僕が褒めると喜ぶし。外では彼がまるで、保護者のように振るまうのに。実際そうだけれど。家の中だとこうも変わるのだから。ガルシェの事。変わったねって、ルオネ達は言っていたけれど。この姿を一度は見せてやりたい気もした。彼のお嫁さんになるであろう、狼の女性の人は。きっと世話好きな人が相性は良いのだろうなって。彼のいつか訪れる幸せな家庭とやらを想い、想像すれば。それでちょっと微笑ましくて気分が晴れて、その分だけ。心が、チクりとしたのだった。
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