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1巻
1-3
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☆
「うおおおっ、こりゃすげえええ……」
改めて撮ったものを確認して、思わず感嘆の声を上げる。
これを全部現実に出せると思うと、嬉しすぎて興奮が止まらない。
「『エリクサー』ってのもコピーしたけど、これって確か凄い回復薬だよな?」
エリクサーの売値は金貨三百枚となっていた。
金貨一枚には銀貨十枚の価値があり、その銀貨一枚は銅貨十枚の価値がある。
一般人の年収は金貨三十枚ほどと言われているので、三百枚なら十年分の収入に匹敵する値段だ。
その金貨三百枚で売られていたエリクサーを、オレは試しに飲んでみる。
お? おお? おおおおおおおおおおっ!?
昨日ドラグレスに蹴られて折れまくってた歯が元通りに治った!
ほかにも、顎やあばらに残っていた痛みなども完全に消えた。
スゲー! さすがエリクサーだ! 酷い身体欠損以外はだいたい治るらしいからな。
MPも回復するから、実質これさえあればマジックポーションはいらないのか。
もっと凄い回復薬に『ハイパーエリクサー』ってのもあるらしいけど、それはダンジョンの深層とかでしか手に入らないから、一部の冒険者以外は目にすることがない超レアアイテムだ。
まあしかし、普通はこの程度の怪我には、エリクサーはもったいなくて使えない。そのワンランク下の『エクスポーション』どころか、さらに低ランクな『デラックスポーション』でも完治できそうだからだ。
エリクサーを何個でも量産できるオレだからこそ、こんな贅沢な使い方ができるってもんだ。
『スマホ』の能力は本当にとんでもないぞ。授けてくれた神様に心から感謝したい。
よっしゃ、体調も完全回復したし、次は冒険者のギフトとスキル獲得といこう!
えーと、まずは誰のステータスから見てみようか……おっ、この強そうな男からにしよう。
どれどれ、どんなのがあるかな?
……『上級剣士』、これはCランクギフトだ。これくらいのギフトを持っていれば、冒険者ランクもBランクくらいまでいけると聞く。
ただ、この男性の冒険者ランクについては、写真からの分析では分からない。『スマホ』の『鑑定』で分かるのは、持っているギフトやスキル、そしてステータス数値だけなので。
ちなみに、剣士系のギフトの格付けは……
SSランク 剣神
Sランク 剣聖
Aランク 剣鬼
Bランク 特級剣士
Cランク 上級剣士
Dランク 中級剣士
Eランク 下級剣士
となっている。
下級剣士でも、死ぬほど頑張ればBランク冒険者くらいにはなれるらしい。しかし、Sランク冒険者になるには剣聖のギフトが必要と言われている。
この人はほかにも『筋力(小)』や『見切り(小)』、『回避(小)』などのスキルを持っていたので、それもありがたく取得させてもらった。
これらのスキルは、MPを消費しない常時発動タイプのスキルだ。
スキルには、MPを消費しない常時発動タイプと、能力を使うときにMPを消費する随時発動タイプがある。気配を消して行動ができる『隠密』や、一瞬で移動できる『縮地』、遠くを見る『遠視眼』、敵を怯ませる『威圧』などが随時発動タイプだ。
ちなみに、(小)というのは効果の程度――その技能が少しアップするという意味。(小)、(中)、(大)、(特)、(極)、(神)という順に効果が高くなる。
たとえ効果が(小)でも、そのスキルを持っているだけで能力は大きく違ってくるため、そうバカにしたものでもない。
「んじゃあ次の人にいってみるか」
一人目は剣士を選んだので、二人目は魔導士っぽい女性を選んでみた。
予想通り魔導士で、『中級魔導士』というDランクギフトを持っていた。
魔導士系のギフトの格付けはこんな感じとなっている。
SSランク 魔帝
Sランク 魔導守護者
Aランク 魔導卿
Bランク 特級魔導士
Cランク 上級魔導士
Dランク 中級魔導士
Eランク 下級魔導士
彼女は火、風、土の三つの属性魔法のほか、『MP増量(小)』や『詠唱短縮(小)』、『火属性強化(小)』なども持っていたので、まとめて取得させてもらった。
これらのスキルもMPを消費しない常時発動タイプで、『火属性強化』は自分の火属性魔法の威力を上昇させ、『詠唱短縮』には呪文に必要な言葉を減らす効果がある。
ちなみに、属性魔法には火、水、風、土、光、闇、無、聖の八種類あるのだが、全種類使える人はまずいない。三属性使える彼女は、魔導士としては標準的な才能だ。
次は軽装で小柄な男。
雰囲気から盗賊だろうと思ったんだけど、なんと『忍者』というAランクギフトを持っていた。
敵の探知に優れていたり、自分の気配を消すのが上手かったりするので、不意打ちや暗殺向きの戦闘職だ。素早さも非常に高い。
盗賊系のギフトの格付けはこんな感じとなっている。
SSランク 闇神
Sランク 影忍
Aランク 忍者
Bランク 特級盗賊
Cランク 上級盗賊
Dランク 中級盗賊
Eランク 下級盗賊
彼からも『投刃(中)』や『素早さ(大)』、『探知(中)』、『隠密(大)』、『暗視(中)』、『縮地(大)』などいろんなスキルをもらう。
……と、ひたすらまめにスキルを取得していたところで、もっと効率のいいやり方に気付く。
上位のギフトやスキルを先に取得すれば、下位のものは必要ない。
例えば『上級剣士』があれば『下級剣士』はいらない。同じように、『回避(大)』があれば『回避(小)』はいらない。同じスキルはより上位の効果に上書きされるからだ。
ということは、まず最上位の人間から取得すれば、作業は捗る。
そして、その上位能力を持つ奴らに心当たりがある。
ドラグレスとゼナだ。彼らから上位のギフトやスキルをもらえばいいんだ!
「アイツら、屋敷にいるかな……?」
好き勝手に行動してる二人なので居場所が掴みにくいが、一応ゲスニクの屋敷にいることが多い。
何はともあれ行ってみるか。
オレは昨日追い出されたばかりの屋敷に向かった。
☆
ラッキーなことに、屋敷に着いてすぐドラグレスとゼナが門から出てきた。屋敷の近くで二~三時間は粘る覚悟をしてきたが、こいつはツイてる。
ただ、奴らに見つかっては大変だ。オレは取得したての『隠密(大)』を発動し、離れた場所に隠れながら、ドラグレスたちがもう少し近付いてくるまで待つ。
ある程度距離が近くないと、写真に撮っても『鑑定』ができないからだ。これは冒険者を撮りまくっていたときに気付いた事実だ。
これ以上近付かれるとヤバイというところで、ドラグレスとゼナを写す。確認すると、ステータスの分析もできているようだ。
用事が済んだので、オレは急いでそこから離脱した。
「うーん、やっぱスゲーな……」
【 名前 】 ドラグレス
【レベル】 131
【 HP 】 9520/9520
【 MP 】 1168/1168
【 筋力 】 2034
【素早さ】 1790
【器用さ】 1655
【耐久力】 2389
【 知力 】 470
【 魔力 】 451
【異常耐性】 1142
【魔法耐性】 680
【 幸運 】 276
ドラグレスのステータスを見て、そのあまりの優秀さにため息をつく。
レベルは131で、ギフトはSランクの『剣聖』。
そして取得しているほとんどのスキルが(大)にまで成長していて、(特)どころか(極)まで到達しているものもある。
ちなみに、剣士でも必殺技やスキルの使用には魔力を消費するので、MPの量は軽視できない。
数値から見る強さは軽くSランクレベル。ドラグレスに勝てる冒険者はそうはいないだろうな。
実は山賊になる前はSランク冒険者をやっていて、素行が悪すぎてクビになったという噂もあるけど、本当かもしれない。
相棒であるゼナのほうも負けず劣らず凄い。
【 名前 】 ゼナ
【レベル】 113
【 HP 】 2137/2137
【 MP 】 5948/5948
【 筋力 】 315
【素早さ】 677
【器用さ】 364
【耐久力】 390
【 知力 】 1775
【 魔力 】 2206
【異常耐性】 754
【魔法耐性】 1382
【 幸運 】 310
ゼナが授かったギフトはSランクの『魔導守護者』で、自身のレベルは113。
属性魔法も火、水、風、土、闇、無の六つを習得していて、最上位の第一階級魔法こそ持ってないようだが、第二階級魔法はかなり覚えている。
これもSランク冒険者級の実力だ。
第一~第十階級のランクがある魔法だが、第一階級魔法を使えるのは世界でも数人のみ。その威力は、ドラゴンすら軽く一撃で殺すほどだという。
ゼナがそれを持ってないのは幸いではあるが、そのおかげでオレも取得できないのは少し残念だ。
「それにしても、二人とも強いことは知ってたが、ここまでとは思わなかったぜ。こりゃぜってー勝てねえや……今のところはな」
現在レベル1のオレじゃ逆立ちしても勝つことはできないが、レベルを上げれば話は別だ。
ドラグレスとゼナのスキルは全部取得させてもらったし、そのうえドラグレスたちが持ってないスキルもオレは山ほど持っている。
レベルさえ追いつけば五分以上の勝負ができるはず。
ただ、本人が持つ戦闘のセンスも関わってくるので、同じスキルを持ってれば強さも同じってわけじゃない。
オレに戦闘の才能があるか分からないが、とにかく今は経験値を稼いでレベルアップしていくしかないな。
まあオレがレベル100を超えるのは当分先のことだろうけど。
こればっかりは『スマホ』でもどうにかなりそうもないしなあ……
次にドラグレスと揉めたときは絶対に勝ちたい。あんな惨めな思いはもうしたくない。
何があっても、大切なものを守れる男になるんだ。
オレは強くなることを心に誓う。
明日から本格的に冒険者活動をするため、今日の残りの時間は全て準備に費やすことにしたのだった。
第二章 超速成長
1.冒険者活動スタート
翌朝、オレはカーテンの隙間から差し込む朝日を浴びて目覚める。
お金をコピーで増やしたので、昨夜はちょっといい宿屋に泊まったのだが、生まれて初めてふかふかのベッドというものを体験した。
睡眠というのがこれほど心地よいものだったとは……
今日から本当にオレの新しい人生のスタートだ。
冒険者としての準備も万全だし、頑張って成り上がってやるぞ!
オレは宿の食堂で朝食をとると、早速冒険者ギルドに向かった。
ギルドに入って、一階フロアにある『依頼掲示板』のところへ行く。
そこには、現在受けることができる仕事の一覧が張り出されていて、受付で許可をもらえれば受諾確定となる。
もちろん、その仕事を達成可能かどうかの審査に落ちれば承認はされないが。
オレの場合は完全に初心者なので、信頼を得るまではごく簡単な仕事しか受けることができない。
簡単な仕事というのは例えば薬草採取や害虫駆除などで、モンスター討伐といった仕事をするにはどこかのチームに入れてもらうしかない。
そんなわけで、単独でのモンスター討伐は絶対許可してもらえないだろうから、自分で勝手に行くことにした。オレの目当てはモンスターを倒して得られる経験値だからな。
基本的には、ギルドの許可なしに依頼を受けることはできないが、勝手にモンスターを倒す分には問題ない。
ただし無許可なので、何を討伐しようとも報酬はもらえない。そのため、大抵の人は許可をもらってから仕事に向かうが、気の向くままにモンスター狩りをする変わり者も一応いる。
オレは変わり者というわけではないが、薬草採取なんかで時間を無駄にしたくないので、許可なしで行くことにしたのだ。
ちなみにギルドに来た目的は、オレでも倒せそうなモンスター討伐依頼を探すためだ。
ギルドにはモンスター棲息マップがあるので、それを見て危険度なども確認できる。
ちょうどいい具合にゴブリン退治の依頼があったので、地図で確認したあと、その場所に行ってみることにした。
☆
馬を借りて、目的地までひとっ走り。
数人のチームで移動するときは馬車を使うことが多いようだが、オレは一人なので単騎で走った。昨日『馬術』のスキルを取得していたので馬の扱いも大丈夫だ。
通行門から出るとき、一応オレは侯爵の息子だったので、ひょっとしたら門番に止められるかもと心配したが大丈夫だった。
ゲスニクと無関係になったことで、オレの存在は無視されているように感じる。
まあ、ありがたいことだ。
この調子なら、ゲスニクの領を離れてほかの場所に移ることもできそうだが、まずはここでやれる限り頑張ってみよう。
現地に着くと、そこは広い草原だった。
こういう場所には初めて来たな、風がとても気持ち良く感じる。
……と、悠長なことを考えていたら、ゴブリンが現れた。
おお、モンスター図鑑で見たのと同じ姿だ、とつい当たり前のことを考えてしまうオレ。
全てが新鮮で、なんとなくゴブリンすら愛しく感じてしまう。
初めての戦闘なのにこんなに余裕があるのも、昨日キッチリ準備したおかげである。
今のオレなら、たとえレベル1でもゴブリンなんて敵じゃない。装備もスキルも極上のものを持っているからだ。
恐らく、冒険者に必要なスキルはほとんど取得していると思う。
今オレが持っているギフトやスキルはこんな感じだ。
【ギフト】
『剣聖』『魔導守護者』『忍者』『特級戦士』『特級神官』『上級拳闘士』『上級弓術士』
【スキル】
『属性魔法:火・水・風・土・光・闇・無・聖』
『筋力(極)』『器用(大)』『回避(大)』『耐久(特)』『根性(大)』『素早さ(大)』
『見切り(特)』『魔力(特)』『看破(大)』『遠視眼(大)』『暗視(大)』『探知(大)』
『隠密(大)』『投刃(中)』『罠解除(大)』『威圧(大)』『縮地(大)』『追尾照準(中)』
『詠唱短縮(大)』『MP増量(特)』『馬術(中)』
……などなど。スキルはキリがないのでここで紹介しているのは一部だけだ。
属性魔法は八種類全部使えるようになった。
神官系と魔導士系では覚えられる属性が違うので、全種類使える人はまずいない。神官系は聖属性のみを習得し、そのほかの七属性は魔導士系のみが習得できるからだ。
ひょっとしたら、オレは世界初の全属性使いかもしれない。
ただ全属性使えるといっても、得意なものとそうでないものがあるので、使える階級には差がある状態だ。
それと、物理攻撃が主体の剣士や弓術士でも属性魔法を覚えることがある。
これは本人の資質がかなり関係してくるので、頑張っても覚えられない人も多いが、もし魔法を習得できたら、剣士は『聖騎士』や『魔導剣士』と呼ばれたり、弓術士は『聖弓士』や『魔導弓士』と呼ばれたりする。
オレは全属性が使える剣士なので、まず間違いなく史上初の存在だろう。
この様々なスキルの効果で、オレはステータス数値よりも実際には数倍の力が出せる状態だ。
スキルは戦っていくうちに成長するため、頑張ってより上のランクに上げていこうと思う。
一応、着ける装備は剣士系のものを主軸にした。オレはオールマイティーに戦えるが、まずは基本である剣での戦闘から始めたほうがいいと思ったからだ。
というか、オレのMPが低すぎて、魔導士として戦うのは今のところ不向きというのもある。
ゼナからスキルを取得したのでオレはSランクレベルの魔法も持っているが、現在のオレは最大MPが12なので、上位の魔法を使うことができない。特に今オレが持っている最高の魔法――第二階級魔法などは、MPが最低1000必要だ。
上位の魔法は当分おあずけということで、しばらくは剣士として頑張ろうと思ってる。
そのオレの装備だが、ギルドの店にあった最高のもの――アダマンタイト製の装備一式を着けている。剣ももちろんアダマンタイト製だ。
レベル1のオレにとってはかなり重いのだが、ドラグレスから取得した『筋力(極)』のおかげで問題なく動くことができる。
ちなみに、コピー出力したものは簡単に消すことも可能だ。よって、コピーしたことで何か問題が起こったら、消すという選択も一応ある。
あと検証して分かったのは、建物のような巨大なものはコピーで出せないということ。
一応コピーで出せるのは、持ち運びできるものに限られるようだ。
ゴブリンが目の前までやってきた。
思ったよりも速い動きだけど、スキルで動体視力が上がっているオレにはスローモーションと変わらない。
ゴブリンは手に持っていた棍棒を振り上げたが、オレは素早く剣を抜いて、ゴブリンを腹から真っ二つに斬り裂いた。
棍棒を振り上げたまま、ゴブリンの上半身が腰から離れて地に落ちる。
「スゲー、さすがSランクギフトの『剣聖』だ。まるで無駄な動きなんてせずに斬り殺せたぜ」
戦ったことのないオレでも、『剣聖』の凄さが分かった。
敵の動きに対し、体が勝手に最適な動作をしてくれる感じだ。
レベル1の今でも、多分オレは結構強いぞ。
死体となったゴブリンを『スマホ』で写して、そのステータスを確認しようとしたら、詳細を見ることができなかった。
生きてないと、その能力の『鑑定』ができないようだ。
考えてみれば、なんとなく納得だ。死んだ者は全能力が0になるだろうし。
ならば、とりあえず先に自分のレベルを上げよう。『鑑定』を優先して、うっかりピンチにはなりたくない。
ちなみに、モンスターは死ぬと、生命エネルギーと魔力を含んだ結晶――『魔石』をドロップする。
これは様々なものに利用されていて、基本的には強いモンスターほどその価値が高い。
ギルドに持っていけば買い取ってくれるので、オレはゴブリンから魔石を回収して荷物袋に入れる。こんなことをしなくても、金には困らないだろうけどな。
『探知(大)』によって、次のゴブリンも見つける。この『探知』スキルは常時発動タイプなので、放っておいても敵を探知してくれるから便利だ。
なお、MPを使ってスキルを強めると、精度を上げることも可能である。
ゴブリンは獲物を見つけて小走りで近寄ってくるが、これも簡単に一刀両断に斬り捨てる。
すると、オレの全身にギュンと力が巡った。レベルが2に上がったのだ。
モンスターを倒すと経験値がもらえるが、それは戦った人数で割って分配される。
つまり、単独で倒せば経験値を独り占めできるため、通常よりも早くレベルアップすることが可能だ。
オレはこの狙いもあって一人で来たのだった。
また次のゴブリンを探知する。
剣は試したので、今度は魔法で倒してみよう。
ゴブリン程度なら、威力の弱い第十階級魔法でも充分倒せる。
「『ファイア』っ!」
オレは少し離れた距離から火炎魔法を撃ち放つ。
中距離から攻撃できる魔法は、比較的安全にレベル上げできる方法だ。ただし、敵に近付かれてしまうと、接近戦のできない魔導士はピンチになってしまう。
オレの場合は剣でも戦えるのでまったく問題はないが。
火の魔法を喰らったゴブリンは、あっけなく絶命した。
この火力なら、もっと強いヤツでも一撃で殺せそうだな。
ゼナからコピーした『魔導守護者』ギフトはこれまたさすがで、魔法の威力も大幅に強化されているみたいだ。
次は弓で狙ってみた。
そこそこ距離はあったが、放った矢はあっさりゴブリンの頭部を射抜く。
まだレベル2のオレだが、スキルの補正によって命中率が大きく上昇しているので、中ランク冒険者くらいの狙撃精度はあるようだ。
まあ攻撃力はちょっと足らないけどな。
今度は『隠密』スキルを使って暗殺を試してみる。
『隠密』は随時発動タイプなので、MPを消費してスキルを発動し、自身の気配を消す。そのままゴブリンの背後に回り込んでスルスルと近付くと、後ろからその喉をサクッと斬り裂いた。
これだけ楽勝だと、戦闘もめっちゃ楽しいな。弱い者いじめをしてるようで少々気が咎めるが、自分が強いことを確認できて嬉しくなる。
オレは次から次へとゴブリンを倒し、自分のレベルを上げていく。
レベル5になったところで休憩し、一度ここまでのことを整理する。
アダマンタイトの剣は、ゴブリンが弱すぎてその斬れ味がイマイチよく分からない状態だ。
もっと手強い敵と戦ったら、その真価が分かるはず。
一応アダマンタイト製の盾も持っているのだが、自分には必要ない気がしてきた。
左手が埋まっているとどうも戦いづらいのだ。オレは弓も魔法も暗殺もできるので、盾は使わないほうがいい気がする。
さて、持っているスキルの検証もだいたいできたので、次の段階に進もう。
オレは『スマホ』でそこら辺をうろつくゴブリンを写してみた。安全重視で写真をあと回しにしていたが、レベル5まで上がればもう大丈夫。
ということで、写真に撮ってそのステータスを確認してみる。
……あれ、思ってたよりもいいステータスだな。弱いことには違いないけど、レベル1だと結構苦戦しそうな相手だぞ。
ゴブリンなら楽勝だろうと思ってここまで倒しに来たんだけど、少しナメた考えだったらしい。
レベル1なら、本来はゴブリンよりも弱いモンスターでレベリングするべきなんだろうな。昨日取得したたくさんのスキルたちに本当に感謝しないと。
……えっ? ちょっと待て!? ゴブリンのステータスにも『能力を取得』ってのが出てるぞ!
『嗅覚(小)』というスキルがその対象になっている。タップしてみると、人間相手と同じようにスキルを取得することができた。
おいおい……ってことは、オレはモンスターの能力も使えるようになるってこと!?
これは凄いぞ。モンスターのスキルを持ってる人なんて聞いたことがない。
そもそも、モンスターがどんなスキルを持っているのかすら誰も知らないだろうし。
こうなると、モンスターのスキルもコレクションしてみたくなった。
ここからもう少し行ったところに、確かノーマルスライムの棲息地があったよな?
物理攻撃の効かないスライムは意外に強敵で、油断すると手痛い目に遭ったりする。だから避けて、まずはゴブリンから挑戦してみたわけだけど、今なら大丈夫かもしれない。
上位のスライムはまだ危険だが、ノーマルスライムなら問題ないだろう。
せっかくここまで来たので、オレはスライムとも戦ってみることにした。
「うおおおっ、こりゃすげえええ……」
改めて撮ったものを確認して、思わず感嘆の声を上げる。
これを全部現実に出せると思うと、嬉しすぎて興奮が止まらない。
「『エリクサー』ってのもコピーしたけど、これって確か凄い回復薬だよな?」
エリクサーの売値は金貨三百枚となっていた。
金貨一枚には銀貨十枚の価値があり、その銀貨一枚は銅貨十枚の価値がある。
一般人の年収は金貨三十枚ほどと言われているので、三百枚なら十年分の収入に匹敵する値段だ。
その金貨三百枚で売られていたエリクサーを、オレは試しに飲んでみる。
お? おお? おおおおおおおおおおっ!?
昨日ドラグレスに蹴られて折れまくってた歯が元通りに治った!
ほかにも、顎やあばらに残っていた痛みなども完全に消えた。
スゲー! さすがエリクサーだ! 酷い身体欠損以外はだいたい治るらしいからな。
MPも回復するから、実質これさえあればマジックポーションはいらないのか。
もっと凄い回復薬に『ハイパーエリクサー』ってのもあるらしいけど、それはダンジョンの深層とかでしか手に入らないから、一部の冒険者以外は目にすることがない超レアアイテムだ。
まあしかし、普通はこの程度の怪我には、エリクサーはもったいなくて使えない。そのワンランク下の『エクスポーション』どころか、さらに低ランクな『デラックスポーション』でも完治できそうだからだ。
エリクサーを何個でも量産できるオレだからこそ、こんな贅沢な使い方ができるってもんだ。
『スマホ』の能力は本当にとんでもないぞ。授けてくれた神様に心から感謝したい。
よっしゃ、体調も完全回復したし、次は冒険者のギフトとスキル獲得といこう!
えーと、まずは誰のステータスから見てみようか……おっ、この強そうな男からにしよう。
どれどれ、どんなのがあるかな?
……『上級剣士』、これはCランクギフトだ。これくらいのギフトを持っていれば、冒険者ランクもBランクくらいまでいけると聞く。
ただ、この男性の冒険者ランクについては、写真からの分析では分からない。『スマホ』の『鑑定』で分かるのは、持っているギフトやスキル、そしてステータス数値だけなので。
ちなみに、剣士系のギフトの格付けは……
SSランク 剣神
Sランク 剣聖
Aランク 剣鬼
Bランク 特級剣士
Cランク 上級剣士
Dランク 中級剣士
Eランク 下級剣士
となっている。
下級剣士でも、死ぬほど頑張ればBランク冒険者くらいにはなれるらしい。しかし、Sランク冒険者になるには剣聖のギフトが必要と言われている。
この人はほかにも『筋力(小)』や『見切り(小)』、『回避(小)』などのスキルを持っていたので、それもありがたく取得させてもらった。
これらのスキルは、MPを消費しない常時発動タイプのスキルだ。
スキルには、MPを消費しない常時発動タイプと、能力を使うときにMPを消費する随時発動タイプがある。気配を消して行動ができる『隠密』や、一瞬で移動できる『縮地』、遠くを見る『遠視眼』、敵を怯ませる『威圧』などが随時発動タイプだ。
ちなみに、(小)というのは効果の程度――その技能が少しアップするという意味。(小)、(中)、(大)、(特)、(極)、(神)という順に効果が高くなる。
たとえ効果が(小)でも、そのスキルを持っているだけで能力は大きく違ってくるため、そうバカにしたものでもない。
「んじゃあ次の人にいってみるか」
一人目は剣士を選んだので、二人目は魔導士っぽい女性を選んでみた。
予想通り魔導士で、『中級魔導士』というDランクギフトを持っていた。
魔導士系のギフトの格付けはこんな感じとなっている。
SSランク 魔帝
Sランク 魔導守護者
Aランク 魔導卿
Bランク 特級魔導士
Cランク 上級魔導士
Dランク 中級魔導士
Eランク 下級魔導士
彼女は火、風、土の三つの属性魔法のほか、『MP増量(小)』や『詠唱短縮(小)』、『火属性強化(小)』なども持っていたので、まとめて取得させてもらった。
これらのスキルもMPを消費しない常時発動タイプで、『火属性強化』は自分の火属性魔法の威力を上昇させ、『詠唱短縮』には呪文に必要な言葉を減らす効果がある。
ちなみに、属性魔法には火、水、風、土、光、闇、無、聖の八種類あるのだが、全種類使える人はまずいない。三属性使える彼女は、魔導士としては標準的な才能だ。
次は軽装で小柄な男。
雰囲気から盗賊だろうと思ったんだけど、なんと『忍者』というAランクギフトを持っていた。
敵の探知に優れていたり、自分の気配を消すのが上手かったりするので、不意打ちや暗殺向きの戦闘職だ。素早さも非常に高い。
盗賊系のギフトの格付けはこんな感じとなっている。
SSランク 闇神
Sランク 影忍
Aランク 忍者
Bランク 特級盗賊
Cランク 上級盗賊
Dランク 中級盗賊
Eランク 下級盗賊
彼からも『投刃(中)』や『素早さ(大)』、『探知(中)』、『隠密(大)』、『暗視(中)』、『縮地(大)』などいろんなスキルをもらう。
……と、ひたすらまめにスキルを取得していたところで、もっと効率のいいやり方に気付く。
上位のギフトやスキルを先に取得すれば、下位のものは必要ない。
例えば『上級剣士』があれば『下級剣士』はいらない。同じように、『回避(大)』があれば『回避(小)』はいらない。同じスキルはより上位の効果に上書きされるからだ。
ということは、まず最上位の人間から取得すれば、作業は捗る。
そして、その上位能力を持つ奴らに心当たりがある。
ドラグレスとゼナだ。彼らから上位のギフトやスキルをもらえばいいんだ!
「アイツら、屋敷にいるかな……?」
好き勝手に行動してる二人なので居場所が掴みにくいが、一応ゲスニクの屋敷にいることが多い。
何はともあれ行ってみるか。
オレは昨日追い出されたばかりの屋敷に向かった。
☆
ラッキーなことに、屋敷に着いてすぐドラグレスとゼナが門から出てきた。屋敷の近くで二~三時間は粘る覚悟をしてきたが、こいつはツイてる。
ただ、奴らに見つかっては大変だ。オレは取得したての『隠密(大)』を発動し、離れた場所に隠れながら、ドラグレスたちがもう少し近付いてくるまで待つ。
ある程度距離が近くないと、写真に撮っても『鑑定』ができないからだ。これは冒険者を撮りまくっていたときに気付いた事実だ。
これ以上近付かれるとヤバイというところで、ドラグレスとゼナを写す。確認すると、ステータスの分析もできているようだ。
用事が済んだので、オレは急いでそこから離脱した。
「うーん、やっぱスゲーな……」
【 名前 】 ドラグレス
【レベル】 131
【 HP 】 9520/9520
【 MP 】 1168/1168
【 筋力 】 2034
【素早さ】 1790
【器用さ】 1655
【耐久力】 2389
【 知力 】 470
【 魔力 】 451
【異常耐性】 1142
【魔法耐性】 680
【 幸運 】 276
ドラグレスのステータスを見て、そのあまりの優秀さにため息をつく。
レベルは131で、ギフトはSランクの『剣聖』。
そして取得しているほとんどのスキルが(大)にまで成長していて、(特)どころか(極)まで到達しているものもある。
ちなみに、剣士でも必殺技やスキルの使用には魔力を消費するので、MPの量は軽視できない。
数値から見る強さは軽くSランクレベル。ドラグレスに勝てる冒険者はそうはいないだろうな。
実は山賊になる前はSランク冒険者をやっていて、素行が悪すぎてクビになったという噂もあるけど、本当かもしれない。
相棒であるゼナのほうも負けず劣らず凄い。
【 名前 】 ゼナ
【レベル】 113
【 HP 】 2137/2137
【 MP 】 5948/5948
【 筋力 】 315
【素早さ】 677
【器用さ】 364
【耐久力】 390
【 知力 】 1775
【 魔力 】 2206
【異常耐性】 754
【魔法耐性】 1382
【 幸運 】 310
ゼナが授かったギフトはSランクの『魔導守護者』で、自身のレベルは113。
属性魔法も火、水、風、土、闇、無の六つを習得していて、最上位の第一階級魔法こそ持ってないようだが、第二階級魔法はかなり覚えている。
これもSランク冒険者級の実力だ。
第一~第十階級のランクがある魔法だが、第一階級魔法を使えるのは世界でも数人のみ。その威力は、ドラゴンすら軽く一撃で殺すほどだという。
ゼナがそれを持ってないのは幸いではあるが、そのおかげでオレも取得できないのは少し残念だ。
「それにしても、二人とも強いことは知ってたが、ここまでとは思わなかったぜ。こりゃぜってー勝てねえや……今のところはな」
現在レベル1のオレじゃ逆立ちしても勝つことはできないが、レベルを上げれば話は別だ。
ドラグレスとゼナのスキルは全部取得させてもらったし、そのうえドラグレスたちが持ってないスキルもオレは山ほど持っている。
レベルさえ追いつけば五分以上の勝負ができるはず。
ただ、本人が持つ戦闘のセンスも関わってくるので、同じスキルを持ってれば強さも同じってわけじゃない。
オレに戦闘の才能があるか分からないが、とにかく今は経験値を稼いでレベルアップしていくしかないな。
まあオレがレベル100を超えるのは当分先のことだろうけど。
こればっかりは『スマホ』でもどうにかなりそうもないしなあ……
次にドラグレスと揉めたときは絶対に勝ちたい。あんな惨めな思いはもうしたくない。
何があっても、大切なものを守れる男になるんだ。
オレは強くなることを心に誓う。
明日から本格的に冒険者活動をするため、今日の残りの時間は全て準備に費やすことにしたのだった。
第二章 超速成長
1.冒険者活動スタート
翌朝、オレはカーテンの隙間から差し込む朝日を浴びて目覚める。
お金をコピーで増やしたので、昨夜はちょっといい宿屋に泊まったのだが、生まれて初めてふかふかのベッドというものを体験した。
睡眠というのがこれほど心地よいものだったとは……
今日から本当にオレの新しい人生のスタートだ。
冒険者としての準備も万全だし、頑張って成り上がってやるぞ!
オレは宿の食堂で朝食をとると、早速冒険者ギルドに向かった。
ギルドに入って、一階フロアにある『依頼掲示板』のところへ行く。
そこには、現在受けることができる仕事の一覧が張り出されていて、受付で許可をもらえれば受諾確定となる。
もちろん、その仕事を達成可能かどうかの審査に落ちれば承認はされないが。
オレの場合は完全に初心者なので、信頼を得るまではごく簡単な仕事しか受けることができない。
簡単な仕事というのは例えば薬草採取や害虫駆除などで、モンスター討伐といった仕事をするにはどこかのチームに入れてもらうしかない。
そんなわけで、単独でのモンスター討伐は絶対許可してもらえないだろうから、自分で勝手に行くことにした。オレの目当てはモンスターを倒して得られる経験値だからな。
基本的には、ギルドの許可なしに依頼を受けることはできないが、勝手にモンスターを倒す分には問題ない。
ただし無許可なので、何を討伐しようとも報酬はもらえない。そのため、大抵の人は許可をもらってから仕事に向かうが、気の向くままにモンスター狩りをする変わり者も一応いる。
オレは変わり者というわけではないが、薬草採取なんかで時間を無駄にしたくないので、許可なしで行くことにしたのだ。
ちなみにギルドに来た目的は、オレでも倒せそうなモンスター討伐依頼を探すためだ。
ギルドにはモンスター棲息マップがあるので、それを見て危険度なども確認できる。
ちょうどいい具合にゴブリン退治の依頼があったので、地図で確認したあと、その場所に行ってみることにした。
☆
馬を借りて、目的地までひとっ走り。
数人のチームで移動するときは馬車を使うことが多いようだが、オレは一人なので単騎で走った。昨日『馬術』のスキルを取得していたので馬の扱いも大丈夫だ。
通行門から出るとき、一応オレは侯爵の息子だったので、ひょっとしたら門番に止められるかもと心配したが大丈夫だった。
ゲスニクと無関係になったことで、オレの存在は無視されているように感じる。
まあ、ありがたいことだ。
この調子なら、ゲスニクの領を離れてほかの場所に移ることもできそうだが、まずはここでやれる限り頑張ってみよう。
現地に着くと、そこは広い草原だった。
こういう場所には初めて来たな、風がとても気持ち良く感じる。
……と、悠長なことを考えていたら、ゴブリンが現れた。
おお、モンスター図鑑で見たのと同じ姿だ、とつい当たり前のことを考えてしまうオレ。
全てが新鮮で、なんとなくゴブリンすら愛しく感じてしまう。
初めての戦闘なのにこんなに余裕があるのも、昨日キッチリ準備したおかげである。
今のオレなら、たとえレベル1でもゴブリンなんて敵じゃない。装備もスキルも極上のものを持っているからだ。
恐らく、冒険者に必要なスキルはほとんど取得していると思う。
今オレが持っているギフトやスキルはこんな感じだ。
【ギフト】
『剣聖』『魔導守護者』『忍者』『特級戦士』『特級神官』『上級拳闘士』『上級弓術士』
【スキル】
『属性魔法:火・水・風・土・光・闇・無・聖』
『筋力(極)』『器用(大)』『回避(大)』『耐久(特)』『根性(大)』『素早さ(大)』
『見切り(特)』『魔力(特)』『看破(大)』『遠視眼(大)』『暗視(大)』『探知(大)』
『隠密(大)』『投刃(中)』『罠解除(大)』『威圧(大)』『縮地(大)』『追尾照準(中)』
『詠唱短縮(大)』『MP増量(特)』『馬術(中)』
……などなど。スキルはキリがないのでここで紹介しているのは一部だけだ。
属性魔法は八種類全部使えるようになった。
神官系と魔導士系では覚えられる属性が違うので、全種類使える人はまずいない。神官系は聖属性のみを習得し、そのほかの七属性は魔導士系のみが習得できるからだ。
ひょっとしたら、オレは世界初の全属性使いかもしれない。
ただ全属性使えるといっても、得意なものとそうでないものがあるので、使える階級には差がある状態だ。
それと、物理攻撃が主体の剣士や弓術士でも属性魔法を覚えることがある。
これは本人の資質がかなり関係してくるので、頑張っても覚えられない人も多いが、もし魔法を習得できたら、剣士は『聖騎士』や『魔導剣士』と呼ばれたり、弓術士は『聖弓士』や『魔導弓士』と呼ばれたりする。
オレは全属性が使える剣士なので、まず間違いなく史上初の存在だろう。
この様々なスキルの効果で、オレはステータス数値よりも実際には数倍の力が出せる状態だ。
スキルは戦っていくうちに成長するため、頑張ってより上のランクに上げていこうと思う。
一応、着ける装備は剣士系のものを主軸にした。オレはオールマイティーに戦えるが、まずは基本である剣での戦闘から始めたほうがいいと思ったからだ。
というか、オレのMPが低すぎて、魔導士として戦うのは今のところ不向きというのもある。
ゼナからスキルを取得したのでオレはSランクレベルの魔法も持っているが、現在のオレは最大MPが12なので、上位の魔法を使うことができない。特に今オレが持っている最高の魔法――第二階級魔法などは、MPが最低1000必要だ。
上位の魔法は当分おあずけということで、しばらくは剣士として頑張ろうと思ってる。
そのオレの装備だが、ギルドの店にあった最高のもの――アダマンタイト製の装備一式を着けている。剣ももちろんアダマンタイト製だ。
レベル1のオレにとってはかなり重いのだが、ドラグレスから取得した『筋力(極)』のおかげで問題なく動くことができる。
ちなみに、コピー出力したものは簡単に消すことも可能だ。よって、コピーしたことで何か問題が起こったら、消すという選択も一応ある。
あと検証して分かったのは、建物のような巨大なものはコピーで出せないということ。
一応コピーで出せるのは、持ち運びできるものに限られるようだ。
ゴブリンが目の前までやってきた。
思ったよりも速い動きだけど、スキルで動体視力が上がっているオレにはスローモーションと変わらない。
ゴブリンは手に持っていた棍棒を振り上げたが、オレは素早く剣を抜いて、ゴブリンを腹から真っ二つに斬り裂いた。
棍棒を振り上げたまま、ゴブリンの上半身が腰から離れて地に落ちる。
「スゲー、さすがSランクギフトの『剣聖』だ。まるで無駄な動きなんてせずに斬り殺せたぜ」
戦ったことのないオレでも、『剣聖』の凄さが分かった。
敵の動きに対し、体が勝手に最適な動作をしてくれる感じだ。
レベル1の今でも、多分オレは結構強いぞ。
死体となったゴブリンを『スマホ』で写して、そのステータスを確認しようとしたら、詳細を見ることができなかった。
生きてないと、その能力の『鑑定』ができないようだ。
考えてみれば、なんとなく納得だ。死んだ者は全能力が0になるだろうし。
ならば、とりあえず先に自分のレベルを上げよう。『鑑定』を優先して、うっかりピンチにはなりたくない。
ちなみに、モンスターは死ぬと、生命エネルギーと魔力を含んだ結晶――『魔石』をドロップする。
これは様々なものに利用されていて、基本的には強いモンスターほどその価値が高い。
ギルドに持っていけば買い取ってくれるので、オレはゴブリンから魔石を回収して荷物袋に入れる。こんなことをしなくても、金には困らないだろうけどな。
『探知(大)』によって、次のゴブリンも見つける。この『探知』スキルは常時発動タイプなので、放っておいても敵を探知してくれるから便利だ。
なお、MPを使ってスキルを強めると、精度を上げることも可能である。
ゴブリンは獲物を見つけて小走りで近寄ってくるが、これも簡単に一刀両断に斬り捨てる。
すると、オレの全身にギュンと力が巡った。レベルが2に上がったのだ。
モンスターを倒すと経験値がもらえるが、それは戦った人数で割って分配される。
つまり、単独で倒せば経験値を独り占めできるため、通常よりも早くレベルアップすることが可能だ。
オレはこの狙いもあって一人で来たのだった。
また次のゴブリンを探知する。
剣は試したので、今度は魔法で倒してみよう。
ゴブリン程度なら、威力の弱い第十階級魔法でも充分倒せる。
「『ファイア』っ!」
オレは少し離れた距離から火炎魔法を撃ち放つ。
中距離から攻撃できる魔法は、比較的安全にレベル上げできる方法だ。ただし、敵に近付かれてしまうと、接近戦のできない魔導士はピンチになってしまう。
オレの場合は剣でも戦えるのでまったく問題はないが。
火の魔法を喰らったゴブリンは、あっけなく絶命した。
この火力なら、もっと強いヤツでも一撃で殺せそうだな。
ゼナからコピーした『魔導守護者』ギフトはこれまたさすがで、魔法の威力も大幅に強化されているみたいだ。
次は弓で狙ってみた。
そこそこ距離はあったが、放った矢はあっさりゴブリンの頭部を射抜く。
まだレベル2のオレだが、スキルの補正によって命中率が大きく上昇しているので、中ランク冒険者くらいの狙撃精度はあるようだ。
まあ攻撃力はちょっと足らないけどな。
今度は『隠密』スキルを使って暗殺を試してみる。
『隠密』は随時発動タイプなので、MPを消費してスキルを発動し、自身の気配を消す。そのままゴブリンの背後に回り込んでスルスルと近付くと、後ろからその喉をサクッと斬り裂いた。
これだけ楽勝だと、戦闘もめっちゃ楽しいな。弱い者いじめをしてるようで少々気が咎めるが、自分が強いことを確認できて嬉しくなる。
オレは次から次へとゴブリンを倒し、自分のレベルを上げていく。
レベル5になったところで休憩し、一度ここまでのことを整理する。
アダマンタイトの剣は、ゴブリンが弱すぎてその斬れ味がイマイチよく分からない状態だ。
もっと手強い敵と戦ったら、その真価が分かるはず。
一応アダマンタイト製の盾も持っているのだが、自分には必要ない気がしてきた。
左手が埋まっているとどうも戦いづらいのだ。オレは弓も魔法も暗殺もできるので、盾は使わないほうがいい気がする。
さて、持っているスキルの検証もだいたいできたので、次の段階に進もう。
オレは『スマホ』でそこら辺をうろつくゴブリンを写してみた。安全重視で写真をあと回しにしていたが、レベル5まで上がればもう大丈夫。
ということで、写真に撮ってそのステータスを確認してみる。
……あれ、思ってたよりもいいステータスだな。弱いことには違いないけど、レベル1だと結構苦戦しそうな相手だぞ。
ゴブリンなら楽勝だろうと思ってここまで倒しに来たんだけど、少しナメた考えだったらしい。
レベル1なら、本来はゴブリンよりも弱いモンスターでレベリングするべきなんだろうな。昨日取得したたくさんのスキルたちに本当に感謝しないと。
……えっ? ちょっと待て!? ゴブリンのステータスにも『能力を取得』ってのが出てるぞ!
『嗅覚(小)』というスキルがその対象になっている。タップしてみると、人間相手と同じようにスキルを取得することができた。
おいおい……ってことは、オレはモンスターの能力も使えるようになるってこと!?
これは凄いぞ。モンスターのスキルを持ってる人なんて聞いたことがない。
そもそも、モンスターがどんなスキルを持っているのかすら誰も知らないだろうし。
こうなると、モンスターのスキルもコレクションしてみたくなった。
ここからもう少し行ったところに、確かノーマルスライムの棲息地があったよな?
物理攻撃の効かないスライムは意外に強敵で、油断すると手痛い目に遭ったりする。だから避けて、まずはゴブリンから挑戦してみたわけだけど、今なら大丈夫かもしれない。
上位のスライムはまだ危険だが、ノーマルスライムなら問題ないだろう。
せっかくここまで来たので、オレはスライムとも戦ってみることにした。
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