イケメンがご乱心すぎてついていけません!

アキトワ(まなせ)

文字の大きさ
上 下
44 / 70

42.体育祭に向けて②

しおりを挟む
 

「そういえば、この学校の体育祭は2日間もあるんだな」

 食後のお茶を取りに行っていた悠が、俺に湯呑を渡しがてら聞いてくる。
 なんかこの間の後始末からこっち、悠が何かと俺の世話を焼いてこようとする。
 お茶なら別に俺が運んできてもいいんだけどな。
 まぁ、せっかくだから貰うけど。
 もちろん悠は自分の分と俺の分しか持ってきていないから、橘は自分で取りに行かされている。

 ──で? 体育祭だったか。


「うん、そうそう。うちの学校、球技大会と体育祭が一緒くたになってるんだよ。1日目が球技大会、2日目が体育祭って感じで、その2日間の合計得点でクラスの順位を争うの。悠がいた学校はどうだったんだ?」
「前の学校はそもそも体育祭自体がなかったな。だから普通の体育祭がどんなものかが想像つかない」
「へー、そんな学校もあるんだ。やっぱアレ? 進学校だから、進学に関係のない行事はいらないって感じ?」
「──どうなんだろうな。その代わりに芸術鑑賞のような、文化系の行事はしっかりあったよ」


 芸術鑑賞か……。
 体育系と違って寝てられるのはいいけど、正直ダルいかも。
 やっぱ、その学校に合った特色になってるんだなぁとぼんやり考えていたら、お茶を取りに行っていた橘が戻ってきた。


「橘、お帰りー」
「おう。なぁなぁ、和南城は競技に参加しないとして、三由は何に参加するつもりなんだよ?」
「俺? バスケは走るのが疲れそうだし、バレーかな? 卓球とかでもいいけど。橘はやっぱサッカー?」
「もちろん! 俺頑張るからさ、三由もしっかり応援に来てくれよ!」

 橘がニカッと爽やかに笑ってくるのにつられて、俺も笑顔を返す。
 もちろん返事はしないけど。
 悪いな。屋内ならまだしも、暑い屋外の観戦はちょっとパスさせてもらいたい。
 それに応援なら、クラスの女子が頑張ってくれるだろうし。
 だから張り切って炎天下の中を、駆けずり回ってくるがいいよ。


「競技には参加出来ないけど、演舞と最後の障害物競走には出場してくれと言われているんだが、これはどういうものなんだ?」


 俺と橘の話に区切りがついた所で、悠から質問が飛んできた。
 演舞と障害物競走……?
 思わず橘と二人で顔を見合わせてしまった。


「うっわ……。和南城かわいそう」
「それが本当なら酷ぇな。競技に参加するなと言っておきながら、悠の事を見世物にする気じゃん……」
「……? 見世物?」
「生徒達の注目を浴びるって意味でだけどな。1日目の宣誓の後に士気を高めるために行われるのが演舞で、2日目の最後の目玉が障害物競走なんだよ」


 よく分かっていない悠の為に、もうちょっと詳しく教えてやることにした。
 演舞は3学年の中で見目のいい男子を、各学年ごとに7人ずつ選出して舞わせるものだ。
 踊りとは別に、太鼓や大旗を振る人間もその中から選ばれるけれど、とりあえず見目が良い男子が揃えられるとあって、女子人気が高い。

 そして障害物競走っていうのが、早い話がカップル競争だ。
 1クラスごとに男女1名ずつ選出されて、その2人で数々の障害物に挑みながら優勝を目指していく。
 基本的に男子が女子を守るようにリードしつつ、女子をゴールまで導くことが出来たらゴールになるんだけど、競技内容のせいなのか、何故かこの競技が終わった後の二人は付き合うことが多いって聞いている。
 とりあえずこれも男女共に盛り上がるし配点も多いから、悠が適任と言えば適任だけど……。


「転校してきたばかりなのに、災難だったな悠。変な競技ばっか押し付けられてんじゃん。 まぁどっちも見た目重視の競技だから、恨むなら無駄に顔が良い自分を恨むしかねーな」
「そういう事か。でもアキと一緒なら、それほど損な役回りってわけでもないから別にいいさ」
「……は?」



 何か不穏な言葉を聞いた気がしたんだけど……。
 気のせいか?



「和南城……。三由も一緒って、どういう意味さ?」

 怖くてスルーした言葉を、わざわざ橘が拾って悠に問いただしている。
 おい、余計な事を聞くなよ!

「ん? 演舞に出てもいいが、転校してきたばかりでよく分からないから、アキも一緒じゃないと参加しないと言ったんだ。……なるほど。だからアキの容姿がどうとか質問されたんだな。やっと意味が分かった」


 悠は一人、うんうんと勝手に頷いているけど、ちょっと待てっ。
 俺が一緒ってどういうことだよ!


「何で俺が巻き込まれてんだよっ!」
「理由は、いま言っただろう?」
「それは聞いた! 聞いたけどっ。なに勝手に人を巻き込んでんだよっ。俺ヤだぞ。そんな面倒なモンには出たくねぇ!」
「実行委員の了承はもう貰っている。それに一緒の方が、何かとお互いのことが知れていいだろう?」
「……っ!!」


 ここで賭けを持ち出すのかよ。
 きったねぇな。
 そう言っとけば、俺が引けないと分かって言ってんだろコイツ。
 言っとくけど、俺は惚れさせてみろとは言ったけど、巻き込めとは一言も言ってないからな。
 
 ……まぁ、悠の演舞は見たい気もするけど。
 だからって俺まで、見世物みたいな演舞に出るのは嫌だ!
 唸る俺に追い打ちをかけるように、悠が少しだけ寂しそうな口調で下を向いた。


「それに……アキとの思い出も作っておきたいしな」
「……ッ!?」


 そう言えばこの賭けって、1年間の区切りがあったんだっけ。
 もし悠が賭けに負けた場合は、またどこかに転校したりするんだろうか?
 う……、だったら思い出作りも大事かもしれない。
 純粋に高校生活を楽しみたいっていうなら、なるべく叶えてやりたい気もするし。
 それでも迷って「あ…」とか「うぅ…」と口をまごまごさせていたら、橘が焦れたように。


「三由諦めたら? 和南城もこの学校にまだ馴染んでるってわけじゃねーし、一人にすると変なストーカー女に追っかけまわされたりするんじゃねーの? ていうかそもそも三由、去年も演舞に選ばれてたのに断ってたじゃん。どっちみち去年断ってたんなら、今年は強制参加になってたんじゃねーの?」


 橘が諦めろと言わんばかりに、悠の擁護に回ってしまった。
 腹は立つけど確かに橘の言うように、悠を一人にしておくのは心配だしなぁ。
 あと演舞に選ばれた人間は一回目は拒否権があるけど、次に選ばれた場合は強制参加という謎ルールがあるのも本当だ。
 今年選ばれるかどうかは運だったけど、もうすでに決まったことなら俺がゴネても無駄なのかもしれねぇ。


「……分かった。だけどこれは貸しにするからな、悠。明日は私物を持ってくるように」

 ジロリと悠を睨みながら私物を要求すると、悠が苦笑を返してくる。


 よし。巻き込まれに乗じて、私物がゲット出来た!
 私物は欲しいけど、噛まれるのは嫌だったから助かった。
 せっかくだし、何をねだろうかな。
 こんな厄介なことに巻き込んでくれたんだ。
 いっそ普段なら貰いにくい、大それたものを頼んじゃっても良い気がする!
 私物に思いを馳せていたら、顔がニヤけていたんだろうか。
 橘が眉を顰めながら、こっちを見ている。
 慌てて顔を引き締めてみたけど、ちょっと遅かったらしい。 

「和南城の私物って何? あっ、もしかして女子に私物を売りつけて、小遣い稼ぎするとか?」
「しねーよっ」

 アホッ!!
 売るなんて、そんなもったいない真似が出来るかよっ。
 むしろ悠のものは全部、俺が買い取りてーよ!


(──あ。要求で思い出した。ついでにも教えてもらおう)


「なぁ、悠。放課後少し時間ある? ちょっと教えて欲しいことがあるんだけど」
「今じゃ駄目なのか?」
「だめだめ! こんな人目のある場所じゃ無理」
「人目? ……よく分からないけど、放課後がいいんだな」
「あぁ。使えわせてもらえるかは分かんねーけど、なるべく二人きりの場所で聞きたいことがあるんだよ」

「……二人きり?」と口の中で呟くように言った悠が、一瞬たじろいだように見えたけど、私物の件もあるし今日ばかりは逃がすわけには行かない。
 本当は送ってもらった車の中で聞けたら良かったんだけど、あの日は俺が死んでいたせいで、そこまで頭が回らなかったもんな。

 いい機会だと思って、悠にニッコリと笑いかけた。
 




しおりを挟む
感想 96

あなたにおすすめの小説

最愛の番になる話

屑籠
BL
 坂牧というアルファの名家に生まれたベータの咲也。  色々あって、坂牧の家から逃げ出そうとしたら、運命の番に捕まった話。 誤字脱字とうとう、あるとは思いますが脳内補完でお願いします。 久しぶりに書いてます。長い。 完結させるぞって意気込んで、書いた所まで。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

被虐趣味のオメガはドSなアルファ様にいじめられたい。

かとらり。
BL
 セシリオ・ド・ジューンはこの国で一番尊いとされる公爵家の末っ子だ。  オメガなのもあり、蝶よ花よと育てられ、何不自由なく育ったセシリオには悩みがあった。  それは……重度の被虐趣味だ。  虐げられたい、手ひどく抱かれたい…そう思うのに、自分の身分が高いのといつのまにかついてしまった高潔なイメージのせいで、被虐心を満たすことができない。  だれか、だれか僕を虐げてくれるドSはいないの…?  そう悩んでいたある日、セシリオは学舎の隅で見つけてしまった。  ご主人様と呼ぶべき、最高のドSを…

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

処理中です...