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あっくんとさよなら
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目が覚めるとそこは暗闇の中だった。
ベッドに横たわり、両手足を拘束されている。
ホノカと白衣の男に誘拐された日を思い出してぞっとした。
近くに誰かが立っている。
目が慣れてくると、その顔が見えた。
幾何学模様が描かれている。
そんな人、一人しか知らない。
「あっくん。久しぶり」
「ああ」
あっくんはベッド上のテーブルに、コンビニのビニール袋を置いた。
ここは病室なのか。
「お見舞いの、おにぎり」
あっくんは、おにぎりが好きなんだな。
「あっくんは最初から俺を死なせるつもりはなかったんだね。死にたかった俺の脳内をエデンで元に戻そうとしたんだろ」
「違う。やっくんの望みは叶えるつもりだった。ただ、時間稼ぎをしただけ」
「どういうこと?」
「手っ取り早く死ねるドラッグが開発されるまで、待ってもらおうと思った。今あるドラッグで死ぬのは苦しいから」
あっくんは一家心中の生き残りだ。
天野が前に話していた家族の一人。
あっくんの兄は自殺して、自分は父親に殺されかけた。
無理やりドラッグを飲まされて、苦しんで、たった一人生き残ってしまった。
きっと壮絶な人生だったのだろう。
それでも、こうして生きている。
「あっくんは、どうして俺と友達になってくれたんだっけ? あんまり覚えてないんだ」
「やっくんが、おにぎりをくれたから」
「そうだっけ?」
「野垂れ死にしそうになっていた俺に、やっくんは自分のおにぎりを分けてくれた。俺は覚えている。絶対に忘れない。それに、俺も友達が欲しかった。一緒に遊んだのは楽しかった」
あっくんが少しだけ笑ったように見えた。
見間違えかな。
「あっくんは、天野っていう役人と、東っていう刑事を知っている?」
「東は知らない。天野は入国管理局の局長だ。ヤタガラスと提携しているから、俺にも協力的だ」
天野の父親があっくんに協力的なのは、違う感情もあるはずだ。
あっくんは知らないのか。
「俺の母親を殺したのはどうして? 俺に殺させない為?」
「いや。感情に身を任せただけ。やっくんの包丁じゃ母親を殺せなかった。子供用の先が丸いものだったから」
そっか。
あの包丁は俺の為に、母親が買ってくれたものだ。
俺が稼いだ金だろうけど。
「感情的に人を殺すことは、始末屋としては失格。今は一流になったつもりだった。でも、人は簡単に変わらない。ニュース見た?」
俺は首を横に振った。
最近はあまりテレビを観なくなってしまった。
「派手にやりすぎた。しばらく、海外に身を隠す。今日はお別れを言いに来た」
「待って! 俺も連れて行って」
「ダメ」
「俺じゃ足手まといになるから? その時は、その場で俺を捨ててもいいから」
俺はあっくんの腕を掴みたかった。
でも、拘束されていて無理だった。
あっくんは首を横に振るだけ。
「どうして、母親の死体を残したんだよ。あれさえ見つからなければ、叔父さんに知られずに済んだのに」
「やっくんが、そうしろって言った。いつかお墓を作ってあげたいって言っていた」
昔の俺の馬鹿。
「母親の死体をさらして、見せしめにすれば、やっくんを狙う人間がいなくなると思った。俺の考えが甘かった。傷つけたなら、ごめん」
母親の死体が今更出てきたのは、あっくんのせいか。
本当に余計なことだったよ。
「でもこれでやっくんは、昔みたいにお日様の下で笑える」
太陽なんか嫌いだ。
どんなに身を隠しても俺を見つけ出して、強烈な熱で照らしてくる。
どうせ生きなければならないなら、穏やかな闇の中にいたい。
「また、いつか」
あっくんは一瞬俺の頭を撫で、そして暗闇に溶けて行った。
俺はそのまま、一晩中その闇を見つめていた。
ベッドに横たわり、両手足を拘束されている。
ホノカと白衣の男に誘拐された日を思い出してぞっとした。
近くに誰かが立っている。
目が慣れてくると、その顔が見えた。
幾何学模様が描かれている。
そんな人、一人しか知らない。
「あっくん。久しぶり」
「ああ」
あっくんはベッド上のテーブルに、コンビニのビニール袋を置いた。
ここは病室なのか。
「お見舞いの、おにぎり」
あっくんは、おにぎりが好きなんだな。
「あっくんは最初から俺を死なせるつもりはなかったんだね。死にたかった俺の脳内をエデンで元に戻そうとしたんだろ」
「違う。やっくんの望みは叶えるつもりだった。ただ、時間稼ぎをしただけ」
「どういうこと?」
「手っ取り早く死ねるドラッグが開発されるまで、待ってもらおうと思った。今あるドラッグで死ぬのは苦しいから」
あっくんは一家心中の生き残りだ。
天野が前に話していた家族の一人。
あっくんの兄は自殺して、自分は父親に殺されかけた。
無理やりドラッグを飲まされて、苦しんで、たった一人生き残ってしまった。
きっと壮絶な人生だったのだろう。
それでも、こうして生きている。
「あっくんは、どうして俺と友達になってくれたんだっけ? あんまり覚えてないんだ」
「やっくんが、おにぎりをくれたから」
「そうだっけ?」
「野垂れ死にしそうになっていた俺に、やっくんは自分のおにぎりを分けてくれた。俺は覚えている。絶対に忘れない。それに、俺も友達が欲しかった。一緒に遊んだのは楽しかった」
あっくんが少しだけ笑ったように見えた。
見間違えかな。
「あっくんは、天野っていう役人と、東っていう刑事を知っている?」
「東は知らない。天野は入国管理局の局長だ。ヤタガラスと提携しているから、俺にも協力的だ」
天野の父親があっくんに協力的なのは、違う感情もあるはずだ。
あっくんは知らないのか。
「俺の母親を殺したのはどうして? 俺に殺させない為?」
「いや。感情に身を任せただけ。やっくんの包丁じゃ母親を殺せなかった。子供用の先が丸いものだったから」
そっか。
あの包丁は俺の為に、母親が買ってくれたものだ。
俺が稼いだ金だろうけど。
「感情的に人を殺すことは、始末屋としては失格。今は一流になったつもりだった。でも、人は簡単に変わらない。ニュース見た?」
俺は首を横に振った。
最近はあまりテレビを観なくなってしまった。
「派手にやりすぎた。しばらく、海外に身を隠す。今日はお別れを言いに来た」
「待って! 俺も連れて行って」
「ダメ」
「俺じゃ足手まといになるから? その時は、その場で俺を捨ててもいいから」
俺はあっくんの腕を掴みたかった。
でも、拘束されていて無理だった。
あっくんは首を横に振るだけ。
「どうして、母親の死体を残したんだよ。あれさえ見つからなければ、叔父さんに知られずに済んだのに」
「やっくんが、そうしろって言った。いつかお墓を作ってあげたいって言っていた」
昔の俺の馬鹿。
「母親の死体をさらして、見せしめにすれば、やっくんを狙う人間がいなくなると思った。俺の考えが甘かった。傷つけたなら、ごめん」
母親の死体が今更出てきたのは、あっくんのせいか。
本当に余計なことだったよ。
「でもこれでやっくんは、昔みたいにお日様の下で笑える」
太陽なんか嫌いだ。
どんなに身を隠しても俺を見つけ出して、強烈な熱で照らしてくる。
どうせ生きなければならないなら、穏やかな闇の中にいたい。
「また、いつか」
あっくんは一瞬俺の頭を撫で、そして暗闇に溶けて行った。
俺はそのまま、一晩中その闇を見つめていた。
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