勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる! ×ランクだと思ってたギフトは、オレだけ使える無敵の能力でした

赤白玉ゆずる

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第4章 迷宮の宝

第12話 覇王の卵

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「『覇王の卵』……? なんだそれ?」

 野営地の設営が終わったあと、晩メシを一緒に食いながら会話をしていた冒険者にオレは聞き返す。

 オレたちは安全な街道脇に馬を繋いでから野営の準備をし、その後それぞれで夕食をとることに。
 そこでたまたま近くにいた冒険者に、今回の事態の詳細を尋ねてみたら、予想外の言葉が返ってきたのだった。

 ゲスニクの領地で新しく発見された迷宮――それはなんと、願いを叶えるという秘宝『覇王の卵』がある、伝説のダンジョンかもしれないとのこと。
 それが分かったのは、先行して潜っていた冒険者が、迷宮の奥で赤い壁を発見したことから始まった。

 赤き迷宮に『覇王の卵』あり――これは古くから伝わる伝説らしい。
 本来は黒色であるはずの迷宮の壁が赤くなっているのが特徴で、今回の迷宮でも、下層付近から先が赤い壁となっていた。
 この情報は、一部の上位冒険者のみが知る秘密だった。何故なら、迷宮の宝である『覇王の卵』は早い者勝ちだからだ。

 我先にと『覇王の卵』を求め、こっそり抜け駆けして攻略を進めていた冒険者たち。
 ただ、噂は密かに広がっていたようで、オレの知らない間に続々と他所よそから冒険者たちが集まってきたらしい。
 バーダンたち以外にも、Sランク冒険者が何チームか迷宮に入っているようだ。

 そのみんなが求めている謎の秘宝『覇王の卵』の正体は、人間を一段階進化させる『進化の神薬』と推測され、願いによって優秀なギフトやスキルを取得することができたり、または神の如く麗しい姿に変化したり、あるいは最高の叡知を授かれたり、人間を不老不死の存在にすることすら可能と言われているらしいが……

「少し不思議なんだが、何故『覇王の卵』にそんな力があると分かるんだ?」

 オレは疑問に思ったことを聞いてみる。
 こんな宝なんてまるでおとぎ話としか思えないが、誰か確かめたヤツがいるんだろうか?

「リューク、お前は『英雄王ガイゼル』の伝説を聞いたことないのか?」

「『英雄王ガイゼル』……?」

 よく分からないが、その手の話だと『勇者ヴェルシオン』しか知らない。
 ただ、『勇者ヴェルシオン』は伝説ではなく作り話で、オレが子供の頃に孤児院で読んだ絵本の主人公だ。オレの名前『リューク・ヴェルシオン』も、この勇者から取っている。
 ゲスニクの屋敷に来たあとは本なんて読ませてもらえなかったし、そもそも雑用で忙しくて余計な知識を身につける余裕もなかった。
 当然、『英雄王ガイゼル』のことも聞いたことがない。

「なんだ、知らねえのか? 結構有名な話なんだがなあ……仕方ねえ教えてやるよ」

 冒険者が言うにはこうだ。

 かつて――今から2000年ほど昔に、大陸のほとんどを制覇していたガイゼルという王がいた。
『英雄王』とたたえられるほど偉業を成し遂げたらしいが、王という地位だけに飽き足らず、彼は究極の力を求めていたらしい。
 そしてその願いを叶えられるという秘宝『覇王の卵』の存在を知る。

 ガイゼルは『覇王の卵』が眠ると言われる『赤き迷宮』を発見し、死闘と苦難を積み重ねた末に『覇王の卵』を手に入れ、『進化の神薬』を願ったという。
 そしてそれを使った彼は、究極の存在に進化した。

「……なるほど、そんな伝説があったのか。で、究極の存在になった『英雄王ガイゼル』はそのあとどうしたんだ?」

 宝を手に入れたことは分かったので、オレは伝説の続きを催促する。

「続きなんてねえよ。伝説はこれで終わり」

「えっ、終わり!? 不老不死になって世界を統べたとか、そういう逸話は残ってないのか?」

「いや、ないな。究極の存在となって神の国へ行ったみたいな話は一応あるが、そんなこと確かめようがないし、多分ただの夢物語だ」

 なんか一気に胡散うさん臭くなったな。
 いやスケールが大きすぎて、最初からイマイチ信用できない話ではあるが。

「疑うわけじゃないが、今の話って本当のことなのか?」

「一応事実と言われてる。少なくとも『英雄王ガイゼル』は実在したぜ。そんで、その『赤き迷宮』は100年ごとに現れるって話で、発見される度に大勢が押しかけて挑戦する。まあ実際に『覇王の卵』を手に入れたってヤツは記録に残ってないがな」

 うーむ、やっぱそれじゃただのおとぎ話なんじゃ……?
 しかし、そんな言い伝えがあったなんて全然知らなかった。まさかゲスニク領で見つかった迷宮が、伝説の迷宮だったなんて驚きだ。
 となると、冒険者たちは行方不明になっているわけじゃなく、迷宮攻略に夢中になって帰ってこないという可能性もあるな。
 この調査隊も、真相を探るためじゃなく、自分たちが『覇王の卵』を手に入れようとしているのでは?

 冒険者たちが帰ってこないというのは、かなり攻略が進んでいるとも考えられる。
 このままでは、先に『覇王の卵』が取られてしまう。それを、黙って指をくわえて待つわけにもいかない。
 なんとか遅れを取り戻すためにこの調査隊を組んだ、とか……?
 この事態を内密にしたいのも、おおやけに知られたら冒険者が殺到する――つまり、これ以上ライバルを増やしたくないからというのはさすがに疑いすぎか?

 気になるのは、アニスもこの事実を知っていたのかということ。
 ……いや、アニスほどの有名な冒険者がこんな辺境の地に来たということは、恐らく『覇王の卵』について気付いているはず。

 アニスには叶えたい望みがあるってことか……。
 それが何かは分からないが、協力してやりたい。
 何より、まずは無事でいてくれ……!

 オレはそう願いつつ、アニスからもらった石――フォルティラピスを握りしめながら眠りについた。
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