少年ドラッグ

20

善い人達

「随分ご無沙汰だったじゃないか。失恋した気分で悲しかったよ」
久しぶりの日曜日、俺は天野の自宅に来ていた。
もちろん、全裸でベッドの上だ。

「気持ち悪いこと言うな」

最近の休日は、薫さんと亮真さんの家に遊びに行っていた。
その為、天野からの依頼を断り続けていた。
俺が誘いを断ると天野は子供のようにむくれたが、特に嫌がらせはされなかったから放っておいた。
薫さんから部活に参加した方がいいと言われたので、休日の日中は部活に参加し始めた。
部活が終わり、俺は駅前で天野に車で拾われて自宅まで連れて来られたというわけだ。

「機嫌がいいみたいだね。調査は順調かい？」

「全く進展しなかった。一旦中止する。でも、いい出会いをしたよ」

「それは結構」

「それに、もうすぐ絵は完成するんだろ？　そうしたら、あんたとのこの関係も終わりだな」

「やっぱり別のポーズがいいかも」

この変態クソ教師が。

「そんな顔しないでおくれよ。お礼ははずむから」

いらないんだよ、そんなもの。
これ以上、天野から情報を聞き出しても有益だとは思えない。
他に天野を利用する方法は無いだろうか。

「じゃあ、お願いがあるんだけど」

「いくらほしい？」

「いや、金はいらない。絵を描いてくれないかな」

「もう描いているけど」

「俺のじゃなくて、別の人の。知り合いにプレゼントしたい。起業祝いか、結婚祝いに渡せたらいいんだけど」

天野は腐っても美術教師だ。
プロみたいなもんだろ。
薫さんと亮真さんの絵を描いてもらってプレゼントしたら喜ぶかもしれないと思った。
天野にスマートフォンで撮った二人の写真を見せて、簡単に経緯を説明した。

「若者が流行りの業界に飛び込んで起業か。典型的な破滅パターンだね」

「何でいつもそういうことを言うんだよ。成功するかもしれないじゃないか。それに二人はかなり優秀だぞ。それにいい人だ」

「僕は絵を描く為に、よく人間観察をするんだけどね。この写真から判断すると、あまりいい傾向とは言えないな」

「それって、いい人じゃないってことか？　俺は騙されている？」

それでも、俺は今更あの二人を嫌いになれない。

「いや、君の言うとおりいい人そうだね。騙されてはいないだろう。でも、ドラッグ業界で起業するならいい人は成功できないと思う。むしろ、君を利用して慎重にずる賢く動くような人間が成功できるのさ。特に男性の方は、優しすぎて起業家には向かないね」

「亮真さんは研究員だから大丈夫だ」

「でも、一緒に会社を立ち上げようしているんだろ。やめた方がいいと思うけどね。まあ、僕と君が口出しできることでもないか。絵は描いてあげるよ」

天野の言うことは、時々的を得ている時がある。
気にはなった。
でも、若いうちの失敗は取り戻せると薫さんが言っていた。
きっと大丈夫だ。