イケメンがご乱心すぎてついていけません!

アキトワ(まなせ)

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14.目的を達成出来ました!

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 あの羽鳥先輩が俺たちの席のそばに来ている。
 後ろには慌てたように追いかける、黒縁の姿。

 悠も人間離れしたようなすげー美形だけど……。
 初めて間近で姿を見る羽鳥先輩自身も、同じ人間とは思えないくらいに綺麗な人だった。
 性格に問題があっても、そりゃ男子生徒が放っておかないはずだよ。

 羽鳥先輩は透き通るような色白の肌と、華奢な手足でこちらに歩いて来ている。
 腰は折れそうなほど細いくせに、胸だけはしっかりと主張するかのように飛び出していた。
 蠱惑的な大きな瞳を細めるように笑う姿が扇情的で……思わずドキリとする。
 自分に絶対的な自信があるのが、歩く姿からも滲み出している。


(Ωだ…っ!すげぇ。……なんか別の生き物みたいだ)


 初めて間近で見るΩに、興奮してコクリと喉が鳴った。
 庇護欲を誘うようなその細い肢体を見ていると、羽鳥先輩を崇める信者の気持ちが少しだけわかるような気がする。
 薄く香る花のような香水も、羽鳥先輩の雰囲気にはよく合っていた。

(──ただ…少しだけキツさが残るな、この匂い。ちょっと苦手かも)

 食堂がざわつく中、俺達のテーブルまで歩いてきた羽鳥先輩は、俺を越えて悠だけを真っ直ぐに見つめている。
 悠も何を考えているのかよく分からない表情で、羽鳥先輩を見返していた。
 しばらく見つめ合った後に、羽鳥先輩は少しだけ屈むような姿勢をとると、椅子に座る悠の首元に鼻を近づけた。間近でその姿を見ている俺の方が、二人の姿にドキドキするんですけど。

(なんかエロい…この二人、エロい……)

 ふっくらと艶めく唇が、今にも悠の首筋に触れそうになっている。
 うぁっ、ヤバい。見ているだけで頭に血が上ってくる。
 美男美女がくっついているだけなのに、なんでこんなにエロちっくに感じるんだろ!?
 心臓をバクバクしながらこっちは見ているっていうのに、匂いを嗅がれている悠の表情は冷めきっている。
 なんだよ。こんな状況なんて、慣れてるっていいたいのかお前は…!
 密かにイケメンに嫉妬している間に、確認作業が終わったみたいだ。
 身体を起こした羽鳥先輩は、悠を見つめながらうっとりしたようなため息をこぼしている。

「すごく混じり気のない良い匂いがする。噂の純血種の転入生ってあなたでしょ?」
「……2年の和南城です」

 頬を赤らめる羽鳥先輩はめちゃくちゃ色っぽいってのに、悠は冷静な顔で挨拶をするだけだ。
 すげーなイケメンって。俺ならドギマギして、まともに返答出来ない場面だぞこれ。
 むしろ羽鳥先輩の方が、悠にポゥとなってない?

「オレに何か御用でしょうか? 羽鳥先輩」
「えっ? ──あ、用事というか…向こうからすごくいい匂いがしてきたから気になっただけなんだけど。ねぇ、せっかくだし少しだけお話ししない?」

 冷静すぎる悠の反応に戸惑うような視線を向けた後、気を取り直すように可愛い上目遣いで悠を見ながら、羽鳥先輩が誘いをかけてきた。
 うわ、何か思ってたのと違って、やっぱ可愛い人かも。 

「……ここで? それとも別の場所でというなら──…」

 悠に断られるとでも思ったのか、羽鳥先輩が慌てたように。

「どちらでも! あなたに任せる」
「では別の場所にしましょうか。ここだと視線が気になる」

 悠が食堂を見回しながらそう言うと、羽鳥先輩も頷いている。
 確かにみんな2人の様子が気になっているのか、視線を感じるもんな。
 その言葉に焦ったのが後ろに控えている黒縁だった。慌てて二人を止めに入る。

「羽鳥さん、駄目ですよ。なるべく人目のある場所にいてもらわないと。危険ですって!」
「あら、いいでしょ別に。私は彼と話がしたいのよ。うるさく言うならどこかに行って」

 心配する黒縁をよそに、羽鳥先輩は面倒くさそうに顔を歪めながら黒縁を見ている。
 あ、やっぱ噂通りの人だったわ。
 悠の前だけかよ可愛いのは……。
 顔は綺麗だけど、性格キッツ。


「あと、2人きりで話したいから、相模はついて来ないでね」
「な…! 2人きりでなんて、許せるはずがないでしょう! あなたのお父様からも目を離さないようにと、よくよく頼まれているっていうのに。なので俺ももちろん二人について行きますよ!」
「彼ならパパも許してくれるんじゃない? だから邪魔しないでくれる?」
「駄目です!それに彼はαですよっ、何かあったらどうするんですか!」
「……うるさいわね。発情期を気にしているなら、まだもう少し先だってば」
「だけど……!」

 言い募る黒縁に苛ついたように重い溜息を吐くと、悠の腕を引っ張りながら。

「ねぇ。純血のαなら、Ωの私に興味があるはずでしょ? 相模のことは気にしなくていいから、裏庭のベンチに行かない?」

 そうして悠に向けた顔は、さきほどの表情はどこに行ったの?といいたくなるくらいの乙女な表情だ。
 この落差が怖い……。

「今から? 放課後でも……」

 話している途中で、悠が俺の顔をチラっと見てくる。
 またさっきみたいに断られたら大変だと、慌ててその言葉を遮ぎった。

「悠。俺のことなら気にしなくていいから!」

 アホかこいつ! 俺なんかを気にしてどうするんだか。
 羽鳥先輩の気が変わらないうちに、さっさと二人でここから消えろよ。

「ほら行ってこいって。おまえの分も一緒に片付けとくし」

 ついでに黒縁にも声をかけとく。

「先輩が心配する気持ちも分かるけど、和南城は女の子を襲うような奴じゃないですよ。昼休みも残り少ないし、ほんとに話くらいしか出来ないと思うし」
「アキ……」
「せっかく誘ってもらってんだから行って来いって。それにもうほとんど食べ終えてるじゃんお前。俺の事はまったく気にする必要なんかねぇっての」

 なかなか席を立とうとしない悠に、ヒラヒラと手を振ってやる。
 ほら行った行った。意中のΩと楽しくデートでもしてこいっての。

「ほら、あなたのお友達もそう言ってくれてるんだし。行きましょうよ」

 言いながら、スルっと悠の腕に華奢な腕を絡めている。
 うわぁ、大胆だなこの人……。
 仕方なさそうに立ち上がった悠は「昼休みが終わったら話すから」と俺の耳に囁くようにそう言い残してから、羽鳥先輩とともに食堂を後にした。
 黒縁は2人の姿に舌打ちした後、先程の取り巻き達がいる席に戻って行く。


 ふぅ。これで『羽鳥先輩に会おう』っていう目的は上手くいったはずだ。
 きっと悠なら上手くやるだろうし、羽鳥先輩の様子を見る限り、順調にこのままお付き合いがスタートしそう。
 我儘に多少目をつぶるだけで希少種のΩが手に入るなら、悠にとっても悪くない条件だと思うし。

(それに……あの2人の姿も、美男美女でお似合いだったよな)

 立ち去る姿を思い浮かべると、何となくモヤモヤとした感じがお腹に残るけど、それを気にしないように俺は冷めてしまった唐揚げ定食の残りを、急いで腹の中に収めた。
 
 話すって言ったからには、細部まできっちり聞いてやるんだからな。
 だからちゃんと上手くやれよ、悠。



 まぁ。
 ──結果としてその日、悠から何も聞くことが出来なかったんだけどさ。

 突如自分の身体に起こった異変に、それどころじゃなくなってしまったんだよ。




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