イケメンがご乱心すぎてついていけません!

アキトワ(まなせ)

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57.屈辱の夜

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 はぁああっ!?
 
  
 一体何を始めるってんだよ。
 しかもその手に持ってる物って……。
 いやいやいやいや、嘘だろっ!
 さすがに洒落になんねぇって。
 
 
 未成年相手に何でこんなに強気なんだ?って思ってたけど、レイプ動画を撮って脅すつもりだったのか。 
 
(やべぇ。これはマジでやべぇって!)
 
 依頼主が誰かなんて知らねーけど、こんなのが流出したら俺の人生メチャクチャじゃん!
 
 恐々と渡されたビデオカメラを凝視していたら、視界を塞ぐように目の前の短髪マッチョが屈み込んできた。
 警戒して身を固くする俺を、せせら笑うように見下ろしながら、伸ばしてきた手でパンツごと股間を掴まれる。
   そのまま容赦のない力でクララを握り込まれた。
 
 
「…………ぃッ!!」
 
 
 痛っってぇえええ! 
 
 
(なんつー力で握ってくんだ馬鹿野郎……!!)
 
 苦痛から腰を引こうとしても、後ろのマッチョが邪魔で逃げられねぇ。
 握られた玉ごと、潰されるんじゃねーかって恐怖に、額から汗が吹き出てくる。
 怯える俺に向かって、短髪マッチョが小馬鹿にした笑みを向けてきた。
 
「ははっ、か~わいい。大事なおちんちん、竦み上がっちゃったねぇ」
 
 この……っ、バカが! 
    竦みあがったじゃねぇよ!
 クララに何してくれてんだ、このアホ短髪!!
 
「あっ、ぅ……痛ぇ…よッ!」
 
 小さく震えるクララを、無理やり引っ張り出すように握られて痛い。とにかく痛い。
 ちんこが痛すぎて、鼻の奥がツンとしてくる。
 目尻に涙を浮かべる俺を見て、マッチョ達がさらに下卑た笑いを浮かべるけど、こんな事の何が面白いってんだ。人の痛がる姿を見て、笑ってんじゃねーよ。
 
 あーくそっ。こいつらマジでキモい!
 舌舐めずりしながら近づいてくる顔に、鳥肌が立つ。
 生温い息がかかって、気持ち悪ぃ!
 
 
 もう耐えらんねぇ!
    これ以上近づくなら、顔に唾吐いてやる。
 キッと睨みかけたけど、すぐに自分の状況にハッとなった。
 いくら気持ち悪いとは言っても、そんな事をしたら本気で玉とちんこを握り潰されかねねぇ。
 腹は立つけどクララを守るためだ。
 我慢するしかねぇ……!
 
  
(どうすんだこれ……。詰んでないか?)
 
  
 ヤクザ風の男が来てから、空気が一変してしまった。
 始めはふざけていたマッチョ達も、男が来てからは仕事モードにでも入ったのか、いつ襲われてもおかしくない気配を漂わせている。
 
 
(まずいな……。悠が通報して警察が駆けつけて来るのが先か、俺が犯られるのが先か)
 
 
 犯られる結末だけは勘弁してほしい。
 絶対俺の肛門が死んでいる……!

 
 自分の肛門の未来を考えると悲しくなってきた。
 悠もそうだけど、俺を襲おうとする奴らは何で揃いも揃って、巨チン野郎ばっかりなんだよ。
 どうせなら巨根よりも巨乳がいいに決まってんだろ。
 ホモじゃねーのに、何で男にばかり狙われてんだよ。
 
 尻破壊だけは何とか回避したいけど、とにかく警察が到着するまでの辛抱だと思うしかない。
    悠の存在と俺の尻だけは何とか守ってみせる!

(ただ心配なのは、悠の靴が玄関に置きっぱなしなんだよな……)
 
    不自然にデカイサイズの靴が鎮座しているというのに、今の所は誰も気にした様子がねぇ。
    見た目通りの脳筋集団と見ていいのか? 
 
 よしよし。
 そのまま悠の存在には、気づかないでいてくれよ。 
 ちんこは痛いけど、俺の尊い犠牲のおかげで靴の存在に注意が行ってないならラッキーだ。
 だけどいい加減、ちんこから手を離してほしい。
    痛いしちんこ伸びそうだし、何がしたいんだよこの短髪。 
 竿役だっつーなら、せめて気持ちよくしてくれ!
 
 
 痛い、痛い、痛いと歯を食いしばる俺の耳に「おい」と呼ぶ、低い声が届いた。
 瞑っていた瞼を開くと、玄関にいたヤクザ風の男が、いつの間にすぐそこに立っている。
 
 ──土足で。
 
(くそっ、どいつもこいつも……!)
 
 廊下が泥だらけじゃねーかと腹立たしい気持ちで足元を見ていたら、「そこ退け」と目の前の短髪マッチョに向かって顎をしゃくっている。
 サッと脇に避ける短髪。
 おかげでちんこから手が離れたのはいいけど、もっと怖そうな人物が近づいてきたせいで、全然助かった気がしねぇ。
「顔上げろ」と言われて、渋々涙混じりの目で男を見上げたら「へぇ」と片頬だけで笑われた。
 
 
「思ったより悪くねぇな。面倒くせー依頼でふざけてんのかと思ってたが、これなら終わった後でうちの店に置いてやっても……って、んん?」
 
 
 品定めするような視線を向けていた男の顔が、言葉の途中から不自然に歪みだした。
 見る間に眉間に寄っていく皺が……怖ぇ。
 さっきまでのダルそうな雰囲気から一転、警戒したようなキツイ視線を向けられて、血の気が下がった。 
  
「……っ!」
 
 息を詰めるように、ギリッと握り込まれた拳が恐ろしい。
 まさか俺の顔が気に食わないからって、グーで殴ったり……しないよね?
 どんどん険しくなる顔に、震え上がる。
 
(ヤバイ!本気でサンドバッグにするつもりか!)
 
 無理無理無理無理!  
 俺、死んじゃうって!!
 
 
 悠! 悠! おい警察はどうした!! 
 はよ来てくれ!!
 
 
 男のただならぬ雰囲気に、場が一気に緊張し始めた。
 俺だけじゃなく、なぜかマッチョ達まで青ざめている。
 
 何で仲間のお前らまで怯えてるんだよ。
 やっぱこのヤクザ、やべぇ奴なんじゃないの?
 
 よし!
 敵味方関係なくぶん殴るような奴なら、お前らも巻き添えだ。
 逝く時は一緒だからな!
 
 
「──テメェ……っ」
「ひっ!」
 
 
 ドスの効いた声に、身体が竦み上がった。
 拳が振り上がるのを見て、恐怖心から思わず悠の名前を叫び出しそうになった瞬間。
 
 
「く……臭ぇ…っっ!!」
 
 
 は?
 
 
 たまらないとばかりに、男が俺に向かって罵倒してきた。
 振り下ろされるかと思った拳──というか腕で、鼻を守るように覆いながら、嫌そうな目でこっちを見てくる。
 
 待って!
 何この汚物を見るような目!?
 殴るどころか、むしろ近づきたくないって視線が言っちゃってるよ!?
 
 
 ジリジリと後退っていく男を、呆然と見ているしかない俺とマッチョ二人。
 そんな俺達を残して足早に玄関に向かった男が、さらに罵倒を重ねてくる。
  
「臭ぇっ、何だこの匂い!! お前ら全員気づいてねえのかっ。そいつから半端じゃなく嫌な匂いがしてるぞ!!」
 
 
 
 …………は??
 
 
 
「匂いッスか?」
 
 俺の前後に居るマッチョ二人組が、戸惑ったようにこっちを見てくる。
 この場にいる全員の視線が『コイツ、臭いのか?』って目で見てくるのが辛い。
 
 おいっ。こら、クソ短髪!
 俺のちんこ握ってた手を、恐る恐る嗅ごうとしてんな!  臭くねーよ!
 さっき風呂に入ったばっかだぞ!
 
 あーもうっ! 何なんだよコイツら!!
 勝手に犯そうとしてきたくせに、今度は臭いもの扱いで嫌がるのかよ。
 思春期の男子高校生のハートを何だと思ってる。
 この時期のハートは、脆くて繊細なんだぞ!
 お前らのせいで、めっちゃ傷ついたかんな!!
 
 くそ……。
 自分の匂いが不安になってきた。
 
 俺ってそんなに罵倒されるほど臭いのか? 
 鼻を押えながら逃げるって相当じゃん。
 
 悠はこの匂いが好きって言ってくれたけど、やっぱアイツの鼻がおかしいだけなんじゃねーの?
 ヤクザが逃げ出す体臭だぞ。
 いや寧ろ、こんな臭い俺でも好きって言ってくれるだけ神じゃん、悠ってば。
 どうしよ。ちんこを引っ張られた時よりも、すげー泣きたい。
 臭い自分が恥ずかしくなってくる。
 居た堪れなさに視界を滲ませていたら、俺を押さえつけたままのマッチョに向かって、玄関先から男がさらに声を張り上げている。
  
 
「おい、お前ら一旦そいつから離れろっ。そいつから普通じゃねぇαの匂いがしてんだ!」
 
 
 ん?
 
 俺からαの匂い?
 何言ってんだコイツ、と思ったけど──あっ!
 もしかしてさっき悠が馬鹿みたいに出していた、発情誘導フェロモンの匂いか?
 確かにまだ身体の中に残っているような感覚はあるけど……。
 
 原因がわかった途端、ホッとした。
 体臭が原因じゃないなら、もうなんでもいい!
 臭い臭い言われてメチャクチャ落ち込んだけど、αの匂いに危機感を示しているなら、最初っからそう言ってくれよ。
 ほんと紛らわしい。 
 でも何でαの匂いがするからって、そんなに警戒してんだ?
 
 ──いや、待て。
 そもそもαの匂いが分かるって……。
 こいつもαって事か?
 
 確かβは空気で何となくは感じとれても、匂いまでは分からなかったはず。 
 ならやっぱりコイツもαなのか?と匂いに集中してみるけど、マッチョ達の男臭ぇ体臭しか匂ってこない。
  
(近づかれた時も匂いに気づかなかったし、 αと言ってもβに近いのか?)
 
 悠以外のαがどんな匂いか気になるけど、俺の中途半端なバースじゃあ、悠くらい強い匂いを放ってくれないと分からないっぽいな。
 ちょっとガッカリしていたら、背後からヒヤリとするような視線を感じて、全身が総毛立った。
 何だこの気配…!──と振り返る前に、怒気を含んだ低い声が廊下に響いた。
 
  
「──…いつまで人の番に触れているつもりだ?」
 
 
 
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