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6.俺の学校のΩ先輩
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羽鳥先輩──…
羽鳥茉莉花は俺らの1つ上の学年にいる、ウチの学校唯一の女性Ωだ。
Ωを細々と輩出している名家から遠く離れた血筋らしいけど、昨今では珍しいβ×β夫婦から生まれた突発性Ωだ。
本家でもなかなか生まれにくいというΩが、傍流から突然誕生したということもあって、家族からは下にも置かない扱いをされていると聞く。
まぁそうだろ。Ωなんて今の時代、ある意味金の卵だろうし。
蝶よ花よと育てられても、別に不思議じゃない。
それに羽鳥先輩はΩらしい整った容姿と女性らしい身体つきをしているので、ウチの高校でも熱狂的な信者――もとい、取り巻きが常にその周りに控えている。
入学当初は傍系とはいえ、こんな普通高校にΩがいるという事で、近隣高校にまで轟くほどの騒ぎになったらしい。
そしてあっという間に囲い込みも誕生したという話だ。
噂のΩをひと目でも見たいという生徒は山程いるけど、その前に信者の厚い壁が邪魔をしているせいで、この学校に一年以上通っている俺でさえ、遠くからしかその姿を拝見したことがない。
そう、まさにうちの高校きっての、高嶺とも言うべき存在。
(そして羽鳥先輩といえばもう一つ…)
両親の深い愛情と信者のお姫様扱いの賜物(?)のせいなのか。
『容姿に見合うプライドの高さをもった人』と噂では聞いている。
まぁΩっていうだけで、将来的に純血種のαの嫁になるのも夢じゃないからな。
そう考えたらこんな平凡校の生徒の事なんて、ただの下民程度にしか思えなくても不思議じゃねえのかも。
「お前の目的って羽鳥先輩だったんだな。 Ωに会いに来たってわりに、お前ってば全然羽鳥先輩のこと聞いてこないんだもん。すっかり先輩の存在すら忘れてたよ」
「あぁ……一応秘密にしていたし」
「でもさ、だったら何でさっさと接触しなかったんだ? お前なら羽鳥先輩も大歓迎なんじゃないの?」
その為にわざわざ転入してきたくらいなんだし。
会いに行かない理由がわからない。
「いや…接触するのは簡単なんだ。だが…自分の立場に驕っているわけじゃないけど、オレが不用意に近づくと相手の両親が期待してしまう可能性が高くなる。それを思うとなかなか行動に移せないというのが現状なんだ」
「よく分かんねーんだけど。期待させちゃダメなの? だってΩって少ないんだろ? 和南城からしてみたら身分が釣り合わないかもしねぇけど、悪くはないんじゃね。先輩美人だし」
おっと。
話しに夢中になっていたせいで、刷り終わったものを放置したままだった。
話の腰を折ってしまうけど、断りを入れてから一時中断する。
紙の束をコピー機の上でトントンと均してから和南城に渡した。
そのまま和南城の隣のパイプ椅子に座ると、次の作業に着手する。
続きが気になるけど、さっさと作業を終わらせないとバイトに遅れちゃうから仕方ねぇ。
和南城が三枚一組にしてくれた束を、ホチキスでパチパチ留めていくだけの簡単なお仕事だ。
作業を続けながら、中断していた会話の続きをねだる。
続けて聞いた言葉は、βの俺にはよくわからない内容だった。
「フェロモンの相性を確かめないといけないんだ」
紙に視線を向けたまま、和南城が俺に説明してくれる。
フェロモンの相性?
「なんだそれ? 一々そんなのを確かめねーといけねぇの?」
「あぁ。伴侶とするなら大事なことなんだ。長い時間を共に過ごしていくのに、匂いが合わなかったら辛いだろう?」
なるほどなるほど。
確かに自分の苦手な香りなら、鼻について嫌になるかもしれねぇ。
それなら俺にも分かるぞ!
「それに匂いが合わないと言うことは遺伝子がその相手と合わないって意味でもあるし。そうなると子供を望めない可能性も高まるんだ」
「すげぇな……遺伝子レベルの話になるのかよ。てっきりΩなら、誰でもいいのかなって思ってた」
「まぁ、今はΩも少ないしな。ギリギリ子供を産める相性のΩを、娶れるだけ御の字なのかもしれない」
自嘲するように苦い笑みを浮かべている。
そうだよなぁ。
αに対して圧倒的にΩの数が少ないし。
子供を作るためには、好みとか言ってらんないんだろうな。
せっかくこんなにイケメンなのに、選べる自由が限られてるなんてちょっと可哀想かも。
それにしても。
話を聞けば羽鳥先輩は、そんな和南城にとっては希望の星になるかもしれないって言っていうのに、今の段階では接触に注意が必要らしく、上手く近づける手段がまだ見つかっていないみたいだ。
(うーん…。確かに。そもそもコイツが不用意に動くだけで人の視線を集めるしな。隠れて行動なんてまず出来なさそう……)
パチンパチンとホチキスで紙を留めながら思案する。
何か俺に手伝えることってあったかな?
和南城自身がずっとひた隠しにしていた羽鳥先輩の事を、俺に話したってことはきっと、先に進める方法が見つからなかったからなんだろうし。
羽鳥先輩なぁ……。
「あ」
「どうした?」
一つだけ方法があるかも!
「同じ空間にいたら匂いが分かったりするもんなの?」
「相手のΩにもよるけど。ある程度近づけるなら、ここにいるどのαよりも分かると思うが」
和南城の言葉に賭けに出ることにした。
よし、それなら!
「明日一緒に食堂に行くぞ!」
横にいる和南城に元気よく明日のお誘いをかけてやる。
「食堂?」
和南城が訝しげに俺を見るが、まぁ待て。ちゃんと理由があるんだ。
「うん。お前って人の視線が嫌で、あんまり教室から出ないようにしてたから知らないだろうけど、羽鳥先輩って昼は取り巻きと一緒に食堂に行くことが多いんだよ」
それだけでピンときたのか和南城が頷く。
さすが理解が早いオツムだ。素晴らしい!
「そういう事か」
「そうそう! 取り巻きがいるせいであんまり近くには寄れないんだけどさ。でも上手く行けば香りが嗅げるかもしれないし、試しに行ってみようぜ!」
食堂に行くだけなら、羽鳥先輩が目的とは気づかれないだろうし。
(やべぇ……っ。俺、すげーひらめきじゃね!)
と興奮してしまったのが悪かったのか、
うっかりホチキスを留めた紙の束に、興奮して動かした指先が触れてしまったせいで、まとめて置いておいた紙山が雪崩を起こした。
「っ、やべ…!!」
慌てて手を伸ばして受け止めようとした所を、無理な体勢が祟ったのか、今度は俺のほうがパイプ椅子からズリ落ちそうになる。
……ギャッ!!
「三由!?」
和南城が焦った声で俺を呼ぶ。
助けようと慌てて伸ばした腕で、俺の左手首を強く握ってきた。
そのまま力任せに和南城の身体に向けてグイッと引っ張られる。
(うぁあああ……っ!)
カシャンッ!とパイプ椅子の倒れる音と、紙が散らばる音が準備室に響き渡った。
何が起きたのかわからないまま、落下する恐怖に思わず瞑っていた瞼をこわごわと開けてみる。
痛みがないと思ったら、どうやら和南城が庇ってくれたらしい。
状況を確認しようと自分の身体を見てみれば、左手首を和南城の左手に捕らえられていた。
右手が俺の腰をホールドするように押さえられたまま、後ろ向きの状態で和南城に抱え込まれているらしい。
なるほど。背中が温いのはそのせいか。
密着した背中から、かすかにグリーン系の爽やかな香りが漂ってくる。
安堵した途端、ジワリと汗が滲んできた。
今頃になって恐怖が襲ってきたのか、ドッドッと心臓が早鐘を打ち始めている。
(はぁあああっ…落っこちるかと思って焦った…)
転げ落ちても大した怪我に繋がるわけじゃないけど、あの瞬間俺の玉がヒュンと縮んだのは確かだ。
咄嗟に和南城が手を掴んでくれなかったら、絶対アウトだったぞこれ。
「あー…、和南城サンキュ。マジ助かった。俺すげードジ…」
安堵の息を吐き出した後、慌てて和南城にお礼を告げて離れようとしたのに。
「……匂いが」
掴まれていた手首に力が加わったかと思うと、なぜか和南城が俺の首筋に甘えるように顔を埋めてきた。
そのまま深く息を吸いこんでいる。
え? なにしてんのお前!?
ちょ…っ、俺汗かいてるっての……!
羽鳥茉莉花は俺らの1つ上の学年にいる、ウチの学校唯一の女性Ωだ。
Ωを細々と輩出している名家から遠く離れた血筋らしいけど、昨今では珍しいβ×β夫婦から生まれた突発性Ωだ。
本家でもなかなか生まれにくいというΩが、傍流から突然誕生したということもあって、家族からは下にも置かない扱いをされていると聞く。
まぁそうだろ。Ωなんて今の時代、ある意味金の卵だろうし。
蝶よ花よと育てられても、別に不思議じゃない。
それに羽鳥先輩はΩらしい整った容姿と女性らしい身体つきをしているので、ウチの高校でも熱狂的な信者――もとい、取り巻きが常にその周りに控えている。
入学当初は傍系とはいえ、こんな普通高校にΩがいるという事で、近隣高校にまで轟くほどの騒ぎになったらしい。
そしてあっという間に囲い込みも誕生したという話だ。
噂のΩをひと目でも見たいという生徒は山程いるけど、その前に信者の厚い壁が邪魔をしているせいで、この学校に一年以上通っている俺でさえ、遠くからしかその姿を拝見したことがない。
そう、まさにうちの高校きっての、高嶺とも言うべき存在。
(そして羽鳥先輩といえばもう一つ…)
両親の深い愛情と信者のお姫様扱いの賜物(?)のせいなのか。
『容姿に見合うプライドの高さをもった人』と噂では聞いている。
まぁΩっていうだけで、将来的に純血種のαの嫁になるのも夢じゃないからな。
そう考えたらこんな平凡校の生徒の事なんて、ただの下民程度にしか思えなくても不思議じゃねえのかも。
「お前の目的って羽鳥先輩だったんだな。 Ωに会いに来たってわりに、お前ってば全然羽鳥先輩のこと聞いてこないんだもん。すっかり先輩の存在すら忘れてたよ」
「あぁ……一応秘密にしていたし」
「でもさ、だったら何でさっさと接触しなかったんだ? お前なら羽鳥先輩も大歓迎なんじゃないの?」
その為にわざわざ転入してきたくらいなんだし。
会いに行かない理由がわからない。
「いや…接触するのは簡単なんだ。だが…自分の立場に驕っているわけじゃないけど、オレが不用意に近づくと相手の両親が期待してしまう可能性が高くなる。それを思うとなかなか行動に移せないというのが現状なんだ」
「よく分かんねーんだけど。期待させちゃダメなの? だってΩって少ないんだろ? 和南城からしてみたら身分が釣り合わないかもしねぇけど、悪くはないんじゃね。先輩美人だし」
おっと。
話しに夢中になっていたせいで、刷り終わったものを放置したままだった。
話の腰を折ってしまうけど、断りを入れてから一時中断する。
紙の束をコピー機の上でトントンと均してから和南城に渡した。
そのまま和南城の隣のパイプ椅子に座ると、次の作業に着手する。
続きが気になるけど、さっさと作業を終わらせないとバイトに遅れちゃうから仕方ねぇ。
和南城が三枚一組にしてくれた束を、ホチキスでパチパチ留めていくだけの簡単なお仕事だ。
作業を続けながら、中断していた会話の続きをねだる。
続けて聞いた言葉は、βの俺にはよくわからない内容だった。
「フェロモンの相性を確かめないといけないんだ」
紙に視線を向けたまま、和南城が俺に説明してくれる。
フェロモンの相性?
「なんだそれ? 一々そんなのを確かめねーといけねぇの?」
「あぁ。伴侶とするなら大事なことなんだ。長い時間を共に過ごしていくのに、匂いが合わなかったら辛いだろう?」
なるほどなるほど。
確かに自分の苦手な香りなら、鼻について嫌になるかもしれねぇ。
それなら俺にも分かるぞ!
「それに匂いが合わないと言うことは遺伝子がその相手と合わないって意味でもあるし。そうなると子供を望めない可能性も高まるんだ」
「すげぇな……遺伝子レベルの話になるのかよ。てっきりΩなら、誰でもいいのかなって思ってた」
「まぁ、今はΩも少ないしな。ギリギリ子供を産める相性のΩを、娶れるだけ御の字なのかもしれない」
自嘲するように苦い笑みを浮かべている。
そうだよなぁ。
αに対して圧倒的にΩの数が少ないし。
子供を作るためには、好みとか言ってらんないんだろうな。
せっかくこんなにイケメンなのに、選べる自由が限られてるなんてちょっと可哀想かも。
それにしても。
話を聞けば羽鳥先輩は、そんな和南城にとっては希望の星になるかもしれないって言っていうのに、今の段階では接触に注意が必要らしく、上手く近づける手段がまだ見つかっていないみたいだ。
(うーん…。確かに。そもそもコイツが不用意に動くだけで人の視線を集めるしな。隠れて行動なんてまず出来なさそう……)
パチンパチンとホチキスで紙を留めながら思案する。
何か俺に手伝えることってあったかな?
和南城自身がずっとひた隠しにしていた羽鳥先輩の事を、俺に話したってことはきっと、先に進める方法が見つからなかったからなんだろうし。
羽鳥先輩なぁ……。
「あ」
「どうした?」
一つだけ方法があるかも!
「同じ空間にいたら匂いが分かったりするもんなの?」
「相手のΩにもよるけど。ある程度近づけるなら、ここにいるどのαよりも分かると思うが」
和南城の言葉に賭けに出ることにした。
よし、それなら!
「明日一緒に食堂に行くぞ!」
横にいる和南城に元気よく明日のお誘いをかけてやる。
「食堂?」
和南城が訝しげに俺を見るが、まぁ待て。ちゃんと理由があるんだ。
「うん。お前って人の視線が嫌で、あんまり教室から出ないようにしてたから知らないだろうけど、羽鳥先輩って昼は取り巻きと一緒に食堂に行くことが多いんだよ」
それだけでピンときたのか和南城が頷く。
さすが理解が早いオツムだ。素晴らしい!
「そういう事か」
「そうそう! 取り巻きがいるせいであんまり近くには寄れないんだけどさ。でも上手く行けば香りが嗅げるかもしれないし、試しに行ってみようぜ!」
食堂に行くだけなら、羽鳥先輩が目的とは気づかれないだろうし。
(やべぇ……っ。俺、すげーひらめきじゃね!)
と興奮してしまったのが悪かったのか、
うっかりホチキスを留めた紙の束に、興奮して動かした指先が触れてしまったせいで、まとめて置いておいた紙山が雪崩を起こした。
「っ、やべ…!!」
慌てて手を伸ばして受け止めようとした所を、無理な体勢が祟ったのか、今度は俺のほうがパイプ椅子からズリ落ちそうになる。
……ギャッ!!
「三由!?」
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助けようと慌てて伸ばした腕で、俺の左手首を強く握ってきた。
そのまま力任せに和南城の身体に向けてグイッと引っ張られる。
(うぁあああ……っ!)
カシャンッ!とパイプ椅子の倒れる音と、紙が散らばる音が準備室に響き渡った。
何が起きたのかわからないまま、落下する恐怖に思わず瞑っていた瞼をこわごわと開けてみる。
痛みがないと思ったら、どうやら和南城が庇ってくれたらしい。
状況を確認しようと自分の身体を見てみれば、左手首を和南城の左手に捕らえられていた。
右手が俺の腰をホールドするように押さえられたまま、後ろ向きの状態で和南城に抱え込まれているらしい。
なるほど。背中が温いのはそのせいか。
密着した背中から、かすかにグリーン系の爽やかな香りが漂ってくる。
安堵した途端、ジワリと汗が滲んできた。
今頃になって恐怖が襲ってきたのか、ドッドッと心臓が早鐘を打ち始めている。
(はぁあああっ…落っこちるかと思って焦った…)
転げ落ちても大した怪我に繋がるわけじゃないけど、あの瞬間俺の玉がヒュンと縮んだのは確かだ。
咄嗟に和南城が手を掴んでくれなかったら、絶対アウトだったぞこれ。
「あー…、和南城サンキュ。マジ助かった。俺すげードジ…」
安堵の息を吐き出した後、慌てて和南城にお礼を告げて離れようとしたのに。
「……匂いが」
掴まれていた手首に力が加わったかと思うと、なぜか和南城が俺の首筋に甘えるように顔を埋めてきた。
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