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20.イケメンはみんなのものらしい

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 次の日。教室の中に入ってみると、珍しく悠の姿が見えない。

(あれ? あいつって、いつも俺よりも先に登校していたよな)

 珍しいこともあるもんだと思いながら、自分の席に向かう。
 本当は昨日聞くはずだった羽鳥先輩との話を、人が少ないうちに聞き出せれないかと、早めに家を出てきたのだ。
 でも肝心の悠が未登校じゃ、ただの張り切り損じゃん。
 ちょっとガックリくる。

 悠いつ来んだろ。
 そろそろ来ねーかな。

 ソワソワしながら、鞄の中身を机に移している途中で名前を呼ばれた。 
  
「ねぇねぇ、三由ー。和南城君って今日はお休みなの?」 
  
 三上か。悠に用事でもあったのかな? 
  
「知らねー。俺も聞きたい事があったんだけど、いなくてがっかりしてんの」 
「連絡とかは来てなかったの?」 
「連絡?」 
「RINEとか交換してんでしょ? 三由のところに連絡とか入ってないの?」 
  
 RINE?  それでふと思い出す。 
  
「あー、あいつとは連絡先交換してないんだよ」 

 そうだ、それで昨日すげー後悔したんだよなぁ。
 クラスの友達とは連絡先も交換しているし、クラス用のグループRINEも登録しているけど、アイツの連絡先だけ全く知らねーんだよ。
 私生活も謎に包まれてるし。自分からアレコレ話す奴でもないしなぁ。  
 俺の返事に三上が何故かビックリしている。 
  
「マジでっ! 基本じゃん。もぅ、三由何やってんの!」 
「何でお前が怒るんだよ。関係ねーだろ。そもそも気軽に連絡先を交換出来るような奴でもねーし、何でも知ってると思うなよ」 
  
 やっと名前を呼び合う仲になったって程度だぞ。無茶言うな。 

  
「はー…、三由全然ダメじゃん。せっかく昨日の和南城君のこと聞こうと思ってたのに。これじゃあ知るわけないかぁ」 
  
 はぁと溜息をこぼしつつ、綺麗にカールさせた髪を弄りながら三上が独り言を言っている。
 なんだよ、その昨日のことって。
  
「昨日何かあったの?」 
「和南城君が上級生の女と一緒に、どこかに消えたってグループRINEで噂になってんの……」 
「は? 俺の所にそんなグループRINEなんて、届いてなかったぞ?」 
 
 
 え? なにそれ知らない。
 俺クラスの連中からハブられてんの? 
 
 「……女子同士のグループRINEの方だもん」 
  
 俺から視線を逸らすように三上が言う。
 女子同士のグループラインなんてあったんだ。 
 うわぁ…。目を逸らすくらいだし、何か男子には都合の悪い会話とかしてんのかな。
 あまりこの内容は詳しく聞かない方がいいのかも。
 それにしても、昨日の事がもう広まってんだなぁ。
 さすが和南城と羽鳥先輩って感じ。

  
「へー、すげぇな。もう噂になってんだ」 
「三由は昨日午後からいなかったから、知らないかもだけど……って! あんたやっぱ何か知ってんじゃん?!」 
  
 突然三上が凄い勢いで顔を寄せてくるのに焦りながら、慌てて身体を後ろに引く。
 ちょ…っ、近いです。三上さん。 
  
「羽鳥先輩のことだろ? 食堂で目立ってたしな、あの二人」 
「はっあぁあああああ~~!」 
  
 俺が普通に羽鳥先輩の名前を口にした途端、三上が大声をあげる。 
 その声で教室にいた生徒も、何事かとこっちを見てくる。

「うわ、三上っ、でけぇよバカッ、声抑えろ!!」 

 クラスメイトの視線を気にしつつ、興奮する三上を宥めにかかった。 
  
「落ち着けって三上、みんな見てるって……」 
「そんなのどうでもいいから! ちょっと、三由どういう事なのっ? 羽鳥先輩ってあの羽鳥先輩で間違いないっ?」 
「それ以外の羽鳥先輩なんか知らねぇよ。落ち着けって三上。俺が知ってる事は話すし」 
 
  黙っていてもどうせ食堂でかなりの人数に、あの時のやり取りを見られてるしな。
 変な尾ひれが付く前に、ちゃんと話しといた方が良さそう。


 そうして俺は興奮する三上に昨日の事を簡単に話した。
 もちろん嫁探しの事や、羽鳥先輩が元々のターゲットだったことについては黙っていたけど。 
 三上には昨日、悠と一緒に昼ごはんを食べている最中に、悠のことを気に入った羽鳥先輩が悠をどこかに連れて行ったとだけ報告。 
 それだけでも三上にとっては、許しがたい事柄だったみたいだけど。
 
『あんなに取り巻きがいるくせに悠にまで手を出すのか!』とか『突発Ωが純血に近づくなんておこがましい』とか他にも色々言っていたけど……いや、ほんと何でお前がそんなに怒ってんの?
 横で聞かされる三上の剣幕に、ただただ怖くて震えあがる。
 女子って怖ぇ…。
 
 そんなに怒ることだろうか?
 悠は別に嫌がる素振りなんて見せてなかったんだけどな、昨日。 
 むしろ悠の事情を知っている分、早くΩを見つけてあげたいと思ってるんだけど……。 
 気になって、爪を噛みながら怒りに燃えあがる、三上に聞いてみることにした。 
  
「何でそんなに怒ってんだよ? αにとってΩは大事なものなんだろ? だったらあいつと羽鳥先輩がくっついた方が、二人のためじゃねぇ?」
 
 俺の言葉に、三上の怒りがさらに増してしまったらしい。
 グワッと怒りの目で俺に噛み付いてきた。 

「わかってる! わかってるけどなんか面白くないのが分かんないのっ? しかも相手はあのワガママ女王なのがさらに腹が立つっていうか、 あたし達の和南城君があんな女のものになるなんて、すっごく嫌なの!!」 


 理屈じゃないみてぇ……。
 しかもいつから君たちの和南城になったんだよ。 
 まぁでも、俺の知っている事は全部話したぞ。
 後のことは、これ以上本当に何も知らないし。
 三上の怒りは勝手にそっちで何とかしてくれ。
  
 あとは知らね、とばかりに机の中に教科書類を移そうと鞄に触れた所で、三上といつも一緒にいる落田が勢いよく教室に駆け込んできた。
 三上を見つけて慌てたように。 
  
「絵莉っ!ちょっ、ヤバい!  窓見て!!」 
「真姫? 慌ててどうした…「いいから窓!窓!!」 
  
 二人して慌てて窓の方に行く。
 なになに? 何かあったの? 

 俺も気になって二人の横に並ぶように窓の外を見る。あ、他のクラスメートも気になったのか、窓に何人か近寄ってんな。
 クラスメートの姿から窓の外に再び視線を戻すと、校門前に羽鳥先輩をエスコートしながら歩く、悠の姿が見えた。 
 すぐに校舎の陰になって、姿は見えなくなってしまったけど。
 これって一緒に登校してきたってことだよな? 


 いつもの時間に悠が登校していなかった謎は解けた。 
 えーと……これは二人が上手くいったってこと? 

  
 2人の姿を窓から見ていたクラスメート達によって、教室内が騒然とし始めた。 
 俺にも質問してくる奴がいたけど……ごめん、俺もよく分からねぇ。 
 とりあえず悠が教室に戻ってきたら、こっそり聞いてみようかなと思ってたんだけど、なかなか教室に入ってくる様子がない。 
 結局悠が教室に姿を現したのは、朝礼が始まるギリギリになってからだった──… 
  
  




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