セラフィと博士

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セラフィと博士

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 博士は今日も世界征服を目論んでおります。北朝鮮の核実験のように世界には緊張状態が続くような事件が沢山ありますが、戦争が起こる気配は全くなく、近くの公園に行けば、子ども達が無邪気に遊び、親達も井戸端会議で花を咲かせておりました。かく言う私も、公園のベンチで噴水を見て時間の流れを待つくらい、世間は平和だというのに、博士は世界征服を望んでおります。

 私は博士に拾われました。親に捨てられた理由は、よく分かりません。平和な世の中で捨てられる理由なんて、きっと考えるだけ無駄なのでしょう。ともあれ、そんな私を拾ってくださった博士は私のことを「セラフィ」と名付け、「わしは世界を征服する野望がある。使えんようだったらすぐにでも追い出してやるからな」と吐き出すように告げました。行く当てもない私は素直に博士の言うことに従いました。いつも私は博士の側を離れません。そういう指示がありましたので、片時も離れません。

 博士は買い物に行く際、私を必ず連れていきます。何を買うのか、聞ける立場ではございませんが、買い物が終盤になると必ず洋服屋に寄るのです。そして「セラフィ、何か買いたい服はないのかい」と私に聞いてくるのです。

「博士、私なんぞに服を買っても意味ないのでは」
「あほか。お前もオシャレしたい年頃だろ」

 そういって私に服を恵んでくださいます。こうして買い物は必ず私の服の購入で締めくくります。私なんぞに服なんて与えなくてもいいのに。買い物袋も半分ずつ。私に全部持たせればよいのに。

 私が風邪を引いてしまった時もそうです。ただの体調不良から起こる風邪であり、別に我慢さえすればどうってことのないものでした。ですが博士は私を寝かしつけようとします。

「博士、私は平気ですよ」
「あほか。たまにはゆっくり休め」

何か喉につっかえたような声をしながらそういって、私をベッドに寝かしつけ、おかゆまで作ってくださいました。「暖かくしてゆっくりしてなさい」と言い残し、フラフラと部屋から出て行きました。博士の方が体調悪そうなのに、どうして私なんかに優しくするのでしょう。

ある日のことです。風が雲を揺らし、太陽にじりじりと肌を焼かれる日のことでした。いつものように博士と買い物をしようとし、横断歩道を渡ろうとしたら、車が信号無視で私の方に向かってきました。博士は、私を突き飛ばし、代わりに博士が車に撥ねられました。病院へ搬送され、幸い一命を取り留めました。博士は病院のベッドで点滴を打たれ、車にもろに衝突した左腕にはギプスがはめられていました。

「博士、私、分かりません」
「何がだ」
「なんで、私を助けたんですか、私は親に捨てられた身です。そんな存在なんて死んでも当然なんです。なのにどうしてあなたがこんなボロボロなんですか。どうしてこんなにも私に優しいんですか」
「あほか。死んでいい命なんてないからだ」

そういってギプスのはめられてないもう片方の手が私の頬を撫でてきました。目には大粒の涙が頬をつたっていたのを博士が拭ってくださったのです。

「さて、わしはまだ死なん。世界征服がまだ出来ていないからな」
「……はい、博士」

今日も博士は世界征服を目論んでおります。きっと博士なら世界を幸せにしてくれるはずです。
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