勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる! ×ランクだと思ってたギフトは、オレだけ使える無敵の能力でした

赤白玉ゆずる

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第4章 迷宮の宝

第34話 世界の懸念

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「おいっゲインロードさん、アンタなんてことしやがったんだっ!」

 リュークとレムが転移アイテムで飛ばされたのを見て、ザックが駆け寄りながら怒りの声をゲインロードにぶつける。
 それに続いて、ほかのAランク冒険者たちもいっせいにゲインロードに詰め寄った。

「騙し討ちなんて卑怯にもほどがある! それが高名なSランク冒険者のやることか!?」

「そんなに『導きの白樹笛ディヴァインフルート』が欲しかったのかよ!」

「今すぐリュークを捜しに行くぞ! 当然、アンタたちSランクにも協力してもらうからな!」

「君たち、少し落ち着きたまえ。信じてもらえないかもしれないが、これは私欲のためにしたことではない。ちゃんと理由を話そう」

 怒りが止まらないザックたちを宥めつつ、ゲインロードが今の行為について釈明しようとする。
導きの白樹笛ディヴァインフルート』を強奪したかっただけだろうと考えていたザックたちは、ゲインロードがどんな言い訳をするのか、とりあえず聞いてみることにした。

「君たちは知らんだろうが、実は今、世界各地で黒髪の人間が続々と確認されているらしいのだ。聞くところによると、彼らは突然現れ、全員謎の力を持っているという。そして表立ってはいないが、何やら不穏な動きをしているという話だ」

「なんだって……!?」

 ザックたちが初めて聞いた話だった。
 それどころか、全世界の人間のほとんどはこの事実を知らない。
 広い知識と情報収集にけた、飛耳長目なゲインロードだからこそ知っていることだった。

「ウインガリア帝国帝都メギドラでは、すでに対策も進んでいるらしい。黒髪連中の出方次第ではあるが、近いうちに彼らと衝突することも充分考えられる。リュークという男についても、私は危険と判断した。災いの芽は摘んでおく必要がある、だから転送したのだ」

 衝撃の内容を聞いて、思わずザックたちは言葉を失う。
 確かに、リュークの力は異常だ。
 そして、世界中でリュークのような力を持つ者たちが出現したら、恐らく大混乱になる。
 リュークのことをゲインロードが危惧するのはもっともではあるが……

「し、しかし、いきなり飛ばさなくても……」

「そうだ! 今のことについて、リュークから話を聞いても良かったじゃないか!」

「アンタの勝手な思い込みで、リュークとレムちゃんが死んじまったらどうするつもりだ!?」

 ゲインロードの説明にはある程度納得できたが、それでも、命の恩人であるリュークを問答無用で転移させられては、ザックたちも穏やかではいられない。
 ゲインロードを厳しく追及するザックたち。

「君たちは事の重大さを理解していないようだな。あの男が『覇王の卵』によって力を手に入れたら、もはや手がつけられぬぞ? まさに世界の覇王、どんな事態が起こってもおかしくはない」

「ゲインロードさん、アンタはリュークを誤解している! アイツは悪事を犯すようなヤツじゃない!」

 ゲインロードの言葉にザックは反論するが……

「何故そんなことが言える? 見たところ、君たちはあの男とそれほど長い付き合いはしていないようだが? そもそもあの男の素性をしっかり知っているのか?」

 逆にゲインロードに問われ、ザックたちは口をつぐんでしまう。
 言われた通り、確かにリュークについて詳しくは知らない。
 この迷宮での行動中にリュークから身の上を聞かされはしたが、それが真実なのか確かめていないのだ。
 ザックたちを騙すために、リュークが適当な嘘を言っていた可能性も否定できない。
 リュークと強い信頼で結ばれていたはずのザックたちの心に疑念が生じる。

「なぁに、あれほどの力を持つ男だ。どこに飛ばされようとも簡単には死なぬだろう。捜索で無駄な時間を使うよりも、今はこの迷宮をクリアすることが最優先なのではないか? それに危険な黒髪連中に対抗するためには、我らも『覇王の卵』で力を手に入れなくてはならない」

 ゲインロードは自分の正当性を証明するかのように、さらに言葉を続ける。

「我らが迷宮を制覇し、あの男と対等以上の存在になれば、危険を憂慮することもなく落ちついて話し合いもできる。非礼の詫びもそのときにさせてもらうとしよう」

 多少楽観的ではあるが、確かにゲインロードの言う通りだ。ザックたちはリュークとの合流を優先していたが、考えを改めた。
 リュークの力を冷静に分析し、公算の高い論理を述べることで、動揺しているザックたちを安堵させる。
 この辺りの話術も、さすが百戦錬磨のゲインロードといったところだ。

「……分かった。とりあえず一刻も早く迷宮をクリアしよう。だが、今回のことはギルドにも報告させてもらう。いいな? ゲインロードさん」

「好きにしろ」

 ゲインロードは吐き捨てるようにそう言うと、Sランクたちのところに戻った。

「フフッ、あのリュークという邪魔者をあっさり片付けるなんて、さすがゲインロードね。『導きの白樹笛ディヴァインフルート』も手に入れたし、あとは『覇王の卵』を見つけるだけね」

 合流したゲインロードに、サリアが満足げな笑みを浮かべながら話しかける。

「それはいいが、ゲインロード、『導きの白樹笛ディヴァインフルート』はお前のものじゃねえからな。『覇王の卵』と同様、所有権はあとでキッチリ決めるぞ」

「『覇王の卵』に『導きの白樹笛ディヴァインフルート』か……グフフ、ここに来た甲斐があったぜ」

 レピィーとウルヴァルも、欲にまみれた表情でゲインロードを迎える。
 現在協力関係である彼らSランクたちだが、迷宮の宝『覇王の卵』は1つだけだ。
 よって、それを得られるのも1人。

 これについて、すでに彼らの間では話がついている。
 殺し合いの強奪戦にならないよう、ちょっとした賭け事で取得者を決める予定だ。
 ただし、そのルールを各自がどこまで守るかは謎であるが。

『覇王の卵』で願いを叶えてしまえば、世界の覇者になれるのだ。
 表面上は合意していても、どうやって出し抜くかを全員が考えている。
 場合によっては、血で血を洗う争いになるだろう。
 だがそれだけの価値はある。命も倫理観も、『覇王の卵』の前ではゴミのようなものだった。

「ところで、さっきの黒髪の話は本当なのか?」

 ファイクが気懸かりな顔つきであごを撫でつつ、ゲインロードに問いかける。
 ファイクだけでなく、レピィーやウルヴァル、サリアも、強い関心を見せながらゲインロードの返答を待つ。
 彼らも初めて聞いた話だったからだ。

「もちろん、ウソではない。ただ、私も半信半疑だった。しかし、あのリュークという男を見て真実だと確信した」

 噂だけは聞いていたが、まだ黒髪の人間が何かを起こした事実はない。
 だから杞憂に終わると思っていたが、リュークの登場で一気に現実味を帯びた。
 リュークのような怪物がぞろぞろ現れては、ゲインロードでなくとも危惧して当然だ。卑劣な手段を使いはしたが、その気持ちも分かるというもの。

「なるほどな……なら、是が非でも『覇王の卵』を手に入れて、ふざけた野郎どもをぶっ潰してやるぜ」

 レピィーの言葉に頷くほかの4人。
導きの白樹笛ディヴァインフルート』さえあれば、『覇王の卵』も絶対に見つかる。
 この世界そのものを手中にできるチャンスが目の前に迫っている。

 この場の全員を皆殺しにしてでも『覇王の卵』を手に入れてやる――そう決意する5人だった。
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