イケメンがご乱心すぎてついていけません!

アキトワ(まなせ)

文字の大きさ
上 下
10 / 70

9.和南城?

しおりを挟む
 
 橘と共に教室に入ってみれば、殆どのクラスメートがすでに教室に集まっている。
 ダラダラ歩いていたせいで、いつもよりも教室に入るのが遅くなってたっぽい。

「おい、橘。そろそろ離れろって」
「え? 何で? このまま席まで一緒に行けばいいじゃん」

 俺と橘の会話に気がついたのか、クラスメートの輪の中から、ヒョコっと顔を出した坂上が俺達に笑いかけてくる。
 相変わらず今日も可愛いよな、坂上。……男だけど。


 一年の頃から同じクラスだった坂上は、男の俺から見てもすげー可愛いと思う。
 小柄な体型ってのもあるけど、どちらかというとクリンッとしたつぶらな瞳がなんかリスっぽくて、愛玩動物を見てる気分になる。
 ほんと…こんなに愛らしいのに、Ωじゃないってのが勿体無いよなぁ。
 実はちょっと、Ωじゃねぇのかって疑ってるんだけどさ。実際はどうなんだろ?

「おはよー、三由に橘。橘はいつものことだけど、三由がこんな時間に登校してくるなんて珍しいんじゃない?」
「あぁ、まぁ……」
「坂上、違う違う。三由はねー、俺と登校時間を合わせる為に、わざと遅れてきたんだって。察してやれよ」

 あ、こいつまた。
 そのホモ設定、いいかげん面倒くさいんだよ! マイブームか何か知らねーけど、すげー迷惑。
 肩に乗せてきた橘の顔を、容赦なくベシリッと叩いてやる。

「…ったぁー」
「いいかげんにしろよ。その設定どこまで引っ張ってくんだよ?」
「あー、三由のそんなつれないところも好き! 二人きりの時は『匂い嗅いで♡』ってデレてくるくせにー」
「言ってねぇよ。妄想激しすぎて怖いよお前」
「フフッ、相変わらず仲がいいねぇ」

 ふんわりと笑う坂上に、調子に乗った橘がさらに俺を引き寄せてくる。

「だろだろ? やっぱ坂上はわかってくれるって俺信じてた!」
「そうだねぇ」
「おいっ、重いって。はしゃぐな橘!」

 橘の悪ふざけを適当に躱しつつ、横目でチラリと席に座る和南城を盗み見てみれば、今日も1人で静かに本を読んでいた。


(やっぱ遠目で見ても、綺麗な男だよな──…)


 本を読む姿さえイケメンだ。
 つーか、イケメンは何してもイケメンなんだけど。
 窓際から降り注ぐ日差しなんて、和南城を照らす後光に見えてきたくらいだ。
 柔らかに揺れるキャラメル色の髪の毛なんて、太陽の光のせいでもはや金髪に輝いているし。
 ハラリと垂れる前髪の影が、和南城の彫りの深い顔をさらに強調している。

(なんかもう……美しい絵画を見てるみてぇ)
 
 チラッとだけ見るつもりが、ついつい見惚れてしまっていたらしい。
 俺の視線に気がついたように、和南城が読んでいた本から顔を上げた。
 少しきつめの眦とは対照的に、甘さが溶け込んだように輝く蜂蜜色の瞳が、真っ直ぐに俺を射抜いてくる。
 瞬間、ドキンと鼓動が跳ねた。


 ──こんな男が昨日俺のうなじに吸い付いていただなんて、今でも信じられねぇ。
 俺の汗ばんだ首筋にだぞ?
 やっぱあれって魔が差しただけなのかな。
 和南城の姿を見ていたら、昨日の出来事が白昼夢のように感じられてきた。
 何か朝から悶々としていた自分が恥ずかしくなってくる。
 やっぱあれって、特に深い意味は無かったのかも。

 照れくさくなって、思わず和南城を見ながら笑ってしまった。
 和南城も俺の照れ笑いにつられるように、わずかに口元を綻ばせている。
 お、朝から和南城が笑うなんて珍しい。
 和南城の笑みに気を取られていたら、突然顔面に橘のソバカス顔がアップになった。

「おーい。なに笑ってんの三由? なぁなぁ、俺の話きいてた?」

 橘に顔を覗きこまれてハッとなる。
 やばいやばい。橘の存在をすっかり忘れていた。
 しかもコイツまだ俺に引っ付いてるのかよ。

「あー、ごめんごめん。まったく聞いてなかったけど許してくれるよな? あとおまえ、顔近ぇ」

 橘の顔を押しのけてやる。
 和南城を見た後だと、お前の顔は残念すぎだ。
 俺の言葉に橘が「三由が冷たい!」と泣くフリをするけど…まぁ面倒だし、そのままでいいか。
 適当くらいが橘にとっては丁度いいくらいだし。すぐ調子乗るからなぁ。
 そのまま橘を置いて、自分の席に向かうために顔をあげてみれば、

「?」

 和南城の美しく整った柳眉が、顰められている──?
 ……さっきまでは機嫌良さげに笑っていたよな?
 訝しむように首を傾げていたら、その視線に気がついたように、和南城がスッと表情を消してしまった。

(えーと…和南城ってわりと顔にレパートリーがあったんだな)

 あの表情は初めて見たかも。
 普段は無表情か、笑っても薄っすら口角を上げる程度の笑い方しかしないから、ちょっとビックリした。
 不思議に思ったけど、何だか聞いちゃいけないような雰囲気に感じて黙っておく。
 自分の席まで辿り着くと隣にいる和南城に、昨日の気まずい気持ちを押し隠すように笑いかけた。
 何気なく挨拶すれば大丈夫大丈夫。
 昨日のことは深く考えない。うん!
 

「おはよー、和南城。あーっと……悠?」
「おはよう。何で疑問形なんだ? 悠でいいよ」

 おずおずと名前呼びに直す俺の姿が可笑しかったのか、和南城がかすかに目元を緩ませるように返事を返してきた。

 おっ、本当に呼んでもいいんだ。
 さっきは一瞬機嫌が悪そうだったし『やっぱり昨日のは無しで』って言われるパターンも想像してたんだけどな。
 なら遠慮なく呼ばせてもらうぞ。

「へへ、そっか。昨日言ってた食堂の件、忘れてないよな? 今日は食堂に行くつもりだったから、弁当なんて持ってきてないぞ」
「大丈夫、忘れるわけがないだろう。初めて行くから案内は任せるけど大丈夫か?」


 ふふふ、もちろんだ。
 俺に任せておきなさい!



しおりを挟む
感想 96

あなたにおすすめの小説

最愛の番になる話

屑籠
BL
 坂牧というアルファの名家に生まれたベータの咲也。  色々あって、坂牧の家から逃げ出そうとしたら、運命の番に捕まった話。 誤字脱字とうとう、あるとは思いますが脳内補完でお願いします。 久しぶりに書いてます。長い。 完結させるぞって意気込んで、書いた所まで。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

被虐趣味のオメガはドSなアルファ様にいじめられたい。

かとらり。
BL
 セシリオ・ド・ジューンはこの国で一番尊いとされる公爵家の末っ子だ。  オメガなのもあり、蝶よ花よと育てられ、何不自由なく育ったセシリオには悩みがあった。  それは……重度の被虐趣味だ。  虐げられたい、手ひどく抱かれたい…そう思うのに、自分の身分が高いのといつのまにかついてしまった高潔なイメージのせいで、被虐心を満たすことができない。  だれか、だれか僕を虐げてくれるドSはいないの…?  そう悩んでいたある日、セシリオは学舎の隅で見つけてしまった。  ご主人様と呼ぶべき、最高のドSを…

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

処理中です...