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闘う者
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俺の精神がだいぶマシになってきたと大人達が判断したようで、拘束が解かれた。
病室のテレビを観て知ったが、大量のドラッグ研究員達が失踪しているらしい。
あっくんが派手にやりすぎたというのは、こういう意味だったのか。
別に、ここまでしなくても良かったのに。
でも、きっと、亮真さんの敵もとってくれたのだろう。
世間ではかなり大ごとになっているようで、警察が血眼で捜査しているようだ。
俺の病室に事情聴取に来た真田刑事から教えてもらった。
東刑事は引き続き捜査をしているようだ。
あの時は取り乱して悪かったと、俺に謝っていたという。
真田刑事の話で、この病院に入院しているもう一人の患者について知った。
薫さんだ。
俺は真田刑事に無理を言って、薫さんが入院している病棟へ連れて行ってもらった。
そして、廊下で奇声を上げている彼女を見つけた。
艶のあった明るい茶髪は、錆びた色に変色していた。
目の下に濃いくまができて、やつれていた。
廊下で暴れまわっている彼女は、三人の男性看護師に抱えられて病室へと連れ戻されていく。
どうすることもできないくせに、俺は薫さんのもとへ駆け出そうとした。
けれど、真田刑事と貫禄のある看護師長の女性に止められた。
「どうにかできないんですか。ドラッグをあげたらダメなんですか?」
「軽い薬はあげているけど、心を治す為には時間が必要なのよ」
「だったら、エムクラッシュをあげて、全部忘れさせてあげればいいじゃないですか!」
看護師長が驚いた表情をする。
そして、眉間に皺を寄せた。
「あなた、院長のご子息よね。だから、そんなドラッグの名前を知っているのかしら。でもね、それは違法ドラッグよ」
「でも、違法でも必要な場合があるじゃないですか」
俺ならアンジェラの店でもらえるかもしれない。
「エムクラッシュが、どうして違法ドラッグに指定されたか分かる?」
「全てを忘れてしまうからだろ。でも、あの状態なら全部忘れた方がマシだ」
看護師長が俺の目を真正面から見つめる。
「私達人間は、現実と向き合う決意をしたからよ。彼女は今、闘っているの。それを邪魔してはいけないわ」
看護師長の鋭い瞳に射抜かれて、俺は何も言えなくなってしまった。
俺に、薫さんの記憶全てを奪う権利は無い。
彼女がそれを望んでいるかも分からない。
いや、彼女は強いから、きっと闘う道を選んだ。
最後に俺に会いに来てくれた日も、死なずに済むと言っていたから。
自分の病室に戻る途中で、真田刑事が俺に板ガムをくれた。
「ドラッグは、やめたんですか?」
「やめるわけないだろ。ドラッグ過剰摂取した君にあげないだけ。退院したら俺のオススメ教えてあげるから、それまでお預けだ」
そりゃそうか。
真田刑事も、ちゃんと常識人で大人だった。
俺からはこれ以上情報を引き出せないと判断されたようで、それ以来俺の病室に警察は来なかった。
俺がドロップヘヴンを服用したことも、警察から咎められていない。
大人達はどうしても、俺を被害者にしたいようだった。
誘拐されて、脅されてドラッグを強要されたと事実を捻じ曲げられた。
俺が何を言っても心神喪失状態ということで、片づけられた。
あっくんが処理してしまったから、誘拐犯二人に関しても迷宮入りしそうだ。
ホノカは結局偽名で、素性が分からない女だったらしい。
研究員の男は名前すら知らない。
ネットで調べれば、奥さんが夫を探す為に作ったサイトが出てくるかもしれないが、俺は検索しないことに決めた。
俺が口を閉ざすことで、研究員の家族は犯罪者の親族というレッテルを貼られずに済む。
そして、俺は徐々に回復してしまい、親族ではなくても見舞の許可がおりた。
病室のテレビを観て知ったが、大量のドラッグ研究員達が失踪しているらしい。
あっくんが派手にやりすぎたというのは、こういう意味だったのか。
別に、ここまでしなくても良かったのに。
でも、きっと、亮真さんの敵もとってくれたのだろう。
世間ではかなり大ごとになっているようで、警察が血眼で捜査しているようだ。
俺の病室に事情聴取に来た真田刑事から教えてもらった。
東刑事は引き続き捜査をしているようだ。
あの時は取り乱して悪かったと、俺に謝っていたという。
真田刑事の話で、この病院に入院しているもう一人の患者について知った。
薫さんだ。
俺は真田刑事に無理を言って、薫さんが入院している病棟へ連れて行ってもらった。
そして、廊下で奇声を上げている彼女を見つけた。
艶のあった明るい茶髪は、錆びた色に変色していた。
目の下に濃いくまができて、やつれていた。
廊下で暴れまわっている彼女は、三人の男性看護師に抱えられて病室へと連れ戻されていく。
どうすることもできないくせに、俺は薫さんのもとへ駆け出そうとした。
けれど、真田刑事と貫禄のある看護師長の女性に止められた。
「どうにかできないんですか。ドラッグをあげたらダメなんですか?」
「軽い薬はあげているけど、心を治す為には時間が必要なのよ」
「だったら、エムクラッシュをあげて、全部忘れさせてあげればいいじゃないですか!」
看護師長が驚いた表情をする。
そして、眉間に皺を寄せた。
「あなた、院長のご子息よね。だから、そんなドラッグの名前を知っているのかしら。でもね、それは違法ドラッグよ」
「でも、違法でも必要な場合があるじゃないですか」
俺ならアンジェラの店でもらえるかもしれない。
「エムクラッシュが、どうして違法ドラッグに指定されたか分かる?」
「全てを忘れてしまうからだろ。でも、あの状態なら全部忘れた方がマシだ」
看護師長が俺の目を真正面から見つめる。
「私達人間は、現実と向き合う決意をしたからよ。彼女は今、闘っているの。それを邪魔してはいけないわ」
看護師長の鋭い瞳に射抜かれて、俺は何も言えなくなってしまった。
俺に、薫さんの記憶全てを奪う権利は無い。
彼女がそれを望んでいるかも分からない。
いや、彼女は強いから、きっと闘う道を選んだ。
最後に俺に会いに来てくれた日も、死なずに済むと言っていたから。
自分の病室に戻る途中で、真田刑事が俺に板ガムをくれた。
「ドラッグは、やめたんですか?」
「やめるわけないだろ。ドラッグ過剰摂取した君にあげないだけ。退院したら俺のオススメ教えてあげるから、それまでお預けだ」
そりゃそうか。
真田刑事も、ちゃんと常識人で大人だった。
俺からはこれ以上情報を引き出せないと判断されたようで、それ以来俺の病室に警察は来なかった。
俺がドロップヘヴンを服用したことも、警察から咎められていない。
大人達はどうしても、俺を被害者にしたいようだった。
誘拐されて、脅されてドラッグを強要されたと事実を捻じ曲げられた。
俺が何を言っても心神喪失状態ということで、片づけられた。
あっくんが処理してしまったから、誘拐犯二人に関しても迷宮入りしそうだ。
ホノカは結局偽名で、素性が分からない女だったらしい。
研究員の男は名前すら知らない。
ネットで調べれば、奥さんが夫を探す為に作ったサイトが出てくるかもしれないが、俺は検索しないことに決めた。
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