イケメンがご乱心すぎてついていけません!

アキトワ(まなせ)

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プロローグ:─体育祭─

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 イケメンはやはり、運も味方につけていたらしい。



「……はぁ? 花形のリレーに出なくていいって!?」
「あぁ、オレが出るとチートになるらしいな。代わりに審判をするようにと、実行委員には言われているけど」
「なんだよ、それっ!?」

 
 ひ…酷ぇ……。
 ウチの学校にもαもどきがいるっていうのに、そっちは良くて悠だけ駄目って酷くねぇ?
 確かにうちにいる『α』はβに毛が生えたくらいの能力しかないけど、それでもαがいるのといないのとでは、明らかに体育祭の成績に違いが出てくるんだぞっ。

 
(くそっ、せっかく今年はウチのクラスが優勝だと思っていたのに!)


 優勝自体は別にどうでもいいけど、クラス優勝で貰える食事券だけは、どのクラスもみんな狙っているんだよ。
 おのれ実行委員め…っ。
 余計なことさえしてくれなければ、うちのクラスが優勝だったってのに……!!

「アホッ!お前そんなこと言われて、素直に審判を引き受けたのかよっ?」
「? あぁ。学校行事には特に興味もないしな」
 
 興味ないじゃねーよ。
 普段涼しげに過ごしてるんだから、こういう時くらい無駄に汗を流しとけよ!
 悠だけ楽なポジションなんてズルいじゃねーか!
 俺も審判が良かった!!
  


「なになに?何の話してんの? 俺も混ぜて!」

 恨みがましい目で悠を見ていたら、橘が近寄ってきた。

「ん? あぁ。悠が呼び出しを受けてたからさ、何で呼び出されたのかって聞いてたんだよ」
「へぇ。呼び出しなんて珍しいな、和南城」
「あぁ。個人の能力に関係のない競技には出てもいいけど、それ以外は審判として参加しないと駄目みたいだ。その為のルール説明のプリントまで渡されたよ」

 悠が手に持っていたプリントを、ヒラヒラと振っている。
 へー。審判は審判で、面倒くさい予習があるんだな。
 
「えっ?! 和南城、リレーに出れねーの? 今年うちのクラス、体育祭に向けてめっちゃ盛り上がってたのに!」

 驚きながらもいつものように、橘が俺の肩に腕を回そうとしてくる。
 またか……。
 何度言っても直らねぇから、もうこれは癖みたいなもんなのか?
 諦めの心境で好きにさせることにしたんだけど──…気がついたら、力いっぱい橘の手を払いのけていた。

 パシンッと響く、乾いた音と手の痛みにギョッとした。


「「えっ!?」」


 俺と橘が、同時に驚いたように声を上げる。
 橘が俺の手を驚いたように見つめてくるけど、俺も呆然としながら自分の手の平を凝視する。

「み、三由? 俺、なんかした?」
「えっ! してねぇ、してねぇ! ごめん、なんか間違えて叩いたっぽい…?」

 泣きそうな顔で俺を見てくる橘に慌てて謝るけど、否定する俺自身が一番困惑していた。
 橘が触れると感じた瞬間、不快感に突き動かされて、伸ばされた腕を思わず払いのけてしまった。
 
(腕を回されるのなんて、いつものことなのに…何でだ?)

 自分でも意味がわからず、とりあえず誤魔化すように橘の肩をポンポンと叩いてやる。
 また拒否反応が出たらどうしようかと心配したけど、俺から触る分にはそれほど嫌悪感は湧かないみたいだ。
 うん、大丈夫。大丈夫。

「ごめん、ごめんって。気にすんなよ橘」
「うぅ~、三由ぃ。俺、嫌われたかと思って焦ったじゃん」
「ないない。ないってっ、ウゼェと思うことはしょっちゅうだけど、別に嫌いじゃねーよ」
「うぅう、喜んでいいのか悲しんでいいのか、今イチ分かんねぇよ~」

 橘が俺の肩口に、グリグリと頭を押し付けながら甘えてくるけど……あ、それ止めて。
 橘から触ってくると、やっぱ悪寒が酷い。
 長袖だったから良かったものの、これが半袖だったら今頃、鳥肌を立てているのが橘にもバレていたと思う。
 顔が強張るけど、ここで拒否反応を示してしまったら、さすがに橘が可哀想だ。
 そう思って気持ち悪さに耐えている俺の腕を、グッと掴んでくる指の感触。
 不快感が少しだけ治まった。

 ……あれ?

「悠?」
「……そろそろ食堂に行こう。それでなくても呼び出しのせいで遅れているだろ」
「あっ、そうだった!」

 肩に頭を押し付けてくる橘を、軽く押しながら謝る。

「橘、悪ぃな。俺これから悠と食堂に行くんだ。また後でな」


 そうなんだよ。
 突然の悠の呼び出しに出鼻を挫かれてしまったけど、今日は悠の誘いで一緒に食堂に行くことになっていたんだ。
 これも一応、悠にとってはデートになるらしい。
 堂々と言われた時には思わず吹いちまったけど、ちゃんと今回は手序を踏もうとしている所に好感が持てた。
 トイレでは、なし崩し的に身体の関係からスタートしちゃった俺らだけど、「これからは友人としてではなく、異性の目でアキには自分を見て欲しい」と悠には言われている。
 悠の頑張りをちゃんと見届けた上で、断るか受け入れるかを決めると言った手前、ここで俺が嫌というわけには行かない。
 そんな感じで悠の誘いに乗ることにした。
(食堂も悠の奢りらしいし)
 橘とは教室で別れて、悠に引っ張られるまま食堂に行こうと歩きだしたら、慌てたような橘の声が背中にかかった。

「えっ!? 食堂行くの? 俺も一緒に行く!」
「は? お前さっきパン食ってただろ」
「あんなのはおやつおやつ! 一つしかまだ食べてないし」


 おやつなのかよ。まぁいいけど。


 んー、でもどうするかな。
 ただの昼飯ってわけじゃねーし。
 一応お付き合いを視野に入れたデートだって言われているのに、橘が一緒にくるのはマズイ気がする。
 チラッと悠を見ると、悠は少し逡巡した後に「構わない」と言いだした。


(えっ!? いいのかよっ!)


 思わずギョッとする俺を尻目に、悠が頷く。

「来たかったら一緒に来るといい」
「やった! 和南城サンキュ! やー、三由と食堂に行くのなんて、すげー久しぶりっ」
「お、おぅ、そうだな……」


 なんだなんだ? 
 悠が橘を連れて行ってもいいなんて、珍しすぎねぇ?
 一体どうしちゃったんだよ、お前!?
 今までになかった展開に、面食らってしまった。
 もしかして何か企んでる?と思って悠を盗み見ても、いつもの鉄面皮がそこにあるだけで、何を考えているかまではさっぱり分からない。
 でも悠が良いって言うなら良いのかな?
 いや………ほんとに良いのか…?
 橘だぞ??


 疑問を顔に浮かべたまま3人で連れ立って廊下を歩いていると、横にいる橘が落ち着かな気に小声で話かけてくる。

「なぁなぁ三由、ちょっと聞いてもいいか?」
「なんだよ、やっぱ行くの止めんのか?」
「いやいや、そうじゃなくて……いいのか?」
「は?」
「だから、それ……」

 行くのを止めたいわけじゃないらしい。
 よく分からないまま、橘がさっきから気にしている視線の先を辿ってみる。


 ………あ。
 悠に手を繋がれたままじゃん、俺。


 あまりにも自然に手を繋がれていたから、全く気がついてなかったんだけど。
 むむむ……。
 ここで慌てて手を離したりしたら、逆に不自然過ぎるか?
 いや。もう不自然とか、そういうレベルじゃねーか。
 ただ気づいたからには、このままにしておくわけにもいかねぇよな。
 人通りのある廊下だし。
 仕方なく橘に向かって意味もなくハハッと爽やかに笑いながら、悠の手をさり気なく外そうとしたんだけど、あ…あれ?


(は、外れねぇえ~~~~!?)


 かなり力を入れて外そうとしているのに、繋がれた手が全く外れる様子がない。
 なんだこれ……。
 すげー力を入れてるようには感じられないのに、何故か繋がれた部分が岩みたいにガチガチに硬いんですけどっ!


(無理だ……これは無理ゲーだ………)


 爽やかに外そうとしたのが、そもそもの間違いだったのかもしれない。
 これは死に物狂いで頑張らないと、絶対に外さないって気概を悠から感じる
 無駄な努力をした俺を嘲笑うかのように、悠が涼し気な顔で俺達を急かしてくる。

「2人とも。もう少し急いで歩いてくれないと、昼休みが終わってしまうぞ?」
「あ、わかった。急ぐって!……えぇと三由、それ…大丈夫か?」

 この野郎っ!と心の中で悠に毒づきながらも、爽やかな笑顔で橘に答えるしかない。


「………気にすんな」





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