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34.噛みたいだけじゃなかったの…!? ※
しおりを挟む余裕があったのはそこまでだった。
気がついたら、顔をトイレの壁に押し付けられるように立たされたまま、悠の左手が後ろ手にまとめられた俺の両手を、しっかりと拘束してきている。
(てか、シャツのボタンがいつの間にか、全部外されてんだけどっ!?)
気がついたら、腕にかろうじてシャツが引っかかってるだけの状態になっている。
悠だけじゃなく、俺まで半裸に近い状態になってるんですが!
待って。思考が追いつかない。
あの一瞬で俺を拘束して、さらにはボタンまで外したってこと!?
(え…、α怖っ、α怖ぁあっ。 何その人間離れした能力!!)
早まったか!と一瞬後悔しかけるけど。
いやいや。Tシャツは絶対もらうって決めているしっ。
Tシャツを脳裏に思い浮かべて、挫けそうな自分を無理やり鼓舞する。
そんな俺に悠が最後の確認をしてきた。
「アキ。……本当にいいのか? 今日は中途半端に止めるつもりはないぞ」
クソがっ、余計なこと言ってんじゃねーよ。
決心が鈍るじゃねーか!
躊躇する前に、慌ててコクンと頷く。
「なら……噛むぞ?」
悠の顔が、剥き出しになった項に近づいてくる。
(うぅう、鼻息が……)
首筋に当たる悠の息に、思わず身体が竦みあがった。
あぁあ、もうっ、噛むならさっさと噛んでくれよっ。
いつ噛まれてもいいように、ギュッと目を瞑りながら衝撃に備えているんだけど、何故だか悠は唇を押し付けるだけで、噛もうとしてこない。
(まだか? ……まだなのか?)
悠がどんな顔をしているかなんて、さっぱり分かんねーけど……。
なんか肉食動物が舌舐めずりをしているイメージが、頭に思い浮かんでくる。
こういういたぶられる前の緊張感みたいなのって、俺、超絶苦手なんだよ。
心臓の音が悠にまで聞こえてしまい。
ほんとこの緊張感、無理だから!!
殺るならさっさと殺ってくれっ!!
「悠。も、噛むならさっさと噛めって!」
緊張感に耐えきれずに、自分から噛むように頼んでしまった。
なのに悠は首筋の匂いを嗅ぐばかりで、なかなか項を噛んではくれない。
はっきり言ってこの生殺し状態はキツイ。
あんなに噛みたい噛みたい言ってたくせに、何で噛まねーんだよお前は!
(いいかげんさっさと噛んで、さっさと俺を解放してくれよ!)
噛まれるタイミングが分からないっていう恐怖もあるけど、それよりも問題なのはこの体勢だ!
触れ合った素肌の体温が心地良すぎて、色々と非常に困っている。
抱き込まれながら項の匂いを嗅がれたり、肩や首筋に何度も何度も悠がキスをしてくるせいで、身体がすでに反応しかけてるんですけど……。
ホント止めてほしい。
悠の匂いで何度か抜いた経験がある俺だぞ?
クララが勃ちあがってくる気配に、青褪める。
「…っ、おい悠っ、いいかげんに……ぎゃんっ!」
怒鳴ろうとした途端、首筋にベチャリと濡れた感触が当たった。
この感触って───…
うっぎゃあぁあああ~~~~……
(噛んでもいいとは言ったけど、舐めてもいいなんて、一言も言ってないからなっ!)
温かく湿った舌が、首筋を舐めあげてくる感触に、思わず首を竦める。
うぅう……ぞわぞわするぅうう。
「止めろって…んなとこ、舐めんなよぉ…」
気持ち悪いはずなのに、身体の体温がどんどん上昇してくる。
特に項付近は嫌だっ。
そこは舐めないで欲しい!
竦み上がるような恐怖感が、そこから湧き上がってくるみてぇ。
舌が項を這う毎に、汗が自然と噴き出てくる。
その汗を掬うよう舐め取りながら、悠がうっとりとした口調で囁いてきた。
「……アキの汗は、甘いな」
コイツ……絶対味覚がおかしいって。
冗談にしても、汗が甘いわけがねーだろ。
ツッコミたくても、悠の右手が俺の腰を辿って胸へと伸びてきたことに、思わず息を飲んだ。
軽く胸を撫で回したあと……ちょ、何してんのお前っ。
ギョッとする俺には構わずに、悠の指が俺の胸の先端をキュッと引っ張ってきた。
「ひぁ…っ!」
ビクンッと身体が跳ねる。
(ちょ……っ、これは本当に洒落になんねぇって!)
本気で頭が混乱してくる。
悠は俺相手に、何をしてんのか分かってんのか?
「う、うっ、あ…っ。悠っ」
身体を捩りながら抵抗しても、悠は俺の項を舐ったまま、円を描くように乳首を触ったり押しつぶしたりしている。
人の乳首で遊ぶな!と、怒鳴ってやりたくても出来ねぇ。
下手に声を出すと、あられもない声が喉から飛び出そうだ
今の俺は必死に唇を噛んで、翻弄してくる悠の指の刺激に堪えるだけで精一杯だ。
そんな俺の様子を見ていた悠が、俺の耳に唇を近づけてきたかと思うと、わざと俺の羞恥心を煽ってくる。
「尖っているな、乳首。気持ちいいの?」
「……………ッ!!」
カァアアッと耳まで熱くなった。
確かに乳首がぷくりと尖ってきているのは、自分でもよく分かっているっ。
でも尖らすような触り方をしている奴に、言われたくねーよ!
(つーか、何なんだよこれ!! もうこんなの、あ、あ、愛撫じゃねぇかっ!?)
やり場のない怒りと羞恥心で、わなわなと身体が震えてくる
最初の話では項を噛むだけって言ってたじゃん!
それがなんでこんなセックス紛いなことをされてんだよ!
こいつ、同性愛者だったのか…!?
色々言いたいことは山程あるけど、それを言うタイミングを悠が与えてくれない。
「──ッ!! ──ッ!! ───~ッッ!!」
乳首を執拗に責められる毎にきつく唇を噛みしめるけど、身体が勝手に跳ね上がるせいで、凭れているドアがガタン、ガタンと揺れ動く。
なんとか悠の手から逃れられないものかと、身体を左右に揺すってみるけど、拘束されている手首は一向に緩む様子がない。
(くそっ! そういえばコイツ……体力測定の時に、化け物みたいな数値を出していたっけ)
舌打ちしながら背後の悠を睨みあげると、うっそりと悠が笑いかけてくる。
その表情にドキッとしていると、俺の顔を見つめたままの悠の指が、乳首を優しく擦り上げてきた。
思わず鼻にかかった声が喉から漏れる。
ヤバイ。これ、今までで一番気持ちがいいかも。
「ん…っ、ぅ───…!!」
背中が勝手に反り返って、悠に胸を突き出すような形になってしまった。
気持ちよさに呼吸が乱れてくる。立っているのが辛い。
「あ……っ、ぅ、んっ。悠ぅ、やめ…っ!」
イヤイヤと首を横に振りながら、崩折れるまま床に膝が付きそうになった俺の身体を、拘束を解いた悠の腕が支えてくる。
腰に腕を回されたかと思うと、グイッとそのまま上に引き上げられた。
「うあ…っ」
「興奮しすぎて、理性が飛びそうだ。はぁ…アキ。可愛いよ。可愛い…」
ため息のような熱い囁きが首筋にかかったかと思うと、悠が項をきつく噛んできた。
「───い…っ!!」
痛い、痛い、痛ぃいい───~~っ…!!
(噛みたいとは言われたけど、ここまで強く噛むなんて聞いてねーよ!)
容赦のない痛みに、ギュッと目をつぶって必死に耐える。
唇が切れそうなほど強く噛み締めていても、喉から獣のような呻き声が漏れてしまう。
思わず痛みから逃れるように、グシャリと掴んだ悠の髪の毛から、その時強い匂いが漂ってきた。
甘く、熟れたみたいな林檎の香りが、俺の周りを囲うように張り付いてくる。
今までの悠からは嗅いだことのない香りと、噛まれる痛みに、目眩を起こしたように視界がグラグラと揺れた。
「はっ、あ、んんっ…はぁ、はぁ…」
涙が滲むほど痛くて堪らないのに、股間がどんどん張り詰めたように熱くなってくる。
痛みと快楽でわけが分からなくなってきた。
自分がちゃんと立っているのかさえ、よく分からない。
思考が働かなくても、この感覚には覚えがある。
この身体にへばりつくような匂い……。
「あ……、フェロ、モン?」
そうとしか考えられない。
あの時も自分の意志に反して、身体がどんどん昂ぶっていったから。
俺の呟きに、悠が噛んでいた項から唇を離すと、目を細めて微笑んできた。
「そう。アキにオレを感じて欲しかったから、肌に感じとれるほどの量を出している」
「…はぁ、ぁ…っ、でもこの間と匂いが……」
うっかり余計な事まで口走りそうになった口を、慌てて閉じた。
やべぇ。悠の匂いが分かるなんて知られたら、Ω性があることがバレるじゃん。
死ぬ気で隠すつもりだったのに、何やってんだよ俺!
「───…よく分かったね」
笑みを消した悠の指が、俺の顎を捕らえてくる。
そのままグイっと後ろを向かされた。
俺の額に自分の額をコツンと当ててくると、そのまま俺の目の中を覗きこむように見つめてくる。
近くで見ても端整な悠の顔はいつも通りだ。
ただいつもと違って、淡い色の瞳がとろりとした熱に濡れている。
そのあまりに悠らしくない、欲情を交えた目元に息を飲んだ。
「これはΩを発情させる為のフェロモンだよ、アキ。甘い匂いで──もっと俺に酔って……」
そう言って嫣然と笑う悠の唇が、俺の唇を上から塞いできた。
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