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しおりを挟む帰宅した姉ちゃんが、夕飯の支度をしてくれている夜──
姉ちゃんが奏でる包丁の音をBGMに、俺はソファにうつ伏せに寝そべりながら、ゴロゴロしていた。
放課後に悠と密着していたせいか、動く度に悠の匂いが髪から香ってくる気がする。
それに気づいてからは悠の匂いを求めるように、文字通りソファの上でゴロゴロと身体を横に揺さぶっていた。
姉ちゃんは料理を作りながら時折こちらを振り返っては、意味不明な動きをする俺を気持ち悪気に見てくるけど、気にしない。
手元に気軽に置けるタオルが無くなった今、自分の身体から悠の匂いを感じとれる貴重な機会だ。
気持ち悪がられようが、風呂に入るまではこの匂いを堪能してやると決めた。
はぁ、至福。
やっぱ悠って良い匂いがするんだよなぁ。
匂いだけで言えば間違いなく「好き!」って即答出来る。
悠が動かないでいてくれるなら、傍に置いてずっと匂いを嗅いでいたいくらいなんだけど。
……やっぱ無理かな。
今日だって結局あちこち触られたし。
あ、フェロモンの香水があればいいんじゃね?
そういうのって作れねぇのかな?
自分の思いつきに一瞬気分が浮上しかけたけど、すぐに無理無理と首を横に振った。
いや…仮に作れたとしても、悠は絶対に協力してくれなさそう。
前に『私物よりも本体を欲しがってほしい』って、言われた事があるし。
そして、匂いをもらうということはつまり──…
「……アイツ。本気で俺と…そういう仲になりてぇのかな?」
俺だぞ?
たとえ匂いの相性が良いって言っても、見た目は完全に男だ。
本物のΩの男性と比べたら、多分見目も劣るだろうし、抱き心地も悪いと思う。
悠なら相性さえ無視すれば、もっと良い条件の女とつがえる筈なのに、なんで寄りによって俺なんかをつがいに選んでしまうんだか……。
俺が悠の匂いを好きなように、悠も俺の匂いを欲しがるのは分かる。
だからと言って、匂いだけで自分の将来の相手を決めてしまうのは、いくら何でも早まりすぎじゃねーの?
はっきり言って、バースを重視する血統種の思考がよく分かんねぇ。
優秀な子孫を残したいのは分かるけど、そもそも俺に似たら、優秀どころかただの凡才が生まれるぞ?
いや、その前に悠に抱かれる気もねーけど。
あの凶悪なペニスはなぁ……。
どう考えてもあんなもんをケツに捩じ込まれたら、尻が一発でぶっ壊れるって。
ただ……うん。
悠に触られるのは別に嫌じゃないかも。
嫌じゃないって言うか、むしろ気持ちいいし好きだ。
だから尚更、拒むのが難しくて困る。
抱えていたクッションに力を込めながら、放課後に触れてきた、悠の温かい手の感触を思い出してしまった。
(アイツって……すぐ俺の胸を触ってくるよな。今日なんか俺の真っ平らな胸を触りながら『おっぱい』なんて言葉を使ってくるし。ほんと何を考えてんだか!)
思い出したら顔が火照ってきた。
胸に執着があるみたいだし、もしかしたら悠は巨乳が好きなのかもしれない。
俺にはそんなおっぱいなんて無いから、揉めない代わりに男の乳首なんかをあんな風に弄ってくるのかも……。
乳首に触れてくる指の感触を、頭の中で反芻してしまったせいで、勘違いした乳首がプクッとTシャツを押し上げてくる。
何だか乳首がむず痒い。
掻きむしりたい感じがするのに、何故か股間に熱が溜まっていく。
(んんっ……何かちんこ擦りてぇ)
触りたいし、抜きたい。
普段はピクリともしないクララが、こういう時だけ元気に頭を擡げてくる。
慌ててクッションから顔を上げて、煩悩を散らすように頭を振った。
いかんいかんっ!
何で普通に悠で抜こうとしてんだよ俺っ。
くそっ。余計な事を考えていないで、今のうちにアプリの設定を済ませとくか。
投げ出していたスマホに手を伸ばすと、入れたばかりのアプリを探す。
見慣れないアイコンをタッチすると、すぐにアプリが起動した。
拍子抜けするくらい、起動が軽い。
激重だったから、てっきり初動にもっと時間がかかるもんだと覚悟していたのに、むしろサクサク動いている。
(何にこんなに容量を食ってんだ?)
セキュリティーがどうとか言っていたし、裏で何かしら動いてるんだろうか?
でもまぁ普通に使う分には、軽いし問題なさそう。
そうと分かれば、さっさと登録だけでも済ませてしまおうか。
欲しい物のリクエストも、今日中にしなくちゃいけねぇし。
画面の指示に従って、自分の情報をどんどん入力していくけど、悠が入れたこのアプリ、何かが変だ。
質問内容がちょっとありえねぇ。
自分で入れたアプリなら、この時点で怪しいと思って、すぐさまアンスコしている。
悠が入れたアプリだから仕方なく答えていくけど、明らかにこのアプリ……おかしいだろ。
「んんん?」
『α』か『Ω』を選ぶ選択肢が出てきた時には、流石に指が止まった。
……何故にこの2択?
他に選択肢はどこだ?と探してみるけど。
どう見てもこの2つしか、性別を入力する欄が見つけられない。
(1番人口比率が多いはずの『β』の選択肢が無いっておかしくね?)
胡乱な目で画面を睨んでいても、この2択しか選択肢がないなら、俺の場合はΩを選択するしかなさそう。
Ωじゃねぇし、と思いながらも、とりあえず選択してみる。
ただこの時点で、嫌な予感がひしひしと伝わってきていた。
登録が全部済んで、画面が切り替わると、案の定というかなんというか……。
【パートナー】の所に、悠の顔写真が載っていた。
「ブフォッッ」
画面の衝撃に思わず吹き出してしまった。
盛大に吹いたせいで、料理を作っている姉ちゃんの所にまで聞こえてしまったらしい。
「きったないなぁ。吹き出すほど面白いことでもあったの?」
「何でもねーよ! ちょ…っ、こっちの事はいいからっ。ほっとけよ!」
興味を引かれた姉ちゃんが、このスマホを覗きに来たら大変だ。
クルッと背を向けるようにして、姉ちゃんの目からスマホを隠す。
そうして口元とスマホに飛んだ唾を袖でゴシゴシ拭いてから、恐る恐る画面をもう一度確認してみた。
(やっぱ、パートナーって書かれているよな……)
アイツめ…っ!
悠の顔を思い浮かべて、舌打ちをする。
悠の事だから、他にも何か変な機能が隠れてそうで怖い。
改めてアプリの機能ををザッと確認をして見れば、ラインのようなトークルームもちゃんとついていた。
ただパートナーと共有出来るカレンダーや、発情期の周期管理表という、余計な機能まで付随されている。
その他にも、普通のコミュニケーションツールには無いものが沢山あった。
意味がわからないのが、この【パートナーに緊急を伝える】という『直通ボタン』の存在。
何だこれ?
普通の通話ボタンと何が違うんだろ?
全く分からねぇ……。
発情期の呼び出し用か何か??
とりあえず、ありとあらゆる事が【パートナーと分かち合える】ように開発されたツールって事だけは分かった。
……それをわざわざ、俺のスマホに入れてきた悠の魂胆にも。
「なんつー恐ろしいアプリを、使わせんだよ……」
これはもうコミュニケーションツールとかじゃねーだろ。
シェアアプリとか言うやつじゃねぇのか?
しかもパートナーって……。
悠と番う気はねぇって言ってるのに、彼氏アピールが凄すぎだろ。
とりあえず登録は出来たんだ。
小憎らしいほどイケメンに写る、悠のパートナー写真を睨みながら、初めてのメッセージを飛ばすことにした。
暁斗:【 騙しただろお前!なんだこのアプリ 】
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