イケメンがご乱心すぎてついていけません!

アキトワ(まなせ)

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7.イケメンが突然ご乱心しました

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(えーと、、これは一体どういう状況なんだろ…?)

 俺は困惑と羞恥で現在パニック中だ。
 掴まれたままの身体を強張らせることしか出来ない。

 同性の(α様である)友人(化け物級イケメン様)が俺の匂いを嗅いでくるなんて……!!


(うっひゃああああ!…や、やめてぇえ!!)


 こんなイケメンに、汗ばんだ体臭を嗅がれるなんて! 俺のHPが保たないっ
 俺を羞恥で殺す気か、このイケメン様は!?

「あ、あああの、和南城さん?? 俺、汗かいてる!だから首っ、離そうか…!」


 男に抱え込まれながら、項の匂いを嗅がれるなんて普通は鳥肌ものなんだろうけど、和南城の性別を超えた男前フェイスの前だとそれすら吹っ飛び、羞恥しか感じられない。
 しかも嗅いでくる和南城からはコロンなのか柔軟剤なんだろうか…とてもとても良い匂いがしている。
 そんな匂いまでイケメンな相手に、汗臭い首元を嗅がれている俺。

(い、いたたまれない……)

 もういっそ殺して欲しい。
 せめてシャワー後に嗅がれるんだったらまだマシだった。
 いや違うし!
 嗅がれたいわけじゃないんだって…! 落ち着け俺!
 パニックになりながらも、心の中でひとりツッコミを入れてしまう。

 和南城はそんな俺の内心なんかどこ吹く風なのか、うなじに懐いたままだ。
 ハァ…と熱いため息をこぼしながら、さらには俺の首元に頬をスリスリと擦り寄せている。
 
 なんなんだこの状況……!!
 イケメンのご乱心か何かか!? 


「三由の匂いは…なんだか落ち着くな」

 項から耳の裏に鼻を滑らせると、もう一度匂いを確かめるように、スンッと鼻を鳴らしている。

 だーかーら──っ!

「止めろって和南城ぉ……。俺汗かいてるんだってぇ。バッチイからよしなさいっ」

 掴まれている腕を離そうとジタバタ暴れてみるも、一向に離してくれない。どころか制服の襟と首元の隙間を縫うように、無理矢理鼻を付けてくる。


(~~~~~───…ッッ!!)


 声にならない悲鳴が喉から漏れた。

(この男前は何してくれてんだよ!!)

 死ぬ。死ぬ。マジで死ぬ。
 俺を憤死させる気だろお前っ!

「わ、な、じょぉおッ!」

 首を竦めるようにしながら名前を叫ぶ。

「三由の汗…Ωの匂い、とはまた違うけど……。嗅ぐと何だか心が満たされる。不思議な感じだ」

 ウットリした低音ボイスでそう囁かれるけど。
 あのね、俺の汗の匂いの説明なんて誰も聞いてないよ? 匂いレポートなんてしなくていいからっ

「あーもう。……お前イケメンなのに、男の汗の匂いなんか嗅ぐなって。今、超絶残念イケメンになってるぞ。分かってる?」
「構わない。だからもう少し三由の匂いを嗅がせて」

 呆れてこっちはため息をついてるってのに。このα様ときたら、首元にへばりついたまま離れようとしてくれない。
 どうしてくれようこのイケメンめ!と思案していたら突然。


 ――カリッと、甘く、歯の当たる感触が…。


「ほぇえあ……ッッ!?」

 ビックリして変な声が出ちまった。
 心臓がバクバクしてくる。


(コ…コイツ……今…)


「…っ、な、なん……っ!」

 後ろを振り向きたくても、和南城の頭が項に当たっているせいで、上手く首を巡らせられない。
 そして驚きすぎて舌噛んじまった。あ痛てててっ!

「あ、悪い三由……。うっかり首、噛んでしまった」
「うっかりで噛むなよ。心臓跳ねたぞ、こっちは!……あのな、そういうのはΩに対してするものだろ? β相手にそんなことするのはαの名折れだぞ」
「……あぁ。ごめんな三由」

「痛かったか?」と言いながら、強張る俺の首元に再度唇を寄せると、噛み付いた箇所を優しくあやすように唇を押し付けてくる。

 少し離した後に、今度は深く―――…


「……っン…っ!」

 ザワッと肌が粟立った。思わず鼻にかかったような声が喉から漏れる。
 突然こんな官能チックなまねをしてくる和南城が、不気味でならない。
 頭の中では『!?』マークが飛び交いつつも、身体を這うゾワゾワとした妖しいざわめきのせいで、さっきから背中の震えが止まらない。

「……あっ。あ…、わなじょ…っ?」
「ん。もう…痛くない、だろ……?」

 和南城の声が甘い。
 ほんとお前誰…ッ!? てかそれよりもっ!

(痛いも何も、軽くしか咬まれてねーんだから、咬み跡さえ残ってないだろっ!)

 そう言ってやりたくても、押し付けられる唇のせいで、乱れそうになる呼吸を抑えるので手一杯だ。
 触れられた箇所がジンジンする。
 なんだこれ…。ちょっと俺の身体敏感すぎじゃね? 
 唇を押し付けられてるだけなのに、何でこんなに甘く疼くような刺激に感じてるんだ?


(嘘だろ……。やば…、なんか気持ちいいんだけど…)


 「うぁ…っ、わなじょ……。はぁ…、んん…っ」
 
 同じ場所に何度も口づけを落とす和南城の滑らかな唇が、うなじを優しく食んでくる。
 刺激に、ゾクン…ッ!と跳ねる身体を、腰に回された右手が押さえつけてくる。
 そのままゆっくりと…落ち着かせるように脇腹からお腹に向かって撫でられた。
 ビクビクビクッと腰が跳ねる。

(うっわ…何そのヤラシイ動き……!)

 鳩尾にひきつるような甘さが加わり、勝手に下半身が戦慄くように震えるけど、自分ではうまく止めることが出来ない。

「は…っ、あ……」

 ハッハッ、と小刻みに乱れる息が苦しい。空気が密度をもったように重く感じる。
 昂ぶった身体からブワリと汗が吹き出た。
 官能を誘うかのように、ゆったりとした動作でお腹周りをなぞってくる和南城の手首に爪を立てながら、反応しそうになる身体を必死で抑えつける。
 背中に感じる和南城の体温が熱い。熱で温まったのか、コロンの香りが変化している。
 グリーン系だった香りが、今は林檎のような甘酸っぱい匂いに変わっていた。


「三由―――…」


 何かを和南城が囁やこうとした時、資料室の外から女性徒達の楽しげに話す声が聞こえてきた。
 その声に、お互いハッとしたように我に返る。
 重かった空気もすっかり霧散し、今は何処と無く、いたたまれない空気だけがその場に残っている。
 そして焦る俺。

(びびびびっくりしたーっ、俺ってば何を途中から気持ち良くなってんだよっ!)

 慌てて和南城の腕から転がるようにして身体を離す。今度は抵抗なく簡単に抜け出ることが出来た。
 乱れた制服を直しながら、この何ともいえない空気をどうすればいいんだ、と内心頭を抱えてるけど。

「あー…っと、悪い。せっかく助けてくれたのに、何かおかしな空気になっちゃったな。ハハッ」

 とりあえず気まずい空気を払拭するために、意味もなく笑っておいた。


 ふぅ。
 下腹部は少し熱くなったけど、元々が不甲斐ないクララ様のお陰もあって、和南城相手に完勃ちするという愚行を犯さなかったことだけは褒めてやってもいい。セーフだ俺!
 男相手に、盛り上がってしまった気恥ずかしさからは、逃れられねぇけど……。
 首を掻きながら、視線をやや下に向けるようにして、とりあえず和南城には謝っておく。
 
「えっと…庇ったときに身体痛めてねぇ? ごめんな」
「いや大丈夫。……オレもちょっとおかしかったな。嫌がっていたのに悪い」

 チラリと見た和南城の顔はいつもの無表情に戻っていた。感情を窺うのは無理だけど、視線がしっかり俺を捕らえているのだけは分かる。
 慌てて顔を俯けてみたけど、その刺すようなピリピリとした熱い視線は、肌に感じたままだ。

(う…。流石の俺でも、今はちょっと気まずいから、あまり見ないでほしい)

 視線から逃れるように、資料室を流し見た。そして愕然とする。
 やべぇ…!落とした紙を、そのまま散乱させっぱにしてるじゃんか!
 床に散らばらっているのは、幸いにもホチキスで留められた束だけみたいだ。これがもし束になっていない紙の方だったら、と考えるだけでゾッとする。

 慌てて紙を拾う俺の指を、和南城が上からそっと押さえてきた。さっきまでされていた行為が頭を過って、思わず指が震える。

「ここと残りの束はオレが片付けておくから。三由はそろそろバイトに行った方がいい」

 俺の指が一瞬震えたことには気がついていたはずなのに、和南城は何も見なかった振りをすることにしたのか、そこには触れずに俺に優しく声をかけてくれる。
 ただ俺自身が何を言われているのか、一瞬分からなかった。
 『バイト?』と頭に疑問符を浮かべた後に血の気が引く。

 そうだ……! 今日ってバイトの日じゃん!!
 
 すっかり忘れてた!
 その言葉にギョッとして時計を見れば、確かに思っていた以上に時間が経過している。
 今から帰ったらギリギリ間に合うか、くらいの時間だ。
 でも、

「いや、俺が散らかしたものだし…」
「いいよ。オレが余計な事をしたせいだから気にするな。早く行かないと、本当に間に合わなくなるんじゃないのか?」

 少し逡巡したが、バイトは信用が第一だ。
 心苦しいけど、ここは和南城に甘えさせてもらおう。

「悪い和南城!この埋め合わせはちゃんとするから!」
「――…悠」
「え?」

 和南城が呟いた言葉が、聞き取れなかった。
 聞き返すように和南城を見つめてみれば、紙を拾うために片膝をついたままの和南城が、俺を見上げるようにもう一度言葉を繰り返してきた。


「悠って名前で呼んで。三由」



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