42 / 70
プロローグ:─体育祭─
しおりを挟むイケメンはやはり、運も味方につけていたらしい。
「……はぁ? 花形のリレーに出なくていいって!?」
「あぁ、オレが出るとチートになるらしいな。代わりに審判をするようにと、実行委員には言われているけど」
「なんだよ、それっ!?」
ひ…酷ぇ……。
ウチの学校にもαもどきがいるっていうのに、そっちは良くて悠だけ駄目って酷くねぇ?
確かにうちにいる『α』はβに毛が生えたくらいの能力しかないけど、それでもαがいるのといないのとでは、明らかに体育祭の成績に違いが出てくるんだぞっ。
(くそっ、せっかく今年はウチのクラスが優勝だと思っていたのに!)
優勝自体は別にどうでもいいけど、クラス優勝で貰える食事券だけは、どのクラスもみんな狙っているんだよ。
おのれ実行委員め…っ。
余計なことさえしてくれなければ、うちのクラスが優勝だったってのに……!!
「アホッ!お前そんなこと言われて、素直に審判を引き受けたのかよっ?」
「? あぁ。学校行事には特に興味もないしな」
興味ないじゃねーよ。
普段涼しげに過ごしてるんだから、こういう時くらい無駄に汗を流しとけよ!
悠だけ楽なポジションなんてズルいじゃねーか!
俺も審判が良かった!!
「なになに?何の話してんの? 俺も混ぜて!」
恨みがましい目で悠を見ていたら、橘が近寄ってきた。
「ん? あぁ。悠が呼び出しを受けてたからさ、何で呼び出されたのかって聞いてたんだよ」
「へぇ。呼び出しなんて珍しいな、和南城」
「あぁ。個人の能力に関係のない競技には出てもいいけど、それ以外は審判として参加しないと駄目みたいだ。その為のルール説明のプリントまで渡されたよ」
悠が手に持っていたプリントを、ヒラヒラと振っている。
へー。審判は審判で、面倒くさい予習があるんだな。
「えっ?! 和南城、リレーに出れねーの? 今年うちのクラス、体育祭に向けてめっちゃ盛り上がってたのに!」
驚きながらもいつものように、橘が俺の肩に腕を回そうとしてくる。
またか……。
何度言っても直らねぇから、もうこれは癖みたいなもんなのか?
諦めの心境で好きにさせることにしたんだけど──…気がついたら、力いっぱい橘の手を払いのけていた。
パシンッと響く、乾いた音と手の痛みにギョッとした。
「「えっ!?」」
俺と橘が、同時に驚いたように声を上げる。
橘が俺の手を驚いたように見つめてくるけど、俺も呆然としながら自分の手の平を凝視する。
「み、三由? 俺、なんかした?」
「えっ! してねぇ、してねぇ! ごめん、なんか間違えて叩いたっぽい…?」
泣きそうな顔で俺を見てくる橘に慌てて謝るけど、否定する俺自身が一番困惑していた。
橘が触れると感じた瞬間、不快感に突き動かされて、伸ばされた腕を思わず払いのけてしまった。
(腕を回されるのなんて、いつものことなのに…何でだ?)
自分でも意味がわからず、とりあえず誤魔化すように橘の肩をポンポンと叩いてやる。
また拒否反応が出たらどうしようかと心配したけど、俺から触る分にはそれほど嫌悪感は湧かないみたいだ。
うん、大丈夫。大丈夫。
「ごめん、ごめんって。気にすんなよ橘」
「うぅ~、三由ぃ。俺、嫌われたかと思って焦ったじゃん」
「ないない。ないってっ、ウゼェと思うことはしょっちゅうだけど、別に嫌いじゃねーよ」
「うぅう、喜んでいいのか悲しんでいいのか、今イチ分かんねぇよ~」
橘が俺の肩口に、グリグリと頭を押し付けながら甘えてくるけど……あ、それ止めて。
橘から触ってくると、やっぱ悪寒が酷い。
長袖だったから良かったものの、これが半袖だったら今頃、鳥肌を立てているのが橘にもバレていたと思う。
顔が強張るけど、ここで拒否反応を示してしまったら、さすがに橘が可哀想だ。
そう思って気持ち悪さに耐えている俺の腕を、グッと掴んでくる指の感触。
不快感が少しだけ治まった。
……あれ?
「悠?」
「……そろそろ食堂に行こう。それでなくても呼び出しのせいで遅れているだろ」
「あっ、そうだった!」
肩に頭を押し付けてくる橘を、軽く押しながら謝る。
「橘、悪ぃな。俺これから悠と食堂に行くんだ。また後でな」
そうなんだよ。
突然の悠の呼び出しに出鼻を挫かれてしまったけど、今日は悠の誘いで一緒に食堂に行くことになっていたんだ。
これも一応、悠にとってはデートになるらしい。
堂々と言われた時には思わず吹いちまったけど、ちゃんと今回は手序を踏もうとしている所に好感が持てた。
トイレでは、なし崩し的に身体の関係からスタートしちゃった俺らだけど、「これからは友人としてではなく、異性の目でアキには自分を見て欲しい」と悠には言われている。
悠の頑張りをちゃんと見届けた上で、断るか受け入れるかを決めると言った手前、ここで俺が嫌というわけには行かない。
そんな感じで悠の誘いに乗ることにした。
(食堂も悠の奢りらしいし)
橘とは教室で別れて、悠に引っ張られるまま食堂に行こうと歩きだしたら、慌てたような橘の声が背中にかかった。
「えっ!? 食堂行くの? 俺も一緒に行く!」
「は? お前さっきパン食ってただろ」
「あんなのはおやつおやつ! 一つしかまだ食べてないし」
おやつなのかよ。まぁいいけど。
んー、でもどうするかな。
ただの昼飯ってわけじゃねーし。
一応お付き合いを視野に入れたデートだって言われているのに、橘が一緒にくるのはマズイ気がする。
チラッと悠を見ると、悠は少し逡巡した後に「構わない」と言いだした。
(えっ!? いいのかよっ!)
思わずギョッとする俺を尻目に、悠が頷く。
「来たかったら一緒に来るといい」
「やった! 和南城サンキュ! やー、三由と食堂に行くのなんて、すげー久しぶりっ」
「お、おぅ、そうだな……」
なんだなんだ?
悠が橘を連れて行ってもいいなんて、珍しすぎねぇ?
一体どうしちゃったんだよ、お前!?
今までになかった展開に、面食らってしまった。
もしかして何か企んでる?と思って悠を盗み見ても、いつもの鉄面皮がそこにあるだけで、何を考えているかまではさっぱり分からない。
でも悠が良いって言うなら良いのかな?
いや………ほんとに良いのか…?
橘だぞ??
疑問を顔に浮かべたまま3人で連れ立って廊下を歩いていると、横にいる橘が落ち着かな気に小声で話かけてくる。
「なぁなぁ三由、ちょっと聞いてもいいか?」
「なんだよ、やっぱ行くの止めんのか?」
「いやいや、そうじゃなくて……いいのか?」
「は?」
「だから、それ……」
行くのを止めたいわけじゃないらしい。
よく分からないまま、橘がさっきから気にしている視線の先を辿ってみる。
………あ。
悠に手を繋がれたままじゃん、俺。
あまりにも自然に手を繋がれていたから、全く気がついてなかったんだけど。
むむむ……。
ここで慌てて手を離したりしたら、逆に不自然過ぎるか?
いや。もう不自然とか、そういうレベルじゃねーか。
ただ気づいたからには、このままにしておくわけにもいかねぇよな。
人通りのある廊下だし。
仕方なく橘に向かって意味もなくハハッと爽やかに笑いながら、悠の手をさり気なく外そうとしたんだけど、あ…あれ?
(は、外れねぇえ~~~~!?)
かなり力を入れて外そうとしているのに、繋がれた手が全く外れる様子がない。
なんだこれ……。
すげー力を入れてるようには感じられないのに、何故か繋がれた部分が岩みたいにガチガチに硬いんですけどっ!
(無理だ……これは無理ゲーだ………)
爽やかに外そうとしたのが、そもそもの間違いだったのかもしれない。
これは死に物狂いで頑張らないと、絶対に外さないって気概を悠から感じる
無駄な努力をした俺を嘲笑うかのように、悠が涼し気な顔で俺達を急かしてくる。
「2人とも。もう少し急いで歩いてくれないと、昼休みが終わってしまうぞ?」
「あ、わかった。急ぐって!……えぇと三由、それ…大丈夫か?」
この野郎っ!と心の中で悠に毒づきながらも、爽やかな笑顔で橘に答えるしかない。
「………気にすんな」
70
お気に入りに追加
3,485
あなたにおすすめの小説

最愛の番になる話
屑籠
BL
坂牧というアルファの名家に生まれたベータの咲也。
色々あって、坂牧の家から逃げ出そうとしたら、運命の番に捕まった話。
誤字脱字とうとう、あるとは思いますが脳内補完でお願いします。
久しぶりに書いてます。長い。
完結させるぞって意気込んで、書いた所まで。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

被虐趣味のオメガはドSなアルファ様にいじめられたい。
かとらり。
BL
セシリオ・ド・ジューンはこの国で一番尊いとされる公爵家の末っ子だ。
オメガなのもあり、蝶よ花よと育てられ、何不自由なく育ったセシリオには悩みがあった。
それは……重度の被虐趣味だ。
虐げられたい、手ひどく抱かれたい…そう思うのに、自分の身分が高いのといつのまにかついてしまった高潔なイメージのせいで、被虐心を満たすことができない。
だれか、だれか僕を虐げてくれるドSはいないの…?
そう悩んでいたある日、セシリオは学舎の隅で見つけてしまった。
ご主人様と呼ぶべき、最高のドSを…

目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる