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母の遺体
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いつものように放課後の部活動を終えて、疲れた体で帰宅した。
今日の夕飯も野菜中心かな。
少し肉多めだと嬉しいな、なんて能天気なことを考えていた。
家の扉を開けると、知った顔の刑事が二人と項垂れている叔父さんが茶の間にいた。
三人は俺に気づいて、険しい顔で見つめてくる。
いつもにやけ顔だった真田刑事ですら、真面目な顔をしている。
何なんだよ。最近、俺は大人しくしていたはずだ。
渋谷のクラブは出禁になったし、エデンの在庫はまだあるからアンジェラの店にも行っていない。
ひたすら高校と家を往復していただけだぞ。
「薬人、ここに座りなさい」
叔父さんの声は小さかった。
叔父さんに元気がなくて、心配になる。
俺は大人しく叔父さんの向かいに座った。
刑事二人は立ったままだ。
「薬人、落ち着いて聞きなさい。お前の母さんの死体が見つかったらしい」
叔父さん、どうして俺の母親が死んでいることを知っているんだ。
母親はデザイナーになる為に、海外に行っているって俺に言っていたじゃないか。
東刑事が俺の傍に寄り、かがんで目線を合わせてくる。
「発見されたのは茨城県の沼地だ。死後数年が経っている。君は小学生の頃まで茨城でお母さんと暮らしていたんだろ。そして、その当時の記憶が無いらしいな。その記憶の中に、事件の手がかりがあるはずなんだ」
東刑事の声は前よりも優しかった。
ドラッグについて注意してくる時は、もっと厳しかったのに。
「どんなことでもいい。覚えていることは無いだろうか?」
東刑事の目は以前のような鋭さが無かった。
俺のことを気使っているのか。
犯人は目と鼻の先にいるというのに。犯人に同情してどうするんだよ。
覚えていることは無いかだと。
全部覚えているというか、思い出したよ。
叔父さんがあんた達に捜索願を出している間にな。
「先輩、今は混乱していますよ。少し時間をあげるべきです。今日はこの辺で」
真田刑事も落ち着いて話している。
いつもふざけて東刑事のことをパイセンって呼んでいるのに、今日はどうしたんだ。
「ショックだとは思う。だが、何か思い出したら連絡をくれ」
東刑事が俺の肩を優しく叩いた。
母親が死んでいる事実を知って、俺がショックを受けていると思っているのか。
俺のショックは全く違う方向を向いている。
叔父さんに母親が死んでいることを知られてしまった。
どうして今更、死体なんて出てくるんだよ。
俺をさらったホノカや研究員のように、死体を溶かしてしまえば良かったのに。
「薬人すまない。夕飯作ってなかったな」
刑事が帰った後、しばらく呆然としていた叔父さんが我に返った。
でも、表情が暗い。
血の気が引いている。
「叔父さん大丈夫だよ。友達と買い食いして、お腹空いてないから」
こんな状態の叔父さんに夕飯を作らせる程、俺は馬鹿じゃない。
叔父さんは俺の話を聞いて、曖昧に頷いて寝床へ入ってしまった。
叔父さんがいなくなった食卓はひんやりと冷たくなり、静まり返った。
そうだったんだ。
天野が言っていたことが、今やっと分かったよ。
俺の物語の黒幕は、俺自身だったんだ。
それならば、幕の引き方は分かるよ。
さあ、善は急げだ。明日は久しぶりに渋谷へ行こう。
今日の夕飯も野菜中心かな。
少し肉多めだと嬉しいな、なんて能天気なことを考えていた。
家の扉を開けると、知った顔の刑事が二人と項垂れている叔父さんが茶の間にいた。
三人は俺に気づいて、険しい顔で見つめてくる。
いつもにやけ顔だった真田刑事ですら、真面目な顔をしている。
何なんだよ。最近、俺は大人しくしていたはずだ。
渋谷のクラブは出禁になったし、エデンの在庫はまだあるからアンジェラの店にも行っていない。
ひたすら高校と家を往復していただけだぞ。
「薬人、ここに座りなさい」
叔父さんの声は小さかった。
叔父さんに元気がなくて、心配になる。
俺は大人しく叔父さんの向かいに座った。
刑事二人は立ったままだ。
「薬人、落ち着いて聞きなさい。お前の母さんの死体が見つかったらしい」
叔父さん、どうして俺の母親が死んでいることを知っているんだ。
母親はデザイナーになる為に、海外に行っているって俺に言っていたじゃないか。
東刑事が俺の傍に寄り、かがんで目線を合わせてくる。
「発見されたのは茨城県の沼地だ。死後数年が経っている。君は小学生の頃まで茨城でお母さんと暮らしていたんだろ。そして、その当時の記憶が無いらしいな。その記憶の中に、事件の手がかりがあるはずなんだ」
東刑事の声は前よりも優しかった。
ドラッグについて注意してくる時は、もっと厳しかったのに。
「どんなことでもいい。覚えていることは無いだろうか?」
東刑事の目は以前のような鋭さが無かった。
俺のことを気使っているのか。
犯人は目と鼻の先にいるというのに。犯人に同情してどうするんだよ。
覚えていることは無いかだと。
全部覚えているというか、思い出したよ。
叔父さんがあんた達に捜索願を出している間にな。
「先輩、今は混乱していますよ。少し時間をあげるべきです。今日はこの辺で」
真田刑事も落ち着いて話している。
いつもふざけて東刑事のことをパイセンって呼んでいるのに、今日はどうしたんだ。
「ショックだとは思う。だが、何か思い出したら連絡をくれ」
東刑事が俺の肩を優しく叩いた。
母親が死んでいる事実を知って、俺がショックを受けていると思っているのか。
俺のショックは全く違う方向を向いている。
叔父さんに母親が死んでいることを知られてしまった。
どうして今更、死体なんて出てくるんだよ。
俺をさらったホノカや研究員のように、死体を溶かしてしまえば良かったのに。
「薬人すまない。夕飯作ってなかったな」
刑事が帰った後、しばらく呆然としていた叔父さんが我に返った。
でも、表情が暗い。
血の気が引いている。
「叔父さん大丈夫だよ。友達と買い食いして、お腹空いてないから」
こんな状態の叔父さんに夕飯を作らせる程、俺は馬鹿じゃない。
叔父さんは俺の話を聞いて、曖昧に頷いて寝床へ入ってしまった。
叔父さんがいなくなった食卓はひんやりと冷たくなり、静まり返った。
そうだったんだ。
天野が言っていたことが、今やっと分かったよ。
俺の物語の黒幕は、俺自身だったんだ。
それならば、幕の引き方は分かるよ。
さあ、善は急げだ。明日は久しぶりに渋谷へ行こう。
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