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18.もう…最悪
しおりを挟むチャイムの音でフッと意識を取り戻す。
頭がのぼせたようにぼんやりしていて、一瞬自分がどこにいるのかが全く分からなかった。
(えーと……ここ、どこだ?)
確認するために瞼をしっかり開けようとしてみたけれど、なぜか重い瞼は半分くらいしか開かないせいで、上手く周囲が確認出来ない。
自分の状況が分からないせいで困惑する。
しかも動く気も起きないくらいに、身体がぐったりと重怠い。
よく分からねーけど、とにかく体調がよくない上に、何だか狭い空間に閉じ込められている──?
開きにくい瞼をこじ開けるように周囲を確認しようとして。
その前に自分の下半身の方が先に目に飛び込んできて、ギョッとなった。
えっ!?
俺、チンコ丸出しなんだけど!!
何でこんな姿で、こんな場所に寝てんだよっ
無防備な自分の姿に愕然となる。
お陰でさっきまでの自分の行為を、全て思い出すことが出来たけど。
(そうだ、俺──…)
出しても出しても昂りが治まらないクララに、途中で疲労困憊して……。
あれ? その後の記憶が思い出せねぇ。
気づいたら下半身丸出しのまま便座の上に座っていたけど。
え? もしかして俺ってば、疲れてそのまま寝ちゃってたの?
「うわぁ、最悪……。チンコ丸出しのまま寝こけんなよ俺……」
思い出した途端、自己嫌悪に死にたくなった。
鍵はちゃんと掛かっているとはいえ、学校でオナニーしたまま寝るなんて最悪すぎる。
他に誰かが入ってくる前に、さっさとここから退散しないと!
慌ててズボンを引き上げようとして……うっ。
何だこれ……上手く力が入らねぇ。
思うような動きが全然出来ないのにビックリする。
恐ろしいほどの倦怠感のおかげで、ズボンを引き上げるだけでも、ものすごく労力を使う。
出すものを出し切ったおかげで、興奮状態は治まりを見せているけど、代わりに俺の体力がゴッソリ奪われていた。
おかげで風邪で高熱が出た時のような身体のだるさと頭の痛みに、知らず口から呻き声が漏れる。
「あー…マジ最悪……」
よく見たら自分が出したもので、下半身と手がベタベタに汚れていた。
知らずにズボン触っちゃったじゃん。あー、くそっ。
近くのトイレットペーパを引き出して、汚れた部分を拭くけど、それだけの動きでも息が切れる。
ノロノロと動きの悪くなった身体を叱咤しながらも、なんとかズボンを穿いて尻を隠せたときには自分に喝采を送りたくなった。
ほんと、よく頑張ったよ俺。
もう動きたくないよ俺。
穿く時に、先走りでシミがすごいことになっていたパンツは、一瞬穿くのに躊躇してしまうほどだったけど、ノーパンよりはマシだろうと我慢して穿いたし。
まじでエライよ俺。
でも冷たい……やっぱノーパンの方がマシだったんじゃねぇの? これ。
うぅう、下半身が冷える……。
自分を褒めてやらないと、本気で泣き出しそう。頑張れ俺…。
「はぁ──…」
尻を隠し終えると、安堵感から大きなため息が出た。
ズボンを穿いているのと穿いていないのとでは、安心感がまるで違う。
パンツは冷たいけど……。
ズボンを穿いて人心地がつくと、周囲のとんでもない状況にも目が行く。
はっきり言って、自分でも惨憺たる有り様すぎて、くらりと目眩がした。
床どころか目の前の扉にまで、白くドロリとした精子が飛び跳ねている。
それが長い糸を引いて滴り落ちる様は、どう見ても情事の後って感じだ。
(──う…っ。これも俺がやったのか……?)
あの時はそれどころじゃなかったけど、せめて精子くらいはトイレットペーパーで受け止めてほしかった。
片付ける身にもなってくれよ、あの時の俺…!!
今更だけど恨み言がこぼれる。
あっ。しかもよく見たら、ズボンにもあちこち飛び跳ねてるし。
「ほんとにもう、最悪だよ……」
自分の精子に泣けてくる。
トイレットペーパを多めに手に取ると、必死で床と扉を拭った。
バッチィとは思いつつも身体の辛さには結局勝てなくて、手と膝を床に付きながら何とか全て拭い終えた。
後はトイレの中に全てを流すことにする。
ふぅ、これで証拠隠滅は完璧なはずだ。
臭いは……そのうち消えるよな。
一応見落としはないかと、最後にもう一度内部を確認してから個室を出る。
そのまま手を洗うために洗面台に向かった。
「あ、そうだ。制服にも精子がついていたんだっけ」
熱と頭痛のせいで、忘れかけていたことをふと思い出した。
いや、まじでギリギリでも思い出せて良かったよ。
見る人が見たら、精子ってすぐにバレるし。
そんな姿を誰かに見られでもしたら、とてつもなくまずいことになっていたかもしれない。
誰かにブッかけられたとでも思われたら最悪だ。
制服のポケットからハンカチを取り出すと、水で濡らしてからズボンの染みを抜いた。
どうせ帰ったらこのズボンはクリーニング行きだろうし、バレない程度に染み抜き出来ればいいや。
あとは見えない位置も一応チェックしておこうかな。
何気なく鏡に自分の姿を映してみて……驚いた。
これ俺か?というような、ゲッソリとやつれきった顔が鏡に映っている。
「うわぁ──……」
どよんと淀んだ半開きの目と隈のせいで、具合の悪さが際立って見える。
この短時間の間にどうしちゃったのと言わんばかりの憔悴した顔に、思わず自分の顔をしげしげと眺めてしまった。
おかげで嫌なものまで発見してしまう。
「あ! くそっ。顔にも少しかかってんじゃん」
顔にまで飛ばすってどんだけだよ俺。
クララが元気すぎて辛い。
そんな元気があるなら、普段からもっと気軽に勃ってくれればいいのに。
しかも鏡で確認したら、しっかりブレザーにもかかっていたし。
いい加減にしろよ、お前。
──はぁ……。
もちろんすぐにハンカチで拭き取るけどさ。
とりあえず確認出来るところは全部拭けたと思う。
うん、これなら多分大丈夫なはず。
フラフラしながらトイレを出たのはいいけど……。
この後どうしよう。
本当はこのまま家に帰りたいけど、歩いて帰れる気がしない。
今だって怠すぎて、このまま蹲りたいくらいだし。
性欲は治まったけど、身体に溜まった熱が引かない。
まだ肌にへばりつような不快感が残ったままだ。ほんとαのフェロモンやべーな。
悠には後でしっかり注意しておこう。
お前のせいで変になったとは言えないから、とりあえず俺の前ではフェロモンを出すなって言っとけば大丈夫か?
あーもう、少し動くだけでゼイゼイと息があがってくる。
これじゃあどう考えたって、家にまで辿り着ける気がしない……。
下半身丸出しで寝てたもんな。もしかしてあれのせいで風邪をひいたのかもしれねぇ。
(やっぱ保健室かな。放課後まで寝かせてもらえれば、少しは体力が回復するかも)
熱のせいで鈍った身体を引きずるように、俺は保健室に向かって歩き出した。
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