イケメンがご乱心すぎてついていけません!

アキトワ(まなせ)

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49.一人ぼっちの夜②

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 今回欲張って頼んだものは、『枕カバーとパジャマとブランケット』の3点セットだった。
 色々悩んだけど、やっぱり生地系の方が使い勝手がいいもんな。
 ついでに細かくリクエストもしたけど。
 演舞とカップル競争の道連れにされたんだ。これくらい許されるよな?
 ──と思って、悠に要望を送ってみたんだけど。


 アドレスを事前に聞き出しておいて、本っ当に良かった…!


 自分を褒めたい。
 そうじゃなかったら、悠にここまで遠慮なく要望なんて伝えられなかったかも。
 なんせ送った内容が

『出来ればインナーは中に着ないで』
 
 だからな。
 つまりは“ 裸で着てね♡ ”
 なんて変態的な要望、面と向かっては流石に言えねぇって。
 そう考えると、やっぱ文字って最高!
 ドン引かれようが呆れられようが、顔色なんか気にする必要もねーし。
 むしろ俺に引いて、番にしようなんて馬鹿な考えも無くしてくれないかな。
 悠が諦めてくれるかは分からないけど、やっぱ俺には上流階級の生活は向いてねぇよ。
 こうやってたまに、悠からの施しをもらえるだけで十分十分。
 

「はぁ…、でもさすが悠の持ち物だよな、コレ。匂いだけじゃなく肌触りもいいし。やばい…。興奮しすぎて鼻血出そう…!」


 色々昂ぶりすぎて、ちょっとクラクラしてきた。
 気分はもう、推しのグッズを手に入れたファンの気分だ。
 ありがたく、拝ませてもらおう。

 あ、ちょい待て!

 拝みついでに、この間手に入れたTシャツも、ここに並べとこうかな。

 匂いが飛ぶのがもったいなくて、ジップロックの隙間からチマチマと香りを楽しんでいたけど、どうせなら一緒に並べたい。
 姉ちゃんもいないし、今日は大盤振る舞いだ。
 いそいそとベッド下の収納ボックスから、Tシャツが入ったジップロックの袋を取り出した。
 この間姉ちゃんに悠のタオルを洗われてから、用心の為に悠関連の物は、このベッド下に隠すようにしたのだ。
 袋の口を開けて、中から匂いの薄れたTシャツを取り出すと、一緒にベッドの上に並べる。
 それを眺めながら、1人悦に入る俺。

「ふふっ、へへへへっ。はははははっ」


 すごいっ
 一気に悠のものが4点になった!
 ニヤニヤが止まんねぇっ。


「はぁ……最高。どれを抱いて寝ようか、迷えるこの幸せ! せっかくだからパジャマかなって気もするけど、うぅん……。枕カバーも捨てがたいしなぁ」


 悩んでから、あれ?となる。 
 別に 1つに絞る必要もないか。
 全部まとめて可愛がるって手もあるんだし。


 うんうんと1人で頷きながら、もらった物の配置をどうするか考える。
 枕カバーは…。んー、とりあえず枕の上に置いとくだけでいいか。
 ハーフケットを頭から被ると、パジャマの上下とTシャツをギュッと胸に抱きしめた。
 うん、今日はこの状態で寝ればいいか。
 満足すると、そのまま枕に顔を押し付ける。


「ふはぁ~~~♡♡♡」


 やばい、ここは天国かもしれない……。


 どこもかしこも悠の香りで溢れ返っている。
 しかもめっちゃ良い匂い!!
 思わず顔をグリグリと枕に擦りつけてしまった。
 うぅうううう、好きすぎて辛い。
 マジで好き。好き、好き、好き。


(やっぱ悠の匂い、めちゃくちゃ好きっ!)


 パジャマやブランケットからも悠の匂いがしてくる。
 香りでリラックスするのか、眠くなってきた。
 うっとりしながら目を瞑ろうとして、悠との約束を思い出してしまった。


 そういや悠に、電話しないといけないのか。
 んんん、どうしよ……。面倒くせぇ。
 正直このまま知らんぷりして、眠ってしまえ!
 とも思うけど。

(通話しないと悠のインナーが、明日貰えないんだっけ)


 欲しいけど、面倒くさい。
 どうしようかと、しばらくうだうだ悩んではみたものの、やっぱり悠のインナーも手に入れたい!という欲求に抗えずに、泣く泣く枕元に置いてあるスマホに手を伸ばした。
 悠に入れられたアプリから通話ボタンを押すと、コール1回で悠が出てビビる。

 早っ!! 
 もしかしてずっと待ってたのか?
 それよりも……ん? 

 んんん??

「………俺、ビデオ通話になんかしたっけ?」

 悠の顔がスマホに写し出されている。それはまだいい。
 よく分からないのが、何故か悠の私物に包まれた俺の姿まで、画面の右上にちんまりと映っていることだ。
 なぁこれって、悠から俺の姿が見えているって事?
 え? 何で??

『いや。こっちで切り替えただけだよ』

 当たり前のように言ってくるけど、切り替えってなにそれ怖ッ!
 このアプリ、そんな機能もついてんの!?

 やっぱとんでもねぇアプリなんじゃねーの?と、ビビる俺とは違い、悠は嬉しそうに笑いかけてくる。
 怖いことをサラリとやってくるわりに、笑顔が眩しいな、コイツ……。
 画面越しでも相変わらず、悠のキラキラエフェクトは生きているみたいだ。
 よく生でこの笑顔を見て、目が潰れないな俺。
 慣れってすげぇ。

『アキ、バイトお疲れ様。電話ありがとう』

 悠が画面の向こうから、こっちを覗くように話しかけてくる。


 う…っ。
 待て! 俺の今の格好、やばすぎじゃないか?!


 まさかビデオ通話にされるとは思っていなかったから、思いっきり悠のパジャマを抱きしめながら横になってるんだけど。ひぃ…っ、恥ずかしい!!
 今更な気もするけど、慌てて手に持っていたパジャマを、身体の下に隠すように押し込んだ。
 ついでに頭に被っていたブランケットも、背中まで下ろす。
 よし、これで画面からは見えないはず。

「悠もお疲れ。声も聞いたし、もう満足しただろ? そろそろ切るぞ。おやすみ」
『アキが寝た後に、こっちで通話を切っとくから、そのまま繋げててもいいよ』

 コイツは何を言っているんだ?
 いい訳ないだろ。

「あのなぁ……寝顔見せる趣味なんかねーっての。お前ってたまに、マジで気持ち悪い発言するよな」

 毒づきながらも、トロトロと眠気が押し寄せてくる。
 だめだ……。
 この匂いを嗅いでいると、眠くなってくる。


『アキ、 眠い? もうさっきみたいには寝ないの?』
「……なに? さっきって……」

 眠すぎて、悠が何を言っているのかが分かんねぇ。
 呂律の怪しい声で、悠に聞き返す。

『さっきオレの服を抱きしめながら、寝ていただろう。あれ、すごく可愛いなと思って』
「は? ……かわいい??」
『可愛いよ。裸なのは直接、オレの匂いを肌で感じとりたいって理由なら、なお可愛いな』


(コ!イ!ツ!!)

 頭湧いてんじゃねぇのか…っ!
 眠りかけた意識が、悠のとんでも発言のせいで一気に目が覚めた。
 なんだその恥ずかしい誤解!!

「違う違う違うっ。勘違いすんなよ。この格好は風呂上がりなだけだってのっ」

 うつ伏せ状態の身体をベッドから起こして、全力で否定する。
 確かに悠の香りに包まれて、心地良くはなっていたよ。
 でも『直接匂いを感じとりたい』なんて理由は、どっから出てきたんだよ。
 俺でキモい妄想なんかすんなっ!
 聞かされたこっちが、恥ずかしいっての!

「今日は姉ちゃんがいないから、こんな格好でゴロゴロしてるだけだっての! だからお前が考えるような、恥ずかしい理由とかじゃねーからな!」

 四つん這いの姿勢のまま、シーツの上のスマホに向かって力説する。
 必死で否定しているのに、なぜか画面の向こうの悠は楽しそうに俺を見てくるだけだ。


 ……なんか昼間と違って、すげー機嫌良さげだな。なんなんだよ一体。
 俺の慌てる顔が、そんなに楽しいのか?


「……何で笑ってんだよ」
『あぁ、ごめん。アキの乳首は、小ぶりで愛らしいなと思って』



 乳首がアイラシイって……。
 本当にコイツの頭は──大丈夫なのか?



 悠の発言に一気に脱力した。
 馬鹿らしくなって、ブランケットで胸を隠すようにしながら、ベッドに横になる。
 その無駄に美しすぎる顔で、乳首はないだろ。
 ホントお前は残念イケメンすぎる。

「お前には俺の胸がどう見えてんだよ。 女の乳首と違って、男の乳首に価値なんてねーだろ」
『価値? アキの乳首だから、可愛いんだろ?』

 乳首、乳首って……。
 やっぱ悠の思考はよく分かんね。
 よくそんなアホらしい発言を、大真面目な顔で言えるもんだな。
 本気で言ってんなら、正気を疑うぞ。
 

 ──いや、そういやコイツ……俺の胸を『おっぱい』なんて表現してきたことがあったな。
 こんな真っ平らな胸でも、一応Ωが混ざってるんだ。
 αからするとそれだけで、女の胸のように魅力的に見えているとか?

 改めて自分の胸を見下ろしてみる。
 魅力的どころか、平らな胸がそこにあるだけだ。
 むしろ悠の方が、立派な胸筋が付いてんじゃねーの? 
 くそっ。やっぱこれはわざと、俺を恥ずかしがらせるために言ってるだろ。
 ホント性格が悪い。
 悠に対して、何か仕返ししてやりたい気分だ。


 よし!
 こうなったら、エロにはエロで返してやる!
 今度はお前がドン引く番だ!!


「へーぇえ。悠ってば、俺の乳首に興味なんかあるんだ? こんなおっぱいで良ければ見せてやってもいいけどさ……その代わりに、そこでシコってる所を見せろよ」


 わざと挑発するように、悠に向かって薄っすらと笑いかけてやる。
 ──が、自分で言っておきながら、背中に悪寒が走りっぱなしだ。
 まぁ、キモい発言で悠が引くところが見たいだけだから、この寒イボも我慢するしかない。
 どんな表情になっているのか、興味津々で画面を覗き込んでみるけど、あ……あれ?
 さっきまで目元を和ませていた悠の表情が、突然スッと消えてしまった。

(えー…っと?)

 なんか思っていたのと反応が違う。
 さすがにαに対して、侮辱が過ぎたか?
 ……どうしよ。
 軽い冗談だって言って、謝ったほうがいいのかな?

 しばらく様子を窺ってみるけど、悠は真顔のまま反応を返してくれない。


 反応がないと謝っていいのか、冗談として流せばいいのか分かんねーよ!!




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