イケメンがご乱心すぎてついていけません!

アキトワ(まなせ)

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10.イケメンと食堂に行こう!

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 さて、和南城……悠を伴って、食堂にやって来た俺達。
 張り切らせたわりに、普通の食堂なのが申し訳ないくらいだ。

 ウチの学校の食堂は味もそこそこ。何よりもボリュームもあるので、昼ともなると生徒でごった返す。
 この高校は3年生が2階、2年生が3階、1年生が4階を使っているために、1階にある食堂に行くには1年の頃には大変遠い道のりに感じられた。
 授業が終わって急いで行ったとしても、先に着いている2,3年生で食券前は長蛇の列になっているのがザラだったし。
 物珍しさがなくなった頃には、いちいち一階まで下りるのが面倒くさくなって弁当になっちまったし。
 まぁ後は、昼にそんなにお金をかけていられないっていうのが、一番の理由だったんだけど。

 そんな苦い経験からチャイムが鳴ると同時に、悠を引っ張るようにして慌てて食堂に駆け込んだ。
 早めに駆けつけたせいか、食堂はまだそれほど混雑しているようには見えない。
 よしよし。

 頷く俺の傍らで、悠が物珍しそうに食堂全体を眺め回している。
 公立校らしい雑然とした雰囲気そのままの食堂は、オシャレな私立高校と比べると規模だって小さいと思うんだけどな。
 なのにお坊ちゃんα様にとっては大変興味深い対象にでも見えているのか、珍しいことに悠の方から積極的に質問を浴びせてきている。


「どうやって頼むんだ?」
「三由の好きなメニューは?」
「席は決まっているのか?」


 悠から積極的に話しかけてくるのは、珍しいからちょっと面白い。

「とりあえずまずは、あそこの食券を買いに行こうぜ」

 笑いながら悠に券売機の場所を指し示してやる。

「悠は何食べる? メニューはあそこに書いてある札から選べばいいけど、一応一番人気はオムライス定食だと言っておく」
「三由は何が一番好きなんだ? オレはそれを食べてみたいと思うんだが」
 
 悠は俺が好きなメニューが気になるらしい。
 何だ何だ?マズいものには当たりたくないタイプか? 
 お前は少し冒険心というものを養うべきだぞ。

「あー…何が1番好きか、比べられるほど食堂に来たことがないんだよ。でも何食べても、そこそこ美味いはずだから大丈夫!」

 うちの食堂の味を信じろ!
 俺の言葉に「そうか…」と悩む素振りを見せた後、結局悠は初めに俺がオススメしておいたオムライス定食に決めたようだ。
 うむ、一番人気に外れはないからな。お前の判断は正しいぞ。
 そういう俺は何にしよ? 無難に唐揚げ定食でいいか。
 メニューも決まったので、食券を買うために悠を仰ぎ見た。

「悠。混んでくる前に、あらかじめ席をとっておいてもらってもいい? その間にお前の分の食券も俺が買っておくから」
「ん?オレもついて行くよ。どんな風に買うのか近くで見たいし」
「えぇ…気になるのはわかるけど、今のうちに席をとって置かないと、あとで座る場所がなくなるぞ?」
「その時はその時だ。とりあえず三由が買う所を見たい」
 
 ──α様は食券に大変興味があるようです。



 仕方なく一緒に券売機の列に並ぶことになってしまった。
 悠の後ろに並ぼうとした女生徒が悠の顔を見て、ギョッと目を瞠ったまま固まっている。

 あー…、うちのイケメンの顔面が、迷惑をかけてしまっているみたい。
 申し訳ない。ほんと無駄にイケメンなんですすみません。

 列に大人しく並んでいるだけなのに、後ろがどんどん騒がしくなっている気配を感じる。
 それにつられて前に並んでいる生徒も何事かと後ろを振り向いて、悠の姿を確認した途端、同じような顔でみんな固まってしまうし。

 
 あー、もぉおっ、美形も極まると傍迷惑この上ないな!


 悠には悪いけど『その顔もう少しグレードダウンしてくれませんかね』と、心の中で何度も思ってしまった俺は悪くないと思う。
 後ろはもう仕方がないとしても(顔さえ見なけりゃ多分大丈夫だろうし)せめて前に並んでいる生徒からは、この目に毒なイケメンの姿を何とかしてやりたい。

(『振り向くな、危険』とでも、呼びかけてやればいいのか?)

 そもそもが目立つなと言っても、平均身長を優に越えてるんだよな、こいつ。
 一人だけ列から頭がピョコンと飛び出ているし。

 
 あ、ほら。列の1番前の人!
 あなたの番ですって。こっちに気を取られてないで、早く買ってくれませんかね。
 どんどん後ろが渋滞してきてますよー!

 はぁ……。

「……だいぶ見慣れてきたけど。お前の顔面力って半端ないんだな…」
「いや…。さすがにここまで珍獣のように見られるとは、オレも想定外なんだが…」

 悠が居心地悪そうにそう言った後、俺の後ろにそっと身を寄せるように近づいてきたけど。
 ……お前、それで隠れてるつもりなの?
 俺の背中ではお前の全身を隠すのは無理だぞ?
 横幅も頭も余裕で飛び出ているのに気づきなさいって。
 俺も体格は良いほうなのに、それでも隠せないってどういう体格してんだよお前。

 なかなか進まない列を待っている間が暇すぎて、今度はこっちから悠に質問してみることにした。

「お前のいた学校でも食堂があったんだろ? こっちとはシステムが違ったりするの?」
「んー…、いや、普通のカフェテリアだよ。ただこことは違って食券は無かったな。むこうは入学の時に配られるICカードで決算するシステムだったし」
「ICカード?」
「ああ。カードは銀行口座と繋がっているから、毎月自動的にそこから引き落とされる仕様になっているんだ。だから学校内で現金を持ち歩いたことはないな」
「へー、流石お金持ち校」

 お、そろそろ俺たちの番だな。

「悠、もうちょっとだからお金の準備しとけよ? オムライス定食は確か450円だったはず」

 俺が後ろを振り仰ぎながらそう言うと、悠がしっかりと頷いてくる。

「ああ、大丈夫だ」

 と言って懐から取り出してきたのは、見たことのない色のカード。
 あまりの衝撃に俺の頭が一瞬真っ白になった。


 いや、何で気づかないんだよ俺。
 さっきの会話ですぐにピンと来いよ……!

 このα様は普通の生徒じゃない。
 俺が想像も出来ない金持ちボンボンなんだって!!



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