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46.体育祭に向けて④
しおりを挟む「……おい、どういう事だよこれ」
頭を抱えながら、唸るように声を絞り出した。
指示書の内容が悪夢すぎる。
「見たまんま。女子はアリス。男子は白ウサギ」
「……俺も白ウサギでいいのか?」
「駄目なんじゃない? 一応三由って女子パートって言われてたじゃん」
「じゃあこのスカートを、ズボンにしてくれよ。それなら良いだろ?」
「んー、規定ではスカートって書いてるしなぁ。えと、和南城君は実行委員長から何か聞いてたりする?」
相変わらず三上は、俺と悠とで態度が違う。
チッと舌打ちしつつも三上の質問に、みんなで悠を見る。
当の悠は表情を変えないまま、首を左右に振った。
「男子が女子パートを務めるだけでも特例なのに、これ以上の要求は認められていない。男子でもパートナーを務めるなら、指示書の規定は守ってくれと言われている」
「マジかよ。クソすぎだろソイツ!」
これは絶対、実行委員長の嫌がらせに違いない。
規定を無視して男をパートナーに選ぶなら、反感を買わないように、俺に道化を演じろって言いたいんだと思う。
お前もそんな条件を飲んでんじゃねーよ!
「最悪だ…。何で俺がこんな目に遭わなくちゃいけねーんだよっ」
「最悪なのはこっちだって。せっかく可愛い衣装を作っても、着るのが三由だったら作り甲斐なんて無いでしょーが」
……確かにな。その点だけは三上達に同情する。
俺もスカートなんて穿きたくないけど、三上達だってせっかく作った可愛い衣装を、男の俺になんか着せたくないだろう。
不毛すぎる……。
とりあえずこの不幸な連鎖を生んだ元凶は、悠だってことだけは確定している。
お前は土下座して、俺達に謝ってくれ!
「あ、あのっ。体のサイズを計ってもいいですか?
日数もあまりないので、型紙だけでも作っておきたいなって……」
槙野が俺達の暗い雰囲気をどうにかしようと、そんな提案をしてくれる。
こんな展開になっても、槙野だけはまだ諦めずに頑張ろうとしてんのか。
逆にすげーよ。
真面目な槙野の為にも、さっさと面倒事は終えてしまおう。
「そうだな。……槙野、これベストも脱いだ方が良さそう?」
「あ、はいっ。その方が採寸しやすいです」
「了解。てかさ、何で槙野って敬語なんだよ? クラスメートじゃん」
「あ、ぅ…き、気をつけますっ」
槙野って、人見知り激しすぎじゃね?
これだけの会話で、すでにキョドってるんだけど。
別に三上達ほど砕けろなんて言わねーけど、もっと気安くてもいいのに。
まぁ俺からどんどん話しかけていけば、そのうち慣れてくるのかな?
採寸し始める俺達の姿を見て、三上達も負けじと動き出した。
「槙ちゃんナイス! 巻尺もう一個持ってる? あるなら和南城君の採寸しとくよ!」
「あ、持ってるよ。今ポーチから出すね。はい!」
「ありがと! じゃあ和南城君はこっちね。シャツだけになってもらっても良い?」
「あぁ」
向こうは向こうで採寸を始めだした。
そして何故か自由にしていてもいいと言われたクラスメートの女子達が、採寸と聞いてゾロゾロと悠を囲い出す。
お前ら、そんなに悠のバストサイズが気になるのかよ?
そんなの知ってどうすんだよ? 怖…!
そっちはあまり見ないでおこうと、再度槙野に向き直った。
まぁ、悠のおかげでクラスメートの視線がそっちにいっている分、こっちは気兼ねなく採寸出来るからいいか。
悠のギリシャ彫刻体型と、比べられるのも嫌だし。
「じゃあ測っていきますね。まずはウエストから…」
槙野が手に持った巻尺を伸ばしながら、俺の身体に巻きつけていく。
小柄な槙野は、俺のペラい身体でも、腰に抱きつくように手を回さないといけないみたいで、少し大変そう。
普段無駄にガタイの良い悠が隣にいるせいで、槙野がすげー小さく見える。
身長150cmくらいしかないんじゃねーの?
うわ、肩幅ちっちゃ!
「槙野、辛くねぇ? 測るの大変なら、ちょっとしゃがもうか?」
「えっ? あ、大丈夫っ。えと、むしろ真っ直ぐ立っていてもらえた方が、正確に測れるから…!!」
肩周りは槙野の背だとキツそうだと思って、槙野に向かって前屈みになってみたんだけど、逆にダメ出しされてしまった。
でも背伸びしてても、ちょっと測りにくそうなんだよな。
その背だと、巻尺の数値読めねーだろ。
やっぱ椅子を持ってきた方がいいよな。
槙野の旋毛を見ながらどうしようかと考え込んでいたら、「ちょ…っ、和南城君!?」と三上の慌てたような声が、後ろから聞こえてきた。
(……なんだ?)
槙野の旋毛から目を離して後ろを振り返ると、なぜか離れた位置で採寸していたはずの悠が、俺の後ろに立っていた。
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