総理大臣の恐怖スピーチ

萌流球夜

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其の三 恐怖

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 オニキモンはしばらくの間、無言で立っていたが、ズボンのポケットから恐らくスマホを取り出し、チラリと画面を見た。時刻を確認したのだろう。

「さて、もうそろそろ、今日の本題に入りたいと思います」
 オニキモンが落ち着いた声で言った。
「えー、今日、俺様がなぜここにいるのか。それを今から話したいと思います」
 会場はだれも反応を示さない。
「おいおい、ここで拍手じゃねーの? まあいいや」
 オニキモンはやれやれといった表情をして、大きくため息をついてから語りだした。
「さて、皆さん、デスゲームって知ってますよね。今、流行ってますよね? 私も好きです。いや、大好きなんすよね。んでね、今日は皆さんにもデスゲームを体験してもらおうと思いましてね。用意してきました」
 会場は無言のままだ。さすがに言葉通りの意味ではないだろうという空気である。
「と言っても、俺様が考えたわけでもないし、やりたいと言ったわけでもない。誰かっつーと上の人たちです。上の人たちってーのは誰かっつーと、日本よりも上にアメリカ様がいますよね? そんで、そのアメリカ様よりもさらに上の人たちっつーことね。その上の人たちが本物のデスゲームを見たいと。映画やドラマでは満足できないと。まあ、そういうことになったらしくってさ。そんで、まずはアメリカ政府に掛け合ったっつーことなんだが、アメリカ政府はあれこれ検討したうえで、まずは日本にやらせようとなったってことだ。なんたって、日本の総理大臣は俺様だからな。俺様は常日頃からアメリカ様の為にご奉仕しているので、アメリカ様の俺様への信頼はすごいわけ。まあ、俺様はアメリカ様の言うことは何でも聞いてるんでね。なんせ、アメリカ様の言うことを聞いていさえすれば、なぜか俺様の地位はますます盤石になり、なぜか俺様の資産がどんどん増えていくんだぜ? 最高だろ? はははっ。まあそういうわけで、日本に白羽の矢が立ったっつーこと。これは光栄なことだぜ? 今回のリアルデスゲームシリーズの栄えある最初の開催地に選ばれたんだぜ? しかもそのゲームのメンバーが今ここにいる君たちだ。嬉しいだろ?」
 会場が少しだけ不穏な空気になってきた。まさか、本当じゃないだろうな。卒業生たちのそんな声が聞こえてきそうだ。オニキモンの頭がいかれているだけにも見えるが、オニキモンの普段の外交政策を見ていれば、リアリティーを感じられる話でもある。
「まあ、アメリカ様からすれば、デスゲームなんて日本人にでもやらせとけばいいだろっつーことだ。で、それをサポートするのが俺様の役目なんだな。いやー、誇らしいぜ。ふははははっ」
 オニキモンは嬉しそうに笑った。アメリカの命令を実行することが、本当に誇らしいと思っているようだ。
「今回が最初っつーことで、我々もまだ手探りなんでね。今回に関してはこっちとしても練習っつーか、パイロット版っつーかね。まあ、とりあえず1回やってみましょうって感じなわけよ。だから、今回はまだそんなに面白くなくてもいいっつーか、視聴率取れなくてもいっかみたいな、そんなテンションでやっております。これから皆さんにゲームをやってもらうわけだが、このゲームあんまり面白くねーじゃねーかみたいに思っても、まあ勘弁してくれよっつーことです」
 会場はまだ半信半疑といったところだが、オニキモンはその空気を察したようで、ニヤリとしてから話を続けた。
「えー、皆さん、君たちがこれから殺し合いをするということが、まだよく分かっておられないようですねー。俺様がこんなに一生懸命分かりやすく説明しているというのに、残念ですよ。へっへっへっ」
 ここでオニキモンは再びスマホと思われる物の画面を見た。
「まあいいでしょう。さて、オメーらも、早くゲームしてみたいだろ? ということで、予定していた時間になりましたので、これから準備に入りたいと思います」
 オニキモンがそう言うと、体育館にゾロゾロと人が入ってきた。一見して業務用と分かる大きなビデオカメラ、それに照明や音声などの機材が多数運び込まれている。舞台上や2階部分も含め、体育館の様々な場所に機材が設置されていく。
「えー、ここで一つ注意事項があります。体育館の外に出たら死にます。正確に言ってあげると、射殺されます。なので、そこから動かないように。撮影の準備ができるまで、しばらく待ってて下さい」

 機材の搬入と設置を行っている連中は特に急ぐこともなく、淡々とやっている。ただ、そのスタッフ全員がサングラスをしていたり、お面をかぶっていたり、着ぐるみの頭の部分だけを着ていたりして顔を隠しているので、かなり不気味な光景だ。
 舞台上の演台が片付けられ、代わりに大型モニターが設置された。電源が入り、画面には大きく『3:00:00』と表示されている。その下には『72』。オニキモンはマイクを手に持ち、適当にうろついている。しばらくの間、連中の作業する音だけが体育館に響いた。
 撮影の準備が整ったところで、今度はライフルを構えた軍人たちが体育館の中に入ってきた。戦闘服を着ており、全員がサングラスをかけている。顔ははっきりと分からないものの、日本人ではなく、おそらくアメリカ人であろうことは見れば明らかだ。卒業生たちが座っている四方を取り囲むように配置している。一辺に3人ずつ、合計12人。2階部分を見ると、左右と後方に1人ずつ、合計3人。1階と2階を合わせると全部で15人。全員がライフルの銃口を卒業生たちに向けている。オニキモンの話は本当だった。ようやく卒業生たちも悟ったようだが、この状況では誰も動くことはできない。
 一気に緊張感が高まり、張り詰めた空気になった。耐えられなくなったのか、奇声を上げる者が数人いたが、オニキモンも軍人も全く気にしていないようだ。

 待っている間、気怠そうに壇上をブラブラしていたオニキモンがマイクを使って、「えー、もう撮影は始まってますよね?」と撮影班の誰かに向かって聞いた。撮影は始まっているらしく、オニキモンが口元を少し緩めて頷き、こちらに向き直った。
「はい。もう撮影は始まっています。撮影っつーか生中継もされています。いやー、ワクワクしますね。ふはははっ。まあ、さっきも言ったように、今回は初めてなんであんまり期待はしてないんだが、こうやって始まってみると、どんな風になるのか楽しみだぜ。では、ルールを説明します。えー、ぶっちゃけ、ルールとかあんまり気にしてません。はっはっはっ。まあ、今回は適当にやりゃいいかって感じだったんでね。まあ、要するにお前らが殺し合ってくれれば何でもいいわけよ。とはいえ、いくつかルールを設定しました。まず一つは、今お前らがいるエリアより外に出てはいけません。周りに白いラインがあるだろ。もし、そのラインの外に出たら射殺してあげると、まあそういうことになっているわけです。ふへへへへっ。えー、二つ目。このモニターに出ているように、今ここには72人がいます。んで、最終的には5人以下になるまで殺し合いをしてもらいます。以下ってーのは、何人か同時に死ぬこともあるだろうからっつーことね。基本的には5人まで残ればこのゲームの勝者ということになります。最後の5人に残れるよう、頑張ってください。ついでに言うと、勝ち残った5人はどうなるかというと、アメリカ様の保護の元、海外で暮らすことになります。生活は完全に保証されています。つまり、何もしなくても生きていくことができます。これはラッキーだよな。いい話だろう? はっはっはっ。住む場所はアメリカ様が提供するんで、そこに住んでもらいます。ま、おとなしくしてりゃー何もないと思うぜ。ただ、今回のことをバラそうとしたりすると、まあ消されるだろうな。ふはははっ。だから、そこだけ気を付けてりゃー大丈夫なはずです。まあ、そこは俺様も生き残った奴らへの手厚い保護をアメリカ様に交渉したわけよ。こっちはデスゲームでも何でもやるから、そっちもお願いねっつーことでね。素晴らしいだろ。さすが日本の総理大臣だろ。見事な外交手腕だろ。感謝しろよ。はっはっはっはっ!!」
 オニキモンの不気味な笑い声が響き渡る。
「で、えーと、何の話だっけ? あ、ルールの話か。えーと、後はだな。そうそう、今回のゲームは3時間以内で終らせようということになってるわけよ。別に深い理由は何もないんだが、まあ、今回は試作品みたいなもんなんで、チャチャっと終わらせようっつーこと。なので、残り10人になるまで、2分に1人を射殺していきます。えー、今72人いるけどめんどくせーから、70人ちょうどだとして、もしオメーらが誰も殺さなかったとしたら、60人を射殺するのに2時間なので、残り10人で残り1時間ってー感じになるわけよ。で、残り1時間誰も死ななかったら、最後は適当に5人を射殺して、5人が生き残るということになります。ここで朗報です。要するに今回のゲームは何もしなくても運が良ければ生き残れます。ま、でも取りあえず、おしくらまんじゅうなり相撲なりしてエリアの外に誰かを押し出せば、周りにいる銃を構えている方たちが射殺してくれますので、まずはそれを狙うのがいいと思います。明らかに男子に有利なんだけど、そこで男子がどうするかってーのも見ものなんだよな。へへへっ。ただ、こちらとしてはゲームを盛り上げたいんで、状況を見ながら、ゲームを動かすためにルールを変えたり追加したりとか、あるいはエリアの中に武器だとか何らかのアイテムを放り込んだりとか、女子に超有利なようにするとか、そういうことも考えています。俺様は女子に頑張って欲しいんでね。うへへへへっ。まあ、今回に関しては我々の気分次第で適当にやっていきます。ふははははっ。まっ、お前らがどんどん殺し合ってくれたら2分に1人の射殺なんかすぐやめますので、どんどんやっちゃって下さい。ふへへへへ。あっ、今お前らが持っている物は何でも使っていいですよ。もしカッターを持ってたら使っていいし、服とかベルトで首を絞めるとか、何でもやっちゃって下さい」
 今回の卒業生は全部で72人だ。ここに72人の卒業生がいるということは、誰も休まず、全員が出席していることになる。72人から5人に残る確率は……。手元のスマホで計算すると、6.94444……パーセント。つまり約7パーセントだ。この数字を見ると、生き残れる可能性は思ったよりはあるような印象だ。
 「あ、そうそう。さっきからスマホを見てる奴がけっこういますねー。こっからよく見えてますよ。でも、ネットにつながんないっしょ? ふふふっ。残念でしたー。そりゃー、こっちだって対策するに決まってるっつーの」
 確かに手元のスマホがネットにつながっていない。電波妨害をしているんだろう。
「さて、大体、必要なことは言ったかな。あー、まだあった。そうそう、これから何十人もの人間が一気に死ぬわけだ。だから本当にデスゲームなんてやったら、マスコミとかSNSで大騒ぎになるはずだと。大問題になるはずだと。そんなこと思ってませんか? 残念でした。そんなことは絶対に起きませーん。ふははははっ。そんなものはアメリカ様の力でいくらでも隠蔽できますんで、ご心配なく。君らが消えたところで、大きな話題になることはありません。この学校を選んだのも隠蔽しやすいっつーのが理由の一つなんでね」
 オニキモンの言う通りだ。卒業生の人数はそんなに多くないし、この学校は周囲から孤立した場所にあるため、大きな音が出ても誰も気づかない。彼らにとってはうってつけだ。
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