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第4章 父と娘の旅立ち
第129話 課外授業の子育て講座
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七月から、課外授業の子育て講座を受講していた。八月の終わりまで、数回の講座だった。八月に入り、副担当の女性講師に、宿舎での状況を相談した。
私に踊りや楽器、お参りはもちろん、掃除や食事の準備、風呂掃除などにすべて参加するように強制し、四歳の娘にも黙ってその場で、良い子にして静かに待っていることを強要する。それが無理で、娘が泣き出すと、一般信者はもちろん、世話係の中尾まで、大声で怒鳴りつける。
ある日は、「もう我慢できん」と言った西山の一言に、中尾が過剰に反応し、娘を抱えて食堂の外へ連れ出し、お漏らしまでさせたことも話した。中尾は謝罪もせず、私が娘を連れて風呂場へ行き、怒りをかみ殺して娘の体を洗った。
もう、どこにも居場所はなかった。情けない限りの宗教生活だった。
「幼児に、大人の生活に合わせることを求めること自体、無理ですよね。
この子育て技法は、大人が子供に合わせることを学ぶものです。それができていない教会もあるとは聞いています。
そういう教会の方に参加してもらえればいいんですけど…」
中尾が里親をした時に、被虐待児を殴ったという話も伝えた。別れ際に、その子が「おっちゃんに、また会いに来る」と言ったことも、「嘘かもしれないのにね」と先生は呆れていた。
もう宿舎での生活に限界が来ていることを告げた。この講座も中途でリタイアすることになるかもしれないことも。
修了証がもらえないことは、少し残念だった。
娘との別れも近づいてきていた。
この講座で学んだことも、今後、娘との関わりに活かせる可能性は少ない。
中尾にお漏らしをさせられてから、食堂で皆と一緒に食事をしていない。夕食は、食堂から部屋へ運んで、二人で食べた。
食事の準備や後片付けのあいだは、娘に妖怪ウォッチのDVDを見せて、部屋で待っていてもらった。
朝食は、毎朝コンビニに寄って、娘にパンを選ばせた。駅のコンビニには、「アナと雪の女王」のパンが並んでいた。アナとエルサの二つとも購入した。宿舎の人たちに追いつかれないように、急ぎ足でベビーカーを押し、少し早めに到着して、校舎下の柱の陰でパンを食べさせた。
山から下りてくる風が、一階のピロティを吹き抜けていく。汗だくの体に、とても心地よかった。
ここでの大変な毎日は、娘と別れたあとも思い出として残るに違いない。
すべてが、娘との貴重な時間だった。大切な、大切な時間だった。
先月修了して去っていった世話係のおじさんは、娘を連れて、食堂の後片付けに来ていた私に、無理をしなくていいと言った。優しい人だった。
「できない人は、できることだけをすればいい。皆がすべて同じことをしなくてはいけないなんて考えるのは、ただの人間智や。
神さんは、その人それぞれが居やすい方法で、ここにいればいいと思っとる。
ここへ来た人はみんな、神さんに呼ばれてきてるんやから、できんならできんで、堂々と居たらいいんや」
そんなことを言ってくれるのは、ここでは、その人だけだった。
西山は、楽器の練習に邪魔な親子が迷惑で、静かにしているように注意した。
布教所から来た二十代後半の女性は、娘に踊りの練習の邪魔をしないよう叱った。
誰も、子育て講座を受講していないようだ。
自分の踊りと楽器の練習に必死で、親子の苦労は気にも留めない。神様は、彼らに周りが見えていない大人として、堂々と修行することを求めたのだろうか。
そんなはずはなかった。
「途中で帰らせたら、世話係として恥」、中尾は自分の言葉をそのまま現実のものとする。
雅楽会の会長さんは、言った。
「神代さんは、彼らにおみやげを残すことになるやろ」
最終的に、彼らに爆弾を落とした。
四歳児以下の彼らに、手痛い爆弾を炸裂させて、家に帰ることになる。
彼らにも、特別な課外授業が待っていた。
私に踊りや楽器、お参りはもちろん、掃除や食事の準備、風呂掃除などにすべて参加するように強制し、四歳の娘にも黙ってその場で、良い子にして静かに待っていることを強要する。それが無理で、娘が泣き出すと、一般信者はもちろん、世話係の中尾まで、大声で怒鳴りつける。
ある日は、「もう我慢できん」と言った西山の一言に、中尾が過剰に反応し、娘を抱えて食堂の外へ連れ出し、お漏らしまでさせたことも話した。中尾は謝罪もせず、私が娘を連れて風呂場へ行き、怒りをかみ殺して娘の体を洗った。
もう、どこにも居場所はなかった。情けない限りの宗教生活だった。
「幼児に、大人の生活に合わせることを求めること自体、無理ですよね。
この子育て技法は、大人が子供に合わせることを学ぶものです。それができていない教会もあるとは聞いています。
そういう教会の方に参加してもらえればいいんですけど…」
中尾が里親をした時に、被虐待児を殴ったという話も伝えた。別れ際に、その子が「おっちゃんに、また会いに来る」と言ったことも、「嘘かもしれないのにね」と先生は呆れていた。
もう宿舎での生活に限界が来ていることを告げた。この講座も中途でリタイアすることになるかもしれないことも。
修了証がもらえないことは、少し残念だった。
娘との別れも近づいてきていた。
この講座で学んだことも、今後、娘との関わりに活かせる可能性は少ない。
中尾にお漏らしをさせられてから、食堂で皆と一緒に食事をしていない。夕食は、食堂から部屋へ運んで、二人で食べた。
食事の準備や後片付けのあいだは、娘に妖怪ウォッチのDVDを見せて、部屋で待っていてもらった。
朝食は、毎朝コンビニに寄って、娘にパンを選ばせた。駅のコンビニには、「アナと雪の女王」のパンが並んでいた。アナとエルサの二つとも購入した。宿舎の人たちに追いつかれないように、急ぎ足でベビーカーを押し、少し早めに到着して、校舎下の柱の陰でパンを食べさせた。
山から下りてくる風が、一階のピロティを吹き抜けていく。汗だくの体に、とても心地よかった。
ここでの大変な毎日は、娘と別れたあとも思い出として残るに違いない。
すべてが、娘との貴重な時間だった。大切な、大切な時間だった。
先月修了して去っていった世話係のおじさんは、娘を連れて、食堂の後片付けに来ていた私に、無理をしなくていいと言った。優しい人だった。
「できない人は、できることだけをすればいい。皆がすべて同じことをしなくてはいけないなんて考えるのは、ただの人間智や。
神さんは、その人それぞれが居やすい方法で、ここにいればいいと思っとる。
ここへ来た人はみんな、神さんに呼ばれてきてるんやから、できんならできんで、堂々と居たらいいんや」
そんなことを言ってくれるのは、ここでは、その人だけだった。
西山は、楽器の練習に邪魔な親子が迷惑で、静かにしているように注意した。
布教所から来た二十代後半の女性は、娘に踊りの練習の邪魔をしないよう叱った。
誰も、子育て講座を受講していないようだ。
自分の踊りと楽器の練習に必死で、親子の苦労は気にも留めない。神様は、彼らに周りが見えていない大人として、堂々と修行することを求めたのだろうか。
そんなはずはなかった。
「途中で帰らせたら、世話係として恥」、中尾は自分の言葉をそのまま現実のものとする。
雅楽会の会長さんは、言った。
「神代さんは、彼らにおみやげを残すことになるやろ」
最終的に、彼らに爆弾を落とした。
四歳児以下の彼らに、手痛い爆弾を炸裂させて、家に帰ることになる。
彼らにも、特別な課外授業が待っていた。
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