勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる! ×ランクだと思ってたギフトは、オレだけ使える無敵の能力でした

赤白玉ゆずる

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2巻

2-3

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 ☆


 翌朝。
 一刻も早く出発したほうがいいだろうと考えたオレは、朝イチで支度したくをして部屋を出た。
 ジーナたちにひとこと挨拶したところで、ちょうど王宮の入り口からヒミカさんが入ってきて、慌ててオレに声をかけてきた。

「ああリューク殿、まだ出立してなくて良かった。任務で散っていた精鋭の忍者たちを呼び寄せましたので、手足のように使ってくださいませ」
「えっ、忍者!?」
「はい。我が忍び軍でも特に優秀な者たち『天狼七部衆てんろうしちぶしゅう』です。そのうちの一人は最強の忍びで、戦闘力だけならこの私を遥かに超えます。きっとお役に立つでしょう」
「ヒミカさん以上の強さ!? それは凄いですね」

 ヒミカさんいわく、全員間違いなく信頼できるので、遠慮なく自由に指示していいとのこと。
 オレは一瞬迷ったが、忍者は探索能力がずば抜けているので、協力してくれるのは大いに助かる。東の山にも当然詳しいようで、オレだけで探すよりも絶対に効率はいいだろう。

「分かりました。是非その皆さんを紹介してください」

 オレはヒミカさんの案内で忍者七人と合流し、王都を出発した。



 4.王妃と王子


 リュークたちがアルマカイン王都に到着した日の深夜、王宮の一室で二人の人間が密談を行っていた。一人はこの部屋の主メルディナ王妃で、もう一人は金髪の細身な男――息子のマクスウェル王子だ。
 ラウンドテーブルに設置された椅子に腰掛け、優雅にハーブティーをたしなんでいるマクスウェルに対し、メルディナは落ち着かない様子で室内を歩き回っている。別に目的を持って歩いているわけではなく、必死に思考を巡らせていると、勝手に体が動いてしまうといったところだ。

「メルディナ、まあとりあえず座りなよ。君がうろうろしていると、せっかくのティーが不味まずくなる」
「うるさい! お前ものんびり茶なんて飲んでないで、いい案がないか考えろ!」

 茶化すように話しかけたマクスウェルに、メルディナが怒り混じりに返答する。

「そんなに焦ることないって。要するに、そのリュークってヤツを始末すればいいんだろ?」
「お前はヤツを見ていないからそんなことが言えるのだ! あれは簡単に殺せるようなタマではなかったぞ。それにあの黒髪……不吉な予感がする」

 メルディナはテーブルに近付き、椅子を引いてマクスウェルの正面に座ったあと、右手の親指をギュッと噛んだ。血が滲み出そうなほど、ギリギリと歯が指に食い込んでいる。

「黒髪ねえ……レアなギフトを授かるって言い伝えがあるけど、本当なのかね?」

 メルディナとは対照的に、マクスウェルはリュークの存在をさほど気にしてない様子。
 それにしても、母子の会話にしては少し妙な雰囲気があった。
 息子が自分の母を名前で呼ぶのはあまりないことだ。『君』というのも他人行儀に思える。
 それもそのはずで、実はこの二人は親子の関係ではなかった。
 その正体は、アルマカインの敵国レグナザードからの刺客だったのだ。
 五年前、レグナザード国はアルマカイン王国に対し侵略戦争を仕掛けた。
 このときに獅子奮迅ししふんじんの活躍をしたのがゾンダール将軍とラスティオンで、最終的には両国痛み分けという形で一度終戦となっている。
 だが、領土拡大を狙うレグナザードはアルマカインを諦めきれず、力ずくではなく謀略をもって手に入れることを考えた。この計画のため、工作員としてメルディナとマクスウェルをアルマカイン王都に送り込んだわけである。
 母子を演じながら国王クラヴィスに近付いて、まずは前王妃――グリムラーゼ王女の母を病死に見せかけて殺した。そしてメルディナの秘薬で王の心を惑わし、王妃の座を射止める。
 その後、王に毒を与えて弱らせたあと、宮廷魔導士長のラスティオンを買収し、レグナザード国に寝返らせた。アルマカインにおけるラスティオンの待遇はけっして悪いものではなかったが、野心家なラスティオンはメルディナたちが提示した多額の報酬や条件に目がくらんでしまった。
 もちろん、メルディナたちはラスティオンについて綿密に調べあげ、籠絡ろうらくできると確信したからこそ謀反を持ちかけたわけだが。
 完全に計画通りに進み、あとはグリムラーゼ王女を事故に見せかけて始末すれば、自動的にマクスウェルが王に即位できる算段だった。
 そうなれば、戦わずしてアルマカイン王国はレグナザードのものになったのだが……

「ラスティオンを処刑する前、あやつが言っておった。あのリュークという男は怪物だと。この私とお前でも絶対にかなわぬだろうとな」

 メルディナはラスティオンが最期に残した言葉を思い出し、底知れない不安に襲われる。

「へえ……リュークってのは、あの『雷帝らいてい』ラスティオンにそこまで言わせるほどのヤツなのかい」
「力の掴めぬ男だった。『怪物』とはてっきりラスティオンが苦しまぎれに言ったのだと思ってたが、捨て置けぬものは感じた。何より、王と会っただけでこの私の呪薬『カタラ毒』を見破るとは、到底信じられないことよ」

 自分が作った毒は秘薬中の秘薬だ。それをいとも簡単に見破った事実にメルディナは戦慄せんりつした。
 あまりの動揺に足がふらついたほどで、かろうじて冷静に振る舞えたのが奇跡と思えるくらいだった。

「メルディナは自分の薬に自信を持ちすぎなんじゃないのか? 見破られただけでそんなに焦ることもないだろ」
「バカを言うな! 私がこの任務に選ばれたのも、世界最高の呪薬の腕があってこそだ。その証拠に、王の病気について疑う者などいなかったであろう!」
「はいはい、分かってるよ。まあしかし、こんなことなら手っ取り早く王様を殺しちゃってたほうが良かったんじゃない?」

 マクスウェルは国王暗殺を事もなげに口にする。

「国王をただ殺しただけじゃ、この国は手に入らない。それについては何度も検討したはずよ。それに、不慮の事故で王が死んだとしても、その原因を必死に究明するに違いない。万が一暗殺とバレたら、それこそ大変なことになる。だから病気で自然に死ぬのが最善だった」
「まあね。あの堅物かたぶつのゾンダール将軍を落とせれば、また違った手も取れたんだろうけどね」 

 メルディナたちはゾンダール将軍を買収することも考えたが、忠誠心の高い彼を落とすのは不可能と判断し、諦めることにした。
 将軍が寝返ってさえいれば、強引な手を使うことも可能だったかもしれない。

「……仕方ない。私たちだけで任務を成し遂げる予定だったが、計画変更だ。マクスウェル、を緊急で呼び寄せろ」
「ええっ、今さら!? それじゃ僕のメンツが丸潰れだよ。王女暗殺だって、ラスティオンに頼まず僕に任せれば失敗しなかったのに。リュークってヤツをるなら僕がやるよ」
「お前のメンツなんて知るか! それに、王子であるお前が直接動くのはまずい。このままでは今までやってきたことが全てご破算だ。可能な限り仲間を呼び寄せろ!」

 マクスウェルの正体は凄腕すごうでの暗殺者だった。今回の作戦を成功させるため、レグナザード国が高額の報酬を約束して雇ったのだ。彼には仲間が存在し、メルディナはそれを召集するように命令した。もちろん、リュークを始末するためだ。
 王子役を務めているマクスウェルは極力動かすわけにはいかない。よって仲間にやらせるつもりだが、何せラスティオンを捕らえた男だけに、凄腕暗殺者でも勝てる確証がない。
 もしも失敗したら本当に終わりだ。できるだけ人数を集めたほうがいいだろう。

「了解だ。その代わり、依頼料が跳ね上がることは覚悟してくれよ」
「分かっている。念のため、『虚身うつろ』を呼ぶことはできないか?」
「『虚身うつろ』だって!? 僕でさえ接触したことはないよ。彼を呼ぶほどの相手だっていうのか?」

虚身うつろ』とは世界最強の暗殺者のコードネームだ。仕事の成功率は百パーセントで、狙った獲物を逃したことはない。
 その能力は謎で、裏の世界に生きるマクスウェルですら接触が困難な存在だが、じゃの道はへび、連絡を取る手段がないわけではなかった。

「絶対に失敗しないヤツを用意しておきたいのだ。依頼するかは状況次第だが、とにかく手を尽くしておくに越したことはない」
「メルディナがそんなに心配性だとは思わなかったよ。言っておくけど、『虚身うつろ』ともなると呼ぶだけでとんでもない大金がかかるからね。仕事の報酬はさらにケタ違いだよ? 君にその予算を動かせるのかい?」
「本国に取り合ってみる。この作戦が成功するためなら、なんとか都合してくれるだろう」

 とメルディナは言ったものの、『虚身うつろ』を使うような状況になった場合、果たして作戦を完遂できるのか不安はあった。リュークの登場により、すでに計画は大幅に狂ってしまった。この調子では、マクスウェルがすんなり王位を継げるような展開にはならないかもしれない。
 ただ、切り札があれば心強い。『虚身うつろ』ならば、あのゾンダール将軍とて敵ではないからだ。
 できれば、この最終手段を使わずに済むことを願うメルディナ。

「作戦はこれで決まったね。じゃあ仲間たちに連絡を取ってくるよ」

 マクスウェルはカップに残ったティーをくいっと飲み干してから席を立つ。
 彼が退室したあとには、なんとも言いようのない空気が部屋に漂っていた。
 その不吉な予兆を拭えないまま、メルディナは就寝するのだった。



 第二章 素材を探せ



 1.天狼七部衆


「ちょっ、ちょっと待ってくれ! ここいらで少し休憩しないか?」

 オレは馬で疾走する集団の最後尾から、前を走る連中に向けて声をかける。
 オレたち――『天狼七部衆』とオレの八人は、解毒剤を作るための素材を採取しに、アルマカイン王都の東にあるラモール山に向かっていた。
 今朝ヒミカさんにアルマカイン王国最強の忍び軍『天狼七部衆』を紹介され、馬に乗って一緒に王都を出発したわけだが、彼らは特に優秀な馬を愛馬としていて、オレが乗るこの馬『ヘラルド』とは比較にならないほど走るのが速い。おかげでついていくのがやっとなうえ、ヘラルドがすっかりへばってしまって「もう無理っ、頼むから休ませてくれ」と嘆いているんだ。
『スマホ』の翻訳で会話してみたら、さっきから泣き言を言いっぱなしでな。体力が完全に限界らしいが、こればっかりはオレのスキルでもアイテムでも解決不可能だ。
 例えば回復系の魔法やポーションの効果は怪我を治すのみで、疲労が取れるわけではない。
 エリクサーなら疲労回復にも効果はあるが、それでもすっきり全快とまではいかない。そもそも疲労回復にエリクサーを使う人なんていないだろうが。
 別の手段として、魔法やアイテムで一時的に疲労を感じなくさせることは可能だが、その場合、効果が切れたあと大きな反動が出る。
 無理やり疲労を消しても、結局のところ体への負担は積み重なっていく。よって、疲れたら休むのが基本である。
 睡眠も同じで、眠気を取る手段はいくつかあるが、何かの効果を使ってもずっと起き続けることはできない。眠くなったら寝る。でないと、無理がたたって体が壊れてしまう。
 こういう体調については、魔法やアイテムではどうにもならない問題なんだ。
 そんなわけで、前を走る七部衆に休憩を打診したんだが……

「この程度の走りでもうを上げたのか? ふん、だらしのないヤツだ」

 七部衆の中で一番大柄なカブトマルが、オレのほうを振り返りながらそう叫ぶ。

「いや、オレじゃなくて、馬がもう限界なんだ! 頼む、一度止まってくれ!」

 オレの必死の訴えで、七部衆はようやく馬を止めた。
 遅れて追いついたオレも、馬――ヘラルドを止め、馬上から降りる。

「まだまだ先は長いというのに、どういうつもりだ。こんなところで時間をくっている場合じゃないぞ」

 細身の男ゲンアンが馬から降りながら、呆れたようにオレに文句を言ってきた。
 ほかの面々も次々に馬上から降り、みんな渋い表情をしてオレを睨んでいる。

「そうは言ったって、オレの馬はそっちのような駿馬しゅんめじゃないんだ。っていうか、も疲れているんじゃないのか? ブヒン、ブヒヒン?」

 オレはこっそり『スマホ』の翻訳を使って、馬語で七部衆たちが乗る馬に訊いてみた。

「ブヒン、ブヒヒヒーン!(我らはまったく疲れてなどいないが?)」

 あ、そうですか……どうやらこれだけ走っても元気いっぱいらしい。
 オレが乗るヘラルドとは出来が違うようですね。
 ふとヘラルドを見ると、拗ねたようにそっぽを向いてしまった。

「何を馬鹿なことしてるんだ? 馬と話せるわけでもあるまいに。おかしなヤツだ」
「いえ、なんとなく鳴いてみただけです。気にしないでください」

 オレが馬と会話しているところを見られ、七部衆の中では比較的落ち着いているマンジにツッコまれた。
 それにしても、ヒミカさんの話では、七部衆はオレに協力してくれるんじゃなかったのか? 話がだいぶ違うんですけど?
 手足のように使っていいとまで言ってくれたのに、全然協力的じゃないし……

「だからあーしたちだけで行くって言ったのに! こんな足手まといを寄越すなんて、まったく姉貴は何考えてんのか分かんねーな」

 とキレ気味に発言したのは、ヒミカさんの妹であるサクヤ。二十三歳ということだが、身長がグリムラーゼ王女よりも低い百五十五センチほどなので、年齢よりもだいぶ若く見える。
 というか、すみれ色のロングヘアーを高い位置でツインテールに結んでいて、そしてかなり童顔なので幼い印象だ。十五歳と言われても納得してしまうかもしれない。
 ただし、その実力は七部衆……いや忍び軍最強で、レベルも123に到達していた。ヒミカさんの戦闘力を遥かに超えるというのは彼女のことで、この七部衆でもリーダーを務めている。
 持っているギフトは特殊ユニークギフトで、Sランクの『闘力鬼とうりきき』というもの。これは気功術という能力で体内にあるパワーを操って、身体能力を上げたり、魔法のように攻撃したり、回復したりすることもできるらしい。
 この能力のおかげでサクヤは戦闘力は高いらしいが、探知や隠密おんみつなどは苦手とのこと。だから役割は戦闘専門となっている。
 ほかの七部衆もお互い違った長所を持っていて、それぞれ得意分野を担当しているようだ。

「リュークって言ったっけ? どーやってあの堅物姉貴に取り入ったか知らねーが、あーしは甘い顔しねーぞ。とりあえず休憩はしてやるが、あんまり邪魔するなら置いてくからな!」
「は、はい、きもめいじておきます……」

 想定と違う展開になってしまってショボンである。特にサクヤはオレに対する不満が大きいようで、出発からきつい言葉をかけられっぱなしなのだ。
 外見は文句なしの美少女なんだけど、とにかくめちゃくちゃ気が強いんだよな……とても逆らえる気がしない。
 ただ、ヒミカさんがわざわざ呼び寄せてくれただけに、確かにみんな優秀な忍びだった。
 オレ一人で探すよりも、彼らがいてくれたほうが明らかにはかどるだろう。
 しばしの休憩をしたのち、またオレたちは馬に乗って移動を再開した。


 ☆


 アルマカイン王都を出発して二日目。
 馬をひたすら飛ばしてきたおかげで、オレたち一行はすでにラモール山のふもとまでやってきていた。
 ここから先は深い森となっているため、馬の走れるような道はなく、自分たちの足のみで移動することになる。馬たちとはとりあえずここでお別れだ。
 ちなみに、馬がモンスターに襲われた場合に備え、馬は木などに繋ぎ止めずに待機させる。
 緊急時には自力で逃げ出せるようにだ。
 一応、待機場所は比較的安全なところを選んでいるが、仮にそういう事態になっても、またここに戻ってくるように訓練されているとのこと。馬たちもこの手の任務には慣れっこらしい。
 オレの愛馬ヘラルドだけは不安そうな顔をしているけどな。
 申し訳ないが連れていくことはできないんだ、スマン……
 馬語で無事を祈ってるとだけヘラルドに伝えて、オレたちは森へと進入した。


 グリムラーゼ王女捜索のときと同様、草木が鬱蒼うっそうしげる森の中、通りやすい道を探しながらオレたちは傾斜を登っていく。文献に記されていた場所を目指して進んでいるが、おおよその位置しか分からないので、その近辺をしらみ潰しに調査しなくてはならない。
 果たして、目的の『クラティオ苔』が首尾良く見つかるかどうか……
 しばらく山中を進んでいると、先頭を進んでいたテッサイがみんなを手で制止した。

「全員動くな。わいの探知に魔物がかかった。危険度Bってところだな」

 テッサイは七部衆の中では若い二十八歳の男で、レベル103ながらもSランク冒険者以上のずば抜けた高い探知力を持っている。
 それは『領域監視テリトリーサーチ』という、自分の周囲を鋭く探知できるAランクの特殊ユニークギフトを持っているからであり、そのため集団の少し前を走る斥候せっこう役を任されていた。
 このギフトは通常のスキルや魔法の『探知』よりも遥かに精度が高く、その領域に入ったものをほぼ見逃すことはないらしい。『危険度B』というのはこの部隊での戦闘判断のようで、明確な基準を教えられていないが、ここに来るまでに戦ったモンスターは全て危険度C以下だったので、今回の敵はそこそこ強いということなんだろう。

「どれ、吾輩わがはいが確認してやるぞい。……ふむ、前方右奥にいるようじゃな」

『天狼七部衆』の最年長五十五歳のロクベエさんが、右手に持つ二十センチほどの筒を右目に当てて、敵の姿を確認した。この筒は『遠視鏡えんしきょう』という忍び道具で、二枚のガラスを用いた効果によって『遠視眼えんしがん』スキルよりも遠方を見ることができるらしい。
 ロクベエさんはレベル96と七部衆の中では一番戦闘力が低いが、『開発者アイテムメイカー』というこれまたAランクの特殊ユニークギフトを持っていて、部隊で使う忍び道具を製作しているとのこと。
 道具には戦闘用のものもあり、みんなの補助をする縁の下の力持ちといった存在だ。

「……見つけた、アレか。では拙者せっしゃが始末しよう」

 そう答えたのはマンジで、彼の年齢は三十二歳、レベルは115。持っているギフトは弓術系Sランクの『弓王きゅうおう』で、部隊の狙撃役を担っている。
 狙撃専門なだけに視力も良く、マンジは右奥の茂みをじっと見つめたあと、素早く矢を三連射した。
 シュパパパッ!
 グギイイッと短いうめき声が三つしたあと、バサバサと倒れ込む音が聞こえてくる。
 どうやら仕留めたようで、全員で近付いてみると、そこには体長二メートルほどのアサシンエイプの死体が三つ、綺麗に頭を射抜かれて転がっていた。
 これは森の暗殺者と言われていて、Aランク冒険者ですら不覚ふかくを取ることもあるくらいの強敵だが、それをこんなにあっさり退治するとは……
 このクラスの敵を『危険度B』と低めに判断するのも、自分たちの自信の表れだろう。最強忍者衆と言われるだけはある。

「先を急ぐぞ」

 サクヤの号令で、オレたち八人は移動を再開する。
 しばらく進むと、またテッサイが部隊を制止して声を上げた。

「いるぞ。また危険度Bってところだな」

 全員で気配のある方向をうかがうが、どうやら相手は岩陰に潜んでいるらしく、目視では見つけることができなかった。
 マンジが一瞬弓を構えるが、狙撃は無理と諦めて矢を元に戻す。

「ワシが行ってこよう」

 ゲンアンが任せておけと言わんばかりに、小刀を抜いて低い姿勢になる。
 ゲンアンは四十歳でレベルは116。そして持っているギフトは、ヒミカさんと同じSランクの『影忍かげにん』。
 ただし、彼の能力は『隠密』に特化していて、そのスキルレベルは(ごく)まで成長していた。
 つまり、暗殺のスペシャリストというわけである。
 危険度B程度なら一人でも問題ないらしく、スキルを発動して気配を消したゲンアンはスルスルと敵に近付いていく。
 しばしの後、ゲンアンから合図が上がった。無事仕留めたようだ。
 行ってみると、体長五メートル近くあるスロータータイガーが、首から血を流して絶命していた。
 どうやら睡眠中だったらしく、ほとんど抵抗する間もなく首を深々と切り裂かれている。
 寝ていただけなのにこんな目に遭うなんて、コイツも災難だったな。まあほぼ即死なので、あまり苦しまずにけたのがせめてもの救いだったというところか。
 しかし、気配に敏感で耳もいいスロータータイガー相手に、こうも簡単に忍び寄れるなんて、ゲンアンの暗殺力は凄まじいな。
 またしばらく移動したところで、第一の目的地に到着した。


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