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星に願えど変わらずに
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「星、きれいだね!おじさん!!」
「ああ、そうだね…。」
深夜零時、乾いた草原に寝転がりながら話していたのは、11歳の少女と、30代の誘拐犯だった。少女は1歳の時に誘拐され、未だ見つからずに捜査が進められている。元幼稚園教諭の誘拐犯に育てられ、少女は育て親が誘拐犯だと知らない。
久しぶりに外へ出た2人は、田舎の山奥で星を見ることにした。
「久しぶりに星を見たよ!すごいね!!」
「ミカちゃん。あれが夏の大三角形だよ。…わかる?」
「あっ!ずかんで見た!すごい!ほんとうにあるんだー!」
誘拐犯は、はしゃぐ少女を見てクスッと笑った。誘拐犯は無職のニート。幼稚園教諭の新人時代、児童のセクハラ容疑で職員をクビになってしまった。それも冤罪だったため、クビになった時のストレスは想像を絶するほどだった。まさに精神崩壊状態。そんな時、俯きながら公園に行くと、放置されたベビーカーがあり、そこにいた子供を誘拐してしまった。遠くに母親のような人物はいたが、捕まるなどのリスクを考えずに、少女に手が伸びてしまっていたのだ。
(俺は本当にどうしようもないロリコンだ。)
そんなことを毎日思いながら、少女の面倒を見て生活している。
「おじさん!あれって、ながれ星?」
「…あっ、ほんとだ。」
2人は空を見上げると、流れ星が降り注ぐように見られた。
「凄い。初めて見たなぁ」
「おじさん!ながれ星に、3かいおねがいごとをしたら、ねがいが叶うんでしょ!!本で読んだよ!」
少女は目を輝かせて言った。誘拐犯はこのような雑学もたくさん教えていたため、少女はそこらの小学生と変わりない脳を持ち合わせていた。
「よく知ってるね。お願いごとしてみよっか?」
「うん!!」
元気よく返事をした少女は、芝生に寝転がり手を合わせた。
「おじさんと、ず~~~っと、いっしょにいれますように!」
「…!」
少女はニカッと笑った。誘拐犯も自然と笑顔になり、目に少し涙を浮かべながら言った。
「…その速さじゃ、3回なんて言えないよ?」
「ええ~っ!?」
しばらくした後、2人は手を繋ぎながら家に帰って行った。
薄暗い部屋で、少女はボロボロのベッドでいびきを掻きながら寝ていた。テレビはニュースしかやっていない時間帯。誘拐犯は毎日チェックしている。
【川嶋美香ちゃん(当時1歳)誘拐から10年】
「…もう10年か。」
この日は少女を誘拐してからちょうど10年の日。誘拐犯は自分のした罪を重く受け止めていた。テレビにはその母親らしき人物も、涙を流しながら事件について語っていた。
『私が目を離した隙に誘拐されてしまって…自分の惨めさを悔やみます。安否がわからなくなっている状態は本当に苦しく、辛いもので…。生きていることを切実に願います…。』
誘拐犯は胸が苦しくなった。自分のしたことはわかっている。だが、後に退けない。その時、少女が起き上がった。
「おかあさん…?」
「えっ?」
「おかあさんだ…!!」
少女はテレビを指差し、「おかあさん」と連呼している。
「…みかちゃん、ゆうかい…?わたしの名前…?」
誘拐犯は少女を見た。少し怖がっているような表情をしている。
「えっ、わたし…?これ、わたしだよね…?ちがう?にてる。おじさん、これどういうこと?」
「…………あっ。」
誘拐犯はなにも言えずにいた。初めてのことだった。誘拐犯の身体が小刻みに震えだす。
「…ゆうかいって、知ってるよ…?だめなことだよね…?わたしゆうかいされたの?…だれに?」
誘拐犯はどうしていいかわからず、下を俯いたまま少女を見ずにいた。だが、少女はずっと真っ直ぐ誘拐犯を見つめている。
「ねぇ、おじさん。大好きだよ。なにかいってよ。これおかあさんだよね?おじさん、だれなの?わたし、ゆうかいされてるの…?教えてよ!」
誘拐犯は悟った。この少女は『できすぎている子』だというとに。勘が鋭く、単語を覚える記憶力もずば抜けている。元々脳の構造的に頭が良いのだろう。育て方次第では素晴らしい仕事に就ける。輝く未来がある。無限の可能性がある。可愛らしくて、たくさんの人に囲まれていて、純粋無垢で、優しくて、爽やかな笑顔を見せてくれる。そんな少女を誘拐犯は捕まえ、不安げな表情をさせ…………
「ごめんね。」
誘拐犯は少女の腕を掴み、家の外へ強引に出した。ガチャリと戸が閉まり、鍵がかけられてしまった。
「おじさん!?」
中からはなにも聞こえない。
「おじさん待って…?ど、どうして?おじさん!?なに!?きゅうにどうしたの…!どうしたらいいの!?わたし、わるいことしたの、?おじさんにわるいこと、しちゃったの…?」
「…」
「おじさんのおかげでたくさんのこと知れたよ?おじさんのおかげでおいしいものを食べたよ?おじさんのおかげでここまで生きてこられたんだよ?」
「……」
「おじさん、大好きだよ!!だから、とびらを開けてよ!!ねぇっ!!」
少女は扉をドンドン叩きながら泣いていた。
「星を見せてくれたとき、ほんとうにうれしかったよ。何よりもきれいで、おじさんの笑顔が見れてわたしもうれしくなったよ。」
「………」
「だから…だから!!!へんじしてよ!!おじさん!!!!!!!!」
少女は泣き叫んだ。その声を聞きつけた近隣住民の老人が、少女の元へやってきた。
「うるさいぞ!!何やってるんだ!!!!」
「う、うわあああああっ…!!開けて…!!おじさん!!!!!お願い……。」
「早く黙ってくれないか?」
老人が少女の肩を叩こうとした。その時、少女が勢いよく手を払い除けた。
「触らないでっ!!!!」
「な、なんだこのガキ…!?」
「おじさん以外……わたしは触られたくない…。」
「は?なんだこの!!!!……あ、あ?お、お前…美香ちゃんか?さっきニュースでやってた誘拐事件の………」
「えっ…?」
その後、老人の通報によって少女の身柄は確保された。傷痕なし、健康的、知能も問題なし。全国民が少女の生還に驚き、ネットではその話題が注目され、あるアプリのトレンド上位になるほどだった。
一方、誘拐犯の家が特定され乗り込むも、既に首吊りで死んでいた。自殺だ。家の中には大量の保存食、子供用の着替え、大量の本があり、机の上には手紙のようなものがあった。その一部を公開する。
〔(略)こんな俺でごめんなさい。
とにかく、ミカちゃんだけは守ってほしい。
ミカちゃんはとてもいい子で、すごく頭も良かった。どうか、ミカちゃんの頭の中から、俺と一緒にいた記憶を消し去ってほしい。安定した生活を送ってほしい。これが俺からの願いです。〕
「おじさんと、ず~~~っと、いっしょにいれますように!」
そんな願いは、星屑のように散っていった。
「ああ、そうだね…。」
深夜零時、乾いた草原に寝転がりながら話していたのは、11歳の少女と、30代の誘拐犯だった。少女は1歳の時に誘拐され、未だ見つからずに捜査が進められている。元幼稚園教諭の誘拐犯に育てられ、少女は育て親が誘拐犯だと知らない。
久しぶりに外へ出た2人は、田舎の山奥で星を見ることにした。
「久しぶりに星を見たよ!すごいね!!」
「ミカちゃん。あれが夏の大三角形だよ。…わかる?」
「あっ!ずかんで見た!すごい!ほんとうにあるんだー!」
誘拐犯は、はしゃぐ少女を見てクスッと笑った。誘拐犯は無職のニート。幼稚園教諭の新人時代、児童のセクハラ容疑で職員をクビになってしまった。それも冤罪だったため、クビになった時のストレスは想像を絶するほどだった。まさに精神崩壊状態。そんな時、俯きながら公園に行くと、放置されたベビーカーがあり、そこにいた子供を誘拐してしまった。遠くに母親のような人物はいたが、捕まるなどのリスクを考えずに、少女に手が伸びてしまっていたのだ。
(俺は本当にどうしようもないロリコンだ。)
そんなことを毎日思いながら、少女の面倒を見て生活している。
「おじさん!あれって、ながれ星?」
「…あっ、ほんとだ。」
2人は空を見上げると、流れ星が降り注ぐように見られた。
「凄い。初めて見たなぁ」
「おじさん!ながれ星に、3かいおねがいごとをしたら、ねがいが叶うんでしょ!!本で読んだよ!」
少女は目を輝かせて言った。誘拐犯はこのような雑学もたくさん教えていたため、少女はそこらの小学生と変わりない脳を持ち合わせていた。
「よく知ってるね。お願いごとしてみよっか?」
「うん!!」
元気よく返事をした少女は、芝生に寝転がり手を合わせた。
「おじさんと、ず~~~っと、いっしょにいれますように!」
「…!」
少女はニカッと笑った。誘拐犯も自然と笑顔になり、目に少し涙を浮かべながら言った。
「…その速さじゃ、3回なんて言えないよ?」
「ええ~っ!?」
しばらくした後、2人は手を繋ぎながら家に帰って行った。
薄暗い部屋で、少女はボロボロのベッドでいびきを掻きながら寝ていた。テレビはニュースしかやっていない時間帯。誘拐犯は毎日チェックしている。
【川嶋美香ちゃん(当時1歳)誘拐から10年】
「…もう10年か。」
この日は少女を誘拐してからちょうど10年の日。誘拐犯は自分のした罪を重く受け止めていた。テレビにはその母親らしき人物も、涙を流しながら事件について語っていた。
『私が目を離した隙に誘拐されてしまって…自分の惨めさを悔やみます。安否がわからなくなっている状態は本当に苦しく、辛いもので…。生きていることを切実に願います…。』
誘拐犯は胸が苦しくなった。自分のしたことはわかっている。だが、後に退けない。その時、少女が起き上がった。
「おかあさん…?」
「えっ?」
「おかあさんだ…!!」
少女はテレビを指差し、「おかあさん」と連呼している。
「…みかちゃん、ゆうかい…?わたしの名前…?」
誘拐犯は少女を見た。少し怖がっているような表情をしている。
「えっ、わたし…?これ、わたしだよね…?ちがう?にてる。おじさん、これどういうこと?」
「…………あっ。」
誘拐犯はなにも言えずにいた。初めてのことだった。誘拐犯の身体が小刻みに震えだす。
「…ゆうかいって、知ってるよ…?だめなことだよね…?わたしゆうかいされたの?…だれに?」
誘拐犯はどうしていいかわからず、下を俯いたまま少女を見ずにいた。だが、少女はずっと真っ直ぐ誘拐犯を見つめている。
「ねぇ、おじさん。大好きだよ。なにかいってよ。これおかあさんだよね?おじさん、だれなの?わたし、ゆうかいされてるの…?教えてよ!」
誘拐犯は悟った。この少女は『できすぎている子』だというとに。勘が鋭く、単語を覚える記憶力もずば抜けている。元々脳の構造的に頭が良いのだろう。育て方次第では素晴らしい仕事に就ける。輝く未来がある。無限の可能性がある。可愛らしくて、たくさんの人に囲まれていて、純粋無垢で、優しくて、爽やかな笑顔を見せてくれる。そんな少女を誘拐犯は捕まえ、不安げな表情をさせ…………
「ごめんね。」
誘拐犯は少女の腕を掴み、家の外へ強引に出した。ガチャリと戸が閉まり、鍵がかけられてしまった。
「おじさん!?」
中からはなにも聞こえない。
「おじさん待って…?ど、どうして?おじさん!?なに!?きゅうにどうしたの…!どうしたらいいの!?わたし、わるいことしたの、?おじさんにわるいこと、しちゃったの…?」
「…」
「おじさんのおかげでたくさんのこと知れたよ?おじさんのおかげでおいしいものを食べたよ?おじさんのおかげでここまで生きてこられたんだよ?」
「……」
「おじさん、大好きだよ!!だから、とびらを開けてよ!!ねぇっ!!」
少女は扉をドンドン叩きながら泣いていた。
「星を見せてくれたとき、ほんとうにうれしかったよ。何よりもきれいで、おじさんの笑顔が見れてわたしもうれしくなったよ。」
「………」
「だから…だから!!!へんじしてよ!!おじさん!!!!!!!!」
少女は泣き叫んだ。その声を聞きつけた近隣住民の老人が、少女の元へやってきた。
「うるさいぞ!!何やってるんだ!!!!」
「う、うわあああああっ…!!開けて…!!おじさん!!!!!お願い……。」
「早く黙ってくれないか?」
老人が少女の肩を叩こうとした。その時、少女が勢いよく手を払い除けた。
「触らないでっ!!!!」
「な、なんだこのガキ…!?」
「おじさん以外……わたしは触られたくない…。」
「は?なんだこの!!!!……あ、あ?お、お前…美香ちゃんか?さっきニュースでやってた誘拐事件の………」
「えっ…?」
その後、老人の通報によって少女の身柄は確保された。傷痕なし、健康的、知能も問題なし。全国民が少女の生還に驚き、ネットではその話題が注目され、あるアプリのトレンド上位になるほどだった。
一方、誘拐犯の家が特定され乗り込むも、既に首吊りで死んでいた。自殺だ。家の中には大量の保存食、子供用の着替え、大量の本があり、机の上には手紙のようなものがあった。その一部を公開する。
〔(略)こんな俺でごめんなさい。
とにかく、ミカちゃんだけは守ってほしい。
ミカちゃんはとてもいい子で、すごく頭も良かった。どうか、ミカちゃんの頭の中から、俺と一緒にいた記憶を消し去ってほしい。安定した生活を送ってほしい。これが俺からの願いです。〕
「おじさんと、ず~~~っと、いっしょにいれますように!」
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