44 / 82
第4章 迷宮の宝
第12話 覇王の卵
しおりを挟む
「『覇王の卵』……? なんだそれ?」
野営地の設営が終わったあと、晩メシを一緒に食いながら会話をしていた冒険者にオレは聞き返す。
オレたちは安全な街道脇に馬を繋いでから野営の準備をし、その後それぞれで夕食をとることに。
そこでたまたま近くにいた冒険者に、今回の事態の詳細を尋ねてみたら、予想外の言葉が返ってきたのだった。
ゲスニクの領地で新しく発見された迷宮――それはなんと、願いを叶えるという秘宝『覇王の卵』がある、伝説のダンジョンかもしれないとのこと。
それが分かったのは、先行して潜っていた冒険者が、迷宮の奥で赤い壁を発見したことから始まった。
赤き迷宮に『覇王の卵』あり――これは古くから伝わる伝説らしい。
本来は黒色であるはずの迷宮の壁が赤くなっているのが特徴で、今回の迷宮でも、下層付近から先が赤い壁となっていた。
この情報は、一部の上位冒険者のみが知る秘密だった。何故なら、迷宮の宝である『覇王の卵』は早い者勝ちだからだ。
我先にと『覇王の卵』を求め、こっそり抜け駆けして攻略を進めていた冒険者たち。
ただ、噂は密かに広がっていたようで、オレの知らない間に続々と他所から冒険者たちが集まってきたらしい。
バーダンたち以外にも、Sランク冒険者が何チームか迷宮に入っているようだ。
そのみんなが求めている謎の秘宝『覇王の卵』の正体は、人間を一段階進化させる『進化の神薬』と推測され、願いによって優秀なギフトやスキルを取得することができたり、または神の如く麗しい姿に変化したり、あるいは最高の叡知を授かれたり、人間を不老不死の存在にすることすら可能と言われているらしいが……
「少し不思議なんだが、何故『覇王の卵』にそんな力があると分かるんだ?」
オレは疑問に思ったことを聞いてみる。
こんな宝なんてまるでおとぎ話としか思えないが、誰か確かめたヤツがいるんだろうか?
「リューク、お前は『英雄王ガイゼル』の伝説を聞いたことないのか?」
「『英雄王ガイゼル』……?」
よく分からないが、その手の話だと『勇者ヴェルシオン』しか知らない。
ただ、『勇者ヴェルシオン』は伝説ではなく作り話で、オレが子供の頃に孤児院で読んだ絵本の主人公だ。オレの名前『リューク・ヴェルシオン』も、この勇者から取っている。
ゲスニクの屋敷に来たあとは本なんて読ませてもらえなかったし、そもそも雑用で忙しくて余計な知識を身につける余裕もなかった。
当然、『英雄王ガイゼル』のことも聞いたことがない。
「なんだ、知らねえのか? 結構有名な話なんだがなあ……仕方ねえ教えてやるよ」
冒険者が言うにはこうだ。
かつて――今から2000年ほど昔に、大陸のほとんどを制覇していたガイゼルという王がいた。
『英雄王』と称えられるほど偉業を成し遂げたらしいが、王という地位だけに飽き足らず、彼は究極の力を求めていたらしい。
そしてその願いを叶えられるという秘宝『覇王の卵』の存在を知る。
ガイゼルは『覇王の卵』が眠ると言われる『赤き迷宮』を発見し、死闘と苦難を積み重ねた末に『覇王の卵』を手に入れ、『進化の神薬』を願ったという。
そしてそれを使った彼は、究極の存在に進化した。
「……なるほど、そんな伝説があったのか。で、究極の存在になった『英雄王ガイゼル』はそのあとどうしたんだ?」
宝を手に入れたことは分かったので、オレは伝説の続きを催促する。
「続きなんてねえよ。伝説はこれで終わり」
「えっ、終わり!? 不老不死になって世界を統べたとか、そういう逸話は残ってないのか?」
「いや、ないな。究極の存在となって神の国へ行ったみたいな話は一応あるが、そんなこと確かめようがないし、多分ただの夢物語だ」
なんか一気に胡散臭くなったな。
いやスケールが大きすぎて、最初からイマイチ信用できない話ではあるが。
「疑うわけじゃないが、今の話って本当のことなのか?」
「一応事実と言われてる。少なくとも『英雄王ガイゼル』は実在したぜ。そんで、その『赤き迷宮』は100年ごとに現れるって話で、発見される度に大勢が押しかけて挑戦する。まあ実際に『覇王の卵』を手に入れたってヤツは記録に残ってないがな」
うーむ、やっぱそれじゃただのおとぎ話なんじゃ……?
しかし、そんな言い伝えがあったなんて全然知らなかった。まさかゲスニク領で見つかった迷宮が、伝説の迷宮だったなんて驚きだ。
となると、冒険者たちは行方不明になっているわけじゃなく、迷宮攻略に夢中になって帰ってこないという可能性もあるな。
この調査隊も、真相を探るためじゃなく、自分たちが『覇王の卵』を手に入れようとしているのでは?
冒険者たちが帰ってこないというのは、かなり攻略が進んでいるとも考えられる。
このままでは、先に『覇王の卵』が取られてしまう。それを、黙って指をくわえて待つわけにもいかない。
なんとか遅れを取り戻すためにこの調査隊を組んだ、とか……?
この事態を内密にしたいのも、公に知られたら冒険者が殺到する――つまり、これ以上ライバルを増やしたくないからというのはさすがに疑いすぎか?
気になるのは、アニスもこの事実を知っていたのかということ。
……いや、アニスほどの有名な冒険者がこんな辺境の地に来たということは、恐らく『覇王の卵』について気付いているはず。
アニスには叶えたい望みがあるってことか……。
それが何かは分からないが、協力してやりたい。
何より、まずは無事でいてくれ……!
オレはそう願いつつ、アニスからもらった石――フォルティラピスを握りしめながら眠りについた。
野営地の設営が終わったあと、晩メシを一緒に食いながら会話をしていた冒険者にオレは聞き返す。
オレたちは安全な街道脇に馬を繋いでから野営の準備をし、その後それぞれで夕食をとることに。
そこでたまたま近くにいた冒険者に、今回の事態の詳細を尋ねてみたら、予想外の言葉が返ってきたのだった。
ゲスニクの領地で新しく発見された迷宮――それはなんと、願いを叶えるという秘宝『覇王の卵』がある、伝説のダンジョンかもしれないとのこと。
それが分かったのは、先行して潜っていた冒険者が、迷宮の奥で赤い壁を発見したことから始まった。
赤き迷宮に『覇王の卵』あり――これは古くから伝わる伝説らしい。
本来は黒色であるはずの迷宮の壁が赤くなっているのが特徴で、今回の迷宮でも、下層付近から先が赤い壁となっていた。
この情報は、一部の上位冒険者のみが知る秘密だった。何故なら、迷宮の宝である『覇王の卵』は早い者勝ちだからだ。
我先にと『覇王の卵』を求め、こっそり抜け駆けして攻略を進めていた冒険者たち。
ただ、噂は密かに広がっていたようで、オレの知らない間に続々と他所から冒険者たちが集まってきたらしい。
バーダンたち以外にも、Sランク冒険者が何チームか迷宮に入っているようだ。
そのみんなが求めている謎の秘宝『覇王の卵』の正体は、人間を一段階進化させる『進化の神薬』と推測され、願いによって優秀なギフトやスキルを取得することができたり、または神の如く麗しい姿に変化したり、あるいは最高の叡知を授かれたり、人間を不老不死の存在にすることすら可能と言われているらしいが……
「少し不思議なんだが、何故『覇王の卵』にそんな力があると分かるんだ?」
オレは疑問に思ったことを聞いてみる。
こんな宝なんてまるでおとぎ話としか思えないが、誰か確かめたヤツがいるんだろうか?
「リューク、お前は『英雄王ガイゼル』の伝説を聞いたことないのか?」
「『英雄王ガイゼル』……?」
よく分からないが、その手の話だと『勇者ヴェルシオン』しか知らない。
ただ、『勇者ヴェルシオン』は伝説ではなく作り話で、オレが子供の頃に孤児院で読んだ絵本の主人公だ。オレの名前『リューク・ヴェルシオン』も、この勇者から取っている。
ゲスニクの屋敷に来たあとは本なんて読ませてもらえなかったし、そもそも雑用で忙しくて余計な知識を身につける余裕もなかった。
当然、『英雄王ガイゼル』のことも聞いたことがない。
「なんだ、知らねえのか? 結構有名な話なんだがなあ……仕方ねえ教えてやるよ」
冒険者が言うにはこうだ。
かつて――今から2000年ほど昔に、大陸のほとんどを制覇していたガイゼルという王がいた。
『英雄王』と称えられるほど偉業を成し遂げたらしいが、王という地位だけに飽き足らず、彼は究極の力を求めていたらしい。
そしてその願いを叶えられるという秘宝『覇王の卵』の存在を知る。
ガイゼルは『覇王の卵』が眠ると言われる『赤き迷宮』を発見し、死闘と苦難を積み重ねた末に『覇王の卵』を手に入れ、『進化の神薬』を願ったという。
そしてそれを使った彼は、究極の存在に進化した。
「……なるほど、そんな伝説があったのか。で、究極の存在になった『英雄王ガイゼル』はそのあとどうしたんだ?」
宝を手に入れたことは分かったので、オレは伝説の続きを催促する。
「続きなんてねえよ。伝説はこれで終わり」
「えっ、終わり!? 不老不死になって世界を統べたとか、そういう逸話は残ってないのか?」
「いや、ないな。究極の存在となって神の国へ行ったみたいな話は一応あるが、そんなこと確かめようがないし、多分ただの夢物語だ」
なんか一気に胡散臭くなったな。
いやスケールが大きすぎて、最初からイマイチ信用できない話ではあるが。
「疑うわけじゃないが、今の話って本当のことなのか?」
「一応事実と言われてる。少なくとも『英雄王ガイゼル』は実在したぜ。そんで、その『赤き迷宮』は100年ごとに現れるって話で、発見される度に大勢が押しかけて挑戦する。まあ実際に『覇王の卵』を手に入れたってヤツは記録に残ってないがな」
うーむ、やっぱそれじゃただのおとぎ話なんじゃ……?
しかし、そんな言い伝えがあったなんて全然知らなかった。まさかゲスニク領で見つかった迷宮が、伝説の迷宮だったなんて驚きだ。
となると、冒険者たちは行方不明になっているわけじゃなく、迷宮攻略に夢中になって帰ってこないという可能性もあるな。
この調査隊も、真相を探るためじゃなく、自分たちが『覇王の卵』を手に入れようとしているのでは?
冒険者たちが帰ってこないというのは、かなり攻略が進んでいるとも考えられる。
このままでは、先に『覇王の卵』が取られてしまう。それを、黙って指をくわえて待つわけにもいかない。
なんとか遅れを取り戻すためにこの調査隊を組んだ、とか……?
この事態を内密にしたいのも、公に知られたら冒険者が殺到する――つまり、これ以上ライバルを増やしたくないからというのはさすがに疑いすぎか?
気になるのは、アニスもこの事実を知っていたのかということ。
……いや、アニスほどの有名な冒険者がこんな辺境の地に来たということは、恐らく『覇王の卵』について気付いているはず。
アニスには叶えたい望みがあるってことか……。
それが何かは分からないが、協力してやりたい。
何より、まずは無事でいてくれ……!
オレはそう願いつつ、アニスからもらった石――フォルティラピスを握りしめながら眠りについた。
361
お気に入りに追加
3,726
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です


「おまえを愛することはない!」と言ってやったのに、なぜ無視するんだ!
七辻ゆゆ
ファンタジー
俺を見ない、俺の言葉を聞かない、そして触れられない。すり抜ける……なぜだ?
俺はいったい、どうなっているんだ。
真実の愛を取り戻したいだけなのに。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。