イケメンがご乱心すぎてついていけません!

アキトワ(まなせ)

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32.交換しようか

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「───オレの顔に、何かついてる?」 
  
 昼休み。
 本を読んでいた悠に、そう声をかけられてハッとした。 
 パックのいちご牛乳のストローを口に咥えたまま、気づけばボーッと悠の顔を眺めてたっぽい。 
 慌てて目を逸らしたけど、今更感は拭えない。
 バツの悪さに、咥えていたストローをガジッと噛んで誤魔化した。 
  
「………なんでもねーよ」 
「朝から何度も見ていただろう?」 
「……っ」 

  
(くっそ。視線に敏感すぎだろ。そんだけあちこちから視線を集めまくってんなら、いいかげん視線に鈍感になれよっ) 

  
 謎の八つ当たりをしてしまったけど、朝から悠をチラチラと見ていた自覚は確かにある。 
 匂いが無くなってしまったタオルの代わりに、悠の私物をなんとか手に入れる方法はないものかと、朝っぱらから色々考えてはみたんだ。
 ただ、いい手が全く思いつかねぇ。
 どれもこれもクソみたいな思いつきしか出てこねぇんだよ。
 あぁもうっ! 自分の貧困な脳ミソが憎い! 
 俺がこんなに悩んでいるっていうのに、横からは欲しいと思っている香りが、風に乗ってこっちに流れてくるのがまた憎たらしい。
 無駄にいい匂いなんか、させてんじゃねーよ!
 
 ぐぬぬぬ…とストローを噛み潰す。  
 昨日はいつも嗅いでいたタオルが無くなったせいで、なかなか寝付けなかったのだ。
 夜中に何度も起きるせいで、若干睡眠不足だし身体も怠い。
 こういう些細な不調にも、バースに狂いが生じてしまうのか、今日はいつもよりも悠の匂いに敏感になっている気がする。 
 橘や渡辺に、一緒にバスケをしないかって誘われたけど、運動する気にもなれずに断ってしまった。 
 昼寝でもしようかと思っていたのに、結局は匂いに誘われて悠を見つめていたようだけど。

 
(はぁ。もうさ、クソなアイディアしか浮かばねーんなら、思い切ってド直球で言ったほうがマシなのかも) 

 
 何だか色々考えるのが面倒くさくなってきた。
 欲しいもんは欲しいし、安眠もしたい!
 男は度胸!を合言葉に、口からストローを外して悠に向き直った。
  
「あのさ、悠から貰ったタオルあんじゃん、俺のタオルと交換したやつ」 
「タオル? …あぁ、あれか。それがどうかしたのか?」 
  
 思い出したのか、頷きながら俺に話の先を促してくるけど、 

(あー、この後どうしよ…。でも黙ったままだといつまで経っても手に入らねーしなぁ。ここが踏ん張りどころだと思って頑張るしかねぇか!) 

 よし、とりあえずは褒めとこ。
 褒めておけば大抵何でも上手くいくし!
  
「あれ、すげー良いよな!めっちゃ柔らかいしっ。あ、あのさ…もし良かったらでいいんだけど、お前ン家にあるタオル…少し売ってくれねぇ?」 

  
 とうとう言った!
 言ってやったぞ俺はっ!
 しかも咄嗟の割に、今の言い訳はなかなか完璧だったんじゃねーか?
 すげぇよ。意外に俺ってば、土壇場に強かったんだな。
 なんか自信が湧いてきた!

 
 さぁ、いくらだ悠?!
 どんな値段がきても、俺の今月のバイト代はお前に貢ぐと決めた!
  

「あのタオルが気に入ったのか? ならこちらで注文しておくから、アキの家の住所を教えてもらえるか?」 
  
 悠が懐からスマホを取り出すと、俺に住所を聞いてきた。
 が、欲しかったのはそれじゃない!

 違う違う違う違──うっ! 

  
「あ、いや、そうじゃないっ……そうじゃなくて! なるべく早く欲しい。明日とか!!」 
「? 今から頼めば明日には着くだろ?」
 
 不思議そうにこっちを見てくんな。  
 そうじゃねぇよ! イケメンのキョトン顔は可愛いけど、今は求めてねーよ! 
 察して! お願いだからっ。
 頼むから気づいてっ! 

「違うんだって! 新品がほしいわけじゃなくてだな……」  
「アキ、悪いがはっきり言ってもらわないと分からない。一体どうしてほしいんだ?」 
  
 お手上げだと言わんばかりに、ふぅと溜息を吐かれた。
 もしかして呆れられたんだろうか……。
 愛想を尽かされた気がして、地味に凹む。
 
(やっぱもっとはっきり言わないといけないのか? くそぅ……) 

 橘ならお金を払うって言ったら、すぐにでもOKしてくれそうなのに、悠は手厳しい。
 理由までちゃんと説明しなければ、このまま話が終わってしまいそうだ。 
 本当は何となくで察してもらって、売ってもらえるのが理想だったんだけどな。
 優秀な頭脳で色々察してほしかった。
 理由なんて恥ずかしすぎて言いたくねーよ。

「……あのタオルが気に入ったから…ほしくなったんだよ」
「だからこちらで注文すると言っているだろう?」
「……ぅ、新品なら別に……」
「新品の何が不満なんだ?」

 結局行き着く所はそこに戻ってしまう。
 やっぱりちゃんと理由を説明しないと駄目みたい。
 流石に面と向かって言うのは気まずい。
 悠をなるべく視界に入れないように目を逸しながら、小さく呟いた。 
  
「……お前ん家のタオルが欲しいんだよ」 
「どういうことだ? どうせなら新品の方がいいだろう?」 
「く…くたってる方が使いやすいんだよ」 
「………………」 
「お前の使い古しが欲しいです」 
「………………」 

  
 ………すいません、無言は止めてもらえますか? 
 言ってる内容が内容だけに、俺だっていたたまれないんですよ。 
 恥ずかしい事を言ってる自覚はあるけど、仕方ないじゃん。
 俺の安眠のためにはタオルが必要なんだよ!! 

  
「出来たら売ってもらえると嬉しい。駄目ならすぐに断ってくれ。そして忘れてほしい」 
「………少し考えている」 
「あんまり深く考えんなよ。その…1~2枚売ってもらえるだけでいいんだし」 
「何でオレの使い古しが欲しいのかを考えている。……誰かに売るつもりではないんだよな?」 
「そんなことはしねーよ!」 
「……………」 
  
 まただんまりだ。
 あんまり深く考えこまないで欲しい。 
 理由なんて絶対言いたくないし、言えねーだろこんな理由。 
  
 うぅ…。黙ったまま、ジッと俺のことを見つめてくる悠の視線が痛い。 
 大部分はβだからバレるはずが無いだろうけど、純血種だと少量のΩ性にも勘付いてきそうなのが怖い 
 ジワリと嫌な汗をかき始めた辺りで、やっと悠が口を開いた。 

  
「それはタオルじゃないと駄目なんだろうか? オレが持っているものなら、何でも良いのか?」 
「──?!」

 えっ!?
 それって何か私物をくれるってことだよな。な!

「もちろん! ハンカチでもクシでも、もらえるなら何でも大歓迎!」 
「……そうか。なら、ここだと人目もあるし、別の場所に移動しようか」 
  
 悠に言われて慌てて周りを確認した。 
 昼休みで人が少ないとはいえ、確かにここでの私物の受け渡しは危険過ぎる。
 危なく、この間のタオルの二の舞になる所だった。 

 ふぅ。流石は人の視線に厳しいイケメン!
 よく気がついてくれたよ! 

 頷く俺の腕を引くと、そのまま悠に連れられて教室を出た。 
  
  
  
 






 ◆◆◆
 



  
  
 どこに連れて行くのかと思ったら、連れ込まれた先はまさかのトイレだった
 腕を引いたまま俺を奥の個室に先に押し込むと、すぐさま悠も中に滑り込んでくる。 


 ───って、ちょっと待て!! 
 お前は自分のサイズ感を、もうちょっと考えろ! 

  
「お前と一緒だとクソ狭ぇよっ、何でここなんだよ!」 
「個室ならオレの持ち物を、アキに渡しても誰にも見られないだろう?」 
「そりゃそうだけどさ……。」 
  
 密着するくらい狭いわけではないけど、圧迫感がすげーんだって。 
 さすが186cmの男。 
  
「ハンカチくらいなら別に、個室に入らなくても良かったんじゃねぇの? 他に誰もトイレに居ないんだし」 
「渡すのはハンカチじゃないからな」 
「え? じゃあ何を売ってくれるんだよ?」 
「……………」 
  
 それには答えず、悠がいきなりベストに手をかけたかと思うと、そのまま躊躇もなく脱ぎ捨てた。 
 突然のイケメンのストリップに目を丸くしていると、脱いだベストを俺に差し出してくる。 

  
(──え? くれるのってベストか!?) 

  
「預っておいてくれ」 
  
 違った。
 ですよねぇ、と思いながらベストを受け取ったけど。
 くそ、ちょっと期待しちゃったじゃん。 
 ガッカリする俺にベストを渡すと、今度はシャツのボタンをどんどん外していく。 

  
(──え? シャツ……はさすがにマズくない? ベストだけで過ごすつもりか?) 

  
「これも頼む」 
  
 違うのか。少しホッとした。 
 いや、でもこのシャツもちょっと欲しいな。
 流石にベストだけの変態スタイルで、悠に授業を受けさせる訳にはいかないから諦めるけども。 

  
(なら、何をくれるつもりなんだ?) 

  
 受け取ったシャツから悠に視線を戻すと、悠はインナー代わりのTシャツを脱ぎ出している。 
  
 お、おおぉう!?
 体力測定の時に散々自慢された腹筋が……。
 あ、胸筋もしっかりあるんじゃん。 
 相変わらずギリシャ彫刻みたいな、腹立たしい身体つきをしてんな。 
 嫉妬心からちょっとムッとしていると、目の前に脱いだばかりのTシャツが差し出される。 

  
「これでもいいなら交換しようか」 
「──────~~~…ッッ!!」 
  

 なんという提案……っ。お前は神か…!?


 思わず瞳が輝いてしまった。
 素晴らしい提案じゃないか!!
 
 マジでお前天才だなっ!
 むしろハンカチよりそれがいい!
 めちゃくちゃ肌に近いじゃん!
 
 まさかのTシャツに大興奮してしまう。
 すげーよっ、大盤振る舞いじゃねーか! 
 イケメンなんて爆ぜちまえ!なんて思っていた過去もあったけど、俺が間違っていた。
 お前は良いイケメンだよ! 自信を持っていい! 

  
「良い良い良いっ。サンキュー悠! その代わりお前の言い値で買ってやるからなっ。いくらでも吹っかけてくれ!」 
  
 俺史上最高の笑顔でTシャツに腕を伸ばした途端、さっとTシャツが引っ込められる。 


 あ、あぁ~~~~っ??
 さっきはくれるって言ったくせに、何で渡してくれないんだよっ。

 なにこれ、嫌がらせか?! 
  

 恨めしそうに悠を見上げると、ビックリするくらいの位置に悠の顔がある。
 
(ち……近っ!)
 
 目線を合わせるように屈み込んできた悠は、感情を窺わせない眼で俺の瞳を覗き込んでいる。 
  
  
「交換って言っただろう? お金はいらない」 
「…………え?」 
「お金なんていらない。その代わりに──」 
  
 動けずに固まる俺を見つめたまま、悠が蠱惑的な笑みを浮かべてきた。 
  
  
  
「───項、噛ませて」 





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