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45.体育祭に向けて③
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「──じゃあ黒板に書かれた種目で各自、体育の授業の時は分かれて練習して下さい」
次の日のLHRの時間。
黒板に書かれた種目に1人ずつ名前を書いていき、多く名前が集まった所は微調整しながら、各自参加する競技が決まっていく。
俺は初めの予定通り、バレーボールにした。
人気が無いのか、あっさり決定してしまった。
ただメンツ自体は、わりと運動神経の良い奴等が集まっているから、全然問題はなさそう。
これなら結構いい所まで、戦えるんじゃねぇの?
球技以外の二日目には、クラス対抗の大縄跳びや棒倒しもあるんだけど、演舞に参加する面々は初めから免除されている。
その代わりにクラス練習の時間を、演舞練習に当てられるみたいだけど。
放課後も練習があるみたいだし、練習練習練習…って最悪すぎる。
演舞と言えば。
悠が演舞に参加するってLHRの最初に告げられた時は、女子の雄叫びというか歓声が、それはもう凄まじかった。
今回は強制参加だったけど、どう考えたって悠が演舞に選ばれないわけがないじゃん。
分かっていても、それだけ悠の演舞姿を見たいって女子が多かったってことなんだろうか。
そして俺が演舞に参加するって聞いて、喜んでくれたのは男子くらいだ。
ぐぐ…っ。
別に悔しくなんかねーし。
演舞に選ばれると、結構なポイントがクラスに加算されるみたいだから、オマケとは言えしっかりクラスに貢献しているなんて、エライじゃん俺。
うん、だから男子の野太い声しか上がらなかったからって、別に悔しくなんかねーし……。
俺達以外はさっきアンケート用紙が配られて、イケメンだと思う男子を二年の中から三人ずつ書かされたから、残りのイケメンは後日報告されるのだろう。
「あともう一つ、うちのクラスの障害物競走の男子に、他の競技に参加出来ない和南城が選ばれています」
実行委員が教壇の前でそれを発表すると、教室中がザワリと騒がしくなった。
(ん?)
女子だけじゃなく、男子も何故かざわついてんだけど。
女子は分かるけど、なんでお前らまで……て、アレか?
もしかして競技が終わった後の、カップルになりやすいって言う、ジンクスに反応してんのか?
気になる女子がいたら俺も手を挙げてたかもしれねーけど、悠が決まってるなら諦めるしかないだろうし。
男子は戸惑っているだけだけど、女子は…なんか怖ぇ。
悠に守られながら一緒に競技が出来るなんて、女子にとっては最高のシチュエーションなんだろうけど、女子同士で牽制し合っている雰囲気が、こっちにまでピリピリと伝わってきて怖い。
(大丈夫かこれ……。どうやって決めんだろ?)
この感じならなら立候補者が何人も出てきそうだし、仮に公平にクジ引きで決めるにしても、大人しい子が選手に決まった場合、裏でイジメられないかハラハラする。
イケメンはみんなのものって言われているくらいだし。それを独り占めするような障害物競走って、実は悪手なんじゃねーの?
心配になって隣の悠を思わず見てしまう。
俺の視線に気がついた悠が、俺を見ながら「大丈夫だよ」と小さく囁いてくる。
「いや、何か色々と危なくねぇ?」
「そうでもない。そのために予め、上には相談済みだ」
「相談?」
悠の言葉に首を傾げている間に、実行委員が女子を落ち着かせるように手で制している。
「あ、和南城の相手は実行委員長の指名で、すでに決まっています」
「え、嘘っ」
「普通投票や自薦で、決めるものなんじゃないの?」
「何でクラス内のことなのに、委員長が指名してくるのよ! 職権乱用だと思う」
女子が憤慨している。
俺もすでに決まっていたなんて、全然知らされてねーんだけど。
昨日メッセのやり取りをしていたのに、そんな話は悠から一切出てこなかったぞ。
彼氏アピールが凄いくせに、こういう肝心な部分は秘密なのかよ。
思わずムム…ッと、恨みがましい目で隣を見てしまう。
その視線に気づいた悠が、俺に向けて口端を上げて笑うのと、実行委員がその名前を告げるのが同時だった。
「女子パートは三由です。
これは実行委員長の命令なんで、絶対に変えることが出来ないと言われています」
──────……は?
思ってもみない展開に、呆気にとられて口をパカンと開けてしまう。
そんな俺とは逆に、女子はすぐに反発してきた。
「ちょっと実行委員、何いってんの。三由って男じゃん!」
「ずっとこの競技は男女ペアって決まっていたのに、三由が相手役っておかしいでしょ!」
その他にも、色々と文句を言いながら俺を睨んでくるけれど。
ちょっと待てよ!
そんな敵視するような目で見られても、俺だって意味が分かんねーよっ!!
男子は逆にげらげら笑いながら
「それいいなっ」
「三由が女子パートか。面白ぇ!」とむしろ歓迎というか、大笑いしている。
くっそ。こいつら他人事だと思ってんな!
どうせ相手が俺なら、やっかむ必要もねぇと思ってんだろ!
何で俺が女子役なんだよ!
絶対の絶対に、こんな競技になんか出てやんねぇからなっ
俺が腹に力を込めて、怒鳴りつけようとした時──…
「色々文句はあるだろうけど、これはオレが障害物競争に出る代わりにと、委員長に提示した条件なんだ。だからいくら文句を言われても、今更変える気はない」
クラスがざわつく中、悠の低い美声が声を張り上げたわけでもないのによく通る。
おかげであれだけ騒がしかった教室の中が、一瞬で静まり返った。
……これも一種のαの力なのかな?
何となく従いたい気分になってくる。
「──そもそもオレが個人競技に出られないのは、身体能力の差があったからだ。そこで女子よりも体格の良い三由を背負うことでハンデとしている。女子だとオレのハンデにならない為に、委員長とそう取り決めが為された」
「……で、でも…っ。三由は女子よりは重いかもしれないけど、身体能力では女子よりも優遇されてるんじゃないの? 足の速さだって腕力だって女子だったら全然敵わないじゃない。ハンデじゃないと思う……」
「その点も踏まえて、三由には両手両足に重りをつけてもらって、能力を下げることが決まっている」
決まってるのかよ!?
決まっているのに、何で当事者の俺が知らされてねーんだよっ! 驚愕の事実過ぎるだろ。
「その他に女子同士のいざこざを防ぐためとも言われている。とりあえずこれはもう決定事項として決まったことだし、文句があるなら直接実行委員長の所に苦情を出してくれ。ただ、三由に文句を言うのは筋違いだ」
それだけ言うと、全部話終わったというように、悠が押し黙ってしまう。
悠の冷静な言葉に、反論してきた女子も、それ以上は何も言えなくなってしまったらしい。
教室がしん、と静まり返ってしまった。
(確かに嫉妬は厄介だし、悠が先に釘を刺してくれて助かったかも)
あの呼び出し事件が、しっかり俺の中でトラウマになってしまっている。
集団の女子はガチで怖い。
怖いからと言って殴るわけにもいかないから、本当に扱いが面倒で困る。
俺は嫉妬を抑えるための『キワモノ枠』として、悠に駆り出されてしまったのかも。
無難と言えば無難な人選なのかもしれないけど、何で俺なんだよって思う。
演舞もそうだけど、やっぱ女子の言うように、ちょっと横暴が過ぎるだろ。
悠と実行委員長は勝手に決める前に、一言くらい俺に相談しに来いよ!!
(──コイツは本当に、どこまでも俺を巻き込んでいくスタイルなんだなっ!!)
ギリ…と悠を睨むも、悠は気づいているくせに俺に視線を寄越しもしねぇ。
こ!い!つ!!
女子と当事者の俺が、不満ありありながらも何も言えないでいる間に、実行委員がこの話を締めくくりに入ってしまった。
「じゃあ納得出来たみたいなので、障害物ペアと衣装係は双方で色々相談して下さい。残りの人は時間まで教室内で自由に過ごしていいんで。僕の方からは以上です」
そうして俺と悠の席に衣装係として決まっていた三上と落田、あと長いお下げ髪が特徴の槙野がやってきた。
三上は俺を見ると、さっそく文句を言ってくる。
「今年のコンセプトが可愛かったから、せっかく衣装係に応募したってのに、最悪すぎでしょ」
「うるせーな、三上。俺だって今日初めてこの話を聞いたんだよ」
「和南城君の衣装を作れるって聞いた時は、すごく喜んだのになぁ。三由って聞いて、今回は終わったと思ったし」
「うっせ、うっせ! それよりお前らこそ衣装係なんて大丈夫なのかよ。そんな家庭的なこと出来たのか?」
「見た目で判断して欲しくないしっ。服のアレンジなら結構得意なんだって!」
「そうそう。それに裁縫自体はマッキーが得意だし。ね!」
そう言って落田が後ろに大人しく立っているだけの槙野に声をかけた。
「あ、うん…。友達のコスプレ衣装を中学の時から手伝っていたから……」
槙野は恥ずかしそうに小さな声で答えている。
声ちっちゃ!
聞き逃しそうで危ないな、この子。
もっとデカイ声で話せばいいのに。
衣装が作れるなんて凄いことじゃん。
「へー。槙野って裁縫得意なんだ。凄いじゃん。恥ずかしがらずに、もっと堂々と自慢しとけばいいんだよ」
「え…っ? あ、ありがとう…!」
「マッキーはこの謙虚さが可愛いんだって。下手に手とか出さないでよ三由」
「あほか。そんな事しねーよ」
まじでそんな事してみろ。
隣で静かに彼氏面してる奴から、俺はとんでもない目に遭わされるじゃねーかっ
悠の凶悪チンコを思い出すだけで、俺の玉がヒュンと縮む。
うぅ……怖い。
──と、ちょっと待て。
それよりも、さっき気になる言葉を聞いたような……。
「三上。さっき今年のコンセプトが、可愛いとか言ってなかったか?」
そういえば障害物競走には、その年その年のコンセプトがあったのを思い出す。
それに合わせて、衣装が作られているはずだ。
確か去年は「ミツバチ」がテーマだったはず。
そして女子と男子の衣装には、決められた色と使われる装飾品が必ず決まっていたはずだ。
それを元に独自のアレンジを加えた衣装を制作し、出場者に着てもらうことになる。
衣装はもちろん事前に審査が行われた上で、その出来によってポイントもしっかり加算されるので、衣装係はけっこう重要な役回りになっている。
「言ったけど?」
「──で? 今年のコンセプトって何だよ?」
「さっきプリントが配られてたじゃん。見てないの?」
……衣装にも障害物競走にも、まったく興味がなかったせいで見ていなかった。
黙りこむ俺に、三上が大きく溜息を吐く。
俺の机の上に置いてあったプリントを何枚か捲って、衣装のページを指さしてきた。
「ほら、ここ」
指されたページを見た俺は、頭を抱えた。
よりにもよって今年のコンセプトがこれかよ。
───今年のコンセプトは【不思議の国のアリス】だった。
次の日のLHRの時間。
黒板に書かれた種目に1人ずつ名前を書いていき、多く名前が集まった所は微調整しながら、各自参加する競技が決まっていく。
俺は初めの予定通り、バレーボールにした。
人気が無いのか、あっさり決定してしまった。
ただメンツ自体は、わりと運動神経の良い奴等が集まっているから、全然問題はなさそう。
これなら結構いい所まで、戦えるんじゃねぇの?
球技以外の二日目には、クラス対抗の大縄跳びや棒倒しもあるんだけど、演舞に参加する面々は初めから免除されている。
その代わりにクラス練習の時間を、演舞練習に当てられるみたいだけど。
放課後も練習があるみたいだし、練習練習練習…って最悪すぎる。
演舞と言えば。
悠が演舞に参加するってLHRの最初に告げられた時は、女子の雄叫びというか歓声が、それはもう凄まじかった。
今回は強制参加だったけど、どう考えたって悠が演舞に選ばれないわけがないじゃん。
分かっていても、それだけ悠の演舞姿を見たいって女子が多かったってことなんだろうか。
そして俺が演舞に参加するって聞いて、喜んでくれたのは男子くらいだ。
ぐぐ…っ。
別に悔しくなんかねーし。
演舞に選ばれると、結構なポイントがクラスに加算されるみたいだから、オマケとは言えしっかりクラスに貢献しているなんて、エライじゃん俺。
うん、だから男子の野太い声しか上がらなかったからって、別に悔しくなんかねーし……。
俺達以外はさっきアンケート用紙が配られて、イケメンだと思う男子を二年の中から三人ずつ書かされたから、残りのイケメンは後日報告されるのだろう。
「あともう一つ、うちのクラスの障害物競走の男子に、他の競技に参加出来ない和南城が選ばれています」
実行委員が教壇の前でそれを発表すると、教室中がザワリと騒がしくなった。
(ん?)
女子だけじゃなく、男子も何故かざわついてんだけど。
女子は分かるけど、なんでお前らまで……て、アレか?
もしかして競技が終わった後の、カップルになりやすいって言う、ジンクスに反応してんのか?
気になる女子がいたら俺も手を挙げてたかもしれねーけど、悠が決まってるなら諦めるしかないだろうし。
男子は戸惑っているだけだけど、女子は…なんか怖ぇ。
悠に守られながら一緒に競技が出来るなんて、女子にとっては最高のシチュエーションなんだろうけど、女子同士で牽制し合っている雰囲気が、こっちにまでピリピリと伝わってきて怖い。
(大丈夫かこれ……。どうやって決めんだろ?)
この感じならなら立候補者が何人も出てきそうだし、仮に公平にクジ引きで決めるにしても、大人しい子が選手に決まった場合、裏でイジメられないかハラハラする。
イケメンはみんなのものって言われているくらいだし。それを独り占めするような障害物競走って、実は悪手なんじゃねーの?
心配になって隣の悠を思わず見てしまう。
俺の視線に気がついた悠が、俺を見ながら「大丈夫だよ」と小さく囁いてくる。
「いや、何か色々と危なくねぇ?」
「そうでもない。そのために予め、上には相談済みだ」
「相談?」
悠の言葉に首を傾げている間に、実行委員が女子を落ち着かせるように手で制している。
「あ、和南城の相手は実行委員長の指名で、すでに決まっています」
「え、嘘っ」
「普通投票や自薦で、決めるものなんじゃないの?」
「何でクラス内のことなのに、委員長が指名してくるのよ! 職権乱用だと思う」
女子が憤慨している。
俺もすでに決まっていたなんて、全然知らされてねーんだけど。
昨日メッセのやり取りをしていたのに、そんな話は悠から一切出てこなかったぞ。
彼氏アピールが凄いくせに、こういう肝心な部分は秘密なのかよ。
思わずムム…ッと、恨みがましい目で隣を見てしまう。
その視線に気づいた悠が、俺に向けて口端を上げて笑うのと、実行委員がその名前を告げるのが同時だった。
「女子パートは三由です。
これは実行委員長の命令なんで、絶対に変えることが出来ないと言われています」
──────……は?
思ってもみない展開に、呆気にとられて口をパカンと開けてしまう。
そんな俺とは逆に、女子はすぐに反発してきた。
「ちょっと実行委員、何いってんの。三由って男じゃん!」
「ずっとこの競技は男女ペアって決まっていたのに、三由が相手役っておかしいでしょ!」
その他にも、色々と文句を言いながら俺を睨んでくるけれど。
ちょっと待てよ!
そんな敵視するような目で見られても、俺だって意味が分かんねーよっ!!
男子は逆にげらげら笑いながら
「それいいなっ」
「三由が女子パートか。面白ぇ!」とむしろ歓迎というか、大笑いしている。
くっそ。こいつら他人事だと思ってんな!
どうせ相手が俺なら、やっかむ必要もねぇと思ってんだろ!
何で俺が女子役なんだよ!
絶対の絶対に、こんな競技になんか出てやんねぇからなっ
俺が腹に力を込めて、怒鳴りつけようとした時──…
「色々文句はあるだろうけど、これはオレが障害物競争に出る代わりにと、委員長に提示した条件なんだ。だからいくら文句を言われても、今更変える気はない」
クラスがざわつく中、悠の低い美声が声を張り上げたわけでもないのによく通る。
おかげであれだけ騒がしかった教室の中が、一瞬で静まり返った。
……これも一種のαの力なのかな?
何となく従いたい気分になってくる。
「──そもそもオレが個人競技に出られないのは、身体能力の差があったからだ。そこで女子よりも体格の良い三由を背負うことでハンデとしている。女子だとオレのハンデにならない為に、委員長とそう取り決めが為された」
「……で、でも…っ。三由は女子よりは重いかもしれないけど、身体能力では女子よりも優遇されてるんじゃないの? 足の速さだって腕力だって女子だったら全然敵わないじゃない。ハンデじゃないと思う……」
「その点も踏まえて、三由には両手両足に重りをつけてもらって、能力を下げることが決まっている」
決まってるのかよ!?
決まっているのに、何で当事者の俺が知らされてねーんだよっ! 驚愕の事実過ぎるだろ。
「その他に女子同士のいざこざを防ぐためとも言われている。とりあえずこれはもう決定事項として決まったことだし、文句があるなら直接実行委員長の所に苦情を出してくれ。ただ、三由に文句を言うのは筋違いだ」
それだけ言うと、全部話終わったというように、悠が押し黙ってしまう。
悠の冷静な言葉に、反論してきた女子も、それ以上は何も言えなくなってしまったらしい。
教室がしん、と静まり返ってしまった。
(確かに嫉妬は厄介だし、悠が先に釘を刺してくれて助かったかも)
あの呼び出し事件が、しっかり俺の中でトラウマになってしまっている。
集団の女子はガチで怖い。
怖いからと言って殴るわけにもいかないから、本当に扱いが面倒で困る。
俺は嫉妬を抑えるための『キワモノ枠』として、悠に駆り出されてしまったのかも。
無難と言えば無難な人選なのかもしれないけど、何で俺なんだよって思う。
演舞もそうだけど、やっぱ女子の言うように、ちょっと横暴が過ぎるだろ。
悠と実行委員長は勝手に決める前に、一言くらい俺に相談しに来いよ!!
(──コイツは本当に、どこまでも俺を巻き込んでいくスタイルなんだなっ!!)
ギリ…と悠を睨むも、悠は気づいているくせに俺に視線を寄越しもしねぇ。
こ!い!つ!!
女子と当事者の俺が、不満ありありながらも何も言えないでいる間に、実行委員がこの話を締めくくりに入ってしまった。
「じゃあ納得出来たみたいなので、障害物ペアと衣装係は双方で色々相談して下さい。残りの人は時間まで教室内で自由に過ごしていいんで。僕の方からは以上です」
そうして俺と悠の席に衣装係として決まっていた三上と落田、あと長いお下げ髪が特徴の槙野がやってきた。
三上は俺を見ると、さっそく文句を言ってくる。
「今年のコンセプトが可愛かったから、せっかく衣装係に応募したってのに、最悪すぎでしょ」
「うるせーな、三上。俺だって今日初めてこの話を聞いたんだよ」
「和南城君の衣装を作れるって聞いた時は、すごく喜んだのになぁ。三由って聞いて、今回は終わったと思ったし」
「うっせ、うっせ! それよりお前らこそ衣装係なんて大丈夫なのかよ。そんな家庭的なこと出来たのか?」
「見た目で判断して欲しくないしっ。服のアレンジなら結構得意なんだって!」
「そうそう。それに裁縫自体はマッキーが得意だし。ね!」
そう言って落田が後ろに大人しく立っているだけの槙野に声をかけた。
「あ、うん…。友達のコスプレ衣装を中学の時から手伝っていたから……」
槙野は恥ずかしそうに小さな声で答えている。
声ちっちゃ!
聞き逃しそうで危ないな、この子。
もっとデカイ声で話せばいいのに。
衣装が作れるなんて凄いことじゃん。
「へー。槙野って裁縫得意なんだ。凄いじゃん。恥ずかしがらずに、もっと堂々と自慢しとけばいいんだよ」
「え…っ? あ、ありがとう…!」
「マッキーはこの謙虚さが可愛いんだって。下手に手とか出さないでよ三由」
「あほか。そんな事しねーよ」
まじでそんな事してみろ。
隣で静かに彼氏面してる奴から、俺はとんでもない目に遭わされるじゃねーかっ
悠の凶悪チンコを思い出すだけで、俺の玉がヒュンと縮む。
うぅ……怖い。
──と、ちょっと待て。
それよりも、さっき気になる言葉を聞いたような……。
「三上。さっき今年のコンセプトが、可愛いとか言ってなかったか?」
そういえば障害物競走には、その年その年のコンセプトがあったのを思い出す。
それに合わせて、衣装が作られているはずだ。
確か去年は「ミツバチ」がテーマだったはず。
そして女子と男子の衣装には、決められた色と使われる装飾品が必ず決まっていたはずだ。
それを元に独自のアレンジを加えた衣装を制作し、出場者に着てもらうことになる。
衣装はもちろん事前に審査が行われた上で、その出来によってポイントもしっかり加算されるので、衣装係はけっこう重要な役回りになっている。
「言ったけど?」
「──で? 今年のコンセプトって何だよ?」
「さっきプリントが配られてたじゃん。見てないの?」
……衣装にも障害物競走にも、まったく興味がなかったせいで見ていなかった。
黙りこむ俺に、三上が大きく溜息を吐く。
俺の机の上に置いてあったプリントを何枚か捲って、衣装のページを指さしてきた。
「ほら、ここ」
指されたページを見た俺は、頭を抱えた。
よりにもよって今年のコンセプトがこれかよ。
───今年のコンセプトは【不思議の国のアリス】だった。
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