少年ドラッグ

トトヒ

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ドラッグセミナーへ潜入!

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クラブにいたバーテンダーからの情報では、ドラッグ開発業者は定期的に開かれるセミナーで勉強会を行っているらしい。
それは、ドラッグ関連の企業に就職希望の学生も参加可能のようだ。
年齢制限も設けられていない。
誰でも予約可能だ。
日曜日に開催されるセミナーの予約をした俺は、新宿にある貸し会議室へと向かった。
ホノカの店には近づかないようにした。

会議室にはパイプ椅子が並べられており、自由席だった為俺は後ろの端っこに座った。
セミナーではドラッグ企業の現状や今後の展望などが語られる。
既存の企業説明や、最近開発されたばかりのドラッグにまで多岐に渡った。
正直、俺は半分も理解できなかった。
寝ないで済んだのは、この集まりの中に俺を知っている人物がいるんじゃないかと警戒心をもっていたからだ。
長い説明会が終わり、皆の後を追って部屋を移動する。
そこにはいくつかテーブルや椅子があり、好きに交流できるようになっていた。
さて、俺はこれからどうしようか。
何も考えずに飛び込んでしまった。
怪しそうな人物に接触してみようか。
でも、全員怪しそうでもあり、そうでもなさそうだ。
年齢層もばらばらで、かなり年配の人から大学生くらいの人までいる。

「君若いね。何歳なの?」

俺は突然後ろから話しかけられ、飛び上がりそうになった。
振り返ると、綺麗な女性が立っていた。
肩までの長さの明るい茶髪には艶があり、睫毛が長い。
スラリとした体形に白いジャケットが似合っている。
ファッションモデルのようだ。

「えっと、17です」

「若い! ここにいる中で最年少なんじゃない?」

その女性は俺に笑顔を向ける。
俺はいろんな感情が沸き起こり、顔が赤くなっていることが分かる。

「将来はドラッグ業界に就職希望?」

「そうです」

咄嗟に嘘をついた。
そういえば俺、何も設定してこなかった。
ここで情報を得るには、このくらいのコミュニケーションは必要だろうが。

「偉いね。感心したわ。私、喜悦薫きえつかおる。時間があれば、お話しない? 若い人の意見って貴重だから」

相手が自己紹介したら、自分も名乗らなければならない。
どうするか。

「俺、八重藤薬人です。大丈夫ですよ」

俺はあえて本名を名乗った。
手がかりが無いなら、自分を餌に敵をおびき出すしかない。

「薬人って薬の人って書くの? いい名前ね。この時代にピッタリじゃない」

俺の名前の由来に関して前に玲時さんが、父親が医者だから俺の名前に薬という字を入れたんじゃないかと推理していたけど。
きっとドラッグの方だったんだな。
あの母親め。

喜悦薫は俺の腕をとって移動し始める。
綺麗なお姉さんに手をとられて、俺は少しだけドキドキしていた。
奏ちゃんごめん。

「あ、いたいた。亮真。若者をゲットしたよ」

嘉悦薫は遠くにいる人物に手を振った。
手を振り返したのは、グレーのジャケットを着た黒髪の若い男性だった。
銀縁眼鏡の奥に、垂れ目が覗いている。

「薫、君はいつも強引だよ。ナンパだと勘違いされたらどうするんだ。ごめんね」

その男性は、俺に困り顔を向けながら謝ってきた。

「こちら、八重藤薬人君。なんと、まだ17歳なの。八重藤君、こっちは心海亮真しんかいりょうま。大学院でドラッグ研究をしているの」

ドラッグ研究という言葉で俺は焦り始めた。
もしかしたら、この展開はまずいのではないだろうか。
この心海という男が俺の秘密をつかんでいる研究員で、この美女が俺をまんまと連れ出したという可能性もある。
完全にハニートラップに引っかかっているじゃないか。

「こんにちは。若いのに、もうこんなセミナーに参加しているのか。意識高いね」

心海亮真は穏やかな笑顔を向けてくる。
表情だけだと、俺の秘密が知られているのか分からない。
でも、わざわざ危険を冒してまで来たんだ。
俺も腹を決めなければならない。

「俺、高校卒業したら働こうと思っていて。高卒でも働ける業界があるか調べに来たんです」

我ながら素晴らしい嘘だと思った。

「大学には行かないの?」

嘉悦薫が首を傾げる。

「うち貧乏なんです。でも、ドラッグ企業って頭良くないと入れないですよね」

「大学が全てじゃないわ。亮真みたいに研究職に就きたいなら話は別だけど、企画や営業スキルに学歴は関係ないと思う。仕事ができない高学歴もいるしね。せっかくだし、情報交換をしましょう。君くらいの年齢が求めるドラッグとか知りたいのよね。私も、ドラッグ企業について君に教えてあげるから」

喜悦薫が生き生きと微笑む。
その表情から、悪い人には見えない。
でも、綺麗な女性には気をつけなければならないとも思う。

俺達はフロアの一角にある椅子に座って話始めた。
嘉悦薫は大学四年生で、卒業後はドラッグ販売会社を起業しようとしているらしい。
とてもパワフルな女性だった。
心海亮真は大学院でドラッグの研究を行っている。
新型ドラッグを開発して喜悦薫の会社で売り出そうと考えているらしい。
二人は若いけれど、とても頭が切れて優秀なんだと感じた。
そして、二人は会社が上手くいけば結婚すると約束しているという。
ここまで話してくれたなら、俺も何か情報を渡さなければならないよな。

「若者の間で流行っているドラッグって何かな?」

「やっぱり試験や受験の為に、集中力が高くなったり記憶力が良くなるドラッグですかね。後、女子人気はダイエットドラッグです」

俺はとりあえず、クラスメイトが話題にしているドラッグを伝えた。

「やっぱりね。でも、その手のドラッグは既に市場に出回っているのよね。今から参入するとなると、それらを凌駕するくらいの新薬を開発しないといけないけど。それが難しいのよね、亮真」

心海亮真は苦笑いをする。

「人気ドラッグは、大手企業が日夜研究をしているからね。余程の天才じゃないと、対抗できないかな」

そんなもんなのか。
ビジネスって大変なんだな。

「八重藤君はドラッグ企業に興味があるのよね。それなら、ドラッグに詳しいんじゃない? 君自身の意見とか教えて。流行っているものじゃなくて」

そんなこと言われても困る。
今までドラッグにはあまり縁が無かったから。
でも、生まれた時から体内にドラッグが残っているなんて笑える。

「ネオドラの前は、ドラッグって中毒者が続出したんですよね。人間って快楽に勝てない生き物なんだなって最近気づいたんですよ。人生嫌なこと多いし。大人はお酒を飲んで発散できるけど、子供はダメじゃないですか。だから、健康的な快楽ドラッグがあれば欲しいです」

嘉悦薫が手を叩いた。
俺はその音に驚いて、椅子から落ちそうになった。

「それよ!」

「え?」

「原点回帰ってやつ。今は具体的な効果があるドラッグが主流だけど、ドラッグにはまってしまう人は快楽を求めていたわけよ。ネオドラ以前は中毒性が高くて身を滅ぼす人がいたみたいだけど、お酒くらいの発散ならいいじゃない。子供だってストレスが溜まる時代だし。絶対に売れるわよ」

嘉悦薫が目を輝かせている。

「八重藤君の発想力すごくいい! 連絡先交換してもいいかな。これからも意見を聞かせほしいわ」

嘉悦薫はすぐにスマートフォンを取り出した。
起業家って皆こうなのだろうか。
行動が早い。俺も連絡先を交換することで、ドラッグ企業や研究者達の情報をもらえるからメリットがある。
この二人が俺を罠にはめようとしているなら、それはそれで好都合だ。

「君は年の割に苦労しているみたいだね。何かあれば相談にのるよ」

心海亮真は優し気な表情でそう言った。
やっぱり悪い人には見えない。
でもそれは、俺に人を見る目がないだけなのかもしれない。
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