イケメンがご乱心すぎてついていけません!

アキトワ(まなせ)

文字の大きさ
上 下
62 / 70

60.うちのお坊ちゃんはもう!!

しおりを挟む
 
 ── いや、始めねぇから。
 なに言ってんの、お前。
 
 
「消毒なら廊下が先だろ。マッチョのショロロがそのままだろうが」
「ショロロ……?」
 
 
 何で元凶のお前が、訝しげな顔をしてるんだよ。自分でやった事も忘れたのか?
 
 
「俺を捕まえてたマッチョだよ。アイツが漏らした小便の後始末がまだなんだっつの」
 
 
 あと土足で歩かれた玄関まわりもな。
 泥がすごいようなら拭くだけじゃなく、掃かなきゃなんねーかも。
 
 はー…。最悪。考えるだけで疲れてきた。
 今日はもう疲れたし、明日でいいかって後回しにするつもりだったけど、悠がこれだもんな。
 身体の消毒よりも小便を何とかしてくれよ。
 エロい気分だって、小便を拭き終える頃には消えてるだろ。
 
 つーか俺一人で、お漏らしの後始末をするなんて嫌すぎる。 
 元凶であるこのエロ坊っちゃんにも、拭き掃除を手伝わせなきゃだ。
 
「消毒したいっつーなら、玄関周りの消毒を手伝ってくれよ。俺だけじゃ大変だしさ」
 
「ほら行こうぜ」と声をかけながら、上から退くように手で押し返してやると、意外にもあっさりと上体を起こしてくれた。
『お、素直じゃん』と思ったのも束の間、悠が俺の腹に跨がったまま、着ていたラムニットのセーターをガバリと脱ぎ捨てると、俺に渡してくる。
 
 
 ちょ…っ、いきなりどうした?
 まさかとは思うけど…受け取れって言ってる?
 
 
「……え? くれるの?」
「ああ」
 
 戸惑いながらもしっかり受け取る。 
 なんだなんだ? 
 いきなり気前がいいじゃないか悠さん。
 さっき怖がらせた詫びのつもりだって言うなら、遠慮なく貰うぞ。
 てか元々貰うつもりだったんだけど。
 
 
(へへっ、悠の服だ!)
 
 
 貰ったセーターが嬉しすぎて、ふへへっとニヤけながら顔を押し付ける。
 ふわっと香ってくる悠の匂いがたまんない。
 
(うー…っ、好き! ほんとこの匂い好き!)
 
 息を吸い込むと恍惚感で頭が痺れてくる。
 はぁ、やっぱいい匂い……。
 思わず緩んだ口元から涎が垂れそうになって、ハッとする。
 
 いやいやいや。なに服に夢中になってんだよ! 
 掃除!掃除だっつの!!
 
 
 慌てて顔からセーターを退けると、悠がスマホを操作している。
 賄賂は嬉しいけど、人の上で何やってんだよ。
 騎乗位の格好でスマホなんか弄ってないで、さっさと上から退いてくれ。
 
「悠、あのさ……っ」
「アキ、ズボンが汚れると困るから、脱がせてくれ」
 
 
 うちのお坊っちゃんたら、本当にもう!!
 
 
 手元に夢中になりながら言うセリフがそれですか?! とんだワガママ坊っちゃんになっちゃってまぁ!
 
 スマホに夢中になってる暇があるなら、自分で脱げばいいのに。
 まぁ今回だけは言うこと聞いてやるけどな。
 俺だって掃除の際に、悠のズボンがマッチョの小便なんかで汚れるのは勘弁してほしいし。
 
 汚れたら申し訳ないってのもあるけど。
 それよりも……うん!
 これも隙を見て、貰えそうなら貰っとくか。
 悠コレクションにぜひ加えたい1品だ。
 意外と収集癖のある自分にビックリだ。
 推しのものは何でも欲しがる、ファン心理みたいなもんか?
 よく分からんがまぁいい。欲しいもんは欲しいし。
 代わりに悠には、適当なジャージでも渡しとけば大丈夫だろ。
 
 ではさっそくとばかりに、ズボンの縁に手を掛けてやると、悠が気を利かせたように腰を上げてくる。
 さすがお坊ちゃん。
 脱がされるのも、慣れてらっしゃいますね。
 それに合わせるように、ズボンをズリ下げながら脱がしてやるけど……。
 おい、お前の足なげーな。
 上から退いてくれねーと、手が届かねーぞ。
 ああ、はいはい。ズボンを足から抜くのは自分でやるの? そうかいそうかい。
 分かったから、はよ退け。
 
「悠。雑巾用意してくるから、さっさとここから退いてくれ」
 
 ペシペシと跨がったままの太ももを叩いて急かすと、持っていたスマホをベッドに放り投げた悠がこっちを見てくる。
 そのまま退くのかと思いきや、んん? 
 何でこっちに倒れてくんの?
 何してんだ?と思いつつ見守っていたら、俺の首元に顔を埋めるようにしながら抱きしめてきたよね。
 
 あー、はいはい。
 ……退く気ねーな、コイツ!!
 
 
「悠さん、掃除は!!」
「ちゃんと手配はしておいた」
「は?」
 
 話が噛み合わねぇ。
 つか退けって。素肌が触れ合ってる感覚が、生々しいっつの。
 俺が脱がしたとはいえ、パンいち同士でこの態勢は非常にまずい。
 ああもうっ。押し退けようと力を込めてんのに、ビクともしねぇ。
 どころか耳の後ろあたりに、チュッと音を立てながらのキスまでしてくる余裕っぷり。
 そのまま耳の中に、息を吹きかけるように囁きかけてくる。
 
「清掃業者に手配をしたと言ったんだ。明日の朝に来る」
 
 
 ──は?
 なんだこの睦言。頭が狂ってんのか?
 
 
「玄関の掃除程度に、業者を手配したってのか?!」
「ああ。掃除が必要だったんだろう?」
「そりゃ必要だけどさ…っ、それだけのために業者なんか呼ぶなよ。金がもったいねぇ!!」
「もう手配済だ。アキだって、漏らしたものの処理なんてしたくなかったんだろう?」
 
 それはまぁ……したくないに決まっている。
 ゴム手袋越しにだって触りたくもねぇけど、一時間もかからないような後始末に業者を呼ぶって発想がヤバい。
 
(……やっぱコイツとは、住む世界が違うよな)
 
 抱きついてくる悠を見つめながら、改めて思ってしまう。
 
 
「どうした? そういえば床に光沢もなくなっていたようだし、ついでにワックスがけも追加しとくか」
「いや、それは止めてくれっ」
 
 スマホに手を伸ばそうとする悠に向かって、慌てて否定する。
 もう頼んじまったようだし業者は仕方ないとしても、ワックス掛けだけは駄目だ。
 
 ひと目で分かるような変化は困る…!
 
 一晩で床がツルツルのピカピカに変わっててみろ。
 帰ってき姉ちゃんに何を言われるか……!!
 なるべくなら今日の事件は、姉ちゃんには知られたくねぇんだって。
 無茶したことも怒られるだろうけど、俺が誰かの標的になってるって分かったら、絶対心配しちゃうじゃん。
 
 それに……。
 俺を残して彼氏の家に行っていたことも、後悔するんじゃねえかって思いそうで……余計今日の事は黙っていたくなる。
 せっかく彼氏とうまく行ってんのに、これが切っ掛けでギクシャクされんのだけは嫌だ。
 
 
「──なぁ悠」
「どうした?」
 
 突然トーンダウンした俺に気付いた悠が、不思議そうに顔を覗き込んでくる。
 今になって不安が広がってきた。
 自分の選択が合っていたのか、聞いてみたくなったんだ。
 
「あの時はさっさと帰ってほしい一心で、何も聞かずにアイツ等を帰しちまったんだけどさ……やっぱまたこういう事が続いたりすんのかな?」
 
 誰かに依頼されたって言ってたし。
 失敗したらまた別の誰かに依頼するって可能性もあるのかも。
 あの時は必死だったし帰ってもらうことしか頭になかったけど、俺がバイト中にまた暴漢紛いが家に入り込む可能性だってあることに気づいちまった。
 俺の代わりに姉ちゃんが……って考えると、心臓が嫌な音を立てて軋む。
 
 
(そんな目に姉ちゃんを遭わせるくらいなら、まだ俺の尻が死ぬ方がマシだ──…!)
 
 
「アキ──…」
 
 嫌な想像に強張る俺の頬を、悠の両手が優しく包みこんできた。
 
しおりを挟む
感想 96

あなたにおすすめの小説

最愛の番になる話

屑籠
BL
 坂牧というアルファの名家に生まれたベータの咲也。  色々あって、坂牧の家から逃げ出そうとしたら、運命の番に捕まった話。 誤字脱字とうとう、あるとは思いますが脳内補完でお願いします。 久しぶりに書いてます。長い。 完結させるぞって意気込んで、書いた所まで。

朝起きたら幼なじみと番になってた。

オクラ粥
BL
寝ぼけてるのかと思った。目が覚めて起き上がると全身が痛い。 隣には昨晩一緒に飲みにいった幼なじみがすやすや寝ていた 思いつきの書き殴り オメガバースの設定をお借りしてます

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

元ベータ後天性オメガ

桜 晴樹
BL
懲りずにオメガバースです。 ベータだった主人公がある日を境にオメガになってしまう。 主人公(受) 17歳男子高校生。黒髪平凡顔。身長170cm。 ベータからオメガに。後天性の性(バース)転換。 藤宮春樹(ふじみやはるき) 友人兼ライバル(攻) 金髪イケメン身長182cm ベータを偽っているアルファ 名前決まりました(1月26日) 決まるまではナナシくん‥。 大上礼央(おおかみれお) 名前の由来、狼とライオン(レオ)から‥ ⭐︎コメント受付中 前作の"番なんて要らない"は、編集作業につき、更新停滞中です。 宜しければ其方も読んで頂ければ喜びます。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

処理中です...