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5.フェロモンの香り
しおりを挟む慌てて3ページ目を機械にセットする。
和南城は俺から受け取ったペーパーを、机の上に手際よく交互に重ねていきながら、先ほど俺がした質問に答えてくれた。
「香りは…人それぞれだよ。甘い匂いもあれば花のような匂いもあるし。そう言えば、スパイシーな香りを放つΩもいるって話には聞いたことがあるな」
「へぇ。そんなに色んな匂いがあるならさ、例えばもっとΩの人口が多かったら今頃大変だったんじゃね? 授業中もΩの匂いで酔っぱらってそう」
「ははっ、流石にそんな事にはならないだろうけどな。香るっていっても、発情期じゃない限りはそんなに強く香らないものだし。そもそも匂いで酔うほどのフェロモンを垂れ流していたら、そこら中で淫行騒ぎが起こっているよ」
「あー、そっか。そうだよな。」
和南城の言葉に頷きつつも、
(やっぱαって、匂いでちんこが勃ったりするもんなんだな)
とか思ってる。今の俺にはそんなαが眩しく見えるぜ……。
そんなに充満するほどのフェロモンを浴びせてもらえば、俺の情けないクララも一発で勃ってたに違いねぇのにさ。
思わず遠い目になってしまう。
その間にも和南城は優雅な手付きで紙を仕分けていたけど、物思いに耽るように「ただ…」と小さく呟いたまま、突然その動きを止めた。
不自然に動きを止める和南城の指先に、自然と目が吸い寄せられてしまう。
(へぇ…和南城って、メチャクチャ綺麗な指先してんだな)
今まで気にして見たことなんてなかったから、初めて気がついた。
男らしい部分もあるけど「ゴツゴツとは無縁です」みたいな、綺麗な長い指をしている。
爪なんか、そこらの女子よりも透明感があるじゃねーの?
短く切りそろえられた爪先も、綺麗な形に整えられていて清潔感が半端ない。
さすがイケメン!
純血α様クラスになると、こんな所にまで死角がないもんなんだな。
思わずしげしげと見つめていると、俺の視線に気がついたらしい和南城が、小さく肩を竦める。
「ただ、自分と相性の良いΩの香りは、微量でも強く感じられるみたいなんだ」
「みたい? 和南城はそういう経験、まだした事がねぇの?」
不思議に思ってそう聞いた後に「あっ」となる。
経験も何も、Ωがほとんどいないってんなら無理に決まってんじゃん。
「あ、和南城。今の質問無し無し! そもそもそっちの学校にも、Ωって5人くらいしかいなかったんだもんな。変な質問したわ俺」
「そうだな……」
独り言のようにぽつりと呟いた後、疲れたように嘆息している。
(う……、なに? これ…俺の質問のせいでこんな状態になってる?)
責任を感じて見つめた先の和南城の顔も、どことなく暗く見えるし……。
いつもは伸びた背筋も、今は心做しか俯きかげんだ。
え? ほんとどうしたお前……。
えらく疲れたような顔になってるけど。
まじでどうしちゃったの? やっぱ俺のせい??
かける言葉も見つからないまま、ただ和南城の姿をオロオロと見守っていたら、少し躊躇するような素振りを見せた和南城が言葉を続けてきた。
「三由の言う通りだ。Ωがいないから……だからオレはこの学校にわざわざ転入してきたんだよ」
…………はい?
「どういう事?」
なんでΩがいないからって、スーパーα様みたいなお前が転入してくるんだよ?
こんな平凡校にα様が来たって──…
(……あっ!)
「もしかして羽鳥先輩かっ?!」
和南城の言葉で思い出した人物の名前をあげるとビンゴだったみたいだ。
「そうだけど…三由も知っていたのか?」
「知ってるも何も有名だし……関わりないせいですっかり忘れてたけど」
「そうか。オレはその人物に会うためにここまで来たんだよ」
マジか…。ホントに羽鳥先輩がここに居るから転入してきたのかよ。
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