勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる! ×ランクだと思ってたギフトは、オレだけ使える無敵の能力でした

赤白玉ゆずる

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2巻

2-2

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「先ほどから気になっていたのですが、この男はいったい何者です? グリムラーゼさん、王宮に相応しくない方を入れては困りますわ」
「ラスティオンを捕らえたのはオレだ! ラスティオンを殺したというのは本当か!?」
「あなたが……ラスティオンを……?」

 オレがラスティオンを捕らえたと知り、王妃の表情がほんの少し乱れた。
 そしてオレを見つめる視線が氷のように冷たくなる。オレの強さをかなり警戒しているように思う。
 必死に隠そうとしているようだが、王妃が動揺していることを強く感じるぞ。
 この程度じゃ王妃が黒幕とまでは決めつけられないが、間違いなく無関係じゃないだろう。

「答えろメルディナ王妃っ、ラスティオンは……」
「落ち着いてくださいリューク殿! 王妃様、リューク殿の非礼、慎んでお詫び申し上げます」

 興奮しているオレをなだめながら、ヒミカさんが前に出て謝罪をした。
 オレも我に返り、頭を冷やして王妃に頭を下げる。

「王妃……さま、無礼な口をいてすみませんでした」
「リューク殿、王妃様とは私が話をします。王妃様、今ラスティオンを処刑されたと仰りましたが、それは本当でしょうか?」
「もちろんです。あれほどの男は、一刻も早く処分しなければ危険ですから。生かしておけば何をするか分かりません」
「し、しかし、彼は大罪人です。その処遇を王妃様が独断で決められるのは……」
「これはなことを仰りますわねヒミカさん。国王があの状態では、判断はその妻であるわたくしが下すのは当然のことです。ぐずぐずしていたら、またグリムラーゼさんが危険になるのですよ?」
「それは理解できますが、せめてほかに仲間がいるか尋問をしてからでも遅くはありませんでした」
「こんな不敵なことをするやからがほかにいるとでも? ラスティオンが独自でくわだてたことに決まってます」

 王妃はヒミカさんの問いかけをことごとく否定していく。
 強引な論理にもほどがある。どう考えても、口封じのためにラスティオンを殺したとしか思えない。
 くそっ、なんのために苦労してここまで連れてきたのか!
 せっかく掴んだ解決の糸口を、こんなに早く失ってしまうとは……!
 ラスティオンほどの者をこうも簡単に抹殺するなんて恐ろしい女だ。ここまで強引な手を使ってくるなんて完全に誤算だった。
 もはや王妃が黒幕なのは疑いようのないところだが……
 オレは王妃の相手をヒミカさんに任せ、こっそりと『スマホ』で撮ってそのステータスを確認する。
 王妃の持っているギフトは…………『闇呪薬師やみじゅやくし』!?
 こんなギフト、オレは聞いたことがない。恐らくオレの『スマホ』と同じく、特殊な能力であるユニークギフトだ。
『検索』で調べてみると、ごくまれに出現するSランクのギフトで、古代の秘法を使って希少な毒薬などを作ることができるらしい。
 古代の秘法で希少な毒だと!? これで全てが繋がった。王様に毒を与えていたのは王妃だ!
 やはり黒幕だった。今まではただの推測でしかなかったが、これで完全に確信した。
 そうと分かれば王妃をなんとかしたいところだが、国王が病に臥している現状では、実質国の最高権力者だ。まず証拠もなしに罪には問えない。
 強引に追及などしたら、逆にこちらがピンチになるだろう。
 仮に上手く追い詰めることができたとしても、王妃が素直に解毒剤を渡すとは限らない。そもそも持ってないかもしれない。
 そのうえ、王妃の所業しょぎょうを暴くことに無駄な時間を費やしてしまったら、王様の命も危険になる。
 ……そうだ! 解毒剤はオレが作ればいい!
 王妃の『闇呪薬師』をコピーすれば、オレにも同じ能力が使える。きっと王様の解毒剤も作れるはずだ。
 オレは『闇呪薬師』をコピーして、解毒剤を調べてみる。
 ……ちょっと見たところ、調合に必要な素材は珍しいものばかりだった。検索してさらに詳しく調べてみると、一応どうにか手に入れることは可能と思われたが。
 ただし、すぐに揃えるのは難しそうだ。その間に、王妃に自由に動かれたら面倒なことになる。
 解毒剤を作るための時間稼ぎをしなければ! それにはどうすればいい?
 オレは思考をフル回転させる。

「話はもう良いですね? ではわたくしはこれで」

 王妃が話を打ち切ってこの場を去ろうとした。
 このまま行かせちゃまずい。ええい、もういちかばちかだ!

「王妃様、実はオレ、古代の秘薬が作れるんですよ」

 すました顔でオレたちの横を歩き去ろうとしていた王妃が、オレの言葉を聞いて眉をピクリと震わせる。
『古代の秘薬』が聞き捨てならなかったらしい。よし、気を引くことには成功だ。
 王妃はオレのほうを振り返って、冷静を装いながら言葉を返す。

「……あなた、いきなり何を言い出すの? それがどうかしたのかしら?」
「王様は病気じゃありません。非常に珍しい毒……『カタラ毒』に冒されています。でもオレが解毒剤を作って治しますのでご安心ください。それだけ言っておこうと思って」
「なっ…………」

 王妃が息を呑む。さっきまで氷の表情を崩さなかった王妃が、明らかに動揺しているのが分かる。
 いいぞ、もう一押ひとおしだ! 王妃にオレを厄介な存在と思わせて、抹殺する対象をなんとかオレに向けさせたい。
 そうすることで時間稼ぎができれば作戦成功なんだが……

「実はさっき王様とお会いして、主治医を任されたところなんですよ。今後、王様の食事などもオレが管理させていただきます。王妃様、何か異論はありますか?」
「異論ですって? 王妃であるわたくしに対して、なんという不遜な態度。あなたのような礼儀知らずな男がこの王宮に出入りすることなど絶対に許しません」
「お義母かあ様、リューク様はわたくしの婚約者ですわ。ですので、王宮の出入りも問題ありません。王家に迎えるお方として、お義母かあ様も今後は是非配慮していただければと思います」

 そう言いながらグリムラーゼ王女が前に出て、オレと王妃の間に割り込んだ。

「こ……婚約者……? この男が!? そんなこと聞いてませんわよ!?」

 いきなり王女の婚約者が現れたので、王妃はかなり混乱しているようだ。
 かくいうオレも、思わず反応して否定しそうになったが、この場は受け入れたほうが都合がいいだろう。ジーナたちもそれに気付いたようで、特に抗議する素振そぶりを見せていない。
 王女はオレと一度目を合わせたあと、言葉を続けた。

「それとお義母かあ様、わたくしは王位を継承するつもりはありませんでしたが、撤回します。もしもお父様が亡くなったときは、わたくしが王位を継いで、そしてこのリューク様に王の座を譲ろうと思ってます」
「よっ……よそ者に王位の座をですって!? そんなことが許されるわけっ……!」
「あら、お義兄にい様だってお父様と血縁関係はありませんわ。それなら正当後継者であるわたくしの夫のほうが、王として相応しくありませんか? お父様の側近たちにもリューク様のことは伝えておきます。、リューク様のことは次期国王候補として検討しておくようにと」

 グリムラーゼ王女の言葉に王妃が黙り込む。
 さすが王女、気の強いジーナたちをものともしないほど芯はしっかりしているだけに、王妃相手でも堂々とやり合えている。
 オレの想定外の展開になっているが、よく考えるとこれは願ってもない状況だ。
 王様の病気は毒が原因だとバレたうえ、今後は食事など身の回りの管理もするから、もう王妃でも手が出せない。
 仮に王様の体がもたずに亡くなったとしても、王女が王位を継ぐと宣言した以上、王子は王になることができない。かといって先に王女を殺そうとも、オレが解毒剤を完成させたら、王様の命は助かってやはり王子は王位を継げない。
 さらに、首尾良く王様と王女が亡くなっても、場合によってはオレが王子と王位を争う可能性すらある。つまり、危険を冒してまで王様や王女を襲う意味はなくなった。
 王様をかろうじて生かしておいたのは、先に王女を殺しておかないとマクスウェル王子がスムーズに王位を継げないからだろうが、それがアダになったな。王妃の計画は完全に狂ってしまったはず。
 この状況なら、真っ先に狙われるのはオレだ。オレさえいなくなれば、もう王様を治せる者はいなくなる。
 そうなれば、あとは予定通りまた王女を殺すだけ。
 そこまで王女が考えて発言したかは分からないが、なんにせよオレの目論見もくろみ通りの展開になりそうだ。あとはオレが王様を治す解毒剤を作ればいい。

「す……好きにしなさい!」

 王妃は絞るように声を出したあと、護衛を連れて去っていった。

「リューク様、王位争いに巻き込んでしまって申し訳ありません。わたくしの言葉によって、リューク様が一番危険になってしまいました」

 王女が深く頭を下げてオレに謝罪してきた。
 オレが真っ先に狙われることに王女も気付いていたようだ。

「いや王女様、これでいい。複雑だった状況が単純になったよ。王様や王女様をどう守っていくかが悩みだったけど、オレが生き延びて解毒剤を作れば全て解決だ」
「でもリューク様のお命が……」
「王女様、大丈夫よ。リュークが負けるはずがないわ」
「そうそう、あのラスティオンですら簡単に倒しちゃうほど強いからな」
「私たちも協力するし、リュークなら絶対になんとかしてくれる」

 ジーナ、ユフィオ、キスティーが王女を励ます。
 その言葉に元気づけられたみたいで、王女は表情をゆるませてコクリと頷いた。
 メルディナ王妃は躊躇ちゅうちょなくラスティオンを殺すような女だ。強引な手を使ってでも、オレのことを必ず殺しに来るはず。
 それを逆手さかてに取って、絶対に王妃の謀略を暴いてやる!



 3.闇の死神


「なるほど、そういうことか……」

 すでに夜中の一時を過ぎた深夜。
 オレはゆっくりと息を吐きながら、王宮の一室でポツリと独り言を呟く。
 オレとジーナたちはなるべくグリムラーゼ王女から離れたくなかったので、使用されていなかった王宮の部屋を一時的に借りて住むことにした。もちろん、オレの部屋はジーナたちとは別室だ。
 その部屋のベッドに寝っ転がりながら、『スマホ』の検索機能を駆使して『カタラ毒』を調べていたところ、おおよその状況が分かってきた。
 まずメルディナ王妃のギフト『闇呪薬師』で作れる古代の毒は色々あるが、『カタラ毒』を選んだ理由は、恐らく解毒剤を作るための素材集めが非常に難しいからだ。『スマホ』で検索できるオレはともかく、普通の人間では解毒剤を作るのは不可能だろう。
 そしてどうやって王様に毒を摂取させていたかだが、それは通常では考えられない驚きの方法だった。
『カタラ毒』の検索では『化学変化』という説明が出てきたが、これをもう少し詳しく調べたところ、人間の体内では物質の合成や分解が行われているとのこと。『カタラ毒』の仕組みは、ある成分と変異活性酵素というものを同時に摂取すると、この人体の化学反応により
『ベネノモルティウム』という代謝産物が生成され、それが人体を緩やかに破壊していくらしい。
 ……と検索には書いてあるが、正直詳しいことはオレにも理解できていない。
 とにかく、王様が食べたり飲んだりしているものを写真に撮っておいたので解析してみたら、栄養剤と水からこれらの成分が検出された。つまり、栄養剤と水にそれぞれ成分を含ませ、同時に飲ませることで『カタラ毒』を摂取させていたというわけだ。
 王様の食事などをチェックしていた毒味役は二人いたのだが、片方は水、もう片方は栄養剤というように別々に毒味していたので、体内で『カタラ毒』が生成されることはなかった。
 これでは毒を発見できなくても無理はない。
 誰がこんなことをしたのか調べれば分かるかもしれないが、王妃が黒幕だと証明するのはきっと難しいだろう。それよりも、こちらの手の内を知られるほうがまずい。変に追い込んで無茶をされても困る。とりあえず、今後の食事はオレたちが管理するから、王様の体調悪化は食い止められるはず。とはいえ、ちゃんと治療しないとこのままではいずれ死んでしまうが。
 とにかく、まずは情報収集からだな。
『スマホ』の検索で調べたところ、解毒剤の製作には素材が色々必要ということが分かったが、その中でも特に『クラティオごけ』は幻と言われるほど手に入れるのが困難らしい。それに加え、突然変異と言われる『光るカリディアの実』も、まず市場には出回らない希少なものだ。
 そのほかの素材はなんとか揃えられそうだが、この二つを果たして見つけることができるかどうか。王様の体調を考えると、あまり時間をかけるわけにもいかない。
 一応、一時的に症状を抑える薬は作れたから、それでしばらくはもつはずだが……
 それと、『闇呪薬師』の能力を調べていたところ、『惚れ薬』というものを作ることができるのが分かった。
 これを摂取すると、かたわらにいる人物に愛情を感じてしまう効果があるらしい。
 精神汚染の『魅了』とは少し違って無理やり操るほどの効果はないが、その代わり解除魔法ディスペルマジックでも解除できないという利点がある。
 王様に対して、メルディナ王妃は恐らくこの『惚れ薬』を使った気がする。そうでもない限り、前王妃が亡くなってすぐに新しい王妃をめとった説明がつかない。
 王様と前王妃の仲が睦まじかったのは、アルマカインの全国民が知る事実だったし。
 ……なんとなく全体像が見えてきたぞ。
 一年前に前王妃が亡くなり、すぐにメルディナ王妃が現れて再婚。間もなく王様の体調が悪くなり、王位継承問題が起こる。そしてラスティオンが裏切り、王女の命が狙われる。
 この一連の流れは、全て仕組まれたものだったということか。とすると、まさかとは思うが、前王妃が亡くなったのも偶然ではないのか……?
 もしそうなら、こんな大それたことをメルディア王妃とマクスウェル王子だけでできるとは思えない。何か大きな力が裏にある気がする……
 ちなみに、ラスティオンの反逆や死については、しばらく国民には内緒にすることにした。今発表すると衝撃が大きすぎるからだ。
 これについては王妃側にとっても都合がいいようで、同意見らしい。
 腐ってもラスティオンは英雄だったから、王妃の独断で処刑したなんて知られたくないのだろう。結構人気もあったしな。
 そして王様のことだけど、『惚れ薬』に関しては永続的な効果ではないから、このまま時間が経てばそのうち王様の愛も冷める――つまり正気に戻ると思う。
 よって『カタラ毒』さえ回復させれば、全てを解決できそうだ。

「よしっ、そうと決まれば、明日すぐに行動だ!」

 オレは『スマホ』を消して眠りにつく。
 翌日、朝一番にジーナたちのところに行くと、彼女たちに頼みごとをするのだった。


 ☆


「リューク、お前の言った『ドゥルケちょうの羽』を手に入れてきたぞ!」
「アタシも探してきたわ。『チャプナン草』ってコレでいいんでしょ?」
「私も『雷蜥蜴スタンリザードの尻尾』を手に入れたわ。さすが王都だけに、探せばなんとか見つかるものね。でも残念ながら、『カリディアの実』は通常のものしか売ってなかったけど……」

 王宮内のグリムラーゼ王女の部屋でオレと王女、ヒミカさんが待機していると、ユフィオ、ジーナ、キスティーが、解毒剤を作る素材を探して持ってきてくれた。
 三人に頼んだのは希少で高価なものばかりだったが、流通の盛んな王都だけに手に入れることができたようだ。

「みんなサンキュー! これでだいたい集まったよ。ただ残りの二つ、『クラティオ苔』と『光るカリディアの実』はやはり採取しに行かないとダメか……」

 ここまでは順調だが、予想通り王都だけで全ての素材を揃えるのは無理だった。
 もしかしてたまたま入荷してたなんて奇跡的な可能性に期待したんだが、さすがにそんなことはなかったらしい。
『カリディアの実』は普通のものならそれほど珍しくないんだが、となると、ごくたまにしか見かけることはない。『クラティオ苔』はさらに希少で、調べたところでは山奥の洞窟などに生えてるらしいが、これまた発見されることはほとんどない激レア素材だ。
 この王都で手に入らない以上、ここを離れて探しに行くしかないが……
『スマホ』の検索では、生育地の詳細な場所までは載ってないんだよなあ。そのため、ありそうなところをあちこち回ってみるしかない。
 世界のどこにあるか分からないだけに、できれば大勢の人を雇って人海戦術で探したいところだが、あの王妃のことを考えると、絶対的に信頼のおける人間じゃないと頼むことはできない。
 それに危険な山奥を歩き回ることになるから、相応の強さも求められる。これらの条件に合う人物なんて簡単には見つからないだろう。
 そもそも『クラティオ苔』が遠方にしか生育してなかったら絶望的だ。
 さてどうしたものか……
 頭を悩ませていたそのとき、黒装束を着た男がこの部屋に入ってきた。

「グリムラーゼ王女様、失礼いたします。ヒミカ様、書庫にある文献をしらみ潰しに漁ったところ、『クラティオ苔』についての記述が見つかりました!」

 入ってきたのは、王家に代々仕える忍者の一族――ヒミカさんの部下だった。
 男は興奮が収まらない様子で、持ってきた書物をヒミカさんに手渡す。

「本当か!? でかしたサノスケ! よくぞ見つけてくれた!」

 ヒミカさんは該当ページをすぐさま開き、書いてある詳細を無言で読んでいく。
 オレたちはそれを静かに見守りながら、ヒミカさんの言葉を待つ。

「……なんと、これは僥倖ぎょうこう! リューク殿、神は我らを見放してませんぞ。この王都からそう遠くないところで、『クラティオ苔』が手に入るかもしれませぬ」

 ヒミカさんの説明によると、このアルマカイン王都の東の山奥で、百年ほど前に『クラティオ苔』が発見されたという記録があるとのこと。
 この近辺にあるかもしれないというのは願ってもない情報だ。
 引き続きほかの入手手段も探しつつ、何はともあれそこへ行ってみるのが賢明だろう。

「東の山にはカリディアの木も自生しておりますので、上手くいけば『光るカリディアの実』も同時に手に入れることができるかもしれません」
「それは助かります。神様に感謝しないといけませんね」

 ヒミカさんの説明通りなら、一石二鳥に解決できる。どうなることか心配だったが、一気に前進したぞ。
 まあ実際入手できるかどうかはまだ分からないところだが。

「ただリューク殿、気懸きがかりなこともあるのです」

 希望に目を輝かせていたヒミカさんが、ふと表情を曇らせながら言葉を漏らした。

「気懸かりとはなんですか?」

 オレの質問に、ヒミカさんは腕を組みながら少し考え込み、やがて意を決したように話し始める。

「文献によると、『クラティオ苔』の生えていた洞窟には、人の力ではけっして勝つことが叶わぬ『闇の死神』がいたとのこと。『クラティオ苔』を発見した者たちは『闇の死神』に襲われ、その死に際にかろうじてこの情報は口伝されたようです」
「『闇の死神』……?」

 聞いたことがない存在だが、それはモンスターだろうか? エルダーリッチやデスゲイザーなどは『迷宮の死神』と呼ばれることもあるから、そのたぐいのモンスターかもしれない。
 だとすれば、今のオレなら互角以上に戦えるとは思うが……オレには火、水、土、風、光、闇の属性魔法や即死攻撃が効かないからな。
 ただ、人の力では絶対に勝てないという情報が気になる。
 エルダーリッチやデスゲイザーはかなり強敵ではあるが、人間が絶対に勝てないということはない。『闇の死神』に襲われた人が、その強さを大げさに評価しているだけなら、そう心配することはないかもしれないが……

「確かに、昔から東の山……ラモール山には死の神がんでいると言われているのです。なので、アルマカインの民はおろか、他国の人間もラモール山の奥に行くことはありません。『クラティオ苔』が滅多なことでは発見されないのは、そういう理由もあるのでしょう」

 ヒミカさんが情報の補足をしてくれる。

「なるほど……でも、そうと知っていても、行くしか手はありません。たとえ死神が待ち受けていようとも、必ず『クラティオ苔』を手に入れて帰りますよ」
「リューク殿……命を懸けさせて本当に申し訳ないが、あなただけが頼りです」
「任せてください!」

 オレは力強く返事をする。
『闇の死神』については百年前の記録だから、現在もいるかどうかは不明だし、すでに死んでいる可能性だってある。まあ手強てごわいモンスターは長寿が多いから、あまり気休めにならないけどな。

「よし、そうと決まれば出発の準備をしようぜ!」

 方針が決まったところで、ユフィオが気合いを入れて言葉を発した。ジーナとキスティーも力強く頷く。
 しかし、オレは三人を連れていくつもりはなかった。

「待ってくれみんな、今回はオレだけで行ってくる」
「なんでよっ!? アタシたちはチームでしょ!?」

 驚きの表情を見せるジーナたちに、オレの考えを伝える。

「王妃はオレの存在を邪魔と思ってるから、恐らくオレを狙ってくるとは思う。だがそれでも王様や王女様が心配だ。だから念のため、みんなはここに残って王様と王女様を守ってくれ」

 目星もない状態でやみくもに探すのではなく、場所が東の山と分かっているなら、オレ一人でもなんとかなるはずだ。
 それにジーナたちも東の山については詳しくないみたいだし、みんなで行ってもあまり効率良くなるとは思えない。むしろ、三人が足手まといになってしまう可能性すらある。
 それよりも、彼女たちには王宮を守っていてほしいところ。

「で、でも、リュークだけで行くのは心配だわ。『闇の死神』ってヤツも気になるし……」
「大丈夫だキスティー。オレは絶対負けたりしない」

 オレの言葉を聞いて、三人は顔を見合わせる。
 そして一呼吸置いてから笑顔を作り、オレに返答した。

「分かったわ。王都はアタシたちが守るから、リュークは安心して行ってきて」
「ありがとう、三人とも頼りにしてるよ。王女様、オレはしばらくここを離れますが、敵の動向には充分注意してください」
「わたくしは大丈夫です。リューク様、どうかお気をつけて……」
「リューク殿、ではよろしくお願いいたします」

 グリムラーゼ王女とヒミカさんの言葉にオレは頷く。
 先日の王妃とのやり取りで、王様や王女様を襲うメリットがあまりないことは王妃も理解しているはずだ。何はともあれ、オレを真っ先に始末しようとするに違いない。
 よって、王都のことはジーナたちに任せておけば問題ないだろう。
 そうと決まれば早速準備だ。といっても、大抵のアイテムは『スマホ』で撮ってあるから、今さら揃えるようなものはないが。
 問題は東の山の地理を全然知らないだけに、効率良く探せるかが不安だ。一応『スマホ』のマップ機能で地図は見れるんだが、素材探しはそんな単純なものじゃないからな。
 土地勘も必要になるかもしれないから、本当は道案内できる人がいてくれると助かるんだが……まあ頑張るしかない。


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