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4.イケメンに説明を求めてみました
しおりを挟む「お、やっと来たか。なんだ? 和南城も手伝ってくれるのか!」
資料室に到着するなり、和南城を見た担任が破顔した。
悪いなーと言いながら、集まった俺達に作業の説明をしてくれる。
「紙は全部で3枚あるんだ。それをそれぞれコピーした後に、3枚一組にしてホチキスで留めてくれればいいから。悪いがこれをクラスの人数分作ってくれるか? ホチキスはこれな。俺はこれから職員会議があるから後は任せたぞ」
言うなり、担任が慌てたように資料室から出て行ってしまった。
押し付けられた紙を手に、呆然とする。
はぁ……。これをクラスの枚数分ね。
「確かに簡単な作業だけどさ、これ一人だったら地味に時間かかったかも。和南城が手伝ってくれて助かったわ」
「オレも日直なんだし気にしなくていい。それよりも、こういう作業まで生徒の仕事なんだな」
俺の手元の紙を見ながら、和南城が妙に感心した風に答えてくる。
てことは向こうの学校には、こんな雑用はないってことだよな。
へぇへぇ。羨ましいッスね。庶民校は生徒がこき使われるんスよ。
ま、羨んでも仕方ないか。
向こうはそれだけの資金を生徒が払っているんだろうし。とりあえず今はこのコピーだ。
話し合った結果、俺が人数分の枚数をコピーした後、和南城がそれを1組にまとめて、最後に俺がホチキスで留める──という流れになった。
コピー機の前に立って紙をセットする。項目を選んでボタンを押せば、後は機械が勝手にコピーしてくれるから楽なもんだ。
ただ、楽すぎるせいで手持ち無沙汰だ。……困った。
1枚目をクラスの枚数分刷り終えるまで、俺も和南城も特にする事がない。
(そういや何の資料だこれ?)
改めて手元にある紙に目を向けてみれば、これってアレじゃんか。
「なんの作業させられてんのかと思ったけどさ。これって健康診断の案内書のペーパーだったのかよ」
「そう言えばそんなものもあったな」
「ははっ。そっちのお坊ちゃん校はどうだか知らないけど、ウチの学校のバース検査は結構必死になる奴が多いんだぜ。うっかりα値が高くなってんじゃないのかって、みんな内心では期待してるとこあるし」
「そうなんだ。……三由も?」
「俺?俺はぜーんぜん。自分でも出来はそんなにいいと思えないし、αの可能性は低いんじゃねーの? 普通にβ街道まっしぐらだって」
笑いながら後ろの机に座る、和南城を振り返る。
狭い資料室の壁は資料が収められた棚で埋まっており、真ん中の空いたスペースに、会議用の机とパイプ椅子が置いてあるだけだ。
和南城にはこっちのコピーが終わるまで、そこに座っているよう命じておいた。
この狭い空間に立たれていると、妙に圧迫感があって迷惑なんだよ。
こいつ絶対180cm以上あるんじゃねぇ? 肩幅もタッパもあるなんて、さすが純血α様だ。
(にしても……)
思わず綺麗な姿勢で座る和南城を凝視してしまう。
お世辞にも綺麗とは言えない雑然とした資料室に、王子様のようなキラキラしい見た目の和南城っていう存在が、異常なほどミスマッチで何だか笑えた。
俺がへらっと笑っているのに気がついた和南城が、不思議そうにこっちを見てくる。
「何か面白いことでも?」
言われて慌てて顔を引き締めた。
意味もなく笑ってる奴なんて薄気味悪いよな。気をつけよ。
「いや、なんでもねーよ。あのさ…もしも和南城が嫌じゃなければ、少しだけαの事について教えてもらってもいいか?」
「別に構わないよ」
表情は変わってないけど、目元は穏やかそうに見える。
本当に聞いても大丈夫みたいだ。
よしっ、やった!
仲良くなってきたとはいえ、バース性については気軽に聞けない部分もあるから、今まで遠慮してたんだよ。
「助かる!俺、αと同じクラスになったのって初めてで知らないことばかりでさ。ずっと気になってたんだけど、純血種の『α』とウチの学校にいる『βよりのα』って色々違ったりするもんなの? その…勉強とか運動以外の能力って意味で」
俺が勢い込んで聞いた質問に対して、和南城は少し考える素振りをした後に頷いてくれた。
「あぁそうだな。うん、違うと思う。何だろうな……多分一番顕著なのはαの力が強い者は、フェロモンの濃さを自在に変える事が出来るという所じゃないかな。弱いと薄っすらとしか漂わせられないし」
「何かもうフェロモンっていうのがαっぽい! すげぇっ、濃度なんて調節出来るんだ!?」
驚きながら俺が聞くと、これにも和南城が頷く。
「そう。Ωとの子供は力が強いαが生まれることが多いんだけど、そういう人間は支配階級に属している者に多いから、自在に操ったり出来るな。例えば濃度を変える事で相手を屈服させたり、威嚇する匂いを発したりも出来るよ」
「へぇ…すげー世界。やっぱβとは全然違うのな、αって」
感心しながら聞いていたけど、途中で「あれ?」と思い出した。
そういえば初めの頃の、和南城のあの近寄りがたい雰囲気。
あれって人見知りを起こした和南城が、無意識に威嚇フェロモンを流していたんじゃないのか?
ふと、あの時のなんとも言えない教室の雰囲気を思い出した。
「三由? 1枚目のコピーが終わったみたいだけど?」
和南城に指摘されてハッなる。
話している間に1枚目の印刷が終わっていたらしい。やべー、気が付かなかった。
急いで2枚目をセットする。
「俺てっきりフェロモンって、Ωを見分けたり、誘惑したりするだけのものかと思ってた」
「あぁ。ラブストーリーものの映画だと、そういう使い方をされる事が多いしな。なら三由が勘違いしても仕方がないんじゃないか? それにあながち間違いでもないし」
「でも聞いてると、やっぱ不思議な世界だと思うよ。βには感知出来ない世界なんだからさ。同じ場所にいるのに俺たちとは違う匂いを嗅いでいるんだろ?」
「芳しそう世界でいいよな」って俺が思わず呟いてしまったら、それを聞いた和南城が珍しく声を立てて笑っている。
「ふふっ、そんな世界なら嬉しいんだけどな。今はΩの数も少なくなっているし、三由と同じような匂いしか嗅いでないよ。α同士は…別にいい匂いだとも思えないものだし。むしろ嫌な感じがする」
「あー…、そういえばΩ自体、ほとんどいないんだもんな。特にここらへんはβしかいない区域だし。でも前の学校にはいたんだろ?」
「いたよ。全校生徒合わせてもΩは5人くらいしかいないけどな」
「おー、それでも結構いるじゃん! なぁなぁ、やっぱりいい匂いするの?どんな匂い?」
好奇心に駆られて俺が前のめり気味に聞くと、和南城が苦笑しながら
「三由。それ刷り終わってるよ。1枚目と2枚目だけでも先にまとめてしまうから、オレに渡してもらえる?」
―――あ、ごめん。
興奮してコピーのことが、すっかり頭から抜け落ちてた……。
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